じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
6-4
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「……!」
勇者ファーストだって?そいつは確か、かつて一の国が召喚した、歴代でもトップクラスの勇者のことだ。その勇者の血を引いているだと……?
「ち、ちょっと待ってくれよ。ファーストって、勇者だろ?勇者が結婚してたのか?」
「ああ。勇者とて人間だろう。結婚もするし、子どもも作るさ」
俺はあんぐり口を開けた。でも言われてみれば、確かに……勇者って、俺とか、クラークみたいに、少年少女基準で考えちゃうんだよな。けれど、大人の勇者もいたかもしれないんだ。
「ファーストって、何歳くらいの時に召喚されたんだ?」
「さて、どうだったかな……小耳にはさんだ限りでは、お前やクラークとそう変わらない歳だったそうだ」
「え……」
うそ……じゃあ、俺と同じくらいでこの世界に呼び出されて、そこで恋人を作って、結婚して、子どもまで……し、信じられない。ここは異世界だぞ?俺なんて、もと居た世界でも彼女を作れる自信ないのに……見れば、クラークも似たような顔をしていた。よかった、やつもそこまでモテていたわけじゃなさそうだな。
「……」
ふと、コルルがじぃーっとクラークを見つめていることに気が付いた。ずいぶん熱のこもった視線だ。クラークの反応を、一挙手一投足まで観察しているみたいな……
(はは~ん?)
はは、あれだけ見つめられて気が付かないなんて、クラークのやつ、ずいぶん鈍感みてーだな。キキキッ!
「……」
この時、フランもまた、桜下をじっと見つめていることに、彼は気付いていなかった。少女二人の視線に気づいていたのは、この場ではただ一人、ミカエルだけであったわけだが……気が弱い彼女は、その事について触れることはしなかった。触らぬ神に祟りなし、だ。
「しかし、勇者の子孫か……」
しかも、そんじょそこらの勇者じゃない。伝説の勇者、その子孫だ。
「……あれ?でもアルアって、すごく強いわけじゃなさそうな……?」
するとアドリアは、ふぅとため息をついた。
「血は、才能まで保証してくれるわけではないということだ。彼女がファーストの子孫であることは間違いない。だが、だからと言って天性の才が与えられるわけじゃない。むしろ、彼女は努力家だよ。勤勉で、鍛錬にも励んでいる。しかし皮肉にも、それが彼女に才能が継がれていないことを証明してしまっているのさ」
「な、なるほどな……」
まるで、勇者セカンドと真逆だ。奴の血は、セカンドミニオンへ呪いのように受け継がれている。対してファーストの血は、その子孫に遺伝してはいなかった……不思議なこともあるんだな。
「でも、アドリア。それとこれと、一体何の関係があるのよ?」
コルルが眉根を寄せて質問する。っと、話が逸れていたな。本題は、アルアがどういう人間なのかについてだ。
「ん、コルル。今の話で思い至らなかったか?なぜアルアが、彼らに襲い掛かったのか」
「え?だ、だって。あんたが話したのは、アルアがファーストの孫だってことだけじゃない。すごいことだし、驚いたけど、だからって何が分かるわけでも……」
「では、こう言い換えよう。アルアは、“二の国の勇者”に襲い掛かった」
「二の国の……あ!」
合点がいったとように、コルルが目を丸くする。そしてクラークも、顔をしかめながらうなずいた。すぐ俺にも、その理由が分かった。
「……あぁ!そうか。ファーストって、戦争の最期にセカンドに裏切られて……」
そういうことだ、とアドリアがうなずく。そうだった、彼の死因は、味方の裏切り……二の国が召喚した、最悪の勇者。セカンドによって、その背中を突かれたのだ。クラークは苦虫を噛み潰した顔で言う。
「そうだ……あの醜悪な裏切りの記憶は、アルアに暗い影を落としたに違いない。ようやくわかったよ、アドリア。彼女が我を失うのも当然だ。彼女にとっては、正当な復讐だったわけだね」
