じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
13-1 地底の姫君
13-1 地底の姫君
そいつは、異様な風体をしていた。
全身をくるくると巻く包帯。ダボダボな巻き方で、まるでリボンのように見える。素肌に直に巻いていて、それ以外に服は着ていない。
髪は明るい白色。いや、うっすらとだが、ピンク色掛かっている。桃の花びらのような色だ。それを包帯で縛って、大きなツインテールにしている。
そしてなにより、やつの体。服を着ていないせいで露出の多い肌には、無数のつぎはぎの跡があった。まるで、複数の人間から、パーツを寄せ集めてきたみたいな……ま、まさかな。俺は不気味な妄想を振り払うと、慎重に声を掛けた。
「……あんたが、ここのお姫さまか?」
そいつは口元の笑みを深くすると、楽し気にうなずく。まだ少しあどけなさの残る顔は、なるほど。ミイラたちに聞いていたとおり、確かに美人だ。
「そうなの。アタシは、ロウラン。ロウラン・ザ・アンダーメイデン。あなたのお嫁さんだよ♪」
い、いきなりぶっかましてくるな……アンダーメイデン?地底の乙女、か。本名だろうか?いや、そんなことどうでもいいか。
「あえーっと。どこから話せばいいかな……とりあえず、一つ確かめたいんだけど。あんたが、俺をここに呼んだんだよな?」
「そうなの。あなたなら、きっと辿り着けると信じてたから。きゃはっ、これが愛の力なの♪」
「いや、愛というかだな……だいたい、愛にしちゃ、ちょっと荒っぽすぎやしないか。下手したら死んでたぞ?」
「それはごめんなさぁい。ああでもしないと、アタシのことに気付いてくれないと思ったから。でも、ケガさせないように頑張ったんだよ?」
「それは、確かにそうだけど」
「でしょ?それに、旦那様はこうして、アタシを迎えに来てくれた。やっぱり最初から、二人は運命の糸で結ばれてたのー♪」
「いや、そうじゃなくて……」
にこにこと笑うロウラン。悪い奴じゃなさそうだけど、なんか話が噛み合っているようで、噛み合っていないような。まごつく俺を見かねてか、フランがイライラした様子で、一歩前に踏み出した。
「ちょっと!黙って聞いてれば。勝手に話を進めないで!わたしたちは、ここを出てくから!」
あ、またそんなきつい言い方を。俺はお姫さまが怒るんじゃないかとひやひやしたが、幸いロウランは、きょとんと眼をしばたいていた。
「そうなの。なら、出口はあっちだよ」
あれ?拍子抜けするほどあっさり、ロウランは出口を教えてくれた。ロウランが指さした先には、確かに小さな扉がある。
「あの扉をくぐれば、地上に出られるの」
「あ、そ、そう」
フランもたじろいでいる。案外、この姫さまは話ができるのかもしれないぞ。調子に乗った俺は、追加で口を挟む。
「あ、後さ。実はこの下で、あんたの家来……いや、副葬品か。そう名乗ってた人たちに会ったんだ。その人たち、あんたがいつまでも成仏しないから、自分たちも自由になれないって嘆いてたんだけど……どうかな。成仏する気になれそうか?」
「ああ、あの人たちのこと」
ロウランはぽんと手を打つと、眉をㇵの字にした。
「確かに、かわいそうだと思ってたの。なかなか解放してあげられなくて……けど、もう大丈夫なの。たぶん二、三日もすれば、アタシも満足できると思うから」
「おお、ほんとか!なんだ、それならよかった」
なんだよ、話してみるもんだな。こんなにとんとん拍子で進むなんて。ロウランも、単に人恋しかっただけなのかもしれない。俺たちと会ったことで、未練が吹っ切れたのかな?
「えぇっと。それなら、ぼつぼつお暇しようかと思うんだけど……」
「じゃあ、お見送りするの」
ロウランはそう言うと、ふわりと棺の上から浮かび上がった……え?浮かび上がった?
