じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
7-3
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どうして、マスカレードがここに!?ここは魔境でも何でもないし、奴の目当ての竜の骨はないはずだ!
「お前、どうしてここにいるんだ!」
「どうして?だってここは、有数のリゾート地だよ?僕だってたまには旅行を楽しみたいのさ」
「ちっ、白々しいことを!お前が旅行だと?シリス大公がにこやかに笑ったって言われた方が、まだ信じられるぜ」
「あははは、うまいこと言うねえ。確かにあの男が仏頂面以外をしているところを、見たことがないや」
くそ、冗談を言ってもちっとも面白くない。こいつが出てきた所で、ろくなことが起きたためしがないんだ。クラークは鋭くマスカレードを睨みつけたまま、俺に訊ねる。
「あいつも、君の知り合いか?友達ではないみたいだけれど」
「あったり前だ!奴はあちこちで悪事をしでかしてるろくでなしだ。俺たちはマスカレードって呼んでる」
「悪事……」
クラークのまなじりが動く。正義の雷は、悪を前にして、黙ってはいられないみたいだ。
「貴様、何者だ!尊さんに何をした!」
「何者?いやだなぁ、一の国の勇者くん。僕は以前、君にコンタクトをとったじゃないか」
「なんだって?」
「忘れちゃったのかい?ほら、あのお手紙。君は大そう気にいってくれてたみたいだけど?」
「手紙……まさか、あの時の!あれは、お前のしわざだったのか!」
手紙?以前、クラークが俺たちを追っかけて来た時のやつか?差出人は不明だっていう……こいつめ、そんなことまでしていやがったのか。
「なんだよ、まんざらでもなかったくせに。君はアレを読んで、張り切って二の国の勇者くんと戦いに行ったじゃないか。僕の思惑通り、コロッとね。キヒヒヒヒ!」
「貴様ぁ……!」
バチバチバチ!クラークの周りに火花が散り始めた。だいぶ頭に血がのぼってきているな。俺は小声でささやきかける。
「おいクラーク、あんまり早まるなよ。まだ尊の安否が確認できてない」
「わ、わかってるよ!」
「そうだよ君たち?尊、とか言ったっけ?あんまり軽はずみなことはしないほうがいいと思うなぁ」
くそっ、地獄耳め!それに、今なんて言いやがった!俺とクラークは身を硬くする。
「てめえ……尊をどうした!」
「キヒヒ。あの女、よっわいねぇ。ほんとに勇者?ザコ過ぎて、遊び相手にもならなかったよ」
「お前、まさか……」
「安心してよ、死んじゃいないから。ま、でもいつでも殺せるから、そこんとこヨロシク、ね」
ちぃ……林の中は暗く、マスカレードの周りの状況はまったく見えない。やつのそばに、無防備な尊がいるとしたら……俺たちは動けなくなってしまった。
「そうそう、それでいいんだよ。僕も今夜は戦いに来たわけじゃないし、君たちはそうやっておとなしくしていればいいんだ」
「……戦いに来たわけじゃない?お前、ほんとに何しにきやがったんだ」
「今日の僕はメッセンジャーなんだ。あるサプライズを伝えに来たんだよ。じき君たちの耳にも入ると思うから、楽しみにしててね?」
「……くそったれ」
こいつ、今度は何をやらかす気だ?以前はマンティコアに、ボーテングの町を襲わせた。あんなことが、このシェオル島で繰り返されてみろ……俺は背筋を冷や汗が伝うのを感じた。
「……貴様は、何の目的があって動いているんだ」
クラークが硬い声で問う。
「んー、僕の目的?それは教えられないなぁ。君たちには理解できそうもないし……あ、でもそうだ。こうして出会えたのも何かの縁だし、君たちに一つ、いいことを聞かせてあげようかな」
「いいこと、だと?」
「そう。なんか君たち、あの女が実は死んでなかったんだ、とかいう話をしてたみたいじゃん」
「なっ……どうしてそれを!」
「僕は耳が良くってねぇ。んで、その事について一つ。あの女勇者はね、間違いなく死んでるんだよ」
……なに?
こいつが何を言っているのか、分からない。俺も、そしてクラークも、それに対して言葉を返すことができなかった。尊が、間違いなく死んでいる?