「お、おい。襲われたのは俺たちだぞ。正当であってたまるかよ!」
「ふん、どうだか。同じ国が召喚した勇者なら、似たようなものなんじゃないのかい?」
「ああ……?それなら、おたくは最期には、俺に倒されることになるけどな?」
「なんだって……!」
んんっ!と、アドリアが咳払い。くそ、なんでこうなるかな。やっぱりクラークとは馬が合わないな。
「……」
「……」
俺たちは再び黙り込んでしまった。場の空気は最悪だ。賑やかなパーティー会場で、ここだけ葬式みたいになっている。
「あっ……あ、ぁあぁ、あのう」
その空気に耐え切れなくなったのか、震える小声で、ミカエルが話し出した。
「その……あ、アドリアさんは、どうして知ってたんですか?アルアさんのことを……」
「私か?私の家は、代々傭兵稼業をやっていてな。戦場の話題なら耳にする機会が多かったんだ。あの少女は、歳の割には腕が立つ方だから」
「そ、そうだったんですか……」
会話はそこで終わってしまった。沈黙を埋めようと、ミカエルはあせあせと話題を探している。だけど、額に汗するほど必死にならなくても……見ちゃいられないな。助け舟を出そう。
「なあ、アドリアさん?あんたは、戦争の歴史についても詳しいのか?」
「なに?それと、さんはいらない。敬意を払うには今更過ぎるだろう」
「そりゃそうか。で、どうなんだ?」
「ふむ。まあ人並みか、それより少しは詳しいと言えるだろう 」
「じゃあさ、そのファーストのことについて、聞かせてくれないか?すっごく強い勇者だったってことは知ってるけど、実はそこまで詳しい事は知らないんだ。俺たち」
ロアから聞いたのは、ファーストという勇者がいたという事だけだ。詳細については何にも知らない。今まではそれでよかったけど、さすがに状況が込み入ってきたからな……
「こっちの国に来てる以上、その辺も知っとかないと、何かと面倒事が起きそうだからさ」
「なるほどな。確かに、ライカニール人にとって、ファーストは欠かすことのできない英雄だ。あまり無粋なことを口にすれば、アルアでなくとも黙っていないだろう」
うなずく。ここに来る途中に立ち寄った村にも、ファーストの像が置かれていた。ファーストは、国民的なヒーローなんだ。
「では、ご清聴願おうかな。これは、実際に戦闘に参加していた、私の父が語ってくれた話だ。今から十六年ほど前、大戦も終局に差し掛かったころのことだが……」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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勇者ファーストだって?そいつは確か、かつて一の国が召喚した、歴代でもトップクラスの勇者のことだ。その勇者の血を引いているだと……?
「ち、ちょっと待ってくれよ。ファーストって、勇者だろ?勇者が結婚してたのか?」
「ああ。勇者とて人間だろう。結婚もするし、子どもも作るさ」
俺はあんぐり口を開けた。でも言われてみれば、確かに……勇者って、俺とか、クラークみたいに、少年少女基準で考えちゃうんだよな。けれど、大人の勇者もいたかもしれないんだ。
「ファーストって、何歳くらいの時に召喚されたんだ?」
「さて、どうだったかな……小耳にはさんだ限りでは、お前やクラークとそう変わらない歳だったそうだ」
「え……」
うそ……じゃあ、俺と同じくらいでこの世界に呼び出されて、そこで恋人を作って、結婚して、子どもまで……し、信じられない。ここは異世界だぞ?俺なんて、もと居た世界でも彼女を作れる自信ないのに……見れば、クラークも似たような顔をしていた。よかった、やつもそこまでモテていたわけじゃなさそうだな。
「……」
ふと、コルルがじぃーっとクラークを見つめていることに気が付いた。ずいぶん熱のこもった視線だ。クラークの反応を、一挙手一投足まで観察しているみたいな……
(はは~ん?)
はは、あれだけ見つめられて気が付かないなんて、クラークのやつ、ずいぶん鈍感みてーだな。キキキッ!