「驚いた?アタシのこの姿は、霊体の幻なの。本物のアタシは、この中に眠ってるんだよ」
ロウランは棺をぽんぽんと撫でる。ああ、やっぱり。あれは棺で間違いなさそうだ。
ロウランに先導されて、俺たちは出口の扉へと向かう。扉の前まで来ると、ロウランはふわりとこちらに振り返った。
「それじゃあ、ここでお別れなの。上までは結構あると思うけど、係の人が案内してくれると思うから、心配しないでね」
「係の人……?あ、いやなんでもない。わかったよ」
たぶん、ロウランが生きていた当時は、そういう役割の人がいたんだろう。外はとっくの昔に廃墟になっているが、そんなことわざわざ言わなくてもいいもんな。
フランは、そんなロウランの様子を注意深く見つめながら、ゆっくりと扉を押し開ける。ずずず……重そうな音を立てながら、扉が開いた。うん、罠はなさそうだぞ。少なくとも、開けてすぐ落とし穴でした、ということはない。ロウランは嘘を言っていないみたいだ。
フランが用心深く戸口をくぐったので、俺も続こうと、足を動かそうとしたが……
ピンッ。俺の足は、何かに引っ張られているみたいに、動かなかった。足元を見ると、白い包帯が、俺の両足に絡みついているじゃないか。
「な、これは……!」
「旦那様は、行っちゃダメなの。出ていくのは、部外者だけ」
っ!俺はロウランを見た。ロウランは、相変わらずにこにこと笑っている。だが俺には、もうその表情が笑顔には見えなかった。
「ど、どういうつもりだ。帰してくれるんじゃなかったのか?」
「アタシは、最初から部外者さんに話してたんだよ?旦那様が行っていいなんて、一言も言ってないの」
ぐっ……フランが一瞬で身をひるがえして、俺とロウランの間に立ちふさがる。
「どういうつもり!この人を放せ!」
「どうして?旦那様は、ア・タ・シに会いに来てくれたの。アタシを愛するために。ここからは、夫婦水入らずの時間だよ?部外者は必要ないの」
「ふざけるな!誰が、夫婦なんて認めるか!」
おお、フランが父親みたいな事を言っている。息子は婿にやらん!(?)みたいな……いや、そんなくだらないこと考えている場合じゃない。
「ロウラン、聞いてくれ。俺は、見ての通りまだ未成年だ。誰かと夫婦になるとか、それこそ子どもを作るだなんて、到底考えられないんだよ」
「それなら、心配ないの。生まれた子どもは、係の人たちが一生世話を見てくれるから。もちろん、旦那様のこともだよ?先のことなんてなーんにも考えずに、アタシを愛してくれればいいの♪」
ダメだ、聞きゃしない。くう、致し方ないか。ロウランには酷かもしれないが、きちんと現実を知ってもらうしかなさそうだ。
「ロウラン!この際、はっきり言っておくぞ。あんたは知らないかもしれないけど、外ではもう何百年もの月日が経っているんだ。外の遺跡は廃墟になってて、係の人ってのもとっくにいないんだよ!」
「え……?」
ロウランの目が丸く開かれる。
「だからこの儀式を続ける必要も、もうないんだ。あんたはとっくに自由なんだよ。しきたりだかなんだかで、好きでもない男と夫婦になる必要はないんだ」
「……」
ぽかんと口を開けるロウラン。やっぱり、ショックだっただろうか……?
「……そうなの」
ロウランは少し肩を落として、そう一言つぶやいた。次の瞬間。
「でも、それならそれでいいの!」
「え?」
「大事なのは、アタシと、旦那様がここで出会ったってことなの。外のことなんてどうでもいいよ。そこに愛があれば、どんな障害だってへっちゃらなの!」
「いや、あの……話聞いてた?」
「もちろん!自信がないなら、旦那様は横になってるだけでいいの。天井の染みを数えてれば、あとはアタシがぜーんぶやってあげるから♪」
「いや、この部屋の天井に染みはないだろ……」
だ、ダメだ……全く話が通じていない。話せばわかるだなんて、とんだ勘違いじゃないか。
バツン!業を煮やしたフランが、鉤爪で俺の足を縛る包帯を切り落とした。お。この包帯は、そこまで堅くないらしいぞ。
「ふざけるな!お前なんかに、この人は渡さない!」
「……なにするの」
ロウランの声が、一オクターブほど低くなった。うわっ。部屋の温度が、一気に下がった気がする。
「さっきから、部外者がうるさいの。アタシは、旦那様と話をしてるんだよ?」
「お前こそ、誇大妄想もいい加減にしなよ。そんなに盛りたいなら、その辺のサルとでもしてればいい。この人を巻き込まないで!」
「あなた、なんなの?旦那様の情婦?そんなに捨てられるのが怖いの?」
「なっ……!わ、わたしは、つまり。この人の……!」
フランが赤くなって、しどろもどろになる。なんだか、流れがおかしな方向に向かいそうだな。そろそろ口を挟もうか。
「あー、ロウラン。実は俺、ネクロマンサーなんだ。で、こいつらは仲間であるアンデッド」
「ネクロマンサー!どうりで強い力を感じると思ったの!さすがアタシの旦那様♪」
「…………つまりな、俺はこいつらの魂を預かってるんだ。だから、あんただけに入れ込むわけにはいかないんだよ。申し訳ないけど、あんたと夫婦になって、ここで一生暮らすことはできない」
「え……」
俺はきっぱりと言い切った。こうでもしないと、コイツは分かってくれないだろう。フランはなぜか、どうだとばかりにふんぞり返っているが……
「……」
ロウランは大きな瞳を見開いて、俺の顔をじっと見つめている。うぅ……でも、ここで弱気になっちゃダメだ。こういう時は、毅然とした態度じゃなきゃいけないって、どこかで聞いた気がする。
「……分かったの」
やがて、ロウランはゆっくりと視線を落とし、うつむいた。
「分かって、くれたか……?」
「……うん。旦那様は、そいつらがいると、アタシを心置きなく愛せないんだね」
……ん?
