じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
13-3
13-3
「桜下殿、ライラ嬢。こちらに!」
エラゼムは壁際へと駆け寄ると、俺たちを背後に隠した。なるほど、背後が壁なら、正面だけに注意を向けられる。ホントは角っこあたりに行ければよかったんだけど、あいにくとこの部屋は円形だ。
「くれぐれも、吾輩の後ろから指一本でも出ないよう、お願いいたします!」
「わかった!エラゼム、頼む!」
エラゼムはうなずくと、正面を向いて、大剣を構えた。対するロウランは、余裕たっぷりにくすくす笑う。
「あれぇ?もう鬼ごっこは終わりなの?それとも、観念した?」
「それは、できぬ相談だな。吾輩を諦めさせたくば、この膝を力づくで折ってみるがよい!」
エラゼムがかっこいい啖呵を切る。ロウランは目をぱちくりした。
「きゃはは。面白い人なの。でも、口ばっかりだったらカッコ悪いなぁ。体現して見せて……ほしいの!」
ロウランの周りに、あのパチンコ玉がふわりと浮かぶ。
ズガガガガ!銀色の弾丸が雨つぶてのように飛んできて、エラゼムが構えた大剣にぶつかった。エラゼムはただ剣を突き出すだけでなく、微妙に手首の角度を変えて、巧妙に銀玉を弾いていた。おかげで、後ろにいる俺とライラにはかすりもしない。だが、頭が割れそうなほどの衝突音は、俺の心を激しくぐらつかせた。このままじゃ防戦一方だ……そうだ、あっちの大蛇の方は?
「……ああぁぁぁー!あったまきた!」
バコン!がれきの山を突き破って、アルルカが飛び出してきた。よかった、無事らしい。隣にはウィルも浮かんでいる。霊体である彼女には、物理のダメージは効かないはずだ。
「このクソ蛇!倍にして返してやるわ!あんた、あたしに合わせなさい!」
「へ?わ、私ですか?」
「そーよ!他に誰がいんの!あんた一人じゃ、まともな火力がでないでしょ。だったら手助けくらいしなさい」
「んなっ。くぅ……でも、事実だわ……」
「ほら、いくわよ!」
アルルカは返事も聞かずに、両手を突き出して詠唱を始めた。ウィルはスッキリしない顔だが、それでも後を追って呪文を唱え始める。
「グゴゴゴ!」
だが、大蛇は悠長な詠唱を許さない。大木のような尾が二人に迫る。あぶない!
「やあぁぁ!」
あ!小さな影が、大蛇の尾に向かって飛び出した。フランだ!フランは自ら飛び込むように尾に体当たりをして、二人から逸らすことに成功した。だが反動でフラン自身も吹っ飛ばされる。ドシャァ!
「よくやったわ、チビ娘!さぁ、いくわよ!」
フランのわずかな時間稼ぎによって、アルルカの詠唱が完了した。アルルカが叫ぶ。
「アントルメ・グラッセ!」
ザザー!パキパキバキバキ!地面がみるみる凍り付き、氷が広がっていく。まさか、大蛇を丸ごと氷漬けにする気か?……いや、違う。アルルカの狙いは、それじゃない。
氷はこれまでの戦闘で壊された壁や、床のがれきを飲み込んで、より大きな姿になっていく。ちょうど、ロウランがあの大蛇を呼び出した時みたいに。氷と岩の塊はやがて、生き物のような姿をとり始めた。前足、後ろ脚、頭、そして翼……各所にがれきを鎧のように纏っていく。これはまさか、いつかに見た……
「メイフライヘイズ!」
アルルカに一拍遅れて、ウィルの呪文が轟く。アルルカの氷とは対照的に、ウィルの手からはゆらめく熱波がふき出した。熱された空気は、ゆらゆらと歪み、そこにありもしない幻を紡ぎ出す。二人の前に、鏡写しのようにそっくりな、二匹の怪物が現れた。
「ギャオオオオオ!」
「グギャアアアア!」
すごい。二匹の、ガーゴイルだ!
「グゴゴゴゴ!」
大蛇は鎌首をもたげて、突如現れたガーゴイルに噛みつこうとした。だがそっちは、ウィルが呼び出した幻、蜃気楼だ。空を噛んだ大蛇に、もう一体の氷のガーゴイルが襲い掛かる。ガーゴイルが首元に噛みつくと、大蛇はぐらりと倒れた。ズズーン!