「……」
この時、フランもまた、桜下をじっと見つめていることに、彼は気付いていなかった。少女二人の視線に気づいていたのは、この場ではただ一人、ミカエルだけであったわけだが……気が弱い彼女は、その事について触れることはしなかった。触らぬ神に祟りなし、だ。
「しかし、勇者の子孫か……」
しかも、そんじょそこらの勇者じゃない。伝説の勇者、その子孫だ。
「……あれ?でもアルアって、すごく強いわけじゃなさそうな……?」
するとアドリアは、ふぅとため息をついた。
「血は、才能まで保証してくれるわけではないということだ。彼女がファーストの子孫であることは間違いない。だが、だからと言って天性の才が与えられるわけじゃない。むしろ、彼女は努力家だよ。勤勉で、鍛錬にも励んでいる。しかし皮肉にも、それが彼女に才能が継がれていないことを証明してしまっているのさ」
「な、なるほどな……」
まるで、勇者セカンドと真逆だ。奴の血は、セカンドミニオンへ呪いのように受け継がれている。対してファーストの血は、その子孫に遺伝してはいなかった……不思議なこともあるんだな。
「でも、アドリア。それとこれと、一体何の関係があるのよ?」
コルルが眉根を寄せて質問する。っと、話が逸れていたな。本題は、アルアがどういう人間なのかについてだ。
「ん、コルル。今の話で思い至らなかったか?なぜアルアが、彼らに襲い掛かったのか」
「え?だ、だって。あんたが話したのは、アルアがファーストの孫だってことだけじゃない。すごいことだし、驚いたけど、だからって何が分かるわけでも……」
「では、こう言い換えよう。アルアは、“二の国の勇者”に襲い掛かった」
「二の国の……あ!」
合点がいったとように、コルルが目を丸くする。そしてクラークも、顔をしかめながらうなずいた。すぐ俺にも、その理由が分かった。
「……あぁ!そうか。ファーストって、戦争の最期にセカンドに裏切られて……」
そういうことだ、とアドリアがうなずく。そうだった、彼の死因は、味方の裏切り……二の国が召喚した、最悪の勇者。セカンドによって、その背中を突かれたのだ。クラークは苦虫を噛み潰した顔で言う。
「そうだ……あの醜悪な裏切りの記憶は、アルアに暗い影を落としたに違いない。ようやくわかったよ、アドリア。彼女が我を失うのも当然だ。彼女にとっては、正当な復讐だったわけだね」
「お、おい。襲われたのは俺たちだぞ。正当であってたまるかよ!」
「ふん、どうだか。同じ国が召喚した勇者なら、似たようなものなんじゃないのかい?」
「ああ……?それなら、おたくは最期には、俺に倒されることになるけどな?」
「なんだって……!」
んんっ!と、アドリアが咳払い。くそ、なんでこうなるかな。やっぱりクラークとは馬が合わないな。
「……」
「……」
俺たちは再び黙り込んでしまった。場の空気は最悪だ。賑やかなパーティー会場で、ここだけ葬式みたいになっている。
「あっ……あ、ぁあぁ、あのう」
その空気に耐え切れなくなったのか、震える小声で、ミカエルが話し出した。
「その……あ、アドリアさんは、どうして知ってたんですか?アルアさんのことを……」
「私か?私の家は、代々傭兵稼業をやっていてな。戦場の話題なら耳にする機会が多かったんだ。あの少女は、歳の割には腕が立つ方だから」
「そ、そうだったんですか……」
会話はそこで終わってしまった。沈黙を埋めようと、ミカエルはあせあせと話題を探している。だけど、額に汗するほど必死にならなくても……見ちゃいられないな。助け舟を出そう。
「なあ、アドリアさん?あんたは、戦争の歴史についても詳しいのか?」
「なに?それと、さんはいらない。敬意を払うには今更過ぎるだろう」
「そりゃそうか。で、どうなんだ?」
「ふむ。まあ人並みか、それより少しは詳しいと言えるだろう 」
「じゃあさ、そのファーストのことについて、聞かせてくれないか?すっごく強い勇者だったってことは知ってるけど、実はそこまで詳しい事は知らないんだ。俺たち」
ロアから聞いたのは、ファーストという勇者がいたという事だけだ。詳細については何にも知らない。今まではそれでよかったけど、さすがに状況が込み入ってきたからな……
「こっちの国に来てる以上、その辺も知っとかないと、何かと面倒事が起きそうだからさ」
「なるほどな。確かに、ライカニール人にとって、ファーストは欠かすことのできない英雄だ。あまり無粋なことを口にすれば、アルアでなくとも黙っていないだろう」
うなずく。ここに来る途中に立ち寄った村にも、ファーストの像が置かれていた。ファーストは、国民的なヒーローなんだ。
「では、ご清聴願おうかな。これは、実際に戦闘に参加していた、私の父が語ってくれた話だ。今から十六年ほど前、大戦も終局に差し掛かったころのことだが……」
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