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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

六反田少将(Warmonger) 2

 六反田は机の一角から書類の束を引っ張り出した。そこには目の前の男の半生が綴られていた。

「儀堂衛士大尉。名前だけは聞いていたが、よもやこんな巡り合わせがあろうとは驚きだね」

 すでに六反田は儀堂の経歴を一通り把握していた。ハワイ沖海戦の功労により中尉に昇進後、東京湾決戦、インドシナ奪還作戦を経て大尉へ昇進。その後、護衛総隊へ転属願を出し、昨年より護衛任務に従事。特筆すべきは、彼が任官した船団の損耗率の低さと殺傷した魔獣の多さだった。

「ほう、直近では軽巡の砲術だったのか?」
「はい」
鉄砲屋砲科将校ならデカい艦戦艦のほうがよかっただろうに。なんでまた連合艦隊GFではなく、護衛総隊EFへ行った?」
「GFは極めて限定的な条件下でしか積極的になれません。一方、EFは任務の性格上、会敵が日常茶飯事となっております。否が応でも積極的にならざるを得ない。それは自分の望むところです」

 ようするにGFは怠け者でEFは働き者だと儀堂は断言したのである。乱暴だが一理あった。強力な艦艇を有するGFだが、その主目的は敵主力の撃滅だった。つまり大規模な迎撃作戦か、あるいは攻勢作戦でのみ活動することになる。そして近年では両者とも、ごく希な時期にしか発生し得なかった。戦局が膠着したためだ。魔獣との戦いに於いて、人類は開戦当初の劣勢を挽回するに至ったが、ただそれだけのことだった。ただ単に負けていないが、勝ってもいない。そんな状況が2年近く続いている。

 GFと異なり、EFは船団護衛が主な任務となっている。『護衛任務』とは消極的に聞こえるかも知れないが、実態は全く異なっている。5年前より、一部の海域は魔獣のバスタブと化していた。そして日本の通商路は、そのバスタブのど真ん中を抜けねばならぬものだった。主なものを上げるならば、アラビア海だ。中東の原油を手に入れるため、常時大量の油槽船が航行している。それらは必ず護衛艦艇を伴っていた。さもなければたちまち魔獣の餌食になってしまうからだ。EFは日本の生命線航路を守るために、魔獣との死闘を宿命づけられた組織になっていた。今では戦闘経験を積ませるためだけに、乗組員ごと艦艇がGFからEFへ貸し出されるケースすら出てきている。

「私は一匹でも多く魔獣を殺戮したいのです」
「驚いたな。貴官は見た目よりもずいぶん率直らしい」
「私も驚いています。軍が、あの化け物を積極的に保護していたとは」
「そうだな。人生は驚きに満ちているものだ」

 六反田がわざとらしく鷹揚にうなずいたとき、手元の電話が鳴った。

「失礼。おう、どうした? なに菓子を所望している? かまわん。たしかこの前買った福間屋のカステラが残っておるはずだ。あー……五月蠅うるさい。医者の言うことなぞ聞くものか。それで次はなんだ……ほう、そうか。そいつは好都合だ。なに心配するな。オレに考えがある」

 どうやら相手は御調少尉のようだった。ネシスに手を焼いているようだが、六反田の予想の範囲内だったらしい。愉快犯のように笑いながら指示を飛ばし、電話を切った。

「さて、話を戻そう。貴官の言う化け物、ネシスについてだ。君には感謝している。どういうわけか昨夜、彼女の行方がわからなくなってな。困っておったのだが、手間もかからずに見つけ出せた」
「それは何よりです」
「それでだ。貴官に頼みがある。彼女の面倒を貴官が見てくれ」

 一瞬の沈黙が訪れる。儀堂は何を言っているのかと思った。

「私はあれを殺そうとしたのですが、よろしいのですか?」
「殺してもらっては困る。だが、君にその気はもうなかろう?」
「なぜわかるのですか?」
「わからんよ。だから君に尋ねているんじゃないか。君はあれをまだ殺したいのか?」

 儀堂は少し考えたが、すぐに結論を出した。

「……わかりません」

 それが結論だった。あの鬼、ネシスへの殺意がくじかれていた。また再燃するかも知れないが、何とも言えなかった。

「第一、なぜ私なのですか? 軍の保護下にあるのならば、もっと適任がいるはずです」

 六反田はやれやれと行った具合に頭をかいた。肩に白い雪ふけが降った。どうやらしばらく風呂に入っていないらしい。

「お前さん気づかなかったのか? あのお嬢さんにずいぶんと懐かれているだろう?」
「さあ、どうなのでしょう。自覚はありませんが」
「お前さんの自覚なんざどうでもいいんだ。さきほど御調君から連絡があった。あのネシスとか言う嬢ちゃんが、それを望んでいるらしいからな。あれに鉛玉ぶち込んだ貴官ならわかるだろう。あのはとんでもない化け物なんだよ。とてもではないが、常人ではあれの相手は務まらん」
「小官も常人と愚考しますが?」
「出会い頭に銃弾叩き込んだヤツの台詞とは思えんな」
「……」
「とにかくだ。貴官には、あの面倒を押しつけたい。ああ、心配するな。望み通り護衛任務魔獣殺しは続けさせてやる」
「自分が留守の間航海中はどうするのですか?」
「ああ、それの心配は無用だ」
「どういうことですか?」
「そのうちわかるさ。まあ、楽しみに待っておれ」

 六反田は満面の笑みで肯いた。不安しか湧かなかった。

「さて儀堂君。推測するに君は私に聞きたいことだらけだろう?」
「ええ、まずは――」
「ああ、何も言うな。おおよそわかっている。あの鬼、ネシスとかいう嬢ちゃんの正体。そして、彼女がなぜ保護されていたのか? そもそもオレ達はいったいどういう組織なのか? そんなところじゃないか?」
「……そんなところです」
「よろしい。全ては答えられんが、まあそこは我慢しろ。さて、まずは君がハワイで拾ったあのカプセルから話そう。そう、あの嬢ちゃんがしまってあった筒のことからだ……」


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