もう、何て言うか、怪獣映画を見ている気分だ……
「すごい……!ライラも、負けてられないよ!」
ライラが再度、呪文の詠唱に入る。妨害はエラゼムが防いでくれている。今度は邪魔されることなく、ライラは呪文を唱え切った。
「ラストアルガ!」
シュウウウ!ライラの手から、真っ白な霧が放たれた。霧はエラゼムの両脇をぐるっと迂回すると、激しく撃ち付けてくる弾丸に覆いかぶさった。すると……ぐずぐず、ボロッ。弾丸は瞬く間に茶色の錆で覆われ、崩れ落ちてしまった。
「わあ、驚いたの。腐食魔法が使えるんだ」
さすがのロウランも、これには驚いたらしく、目を丸くしている。ハッ、どうだ!
「じゃあ、次はこっちでいくの♪」
シュルシュルシュル……弾丸の残骸の向こうから、無数の包帯が、蛇のようにくねって来た。ああ、くそ。そういや、これもあったっけ……!
「ライラ嬢!こやつは、吾輩が近寄らせませぬ!貴女は魔法を!」
「う、うん!」
エラゼムが大剣を振り回し、群がってくる包帯を切り払う。こっちの包帯は、あの大蛇のと違ってそこまで堅くはないみたいだ。だが、いかんせん数が多い。二、三本にでも絡みつかれたら、あっという間に全身を覆われて、ミイラにされてしまうだろう。
ズガーン!向こうでは、ガーゴイルと大蛇が死闘を繰り広げている。だが、戦況は大蛇が押しているようだ。ガーゴイルは二体だが、うちの一体はただの幻、実体のない蜃気楼だ。初めの方こそ惑わされていた大蛇だが、次第にカラクリに気付いたのか、本物の方ばかりを執拗に狙い始めた。猛攻に晒され、ガーゴイルの氷の体が徐々に削り取られていく。バキ、バキキッ!
するとその時、ガーゴイルの影から何かが飛び出した。フランだ!フランは大蛇とガーゴイルの間を潜り抜けて、こちらに猛然と走ってくる。いや、ただこっちに駆け寄ってきているんじゃない。あいつの狙いは……ロウラン、本人だ!
「いつまでも、好きにさせない!」
フランは高くジャンプすると、落下の勢いを乗せた鉤爪を、ロウランの腰かける棺に打ち下ろした。ガギィーン!
「っ」
「ざーんねん。このハコ、とっても堅いんだ♪」
フランの鉤爪は、見えないバリアにでもぶち当たったかのように弾き飛ばされた。そうか、あの棺はただの棺桶じゃなくて、本体を守る強固な盾でもあるんだ!
「ほら、お返しするの♪」
ロウランが踵で棺を蹴ると、床を割って、地面から無数の鉄の拳が突き出してきた。くそ、あんなのまであるのか!?フランは吹っ飛ばされてしまった。
「ジラソーレ!」
うおっと。こっちでは、ライラが大声で呪文を叫んだ。彼女が頭上に掲げた手の先には、巨大な火の玉が浮かんでいる。ライラはえいやと、それをロウランに向けて投げつけた。
「よし、いけ!」
「わあ、おっきな火の玉。でもやっぱり、これもお返し♪」
ロウランは余裕たっぷりに微笑むと、素早く両手を合わせた。え?まさか、あいつも魔法を?
「メンタップリフレクト!」
ロウランが唱えると、彼女の前に巨大な鏡が現れた。いや、金属の盆と言ったほうが正しいのだろうか。とにかくそれに、ライラの放った火の玉がぶつかると、あろうことか火の玉は、跳ね返って俺たちの方へと飛んできた!
