じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

13-2

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全部消す。俺の仲間を。
ロウランは確かにそう言って、笑った。

「っ。ま、待ってくれ!そんなことしたら、俺は一生お前を許さないぞ!」

「そうなの?でも、そうでもしないと邪魔なんだもの。アタシだって、旦那様の前で手荒な真似はしたくないの。だから出口まで案内してあげたのに」

「だったら、静かに送り出してくれ……俺も含めて、だけど」

「それは、ダメなの♪」

「……」

これは……俺の頭に、四文字の言葉が浮かぶ。交と、渉と、決と、裂だ。

「こいつ、いかれてる。何言っても無駄だよ」

フランが俺の耳元でささやく。俺はごくりとつばをのむと、声を潜めてささやき返す。

「どうする気だ?」

「こいつをぶっ飛ばして、外に出る」

「……」

原始的な方法だ……が、時には平和的解決が望めない時もある。こんな時が、そうだ。

(……やるしかない、か)

俺は、ほんのわずかにうなずいた。それを確認すると、フランは即座に地面を蹴って、ロウランへと鉤爪を振りかぶった。
ガキィン!

「……ふぅーん。ひょっとして、やる気なの?」

フランの爪は、床に突き刺さった。ロウランの体をすり抜けたのだ。

「そうか、霊体……!」

そうだ、本当の体は棺の中だって言っていたっけ。ロウランの姿は目の前からかき消え、気が付いたら棺の上に腰かけていた。

「まあ、そっちがお望みなら相手してあげてもいいの。けど、ここはアタシの庭だよ?この中でなら……」

ゴトン!大きな音がしたかと思うと、出口の扉が閉まってしまった。そして、ズズズズ!
地鳴りとともに、部屋全体が揺れる。床の一部がめくり上がり、群青色のタイルがはがれて、ゆっくりと浮かび上がってくる。そこに、どこからともなく現れた大量の包帯が、シュルシュルと絡みついていく。よく見ると、包帯は棺の中から伸びていた。
包帯は複雑に絡み合い、ぐるぐると渦を巻き、太い一本の綱のようになってきた。そして先端部分には、タイルを使った牙が形成され、やがて恐ろし気なあぎとが……

(これは、まさか……)

大蛇、だ。

「アタシ、結構強いの……♪」

「グ、ググ……グゴゴゴゴ!」

包帯の大蛇は、俺たちを威嚇するように、鎌首をもたげた。くうぅ、布でできているとは思えない迫力だ!

「くっそ!いいじゃないか、やってや……うぉっ」

がくん!急に足から力が抜けて、俺はぐらりとよろめいた。

「桜下殿!」

「わ、悪いエラゼム。足が……」

俺はその時、足だけでなく、目の前もかすんでいることに気付いた。指先がしびれているみたいに、感覚がない。

(あ。まずいな、これ)

いよいよ、体力の限界がきているのかも……なんだって、こんな大事な時に!