マスカレードは続ける。
「死んでるよ。ぐちゃぐちゃになったんだろう?そんなんで人間が死なないわけないじゃん。あの女、慈心島尊は、確実に自殺している」
「……ど、どうして、お前がそんなことを」
「知ってるかって?僕はね、あの女だけじゃなくて、君たち二人の勇者についても詳しいんだ。君たちがあの女の知り合いだったことも、あの女に起こったことも、そして君たち二人がそれを知っていることも、みーんなわかってるんだよ」
なんで、こいつがそんな事を……いやそれよりも、今はこっちだ。尊が、すでに死んでいるだって……?
「でも……でも、それなら!今の尊はなんだって言うんだ!尊は確かに、生きている!実はアンデッドだなんて抜かしてみろ!その口に石を詰めて縫い合わせてやるぞ!」
「あのねえ、前は死んでても、今も死んでるとは言ってないだろ?今は確かに生きてるよ。でもね、今生きてることが、過去の死を否定する証拠には、ならないんだよねぇ」
な、に……?尊は、生きている。だが、過去に一度死んだ……
「尊は……生き返ったのか……?」
「うーん、惜しいね。蘇生したわけじゃないよ。あれは、言うなれば……」
その時だ。俺の胸元で、けたたましいシャリーンという音が鳴った。ハッとして、目線を下に落とす。
『主様!危険です!あいつの言うことに耳を傾けてはなりません!』
「ア、 ニ……」
すると、フィィィィィン!クラークの持つ魔法剣までもが、その刀身を震わせ始めた。やつの剣は、アニのように自我を持つ。あの剣もまた、警告をしているんだ。
「あーあー、うるさいうるさい。そのおもちゃたちは、この先の事実をなんとしても言われたくないみたいだね」
「この先の、事実……?」
『主様、駄目です!』
「そうだよ。君たち勇者には知らされていなくても、僕や、それぞれの国のお偉方なんかは、当たり前に知っている事実さ。君たちもそろそろ、このことを知っておいた方がいいんじゃないのかな」
『いけません!主様、どうか!』
事実……俺たち勇者に隠されていた事……アニはどうやら、それを知っているらしい。そして、マスカレードも……マスカレードの言葉なんて、絶対に信用できないものの筆頭だ。だけど、今は……俺は奴の言葉を、聞きたいと思ってしまっている。クラークも激しく震える剣をだらりと垂らして、その先の言葉を待っているように見えた。
「いいよ。教えてあげるよ。君たち、勇者はね」
『主様!聞いては、』
「一度、死んでいるんだよ」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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どうして、マスカレードがここに!?ここは魔境でも何でもないし、奴の目当ての竜の骨はないはずだ!
「お前、どうしてここにいるんだ!」
「どうして?だってここは、有数のリゾート地だよ?僕だってたまには旅行を楽しみたいのさ」
「ちっ、白々しいことを!お前が旅行だと?シリス大公がにこやかに笑ったって言われた方が、まだ信じられるぜ」
「あははは、うまいこと言うねえ。確かにあの男が仏頂面以外をしているところを、見たことがないや」
くそ、冗談を言ってもちっとも面白くない。こいつが出てきた所で、ろくなことが起きたためしがないんだ。クラークは鋭くマスカレードを睨みつけたまま、俺に訊ねる。
「あいつも、君の知り合いか?友達ではないみたいだけれど」
「あったり前だ!奴はあちこちで悪事をしでかしてるろくでなしだ。俺たちはマスカレードって呼んでる」
「悪事……」
クラークのまなじりが動く。正義の雷は、悪を前にして、黙ってはいられないみたいだ。
「貴様、何者だ!尊さんに何をした!」
「何者?いやだなぁ、一の国の勇者くん。僕は以前、君にコンタクトをとったじゃないか」
「なんだって?」
「忘れちゃったのかい?ほら、あのお手紙。君は大そう気にいってくれてたみたいだけど?」
「手紙……まさか、あの時の!あれは、お前のしわざだったのか!」
手紙?以前、クラークが俺たちを追っかけて来た時のやつか?差出人は不明だっていう……こいつめ、そんなことまでしていやがったのか。
「なんだよ、まんざらでもなかったくせに。君はアレを読んで、張り切って二の国の勇者くんと戦いに行ったじゃないか。僕の思惑通り、コロッとね。キヒヒヒヒ!」
「貴様ぁ……!」
バチバチバチ!クラークの周りに火花が散り始めた。だいぶ頭に血がのぼってきているな。俺は小声でささやきかける。
「おいクラーク、あんまり早まるなよ。まだ尊の安否が確認できてない」
「わ、わかってるよ!」