「えぇ!?や、やばいぞ!」
「ぬおお!」
エラゼムが火の玉を受け止める。ズガガーン!ものすごい熱波が俺たちを襲う。直撃は免れたが、危うく吹っ飛びそうになった。まさか、ライラの高火力があだになるなんて……
「こほ、こほ。そんな……ライラのまほーが……」
ライラは煙にむせこみながら、茫然としている。くそ、悔しいがやはり、ロウランは相当な強敵だ。無数の包帯による数の暴力、ライラの火球すら跳ね返す未知の魔法、そして本体を守る、堅牢な棺……
(どうすりゃ、いいんだ……)
俺は疲労で朦朧とする頭を、必死に回転させた。考えろ。こんな時に、へばっている場合じゃない。何とかして、どうにかして、突破口を切り開かなくちゃ。
ロウランは……おそらく、アンデッドだ。俺の能力を使えば、さしものアイツでも従えることはできる、気はする。しかし、俺の能力・ディストーションハンドは、右手で直接触れなければ発動しない。オーバードライブならば触れずに済むが、あれは効力が弱い。ロウランレベルの相手に通用するのか……ソウルカノンも怪しい所だ。あれは、アンデッド以外には、そよ風程度の威力しか発揮しない。あの棺を貫通できるかどうかは、やってみなければわからないだろう。しかもあれは、反動も大きい。今の体力で撃つことができるのは、よくて一発程度か……
(くそ!何か、策はないのか!)
肝心な時に役に立たなくて、何が勇者の能力だ!こんな時だからこそ、俺の力が必要なのに……!
(……いや。待てよ。そういえば、一つだけ……)
俺はハッとして、自分の腰元を見つめた。こいつなら、もしかしたら。もちろん、未知数な部分は多々あるが……
「ライラ!耳、貸してくれ」
俺はライラの肩をつかむと、ぐっと引き寄せる。
「な、なに?桜下……」
「ライラ、お前はロウラン本体じゃなくて、あっちの蛇を狙ってくれないか」
「蛇?おねーちゃんたちが戦ってる?」
「そうだ。ロウラン自体には、悔しいけど、こちらの攻撃は届かなそうだ。だから、あっちを何とかしてほしい」
「いいけど……たぶんあの蛇も、召喚系の魔術で作り出してるんだと思うよ。術者本人を倒さないと、また呼び出されるかも……」
「そうなのか。でも、それについても考えがある。そのためにも、邪魔者を減らしたいんだ」
ライラははっとすると、俺をまじまじと見つめた。
「桜下、何か思いついたんだね」
「まあ、な。うまく行くか分からないけど……力を貸してほしい」
「うん!わかった!」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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エラゼムは壁際へと駆け寄ると、俺たちを背後に隠した。なるほど、背後が壁なら、正面だけに注意を向けられる。ホントは角っこあたりに行ければよかったんだけど、あいにくとこの部屋は円形だ。
「くれぐれも、吾輩の後ろから指一本でも出ないよう、お願いいたします!」
「わかった!エラゼム、頼む!」
エラゼムはうなずくと、正面を向いて、大剣を構えた。対するロウランは、余裕たっぷりにくすくす笑う。
「あれぇ?もう鬼ごっこは終わりなの?それとも、観念した?」
「それは、できぬ相談だな。吾輩を諦めさせたくば、この膝を力づくで折ってみるがよい!」
エラゼムがかっこいい啖呵を切る。ロウランは目をぱちくりした。
「きゃはは。面白い人なの。でも、口ばっかりだったらカッコ悪いなぁ。体現して見せて……ほしいの!」
ロウランの周りに、あのパチンコ玉がふわりと浮かぶ。
ズガガガガ!銀色の弾丸が雨つぶてのように飛んできて、エラゼムが構えた大剣にぶつかった。エラゼムはただ剣を突き出すだけでなく、微妙に手首の角度を変えて、巧妙に銀玉を弾いていた。おかげで、後ろにいる俺とライラにはかすりもしない。だが、頭が割れそうなほどの衝突音は、俺の心を激しくぐらつかせた。このままじゃ防戦一方だ……そうだ、あっちの大蛇の方は?
「……ああぁぁぁー!あったまきた!」
バコン!がれきの山を突き破って、アルルカが飛び出してきた。よかった、無事らしい。隣にはウィルも浮かんでいる。霊体である彼女には、物理のダメージは効かないはずだ。
「このクソ蛇!倍にして返してやるわ!あんた、あたしに合わせなさい!」
「へ?わ、私ですか?」
「そーよ!他に誰がいんの!あんた一人じゃ、まともな火力がでないでしょ。だったら手助けくらいしなさい」
「んなっ。くぅ……でも、事実だわ……」
「ほら、いくわよ!」
アルルカは返事も聞かずに、両手を突き出して詠唱を始めた。ウィルはスッキリしない顔だが、それでも後を追って呪文を唱え始める。
「グゴゴゴ!」
だが、大蛇は悠長な詠唱を許さない。大木のような尾が二人に迫る。あぶない!