「桜下殿、無理をなされますな。あれほど立て続けに事件が起きたのです、常人であればとっくに昏倒しております」

「でも……あいつは、アンデッドなんだ。俺が寝てちゃ……」

「なりません。桜下殿は、とどめの切り札。貴殿の能力は、至近距離に近づかなければならない。今の状態では、それもままならないでしょう」

「う……」

「ここは、吾輩たちにお任せください。必ずや、あの姫君の動きを止めて御覧にいれましょう」

そう言われちゃ、何も言えないな。確かにこのざまじゃ、前に出ても足手まといだ。

「……わかった。頼む」

「承知いたしました」

エラゼムは大剣を広げると、フランの横に並び立った。

「フラン嬢。行けそうですかな」

「……わからない。殴って確かめるよ」

「ふふ、吾輩の見立てと同じですな。攻めは任せてよろしいか?」

「うん。あの人と、ライラをお願い」

「任されました。では、始めましょう!」

短いやり取りを済ませると、エラゼムは剣を構えて仁王立ちし、フランがダダッと駆け出す。その後ろを、ウィルがふわりと追った。

「フランさん、できる限りサポートします!ほら、アルルカさんもですよ!」

「えぇ~?わぁーったわよ、しゃーないわね」

ばさりと翼を広げて、アルルカも宙に浮かぶ。
俺とライラは、エラゼムの後ろに守られながら、大蛇の様子をうかがっていた。

「ライラ、ここじゃ遠慮はいらないぞ。思い切りぶちかませ!」

「わかってる!」

ここでなら、他の人間を巻き込む心配もない。まだ洞窟の中なのは変わりないけど、あれほどの大蛇を作り出しても平気なんだ。多少のことでは崩れないだろう。

「ゴゴゴゴゴ!」

包帯の大蛇は、突っ込んでくるフランに対して、大口を開けて迎え撃った。大蛇がフランに食らいつく寸前、フランは高々と跳躍した。大蛇の牙が空を噛む。フランは跳んだ勢いのまま、大蛇の上あごを思い切り殴りつけた。
ズズン!大蛇が床に沈む。

「いいぞ!これは効いて……」

シュシュシュ!うわっ。フランが殴った箇所から、大量の包帯があふれ出してきた。包帯は一瞬でフランを飲み込み、絡め捕る。

「放しなさい!ファイアフライ!」

ウィルが両手を突き出し、呪文を唱えた。現れた無数の蛍光色の火の玉は、フランに群がる包帯に向かって飛んでいく。布なら、燃やせばいいはずだが……

「っ!?燃えない!?」

ファイアフライが当たっても、包帯には焦げ目一つ付かなかった。これ、あれだ!俺をここに引きずり込んだ時と同じ、異様な耐久性の包帯……!

「メギバレット!」

ダァーン!アルルカが氷の弾丸を放つも、やはり包帯は破けなかった。フランの怪力でも裂けなかったくらいだ。ちょっとやそっとじゃ、ちぎれそうもない。
大蛇はのそりと頭を起こすと、ウィルたちに向けて、口をがぱっと開いた。するとその中から、まるで蛇の舌のように、包帯が何本も伸びてきた。とっさのことに、ウィルはよけきれず、アルルカは体をひねったが、足首を掴まれた。

「グゴゴゴ!」

大蛇は三人を捕えたまま、激しく首を振り始めた。包帯に絡みつかれたフラン、ウィル、アルルカの三人が、引っ張られてぶんぶんと宙を舞う。幽霊であるウィルまで逃げられないなんて!

「ゴウ!」

大蛇がぶんと首を振り下ろすと、三人は激しく床に叩きつけられた。ドシャッ、グシャ!ドガッ!

「フラン!ウィル!アルルカ!」

「よくもみんなを……!」

ライラが怒りの形相で呪文を唱え始める。

「くらえ!ジラ、そ……」

「っ!伏せてくだされ!」

な、なんだ?キィーン!
エラゼムの大剣に何かが弾かれ、俺たちの後ろの床がバキャッとえぐれる。驚いて、ライラは魔法を中断してしまった。見れば、ロウランが棺の上で、くすくすと笑っている。

「だめだめ。魔法は使わせてあげないの♪」

奴の周りには、ふわふわと銀色のパチンコ玉のようなものが、いくつも浮かんでいる。あれが飛んできていたのか……?さらにその後ろから、大蛇とは別の包帯も、シュルシュルと這い寄ってきている。

「くっ……お二方、失礼!」

うおっ。エラゼムが片手に剣、もう片方の手にライラと俺を抱え上げて、走り始めた。

「あーん。逃げちゃだめなのー♪」

ズガガガッ!後ろからパチンコ玉がすっ飛んできて、床に当たるのが聞こえる。エラゼムは俺たちを鎧の陰に隠して、自らの背中を盾にした。ガイン、ガキン!

「く、くそ!これじゃ、魔法が……あでっ」

激しく揺れるこの状態じゃ、とても詠唱なんて無理だ。だが足を止めれば、あの玉と包帯に捕まって、ハチの巣にされてしまう。

「くふふふ。鬼さん、まてまてー♪」

ロウランは余裕たっぷりに、棺の上で足を組んでいる。まさか、これほどとは……俺は心のどこかで、あいつを舐めていたのかもしれない。この仲間たちと一緒なら、どんな相手にだって勝てるはずだ、と。今までも、多くの強敵を打ち破って来たのだから、と。だが、そんな慢心は、今すぐ捨てるべきだ。

(こいつ……強いぞ)

俺の頬を、冷や汗が伝った。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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