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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

月下の邂逅(Moonlight rendezvou) 6:終

 ルガーより放たれた9ミリパラベラム弾は小さな影の中心へ次々と吸い込まれ、相手を倒れ伏した。

 きっちりと全弾9発撃ち切った後、儀堂は抽斗ひきだしから予備の弾倉を取り出し、機械的な動作で装填する。

 そして形見の軍刀を手にすると、そのまま机にのぼり、窓から庭へ飛び出ていく。着地後は庭先に転がる肉塊へルガーの照準を合わせたまま、規則正しい足取りで駆け寄った。

 ぴくりとも動かぬ肢体、その横顔が見えるまで近寄り、頭部に向けてさらに3発の鉛玉を叩き込む。

 その後、儀堂は彫像のように銃を向けたまま、微動だにしなかった。時間にして永遠にも、あるいは一瞬にも思えるほどの間だった。

 唐突に刻が動き出した。
 鬼の子の口が歪んだ。愉しげな笑みだった

「ふっ……その石つぶては中々に味わい深い」

 壊れた繰り人形のように、半身を起こすと、少女はぺっと何かを吐き出した。ルガーの弾丸だった。

「ほう、お主は随分と肝が座っている。あるいは壊れているのか? 妾のこの姿を見て、微動だにせず……殺気を向けてくるとはおかしなものよ」
「君たち、魔獣ビーストのしぶとさは承知している」

 角の生えた少女は不快な表情を見せた。癪に障ったらしい。

「妾をあのような下劣なものと一緒にするな」
「私からすれば、似たようなものだ。話せるか否か、それだけの違いでしか無い」
「ふん、無礼は貴様の肝に免じて許そう」
「その必要は無い」
「はて? なにゆえだ?」
「私が君を殺すからだ」

 儀堂はルガーの引き金を引いた。少女の額に穴が空き、再び倒れ伏した。残弾を頭部へ叩き込み、トグルが起こされるのを確認する。そこで大事にルガーを懐へしまい、軍刀を引き抜いた。

 白磁のように滑らかな首筋へ刃を向ける。 

「いかに強靱であろうとも、首と胴を切り離されては無事で済まないだろうね?」

 まったく無感動に、儀堂は念を押す意味で尋ねた。否と答えたら、別の手段を講じるつもりらしい。少女は目を見開き、やがて狂ったような嗤いだした。

「良いな。実に良いよ」
「……」
「やはり、妾を解き放った・・・・・ものはただ者では無かった」
「………」
「さあ、やるが良い」
「…………」
「どうした? よもや怖気づいたのか?」
「……………」
「妾は抵抗せぬ。満足だ。お主ならば大丈夫だろう」
「どういう意味だ。それに……なぜ、嗤いながら泣いている」

 赤い瞳から、光の筋が生まれていた。月光を浴びながら、頬を脈々と伝っていく。

「嬉しいのだ」
「君はふざけているのかな?」

 少女は一転して顔を曇らせた。念押しでは無く、儀堂の怒りから発せられた言葉だと知り、恐れているようだ。

「もしお主がそう思ったのなら、それは妾の本意ではない。許すがよい。妾は感謝し、そしてお主にまみえ、嬉しく思っている。あの牢獄から解き放ってくれただけではなく、今度はこの世から解き放たれるのだから。これに勝る喜びは無い。何よりもお主ならば、大丈夫だろう」
「意味がわからないな」

 儀堂は困惑していた。殺意がくじけようとしている。それを悟ったのか、少女は再び口元を歪ませた。

「わからずともよい。いずれにしろ、妾はお主の家族を殺めた獣の仲間なのだから」
「……なるほど、道理だね」

 直後、儀堂は軍刀を振り下ろした。白刃が小さな首へ到達する刹那、彼の身体は宙を舞った。

「っ!」

 息つく間もなく儀堂の視界は反転し、背中から地面へ叩きつけられた。肺から空気が強制排出され、僅かな間だが意識が遠のくもすぐに回復させる。どうやら足を刈られたらしい。完全な不意打ちだった。
 儀堂はすぐさま身体を起こすと、無粋な邪魔をした輩から距離をとった。

 驚きと殺意を込めた視線を、新たな来訪者へ叩きつける。相手は全く動じる気配を見せなかった。体格は圧倒的に儀堂の方が有利だが、相手の手には日本刀が握られている。儀堂の持つような官製の量産された軍刀サーベルとは異なり、名のあるもののようだった。構えからどこぞの流派の使い手だと儀堂は判断した。かなりの手練れだろう。

「困ります。そのようなことをされては、私の首が飛んでしまう」

 来訪者は儀堂と同じ海軍軍人だった。肩章から少尉とわかる。

「少尉、君はこの化け物の味方かな?」

 周囲に目を配る。どうやら、来訪者はこの華奢な少尉だけのようだ。儀堂は思案した。書斎にルガーの予備弾倉が、もう一つあったはずだ。しまったな。根こそぎ持ってくるべきだったと。

 少尉は少し目を見開いた。儀堂が私服だったため、一般人だと思い込んでいたらしい。しかし、その口調から彼が自分よりも上級の士官であることに気づいた。

「失礼。味方ではありませんね。ただ、彼女は我々の管理下にあるものです。壊されてしまっては困ります」
「我々?」
「はい」



 少尉は片手を上げると、暗闇から続々と武装した兵士が現れた。それまで気配を押し殺していたらしい。ずいぶんと手だれた兵だが、見慣れない軍装をしていた。

 迷彩柄の野戦服に、鉄帽てっぱち、手にした銃器はライセンス生産されたレイジングM50短機関銃だった。やけに景気の良い装備だった。彼は思い出した。

 昨年正式に組織化された海軍陸戦隊マリーンだ。

「ご同行願えますか?」
「拒否権があるのか?」
「重ねて失礼しました。ご同行ください。儀堂――」
「大尉だよ。所属は護衛総隊」
「では儀堂大尉、お願いします。それに、そこのあなたも――」

 少尉は倒れ伏した少女へ目を向けた。儀堂に対したときとは打って変わり、鬼の子は羽虫か何かを見るような目だった。
 興ざめという印象だった。少女は答えなかったが、抵抗する様子は無かった。

「少し待ってくれ」

 儀堂は断りを入れ、屋内へ戻り、外套を二着持ってきた。一着をぶすりと庭の隅に座り込んだ少女へ放り投げる。

「着ておけ。その格好は何かと面倒を呼ぶ」
「殺さぬのか?」

 返事もせず、儀堂は少尉へ向き直った。

「待たせたね。行こうか」
「お優しいのですね」
「ありがとう」

 皮肉かと思う。オレはさっきまであれに鉛玉をぶち込んでいたのだ。よもや知らぬ訳ではあるまいに。

 陸戦兵に取り囲まれながら、儀堂は家門へ向かった。家の前にはジープとトラックが止まっていた。何事かと近所のものが顔を出したが、兵に戻れと言われるとすぐに引っ込んでしまった。

 ジープに乗り込みながら、儀堂はあることを尋ねた。それは少尉が現れたときから気がかりになっていたことだ。

「どうしても解せないんだ。ひとつ聞いて良いかな?」
「どうぞ。私に答えられることであれば」
「いや、なに。いつから江田島は共学になったんだい?」

 予想外の質問だったらしい。傍らの女性士官が答えるのに数秒を要した。

「いえ、私は海軍兵学校を出ていません。特務士官のようなものとご理解ください」

 御調みつぎ少尉は口元を隠した。どうやら笑いを堪えようとしたらしいが、不成功に終わった。

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