「やあぁぁ!」
あ!小さな影が、大蛇の尾に向かって飛び出した。フランだ!フランは自ら飛び込むように尾に体当たりをして、二人から逸らすことに成功した。だが反動でフラン自身も吹っ飛ばされる。ドシャァ!
「よくやったわ、チビ娘!さぁ、いくわよ!」
フランのわずかな時間稼ぎによって、アルルカの詠唱が完了した。アルルカが叫ぶ。
「アントルメ・グラッセ!」
ザザー!パキパキバキバキ!地面がみるみる凍り付き、氷が広がっていく。まさか、大蛇を丸ごと氷漬けにする気か?……いや、違う。アルルカの狙いは、それじゃない。
氷はこれまでの戦闘で壊された壁や、床のがれきを飲み込んで、より大きな姿になっていく。ちょうど、ロウランがあの大蛇を呼び出した時みたいに。氷と岩の塊はやがて、生き物のような姿をとり始めた。前足、後ろ脚、頭、そして翼……各所にがれきを鎧のように纏っていく。これはまさか、いつかに見た……
「メイフライヘイズ!」
アルルカに一拍遅れて、ウィルの呪文が轟く。アルルカの氷とは対照的に、ウィルの手からはゆらめく熱波がふき出した。熱された空気は、ゆらゆらと歪み、そこにありもしない幻を紡ぎ出す。二人の前に、鏡写しのようにそっくりな、二匹の怪物が現れた。
「ギャオオオオオ!」
「グギャアアアア!」
すごい。二匹の、ガーゴイルだ!
「グゴゴゴゴ!」
大蛇は鎌首をもたげて、突如現れたガーゴイルに噛みつこうとした。だがそっちは、ウィルが呼び出した幻、蜃気楼だ。空を噛んだ大蛇に、もう一体の氷のガーゴイルが襲い掛かる。ガーゴイルが首元に噛みつくと、大蛇はぐらりと倒れた。ズズーン!
もう、何て言うか、怪獣映画を見ている気分だ……
「すごい……!ライラも、負けてられないよ!」
ライラが再度、呪文の詠唱に入る。妨害はエラゼムが防いでくれている。今度は邪魔されることなく、ライラは呪文を唱え切った。
「ラストアルガ!」
シュウウウ!ライラの手から、真っ白な霧が放たれた。霧はエラゼムの両脇をぐるっと迂回すると、激しく撃ち付けてくる弾丸に覆いかぶさった。すると……ぐずぐず、ボロッ。弾丸は瞬く間に茶色の錆で覆われ、崩れ落ちてしまった。
「わあ、驚いたの。腐食魔法が使えるんだ」
さすがのロウランも、これには驚いたらしく、目を丸くしている。ハッ、どうだ!
「じゃあ、次はこっちでいくの♪」
シュルシュルシュル……弾丸の残骸の向こうから、無数の包帯が、蛇のようにくねって来た。ああ、くそ。そういや、これもあったっけ……!
「ライラ嬢!こやつは、吾輩が近寄らせませぬ!貴女は魔法を!」
「う、うん!」
エラゼムが大剣を振り回し、群がってくる包帯を切り払う。こっちの包帯は、あの大蛇のと違ってそこまで堅くはないみたいだ。だが、いかんせん数が多い。二、三本にでも絡みつかれたら、あっという間に全身を覆われて、ミイラにされてしまうだろう。
ズガーン!向こうでは、ガーゴイルと大蛇が死闘を繰り広げている。だが、戦況は大蛇が押しているようだ。ガーゴイルは二体だが、うちの一体はただの幻、実体のない蜃気楼だ。初めの方こそ惑わされていた大蛇だが、次第にカラクリに気付いたのか、本物の方ばかりを執拗に狙い始めた。猛攻に晒され、ガーゴイルの氷の体が徐々に削り取られていく。バキ、バキキッ!
