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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

月型駆逐艦(Moon-class destroyer) 3:終

 儀堂は呆気にとられながら、封筒の中身を確かめた。確かに海軍省より交付された辞令が入っている。

――儀堂衛士大尉、本日付けで駆逐艦<宵月よいづき>の艦長を任ず……

「どういうことかな……?」

 困惑する儀堂に対し、この儀堂はこんな顔もするのねと彼女は思った。

「そちらに記載されているとおりです。あなたがこの艦を任せれたのです」
「待ってくれ。私は大尉だ。本来なら佐官以上が艦長職に就くはずだろう?」
「そうなのですか?」

 とぼけた声で御調は聞き返した。儀堂は頭の芯が痛くなるのを感じた。この少尉、どこまでが本意なのだろうか。

「GFであれば中佐、EFでも少佐以上が艦長職の任にあたるものなんだ」

 諭すように儀堂は言う。

「しかし人手不足でもありますから」

 苦笑しつつ、御調は応じた。

「理由にしては浅薄すぎないか? どこぞの丁稚奉公とは訳が違うのだぞ」
「あなたはその若造・・たちの中でも、ずば抜けて戦果を上げていると聞きましたが?」
「そうじゃろうな。何せ妾を躊躇無く殺しにかかった胆力の持ち主じゃ」

 ネシスが腕を組んでしたり顔にうなずいた。ややいらつきを儀堂は覚えた。こいつがなぜ得意顔になるのか、さっぱりわからない。

「何をお主は途方に暮れておるのだ? 子細はわからぬが、お主のボスがこの船をくれてやるというのだろう? 受け取っておけば良いではないか」
「……もらいものじゃない。これは血税によって造られたものだ」
「難しいことはわからぬ。お主は難しく考えすぎじゃ。お主は乗りたいのか? 乗りたくないのか?」

 儀堂は少しだけ考え、<宵月>の艦首へ目を向けた。

 心の奥から抑えきれない衝動が湧いてくる。やがてそれは口から漏れ出た。答えは決まっている。

「そうだ……乗りたい。ああ、そうだ。オレはこれに乗りたいと思っている」

 艦長、それも新造の駆逐艦戦闘処女の艦長席など願ってもない。兵装、電子装置、機関、そのほかあらゆる装備が最新鋭に染められている。美しい。素敵だ。とても良い。何よりも素晴らしいのは、艦長職ならば今まで以上にこころゆくまで魔獣を鏖殺できる。

「あの……儀堂大尉」

 魅入られたように<宵月>へ釘付けになっている男へ、御調は恐る恐る話しかけた。

「ああ、なにかな」

 男の顔が正面を向く。口元は柔和な笑みを浮かべ、目元が緩み、線のように細くなっている。その先の瞳は黒くあらゆる光を飲み込んでいまいそうだった。父親似の笑みだった。殺戮兵器の長となった男の顔だった。

 御調は首元を捕まれたような息苦しさを感じた。ネシスは頬を紅潮させ、満足げに首肯した。

「<宵月>へ行きましょう。艦橋まで案内します」
「ああ、頼むよ。ああ、あそこから上がれば良いのかな」

 つい先ほどまで困惑に包まれていた海軍士官は、今や全ての迷いを振り払い、我先にとタラップを上った。


 <宵月>の艦橋の司令室には一人の男が控えていた。

「お待ちしておりました」

 と儀堂一行へ海軍式の敬礼で迎え入れた。儀堂よりも2~3は年上に見えたが、階級は下だった。

「興津《おきつ》中尉です。副長を勤めさせていただきます」
「儀堂だ。中尉、こちらは特務士官の御調少尉に……ネシスだ。部外者を上げてすまない。今日限りなので許して欲しい」
「どうぞお気になさらず、自分は一向に構いません」

 興津はまんざらでもないという風に肯いた。

「そうか。早速だが、この艦について聞かせて欲しい。君が掌握している範囲で構わない」
「承知しました」

 興津は司令室の一角に飾られている見取り図の近くへ移動した。事前に儀堂の問いかけを想定していたらしく、如才なく状況報告を進めていく。その結果、<宵月>は艤装がほぼ完成しており、乗員の大半が既に乗り込んでいることがわかった。

「これはなんだ?」

 甲板中央に見慣れない装備が記されている。一見すると魚雷発射管に見えるが、形状がやや異なっている上に筒の太さが大きすぎる。

 興津は待ってましたとばかりに答えた。

「それは新装備の噴進砲ロケットランチャーです」

 五式試製連装噴進砲は大型魔獣を撃滅するために開発された新装備だった。500キロの炸薬が詰め込まれた大型噴進砲弾ロケットが装填されており、発射後は噴進装置ロケットモーターによって秒速300メートルで目標へ向う。性能諸元カタログスペック上は有効射程4000メートルなっている。艦船にとって4000メートルは至近距離だったが、魔獣との戦闘は至近で行われるのが常となっていたので問題には感じられなかった。儀堂は興津の説明に満足しつつ、さらなる疑問を口にした。

「進水前に艤装した理由はなにかな?」

 通常、船は船体が完成した後に進水、その後へ艤装という手順をとる。艤装とは船の内装、外装あらゆる設備を取り付ける工程を指している。

「はい、その……」

 興津は助けを求めるように御調へ顔を向けた。どうやら初対面では無かったらしい。

「本艦は秘匿性の高さ故です。六反田ろくたんだ少将の判断で、船渠ドック内で艤装を進めることになりました」
「なるほど道理だね。御調少尉、一応聞いておきたいのだが、その秘匿性・・・の詳細を伺ってもよいのかな? よもや艦長の私にすら明かせぬものかい?」
「それは……」

 御調がためらいがちに何かを言おうとしたときだった。突如、船渠ドック内に不気味な電子音が響きわたった。

 空襲警報だった。

 続いて、緊急放送が横須賀海軍工廠全体へ行われた。

『緊急警報。横須賀軍港ハ魔獣ノ空襲ヲ受ケツツアリ。コレハ演習ニアラズ。繰リ返ス、コレハ演習ニアラズ』


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