スパイの毒はラブコメに効かない〜完結済み〜

青篝

その先の決勝へ

体育館に戻ってきて、
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
それと同時に試合も再開され、
午前中の熱狂が帰ってくる。
そんな中、程々に試合を見てから
夜六達は作戦会議を始めた。
次の試合に勝って、
決勝に進む為には
今までとは違う作戦が必要だ。
しかし、難波や近藤、
岡崎のバスケ部が考えると、
どうしても似たような作戦になる。
バレー部の西山とサッカー部の石田も
同じ結果になるので、
夜六がその指揮を任された。
思えば、【POISON】の作戦担当は
夜六が担うことが多かった。
というか、ほとんど夜六だった。
なので、その時の経験が活きる。

「次の試合、暴挙に出る」

夜六の考えた作戦はこうだ。
その名も、『俺達に任せろ』作戦。
ボールをほぼ全て夜六と夏八に集め、
二人だけで試合を進ませる。
尋常ではない程の体力と実力を
合わせ持つ夜六と夏八を
最大限に活用し、
他のメンバーは度外視した
超極端な脳筋作戦だ。
しかし、こういった極端な作戦が
意外と有力だったりするのだ。

「さ、さすがにそれは……」

と、難波は難色を見せるが、
近藤や岡崎は乗り気だった。

「いや、相手の意表を突くって意味では
割といい作戦かもしれない」

「私も賛成かな。
ちょっとくらい強引な方が
作戦っぽくていいかも」

夜六の作戦でいいかどうか、
簡単に多数決をする。
難波以外のメンバー全員が
賛成の意思を示した為、
結果として夜六の作戦が採用された。
そして、迎えた準決勝戦。
この試合に勝てば、
決勝に進むことができ、
荒井のいるチームと対戦する。

「皆、よく見ておいてね。
このチームのどちらかが
俺らと決勝で当たるから」

夜六達がコートに並んで
挨拶を交わしていると、
2階のギャラリーから
荒井とそのチームが顔を出す。
試合開始のホイッスルが鳴り、
ボールが宙高くに舞う。

「おっ?なんだ今の」

いつもと同じように
ジャンプボールを制し、
ボールは夜六の手中に。
素早く夏八にパスをして、
その位置で3Pシュートを放つ。
見事にゴールに収まり、先制する。

「うん。やっぱりね」

そう難しいことはない。
あれはただのフェイントだ。
ボールが宙に上がれば、
当然のように意識はボールに向く。
そこでわざと飛んで見せることで
相手の意識に自分という存在を混ぜ、
反射的に飛ばしている。
だが、この技で課題なのは、
どう相手の視界に自分を入れるかだ。
ただ闇雲に飛んで
無理矢理自分を視界に入れさせても、
自分が飛んでいては
ジャンプボールを制するのは不可能だ。
ならどうするか。
答えは簡単だ。
飛んだフリをすればいい。
そして、どういう理屈か不明だが、
白髪の夜六は相手に自分を認識させるという
ことに関してはプロだ。
彼のフェイクでしかないジャンプに、
対戦相手の誰もが騙されている。
しかし、カラクリが分かった以上、
彼に遅れることはない。
と、荒井はメンバーに語る。
ふんふんと頷きながら
メンバーは聞いていたが、
荒井の解説が終わると
思わず口角が上がってしまう。

「さすが、将来有望の天才。
相手が可哀想になってくるな」

もう既に、勝ちを確信していた。
今の夜六達の試合を見ると、
動いているのは夜六と夏八だけで、
他のメンバーはただ相手の選手を
マークしているだけだ。
バスケ部である難波と近藤を
差し置いているだけあって、
あの二人のプレーは素晴らしい。
二人でどんどん点を取り、
あっという間に勝利をもぎ取った。
荒井の読みでは、
夜六と夏八の二人を
できるだけ温存すると思っていたのだが、
なぜそうしなかったのか。
様々な思案を巡らせて、
その答えを見つけようとする。
バスケ部のメンバーの温存?
それしか勝つ方法が無い?
まさか、これも何かのフェイク?
それとも、荒井が知らない何かを
難波と近藤が隠し持っているのか?
いや、考えるのはもう辞めよう。
夜六達が何をしようとしても、
荒井達が負ける訳にはいかないのだから。

「さぁ皆、俺らの相手は決まった。
でも、誰が相手だろうと
俺らに負けは許されない。
圧倒的な差を見せつけて、
大切な仲間を取り戻そう!」

「「「おーー!」」」

体育館をグルリと見渡し、
荒井はその姿を探す。
しかし何も目に映ることはなく、
決勝用のコートを
バスケ部員達が立てているだけだ。
夜六達が十分な休憩をしたら、
決勝戦が始まることになる。
スポーツマンである以上、
手を抜くことなど有り得ないが、
荒井が全力を出せば
チームメイトさえも着いて来れないと
荒井は恐れていた。
実際、公式試合で一度だけ全力を出したら
同じ練習を乗り越えてきた
精鋭のレギュラー達が
荒井の速さに着いて来れなかった。
試合に勝つだけならば、
荒井一人が全力で戦えばいい。
しかし、あいつの出した条件は
『最高潮の試合をして勝て』だ。
ただ勝つだけではなく、
最高潮の試合をすること、
という謎の条件付き。
それを達成出来なければ、
荒井達の大切な仲間を失うことになる。
それらを全て分かった上で、
チームメイトは荒井に従うことにした。
彼らの大切な仲間の命運は、
荒井に懸かっている。

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