短編集(ホラー、不思議系)

柊原 ゆず

襲うもの

 俺は今、なにものかに襲われている。真っ暗闇に突き落とされようとしている。俺は辺りを見まわす。しかし、そいつの姿は見えない。薄暗いこの場所で、目を凝らして見ても、影も形も見えない。一体どういうことだろう。焦る俺を嘲笑うように、そいつは俺を着実に追い詰めているようだ。何か特別な方法を使っているのだろうか。そいつはじわじわと俺の脳みそを蕩けさせてゆく。朦朧とする意識の中で、物音が響いた。ぼんやりとしていた意識が覚醒する。それは本来であれば喜ばしいことなのに、不快感が胸いっぱいに広がる。なんだこれは。不快だ!嫌だ!とめどなくあふれる感情が制御しきれなくなり、目から何かがこぼれる。俺は思わず声を上げた。
 声を上げ続けていると、女の声が聞こえた。何を言っているかは分からないが、聞き慣れた声だった。女は何か話しかけたかと思うと、からだがふわりと浮かぶような感覚を抱く。温かい。それからゆらゆらとからだが動く。先程の不快感が嘘のように、胸が満たされていくのを感じる。ああ、気持ちがいい。ふわふわとした心地で、俺はしだいに暗闇へととけていった。

「あら」

 静かな寝息を立てる赤ん坊。母親の腕の中で眠ってしまったようだ。母親はそうっと、赤ん坊をベビーベッドに寝かせる。いつもはベッドへ寝かせるとその刺激で泣いてしまうのだが、今回は成功したようだ。起こさないよう布団をかけてやり、その愛らしい寝顔に笑みを浮かべる。

「おやすみなさい、私の可愛い赤ちゃん」

Fin.

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