スパイの毒はラブコメに効かない〜完結済み〜

青篝

いざ決戦

全校生徒が体育館に集い、
たった一つのバスケコートを囲う。
真ん中のセンターラインに
互いの5人のメンバーが並び、
今か今かとその時を待つ。

「先輩方、悪いっすけど
今日は全力で勝たせてもらうっす」

「残念だけど、そうもいかないよ。
こっちも大事なものを賭けてるからね。
勝つのは俺達で、負けるのは君達だ」

チームのリーダーである
難波と荒井が激しく火花を散らす。
審判をする先生がその中に立ち、
左右の選手を交互に見る。

「ではこれより、決勝戦を始めます。
お互いに、礼!」

「「「「「お願いします!!」」」」」

審判の先生に促され、
メンバー達はそれぞれの配置につく。
夜六側のスタメンは、
夜六、難波、近藤、夏八、岡崎の
バスケ最強メンバーだ。
対する荒井のチームは、
将来は日本のバスケを
牽引するような選手だと期待されている
最強の荒井を筆頭に、
フェイクプレーの達者な小寺、
足の瞬発力に自信のある林、
136cmと女子の中でも特に背が低いが
ドリブルやパス回しに関しては
部の中で群を抜いている木村、
そして、男子にも引けを取らない程の
力強さが持ち味の藤本。
全員がバスケ部のレギュラーで、
今年の夏の大会で優勝すれば
男女共に3連覇という
偉業を達成することが出来る。
その為にも、チームを支えてくれる
加藤の存在がどうしても必要なのだ。
だから、彼らは負けられない。

「始め!」

試合開始のホイッスルと共に、
審判がボールを放る。
ジャンプボールは夜六対荒井で、
荒井は夜六に惑わされまいと
最初の一瞬は目を瞑っていた。
夜六のジャンプボールは
自分が飛んだように見せることで
相手を動揺させ、
相手が判断を見誤った所を
掻っ攫っていくという技だ。
だから荒井は夜六が何をしようと、
自分のタイミングで飛ぶつもりだった。
しかし、世界の最前線で
命の騙し合いをしている夜六が
素人相手に負ける訳がなかった。

「――っ!?」

審判がボールを投げた瞬間、
夜六は飛んでいたのだ。
いくら何でも早すぎる。
これはフェイク――だと、
荒井は目を見開いた。

フェイクでは、ない!?

完全に夜六の足は
体育館の床から離れている。
荒井が視線を上に向けると、
真上に投げられたボールを
上から鷲掴みにしている
夜六の姿が目に映った。
荒井も反射的に飛び、
ボールへと手を伸ばすが、
夜六がボールを引き寄せる方が速い。
ほぼ同時に着地して、
ドリブルするようにフェイントしてから
夜六はボールを近藤に投げる。
本来なら反則になるのだが、
今日はルールの緩い球技大会だ。
審判も無理に止めることなく、
ゲームは進行している。
だが、さすがのレギュラーチーム。
すぐに近藤の前を塞ぎ、
ドリブルでの進行を防ぐ。
それぞれがそれぞれのマークに付き、
パスコースを潰す。
夜六のマークには小寺が付くが、
小寺の後ろに夜六はすでにいない。

「あ?」

小寺が視線を巡らせると、
一瞬でボールを近藤から受け、
ゴールにシュートする夜六の姿が
小寺の瞳に映った。

「ボーっとするな!速攻!」

決勝戦においても
見事な先制点を決め、
夜六のチームは勢いを増す。
しかし、荒井のチームも
そう易々と落ち込んだりしない。
荒井はボールを拾うと、
コートのセンターラインよりも
やや奥にいた藤本にダイレクトパス。

「くそっ!」

難波がカットに行くが間に合わず、
藤本は豪快なドリブルで
ズンズンと進行する。
岡崎、夏八がディフェンスするが、
圧倒的な身長差と力で
突破されてしまう。

「おりゃーー!!」

女子らしからぬ声と共に、
藤本はボールをゴールに叩き込む。

「どうよ!あたしのダンクは!」

今も、ゴールはミシミシ…と
軋んだ音をたてている。
男子の選手でダンクをするのは
よくあることだが、
女子でダンクをするのは
アメリカでも見たことがない。
だが、そんなことをすると
夏八が反応しない訳がない。

「…今の、頂くわ」

夏八は鋭い眼光を夜六に向ける。
どうやら、手伝えという意味のようだ。
それなら、夜六が断る理由はない。
ボールを夜六が拾い、
近くにいた岡崎にパス。
それをすぐに夜六にリターンし、
夜六のとっておきその1を
今日この試合で初めて見せる。

「日本のとある漫画に登場した、
伝説のパスを見ろ。
──これが、『加速するイグナイトパス』だ」

飛んでくるボールを掴まずに、
体の軸を利用して
横から掌でぶん殴る。
その際に手首を捻り、
空気抵抗を極限まで減らす。
さながら銃の弾丸のように、
夜六の放ったボールは
風を切りながら夏八の手に届く。

加速するイグナイトパスだとぉ!?」

コートの中腹にいた夏八に
一瞬で到達したボールは、
まともに正面から掴めば
大きく手が腫れ上がりそうな
尋常ではない速度であったが、
ボールの速度、回転数、回転の方向、
そのボールの持つ全ての情報を
演算できてしまう夏八には
何のことにもない。
スパッと流れるように手中に収め、
立ち塞がってきた藤本と林を
強引にドリブルで突き破り、

「──これでいいかしら?」

豪快なフォームで
ボールをゴールへと叩き込んだ。
全く、恐ろしいものである。
今見たばかりの技を
体格の差があるにも関係なく
そのまま決めてしまうとは。
しかし、任務でも何でも
その夏八の才技に助けられてきたのが
【POISON】のメンバーである。
観客が歓声の嵐を起こし、
体育館は大盛り上がりだ。
さて、この試合、
果たしてどんな最後を迎えるだろうか。

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