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レッドサンブラックムーン -機密解除された第二次大戦における<異世界からの干渉>および<魔獣との戦闘>に関する記録と証言について-

弐進座

南雲機動部隊(Nagumo task force) 3

 南雲機動部隊は混乱の極致にあった。黒い球体から行われた全周囲攻撃により、全艦艇がどこかしら損害を負っている。一番酷いのは旗艦<赤城>だった。彼女は球体の直下にあって、第二次攻撃隊の発艦準備中だった。飛行甲板には燃料を満載した制空隊の零戦が列を成し、格納庫では九九式艦爆が25番250キロ爆弾を抱えて控えていた。

 まさに火薬を身籠もった状態だ。

 まず光弾の直撃を受けたのは、飛行甲板の零戦だった。日本海軍が誇る最新鋭機は、瞬時に炎上し飛行甲板は使用不能となった。そして消火の間もなく、炎は格納庫まで延焼した。応急班の対応は後手に回り、攻撃から約30分後、格納庫で大爆発が起きた。それでも彼女が沈まなかったのは、元は巡洋戦艦として建造されたからだった。強靱な船体構造を持つ<赤城>は爆発の衝撃によく耐えた。しかしながら、今や燃えさかる鉄の箱以外何ものでもなかった。

 初撃で戦闘不能となったのは<赤城>だけでは無かった。南雲機動部隊、その母艦戦力の半数が深刻な損害を受けた。空母<蒼龍>、<翔鶴>も同じく飛行甲板が炎上。残る<加賀>、<飛龍>、<瑞鶴>も奇跡的に光弾の直撃をまぬがれたが、退避行動中ですぐに反撃へ移れるわけではなかった。

 艦隊の中で、即座に対応したのは<比叡>と<霧島>だった。

 第三戦隊隷下にあった二隻は、三川戦隊司令の指揮で反攻を開始した。三川は<比叡>と<霧島>を回頭させると、直ちに全対空火器による射撃を命じた。やがて重巡洋艦の<利根>と<筑摩>が続き、他の駆逐艦もならった。

「空母の退避まで時間を稼ぐ」

 戦艦<比叡>の前部艦橋、その司令室で三川は目的を明快に告げた。敵戦力の詳細がわからぬ以上、現状は撃滅よりも味方の退避を支援すべきだった。このまま母艦戦力を潰されては第一次攻撃隊を収容できなくなる。

ホサ砲術参謀、あの黒玉を主砲で叩きたい。やれるか?」
「三式弾ならば可能と考えます」

 砲術参謀は明言した。三式弾は、主砲の弾頭内部に数百個の焼夷榴散弾が詰められた弾種だ。時限式の信管がセットされ、発射後に定められた時間が経過すると爆発四散する。いわば大砲から打ち出す特大の手りゅう弾をイメージすればよい。広範囲に対して損害を与えられる弾だ。狙いにくい空中目標には有効だった。

「ただトップ前部艦橋の射撃指揮所が主砲測距もろとも先ほどの攻撃でやられました。後部の射撃指揮所は生きていますが――」

 後部にいるのは新任の少尉だと砲術参謀は告げた。

「なんだと? 他に士官はおらんのか?」
「おりません。前部、後部ともにホチ砲術長以下が全滅です。幸いベテランの兵員が数名おりますので、機能に支障はないかと」

 三川は大きく息を吐くと、わかったとだけ返した。いないものを当てにしても仕方が無い。いるやつが当てになることを祈ろう。

「よし、やろう。ホサは後部指揮所との連絡を密にしてくれ。若いもんは何かと舞い上がる。艦長、あの玉と同航状態になるよう進路を維持してくれ。用意ができ次第、撃て」

 任せてくださいと<比叡>艦長の西田大佐は肯いた。球体は北へ進路を取ろうしていた。

 砲術参謀は後部射撃指揮所を呼びだした。さっそく例の少尉が電話口に出てきた。

「主砲を使う。何か異常があればすぐに知らせろ。それから――」

 気を張りすぎるなと砲術参謀は付け加えた。

宜候ようそろう。お気遣い有り難うございます』

 短い礼と共に電話は切られた。砲術参謀は不気味な印象を相手に抱いた。声が冷静すぎる。とても新任の少尉のそれとは思えなかった。

――浮き足立っているより、余程マシか。

 砲術参謀は好意的に自分の感情を解釈した。やがて<比叡>は主砲戦の用意を調えた。

 <比叡>の船体が球体と同一進路をとり、全砲門の旋回、球体へ照準を合わせた。西田は即断した。

「主砲、撃ち方始め!」

 抑揚の付いた声で命令が発せられた。未知の敵に対して、開戦以来初の主砲戦が開始される。


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