スパイの毒はラブコメに効かない〜完結済み〜

青篝

委員会

迎えた放課後。
音楽室で歌を歌ったり
楽器を練習するうちに
2時間は過ぎ去り、
綺麗に直ったドアを開けて
帰りのHRホームルームが始まる。
といっても特にすることはないが、
今日は大事なことが2点あった。

「明日はいよいよ球技大会だ。
着替えの時間は設けないから
明日は体操着で登校するか
制服の下に体操着を着て
登校してくるように。
岡本先生から聞いた話だと、
このクラスはレベルが高いから
優勝もありえるだろうとのことだ。
まぁ、ケガに気をつけて
優勝目指して頑張れ」

明日に迫った球技大会に、
クラスメイトは気合い十分だ。
明日はまだ先だというのに、
すごい気合いの入り方である。

「で、もう1個。
先週転校した高木と武井が
図書委員と風紀委員をやってたから
代わりを決めないといけないんだが、
男子の図書委員と女子の風紀委員に
立候補する奴はいるか?」

吉原が呼びかけるが、
その声に応える者はいない。
いつもは何にでも積極的だが、
ある程度の責任を背負ってまで
やりたいとは思わないようだ。
夜六と夏八も正直言ってやりたくない。
委員会に入れば、
少なからず自由な時間は失われる。
そうなるのは任務にも支障が出るし、
内申点にも興味がないのだから。
教室内に不穏な空気が流れ、
吉原は困ったように眉を寄せる。
しかし、吉原は考えた果てに
とんでもないことを言い出す。

「霧峰、水都。
入れ替わりで転校してきたんだから
委員会やってくれないか?」

「いや、俺は――」

「それな!二人とも真面目だし、
他の奴がやる理由がねぇよ」

「そうそう、二人が相応しい」

そんなのやるつもりはない、と
夜六は言おうとしたが、
その前に逃げ道を塞がれてしまう。
気づけばクラスメイト達は
夜六と夏八を持ち上げて
無理にでもやらせようとしている。
絶対に嫌だと断ることも可能だが、
この空気で無理に断ると
後々の学園生活に響く。
夜六がチラッと隣りを見れば、
眉間に皺を寄せて
心底嫌そうにしている夏八がいた。
夏八も夜六と同様に
考えを巡らせているのだろうが、
もう二人に道はなかった。

「はぁ…分かった。
やればいいんだろ」

わざとらし過ぎる溜め息を吐いて、
夜六は渋々引き受ける。
そっと夏八に視線を向け、
諦めろと伝えた。

「仕方ないわね。
気は進まないけれど、
その仕事、受けてあげる」

肩にかかっている真紅の髪を
手で小さく払い、
夏八も了承する。
吉原も含めたクラスメイト達は
ほっと胸を撫で下ろし、
そのままの空気で
今日の学校は終了した。
ある者は部活動に向かい、
ある者はさっさと寮に帰る。
何人かの生徒で掃除を始め、
邪魔にならないように
夜六と夏八は教室を出る。
心做しか二人の顔には
疲労の色が滲んでおり、
今自分達が優先すべき事を
少しの間忘れていた。
二人がそれを思い出したのは、
フラフラと歩いて
中庭のベンチに座った時だった。

「…何か分かったか?」

周囲に誰もいないか確認して、
夜六はいきなり本題に入る。
ボーっとしていた夏八はハッとして
自らの手で頬をペチペチと叩いた。

「寮自体には何もなかったわ。
怪しそうな部屋もないし、
不自然な空間も見当たらなかった」

「俺も同じだ。
何かを隠せそうな場所はない。
ただの学校の寮だった」

本来なら今朝の間に
済ませる予定だった報告をお互いにする。
二人とも特にこれといった収穫はなく、
寮という建物には
何もないと決定させた。
そうなれば、やはり怪しいのは校舎だ。
夜六が最初にいきなり気になった
不自然な数の廊下の電灯。
まずはこちらを探ってみるか。
あるいは――。

「今日の体育の時に
私が目星をつけた3人の生徒。
3人とも書道にはいなかったから
他の子に聞いて情報を掴んだわ」

夏八が夜六に渡した1枚の紙。
そこには【POISON】のメンバーだけが
読み解くことができる
一種の暗号文が書かれていた。

「東雲  文華ふみか
図書委員、文芸部所属。
あまり人と話さず、
一人でいることが多い。
噂によると、身売りをやっているらしい。
あの時、動揺していたように見えた。

富澤   まこと
委員会、部活動共に無所属。
かなりのアニメ好きで、
ある意味で一目置かれている。
放課後、彼が一人で隠れて
何かをしていたと一部の生徒が目撃。
あの時、明らかに様子がおかしかった。

難波   海斗
委員会は無所属、バスケ部に所属。
明るく誰とでも話ができる。
小学校時代はかなりの目立ちたがり屋で、
それなりに人気もあった。
あの時、拳を握り締めていた。」

夏八が書いた暗号文を2秒で読み、
思わず夜六は目頭を抑えた。
クラスメイトにカマをかけた程度と
夜六は思っていたのだが、
想像以上に厄介そうな
情報が手に入ってしまった。
特に2人目の富澤だ。
隠れて何かをやっていたとは、
怪しいとかいうレベルではない。
それに、東雲も容疑者としては十分に
気になる噂があるようだ。

「…3人目の難波は保留にしよう」

「…?どうして?」

可愛いらしく首を傾げて、
夏八は夜六の心を読もうとする。
夜六の中で、難波は容疑者ではない。
情が湧いたとか、親しいからとか、
そんな私情はもちろん抜きで
夜六は難波を疑う気になれなかった。

「今日、難波のバスケを見たが、
パス等のチームプレーよりも
積極的にシュートを打つ
個人の能力を活かすプレースタイルだ。
難波自身が目立ちたがり屋だから、
チームで繋ぐよりも
自分が目立って点を取りたいんだろう。
それを考慮すると、
いきなり一人で点を決めた俺を見て
難波が嫉妬するのは、
不思議なことではない」

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