スパイの毒はラブコメに効かない〜完結済み〜

青篝

【POISON】と『本物』

「ですが、私達と『本物』で
一体何が違うのでしょうか…」

改めて、メンバー達は顔を見合わせる。
今日この場にいるのは、
夜六、夏八、『蠍』、『蜂』、『百足ムカデ』の5人。
あと一人、『蛾』がいるのだが、
今は任務に当たっており不在。

「俺が考えるに、
俺達と『本物』というより、
『本物』と他の人間の違い、
と考えた方が言い気がする」

「俺も『蛇』と同意だ。
俺と『蛇』で同時にかかって
倒せなかった相手は『鬼神』が初めてだ。
なら、あいつだけが別格だったと
判断するのが妥当だ」

「アタシも兄貴にサンセーでありんす」

夜六の発言に『蠍』は同意。
さらに、ここにきて初めての言葉を
『百足』は発してくれた。
顔と手を黒く汚して、
手元をガチャガチャと弄ぶ。
スパイネーム『百足』。
機械イジりや発明の才覚があり、
夜六達が持っている便利な
スパイ用具は全て彼女のお手製だ。
天然パーマの金髪と
琥珀色のクリッとした瞳の少女で、
『蜂』と同い年の12歳。
大人びた雰囲気の『蜂』とは対象的に
全体的に幼さが残っており、
何かを思い付いては
任務そっちのけで開発に専念する。
その自由過ぎる性格故に、
任務にはあまり参加させず、
【POISON】のバックアップをしている
『蛾』のサポートをさせている。

「兄貴が勝てねーなら、
ソイツはやべー奴でありんす。
人間じゃねーでありんす」

なぜか知らないが
『蠍』のことを「兄貴」と呼び、
そして、この変な口調である。
本人曰く、日本語を覚える際に
日本のアニメを見たらしいのだが、
それに登場したキャラの口調を
何となく気に入ってしまい、
それ以降この口調なのだそうだ。
発明品もどこかアニメのような
ぶっ飛んだ品が多々あり、
そのうち、瞬間移動できるドアとか、
壁をすり抜けられる輪っかとか
作ってしまいそうだ。

「では、『本物』とは何なのでしょうか?」

『蜂』の核心に迫る言葉に、
夜六達は頭を抱えた。
『本物』が存在として
自分達と違う事は分かるのだが、
では一体、何がどう違うのか。
『本物』とは、何をもって『本物』と
呼ぶに値するのだろうか。

「単純な存在感かしら?」

いや、存在感があるだけなら
政治家女の隣りにいた『鬼神』の事を
もっと早くに知れたはずだ。
存在感というのは、
ある程度は操作できたとしても、
スパイ達でさえ見抜けない程の
細工など出来ないのだから。

「スパイとしての実力か?」

いや、実力の話であれば
強い奴などたくさんいる。
実際、夜六達と戦ってないだけで
『虎』と同等の実力のスパイを
何度も見たことがある。
『虎』が所属する、
組織で一番のスパイチーム【けもの】。
『狼』、『猪』、『豹』、『麒麟』。
彼らは単独で超高難度の任務を行い、
国一つを壊滅に追い込む事も出来る。
スパイであれば誰もが
【獣】のスパイのようになりたいと思い、
その距離の遠さに挫折する。
唯一、次世代の【獣】になれると
期待させているのが【POISON】だが、
今の実力では【獣】の一人さえ
倒すことなど出来ない。
そういう世界なのだ。スパイは。
しかし、『本物』のオーラを纏うスパイは
【獣】の中でも『虎』のみだ。
同じような実力を持ち、
同じように任務を熟す他のスパイに
オーラがないのは違和感がある。

「葬った人間の数でありんし?」

いや、数の話なら違う。
少なくとも、夜六達が所属する
スパイ組織の中で、
最も人を殺しているのは
暗殺を専門としている『豹』だ。
『虎』よりもたくさんの暗殺をしている
『豹』にオーラを感じないのなら
数の話ではないのだろう。
ならば、何が違うのか。

「分からん…」

「そうね…」

こうなってしまえば、もうお手上げだ。
かれこれ2時間も話しているが、
全く正解を出せる気がしない。
と、いう訳なので。

「とにかく、鍛錬するしかないな」

いくら頭を使っても辿り着けない。
ならば、実力をつけるだけだ。
今のままではどうにもならないなら、
せめて【獣】の一人を倒せるように
鍛錬して実力を手に入れる。

「俺もそう思ったところだ」

夜六と『蠍』は立ち上がり、
机を挟んで拳を構えた。
スパイの養成学校の、
教室のど真ん中で。
2人の間合いは1m程しかなく、
1歩踏み込んで腕を伸ばせば、
簡単に相手を殴れる。
そして、夜六と『蠍』が
互いに半身を構えたその時――。

「いい加減にして下さい」

2人の頬を、ナイフが掠めた。
怒りに満ちた表情で
その刃を突きつけているのは『蜂』だ。
2本のナイフを同時に、
それも2人に突きつけるとは、
中々やるものである。

「冗談だ。冗談」

「さすがにこんな所で
暴れる訳にはいかんからな」

夜六と『蠍』が両手を挙げると、
『蜂』はゆっくりとナイフを下ろす。

「はぁ…分かればいいのです」

この一瞬で、『蜂』は疲れたようだ。
だがしかし、これも【POISON】の日常。
冗談半分で戦闘を始めたり、
それに半ば本気でナイフや銃を
突きつけたりするのが、彼らの日常だ。
こうしてより親密な関係を築き、
武器にも慣れる。
【POISON】や【獣】の他にも
いくつかのスパイチームがあるが、
【POISON】のように
コミユニケーションを取る所は皆無だ。
皆、冗談で武器を握るなと
説教じみた事を言ってくるが、
命を賭けるスパイだからこそ、
その危険性を普段から感じ、
いざという時に躊躇なく
それらを扱えるようにする必要がある。
『殺られる前に殺る』
これがスパイの基本なのだから。

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