じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

6-2

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「ひゅーう。さっすが、大陸最高の宴の会場だぜ」

「わぁ、素敵です!あれだけ長く準備をしていたのもうなずけますよ……」

会場に着いた俺たちの感想だ。会場はかなり広々と場所を取っているようで、屋外にも飾りつけやテーブルがちらほらと見えている。だけどメインとなるのは、真っ白な大理石で造られた、こだわりが光る一棟だ。
小高い丘の上に建つそれは、シルエットだけ見ると、白くて細長い巻貝のからのような形をしている。滑らかな石材は、驚くことに継ぎ目がどこにも見当たらない。まさか、一つの岩から切り出したのか?この巨大な建物をまるまる?まさかとは思うが……
室内には随所に魔法の光球が浮かんでいて、夕暮れ時でもまぶしいくらいに明るい。そしてなんといっても、メインホールの素晴らしさだ。らせん状になっている建物の頂点、その真下に位置するこのホールは、なんと天井が吹き抜けになっている。これほど高い吹き抜けは初めて見た……頭上にはクリスタルガラスの装飾が吊るされ、星が浮かんでいるようだ。そのさらに上には本物の夜空。丸い形の夜空を見ていると、空が一段低くなっているように見える。あそこまで登っていけば、星に手が触れてしまいそうな……たぶんそこまで完璧に計算されているんだろう。見事な設計だ。

「わっはっは。さすがのお前も、ここには感銘を覚えただろうが。え?」

バシッ!ぐわ、なんだ?背中を思い切りどつかれた。

「いってーな、誰だ?」

「誰だとはなんだ。この場に招待してやった恩人に対して」

恩人だと?俺の後ろにいたのは、したり顔をしたエドガーだった。今日はいつもの鎧じゃなくて、フォーマルなジャケット姿だ。似合わねえな……

「なんだ、あんたかよ。いいのか?病人がこんなとこまで来て」

「ふん、いつまでもとこにおったら身が腐るわ。それに今は、ダンスパートナーでなく、一兵士としての出席だからな。臨むところよ」

エドガーは病み上がりらしくない、じつに晴れやかな笑みを浮かべた。やっぱりこいつ、単に自分が踊りたくないだけだったんじゃ……

「しかし、よく来た、よく来た!お前もようやく、勇者としての自覚が出てきたな」

「だから、勇者じゃないっての!今回っきりだぞ、こんなの」

「ほほう?だがお前、ここのリゾートを楽しんだんじゃないのか?」

「ぐ、う……」

「いいのか?二度とこのシェオル島を訪れることができんのだぞ?ここの景色は、貴族であっても滅多に満喫できるものではないからなぁ……」

「うるせーな!もういいから、さっさと行けよ!」

このクソおやじめ!体力が戻ったら、口数まで増えやがった。俺が邪険にしても、エドガーは全然気にならないようだ。上機嫌に笑いながら、料理の乗ったテーブルへ行ってしまった。

「ちっ。冷やかすだけ冷やかしていきやがって」

あんなにご機嫌なところを見るに、よっぽど踊りたくなかったらしい。まあ確かに、ここ何日かのダンスレッスンは地獄だったからなぁ。……そういや俺、このあとロアと踊らなきゃいけないのか。うぅ、なんかいまさら緊張してきたぞ……
ざわわ。

「ん……?」

「主役のお出ましみたいですね」

主役というと……ホールの入り口から、三人の貴人が入ってきた。白いローブを纏ったシリス、深紅のタイトドレスを着たノロ、そして若草色のロングドレスに身を包んだロアだ。三人がやって来ると、めいめい談笑していた他の客たちがぴたっと口を閉じた。全ての視線が三人に集中している。なんだか自然と背筋が伸びるみたいだ。
三人はホールの中心まで進み出ると、それぞれ客たちに向き直った。最初にノロが堂々と口を開く。

「紳士淑女の諸君。今宵は三冠の宴によく来てくれた。主催の一人として嬉しく思うぞ」

次にシリスが淡々と続ける。

「今夜は三国間の隔たりなく、各々自由にこのひと時を楽しんでほしい」

最後にロアが、少したどたどしく結んだ。

「今夜、それぞれの国の勇者がこの場に来ている。彼ら彼女らの紹介もかねて、一曲お付き合い願おう」

すると客たちから拍手が上がった。その拍手に出迎えられるようにして、二つの影が進み出てきた。一人は金髪の少年、クラーク。アッシュグレイのタキシードを着こんでいる。もう一人は、全身真っ黒のドレスローブだ。あいつが三の国の勇者?ヴェールを被っているので、顔も分からないぞ。聞く限りでは女の子らしいけど……

「ほら、桜下さん!なにぼやっとしてるんですか、行かないと!」

お、おっと。ウィルに背中を押されて、俺はややつんのめりながら前に出た。ひえぇ、周りの目が俺に向くのを感じる。俺は恥ずかしくって、小走りでロアの下へと向かった。

「どうした、そんなに慌てて。そんなに待ち遠しかったのか?」

駆け寄ってきた俺を見て、ロアが半分驚いたような、半分呆れたような顔で言う。俺は小声で返す。

「ちぇ、分かってること聞くなよな。あんたも同じなくせに」

「私か?私は存外楽しみだったぞ」

「え?そうなの?」

「ああ。三冠の宴のことは幼いころから聞かされていたからな。ここで踊ることは、王女として大変名誉なことだと」

「名誉ねぇ……じゃ、やっぱり俺よりエドガーのほうがよかっただろ。俺じゃ箔がつかないぜ」

「そうか?今夜のそなたは、意外と様になっているが」

「えぇ?ほんとかよ?」

「ああ。助かったよ、これで各国への恰好もつくというものだ……っと、おしゃべりはこの辺にしよう。そろそろ曲が始まるぞ」

おっと、いけない。俺はさんざん教わった通りに、足を肩幅くらいまで開いた。そして、ロアと向き合う……さすがに名誉ある舞台ということもあってか、ロアの恰好はいつにも増して気合が入っている。ざっくりと開いた肩や胸元にはファンデーションが塗ってあるのか、キラキラと光を反射している。メイクもしっかりと、だけどケバく見えない絶妙なラインで整えられていて……ありていに言うと、あんがい綺麗だ。

「……」

「どうした?早く腰に手を当てろ。まさか、ダンスを忘れたわけじゃないだろうな」

「あ、い、いや。大丈夫だ。ちょっと緊張しただけだから」

俺は慌てて片手をロアの細い腰に当て、もう片方でロアの手を握った。くあー、こっぱずかしい。至近距離で向き合う形になるから、胸が触れ合いそうだし……ああ!今までこの女にはさんざんな目に遭わされたって言うのに、俺という男は……
俺が嘆きの淵にいるのもお構いなしに、指揮者が指揮棒を振り上げた。オーケストラによる優雅な生演奏が始まり、三冠の宴がいよいよ幕を開けたのだった。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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