「そうだよ君たち?尊、とか言ったっけ?あんまり軽はずみなことはしないほうがいいと思うなぁ」
くそっ、地獄耳め!それに、今なんて言いやがった!俺とクラークは身を硬くする。
「てめえ……尊をどうした!」
「キヒヒ。あの女、よっわいねぇ。ほんとに勇者?ザコ過ぎて、遊び相手にもならなかったよ」
「お前、まさか……」
「安心してよ、死んじゃいないから。ま、でもいつでも殺せるから、そこんとこヨロシク、ね」
ちぃ……林の中は暗く、マスカレードの周りの状況はまったく見えない。やつのそばに、無防備な尊がいるとしたら……俺たちは動けなくなってしまった。
「そうそう、それでいいんだよ。僕も今夜は戦いに来たわけじゃないし、君たちはそうやっておとなしくしていればいいんだ」
「……戦いに来たわけじゃない?お前、ほんとに何しにきやがったんだ」
「今日の僕はメッセンジャーなんだ。あるサプライズを伝えに来たんだよ。じき君たちの耳にも入ると思うから、楽しみにしててね?」
「……くそったれ」
こいつ、今度は何をやらかす気だ?以前はマンティコアに、ボーテングの町を襲わせた。あんなことが、このシェオル島で繰り返されてみろ……俺は背筋を冷や汗が伝うのを感じた。
「……貴様は、何の目的があって動いているんだ」
クラークが硬い声で問う。
「んー、僕の目的?それは教えられないなぁ。君たちには理解できそうもないし……あ、でもそうだ。こうして出会えたのも何かの縁だし、君たちに一つ、いいことを聞かせてあげようかな」
「いいこと、だと?」
「そう。なんか君たち、あの女が実は死んでなかったんだ、とかいう話をしてたみたいじゃん」
「なっ……どうしてそれを!」
「僕は耳が良くってねぇ。んで、その事について一つ。あの女勇者はね、間違いなく死んでるんだよ」
……なに?
こいつが何を言っているのか、分からない。俺も、そしてクラークも、それに対して言葉を返すことができなかった。尊が、間違いなく死んでいる?
マスカレードは続ける。
「死んでるよ。ぐちゃぐちゃになったんだろう?そんなんで人間が死なないわけないじゃん。あの女、慈心島尊は、確実に自殺している」
「……ど、どうして、お前がそんなことを」
「知ってるかって?僕はね、あの女だけじゃなくて、君たち二人の勇者についても詳しいんだ。君たちがあの女の知り合いだったことも、あの女に起こったことも、そして君たち二人がそれを知っていることも、みーんなわかってるんだよ」
なんで、こいつがそんな事を……いやそれよりも、今はこっちだ。尊が、すでに死んでいるだって……?
「でも……でも、それなら!今の尊はなんだって言うんだ!尊は確かに、生きている!実はアンデッドだなんて抜かしてみろ!その口に石を詰めて縫い合わせてやるぞ!」
「あのねえ、前は死んでても、今も死んでるとは言ってないだろ?今は確かに生きてるよ。でもね、今生きてることが、過去の死を否定する証拠には、ならないんだよねぇ」
な、に……?尊は、生きている。だが、過去に一度死んだ……
「尊は……生き返ったのか……?」
「うーん、惜しいね。蘇生したわけじゃないよ。あれは、言うなれば……」
その時だ。俺の胸元で、けたたましいシャリーンという音が鳴った。ハッとして、目線を下に落とす。
『主様!危険です!あいつの言うことに耳を傾けてはなりません!』
「ア、 ニ……」
すると、フィィィィィン!クラークの持つ魔法剣までもが、その刀身を震わせ始めた。やつの剣は、アニのように自我を持つ。あの剣もまた、警告をしているんだ。
「あーあー、うるさいうるさい。そのおもちゃたちは、この先の事実をなんとしても言われたくないみたいだね」
「この先の、事実……?」
『主様、駄目です!』
「そうだよ。君たち勇者には知らされていなくても、僕や、それぞれの国のお偉方なんかは、当たり前に知っている事実さ。君たちもそろそろ、このことを知っておいた方がいいんじゃないのかな」
『いけません!主様、どうか!』
事実……俺たち勇者に隠されていた事……アニはどうやら、それを知っているらしい。そして、マスカレードも……マスカレードの言葉なんて、絶対に信用できないものの筆頭だ。だけど、今は……俺は奴の言葉を、聞きたいと思ってしまっている。クラークも激しく震える剣をだらりと垂らして、その先の言葉を待っているように見えた。
「いいよ。教えてあげるよ。君たち、勇者はね」
『主様!聞いては、』
「一度、死んでいるんだよ」
つづく
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読了ありがとうございました。
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