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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

六反田少将(Warmonger) 6:終

 海軍軍人として、儀堂はあらゆる魔獣との戦闘に立ち会った。遭遇戦、対空戦、掃討戦、対水上戦、なかでも目に見えぬ水面下の魔獣相手に神経をすり減らすような対潜戦闘を幾度もくぐり抜けてきた。彼の過去3年間は自身とその他多くの兵員、船員を肩にかけた死戦の積み重ねだった。つまり儀堂にとり、非常ハプニングこそが日常であり、手慣れたはずのものだった。
 彼は努めて冷静な対処を試みた。

「小春ちゃん、驚かせてすまない。これにはわけがあるんだ」
「そうでしょうねえ! 無ければおかしいわ!」
「全く道理だ」
「ギドー、妾は腹が減った」
「少し黙れ」
「黙れ? 女の子相手にそんな乱暴なこと言っちゃダメ!」
「ああ、いや、違うんだ。これとは昨日会ったばかりで――」
「これ!? これってこの子のこと……!? 人をこれ呼ばわりするなんてひどい!」
「おい、お主のそれ良い香りがする。食い物か?」
「これは衛士さんのよ! それより早く服を着なさい! なんで、あなた裸なの!?」
「妾はずっとこの格好だが?」
「なっ………!!!! 儀堂さん!!??」

 誠に心外なことに小春は儀堂へあからさまな非難の視線を向けてきた。

――なぜだ? どうしてこうなった?

 小春の興奮は収まる気配がなかった。ただいまにおいて、彼女は全方位に対して敵意を振りまいており、ネシスの存在がさらに輪をかけて混乱を招いていた。いや、そもそも発端はネシスなのだから、まずこれを何とかしなければならなかった。儀堂は各個撃破で対応することにした。

「ネシス、まず君は服を着るんだ。昨日、あの少尉からもらったものがあるだろう」

 ネシスを呼び捨てにしたとき、小春の肩眉がぴくりと動いたが、深くは考えぬことにした。

「あのセーラーふくとかいうのはごわごわする。嫌いじゃ」
「着てくれ。頼む」

 儀堂は頭を下げた。ネシスは急に気をよくしたらしい。にやりと口角を上げた。

「ほう、頼むというのなら仕方が無いのう」

 ネシスは勝ち誇ったように部屋へ戻っていった。
 理解不能の敗北感を味わいつつ、儀堂は次の目標に向き直った。

「小春ちゃん……」

 小春は何も言わず台所へ向かった。そのまま無言で飯の支度を始めた背中に儀堂は話せる範囲でことの次第を、理性的に説明した。小春は「へえ」「そうなの」の二言で終始返事をすると、そのままそそくさと家に帰ってしまった。

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「食わぬのか? せっかくあの給仕が用意したというのに」
「あの子は給仕じゃない」

 居間でネシスと儀堂は食卓を囲んでいた。ネシスは箸を使えなかったため、スプーンとフォークを手渡した。めざしを口に放り込むと「まあままだな」とネシスは言った。小春がここに居なくてよかったと心底思う。
 あと詫びを入れに行くべきだろうかと思った。何に対する詫びなのか全く不明だが、その方が良いと儀堂の本能が告げていた。

 儀堂は小さくため息をつくと、ネシスに向き直った。聞かなければならないことがある。

「君、角はどうしたんだ?」

 ネシスの頭部から生えていた角が綺麗に無くなっていた。もし、あの角があれば小春もっと別の反応を示していただろう。

「角? ああ、あれなら隠した」
「隠しただと?」
 長さにして、30センチはあろうかという角だ。隠しきれるものではないだろう。
「いったい、どうやって? よもや着脱可能というわけではあるまい」
 ネシスは眼を丸くすると、笑い転げた。
「そんなわけがなかろう。要はお主らの眼に映らなければよいのであろう? ならば、そのように計らうまでだ」

 ネシスは指先をこめかみに当てると何かを呟いた。すると、先ほどまで見えなかった角がたちまち現れた。そのあまりの奇天烈きてれつさに、儀堂は呆気にとられてしまった。

「どういう仕組みだ? なにかの妖術か?」
 魔獣の類いならば、怪しげな術を使役できてもおかしくはないだろう。
「妖術とはいささか品位に欠ける言いぐさじゃな。まあよい。そのようなものだと心得るがいい」

――考えてもみれば、あの魔獣の群れを繰り出すような輩だ。今さら驚くほどのことではないか

 儀堂は改めて目前の少女が人外であることを思い返した。

「君はいったい何者だ? なぜあんなことをしたのだ?」
 味噌汁をすくうネシスの手が止まった。
「わからぬ……」
 苦しげとも悲しげともとれる表情だった。
「妾が自分が何をしたのかはわかる。それははっきりと覚えておる。しかし、妾が何者で、なぜあれをしなければならなかったのか。全くわからぬのじゃ」
「ずいぶんと都合の良い記憶喪失だな」
「信じぬのも無理はない。ならば妾を拷問にかけてみるか?」
 ネシスは挑戦的な笑みを浮かべた。
「私は無駄なことはしない。銃弾たまを食らいながら、平然としているものを痛めつけて、何かを得られるとは到底思えないな」
「そうか……ならば良い」
「食い終わったら、食器は台所へ運んでおいてくれ」

 儀堂は立ち上がった。

「どうしたのだ?」
「外へ出る。君はここにいろ。私は用事があるのだ」

 そろそろ家を出なければ、海軍省が示した出頭時刻より遅れてしまう。役所、とりわけ軍隊は期限に神聖な価値観を抱いている。 

「昼までには戻るつもりだが、勝手に外へ出るなよ」
「妾もついていってやろう」
「だめだ」
「遠慮するな」
「拒否する」
「嫌でも付いていく」
「迷惑だ。大人しくしていろ」
「迷惑にならぬ。むしろ妾はお主の役に立つぞ」
「余計なお世話だ。私はこれから仕事なんだ。子どもが来て良いところではないんだ」
 ネシスは眉間にしわ寄せた。
「無礼者。妾を子ども扱いするでない。お主よりも長く生きておる」
「記憶は無いのに年齢は覚えているのか? いくつなんだ? 言ってみろ」
「……断る。女子おなごに歳を聞くとは無粋にもほどがあろう」
「埒が明かんな。とにかく君はここにいてくれ」
「わかった。勝手についていく」
「そうか、わかった。やはり首と胴を離しておくべきだったな」
 儀堂は念のため持ってきていた軍刀へ手をかけた。
「ほう、よかろう。ただし妾とて今度はただでは済まさぬぞ」

 ネシスの眼が一際赤く輝いた。
 沈黙が居間が包んだときだった。玄関のベルが鳴った。

 今日はやけに来客が多い。


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