するとその時、ガーゴイルの影から何かが飛び出した。フランだ!フランは大蛇とガーゴイルの間を潜り抜けて、こちらに猛然と走ってくる。いや、ただこっちに駆け寄ってきているんじゃない。あいつの狙いは……ロウラン、本人だ!
「いつまでも、好きにさせない!」
フランは高くジャンプすると、落下の勢いを乗せた鉤爪を、ロウランの腰かける棺に打ち下ろした。ガギィーン!
「っ」
「ざーんねん。このハコ、とっても堅いんだ♪」
フランの鉤爪は、見えないバリアにでもぶち当たったかのように弾き飛ばされた。そうか、あの棺はただの棺桶じゃなくて、本体を守る強固な盾でもあるんだ!
「ほら、お返しするの♪」
ロウランが踵で棺を蹴ると、床を割って、地面から無数の鉄の拳が突き出してきた。くそ、あんなのまであるのか!?フランは吹っ飛ばされてしまった。
「ジラソーレ!」
うおっと。こっちでは、ライラが大声で呪文を叫んだ。彼女が頭上に掲げた手の先には、巨大な火の玉が浮かんでいる。ライラはえいやと、それをロウランに向けて投げつけた。
「よし、いけ!」
「わあ、おっきな火の玉。でもやっぱり、これもお返し♪」
ロウランは余裕たっぷりに微笑むと、素早く両手を合わせた。え?まさか、あいつも魔法を?
「メンタップリフレクト!」
ロウランが唱えると、彼女の前に巨大な鏡が現れた。いや、金属の盆と言ったほうが正しいのだろうか。とにかくそれに、ライラの放った火の玉がぶつかると、あろうことか火の玉は、跳ね返って俺たちの方へと飛んできた!
「えぇ!?や、やばいぞ!」
「ぬおお!」
エラゼムが火の玉を受け止める。ズガガーン!ものすごい熱波が俺たちを襲う。直撃は免れたが、危うく吹っ飛びそうになった。まさか、ライラの高火力があだになるなんて……
「こほ、こほ。そんな……ライラのまほーが……」
ライラは煙にむせこみながら、茫然としている。くそ、悔しいがやはり、ロウランは相当な強敵だ。無数の包帯による数の暴力、ライラの火球すら跳ね返す未知の魔法、そして本体を守る、堅牢な棺……
(どうすりゃ、いいんだ……)
俺は疲労で朦朧とする頭を、必死に回転させた。考えろ。こんな時に、へばっている場合じゃない。何とかして、どうにかして、突破口を切り開かなくちゃ。
ロウランは……おそらく、アンデッドだ。俺の能力を使えば、さしものアイツでも従えることはできる、気はする。しかし、俺の能力・ディストーションハンドは、右手で直接触れなければ発動しない。オーバードライブならば触れずに済むが、あれは効力が弱い。ロウランレベルの相手に通用するのか……ソウルカノンも怪しい所だ。あれは、アンデッド以外には、そよ風程度の威力しか発揮しない。あの棺を貫通できるかどうかは、やってみなければわからないだろう。しかもあれは、反動も大きい。今の体力で撃つことができるのは、よくて一発程度か……
(くそ!何か、策はないのか!)
肝心な時に役に立たなくて、何が勇者の能力だ!こんな時だからこそ、俺の力が必要なのに……!
(……いや。待てよ。そういえば、一つだけ……)
俺はハッとして、自分の腰元を見つめた。こいつなら、もしかしたら。もちろん、未知数な部分は多々あるが……
「ライラ!耳、貸してくれ」
俺はライラの肩をつかむと、ぐっと引き寄せる。
「な、なに?桜下……」
「ライラ、お前はロウラン本体じゃなくて、あっちの蛇を狙ってくれないか」
「蛇?おねーちゃんたちが戦ってる?」
「そうだ。ロウラン自体には、悔しいけど、こちらの攻撃は届かなそうだ。だから、あっちを何とかしてほしい」
「いいけど……たぶんあの蛇も、召喚系の魔術で作り出してるんだと思うよ。術者本人を倒さないと、また呼び出されるかも……」
「そうなのか。でも、それについても考えがある。そのためにも、邪魔者を減らしたいんだ」
ライラははっとすると、俺をまじまじと見つめた。
「桜下、何か思いついたんだね」
「まあ、な。うまく行くか分からないけど……力を貸してほしい」
「うん!わかった!」
つづく
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