「いや、そうじゃ……」
「それなら。そいつらをぜーんぶ消しちゃえば、旦那様はアタシだけのものなの……♪」
にぃー、と。唇の端を吊り上げて、ロウランは笑った。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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そいつは、異様な風体をしていた。
全身をくるくると巻く包帯。ダボダボな巻き方で、まるでリボンのように見える。素肌に直に巻いていて、それ以外に服は着ていない。
髪は明るい白色。いや、うっすらとだが、ピンク色掛かっている。桃の花びらのような色だ。それを包帯で縛って、大きなツインテールにしている。
そしてなにより、やつの体。服を着ていないせいで露出の多い肌には、無数のつぎはぎの跡があった。まるで、複数の人間から、パーツを寄せ集めてきたみたいな……ま、まさかな。俺は不気味な妄想を振り払うと、慎重に声を掛けた。
「……あんたが、ここのお姫さまか?」
そいつは口元の笑みを深くすると、楽し気にうなずく。まだ少しあどけなさの残る顔は、なるほど。ミイラたちに聞いていたとおり、確かに美人だ。
「そうなの。アタシは、ロウラン。ロウラン・ザ・アンダーメイデン。あなたのお嫁さんだよ♪」
い、いきなりぶっかましてくるな……アンダーメイデン?地底の乙女、か。本名だろうか?いや、そんなことどうでもいいか。
「あえーっと。どこから話せばいいかな……とりあえず、一つ確かめたいんだけど。あんたが、俺をここに呼んだんだよな?」
「そうなの。あなたなら、きっと辿り着けると信じてたから。きゃはっ、これが愛の力なの♪」
「いや、愛というかだな……だいたい、愛にしちゃ、ちょっと荒っぽすぎやしないか。下手したら死んでたぞ?」
「それはごめんなさぁい。ああでもしないと、アタシのことに気付いてくれないと思ったから。でも、ケガさせないように頑張ったんだよ?」
「それは、確かにそうだけど」
「でしょ?それに、旦那様はこうして、アタシを迎えに来てくれた。やっぱり最初から、二人は運命の糸で結ばれてたのー♪」
「いや、そうじゃなくて……」
にこにこと笑うロウラン。悪い奴じゃなさそうだけど、なんか話が噛み合っているようで、噛み合っていないような。まごつく俺を見かねてか、フランがイライラした様子で、一歩前に踏み出した。
「ちょっと!黙って聞いてれば。勝手に話を進めないで!わたしたちは、ここを出てくから!」
あ、またそんなきつい言い方を。俺はお姫さまが怒るんじゃないかとひやひやしたが、幸いロウランは、きょとんと眼をしばたいていた。
「そうなの。なら、出口はあっちだよ」
あれ?拍子抜けするほどあっさり、ロウランは出口を教えてくれた。ロウランが指さした先には、確かに小さな扉がある。
「あの扉をくぐれば、地上に出られるの」
「あ、そ、そう」
フランもたじろいでいる。案外、この姫さまは話ができるのかもしれないぞ。調子に乗った俺は、追加で口を挟む。
「あ、後さ。実はこの下で、あんたの家来……いや、副葬品か。そう名乗ってた人たちに会ったんだ。その人たち、あんたがいつまでも成仏しないから、自分たちも自由になれないって嘆いてたんだけど……どうかな。成仏する気になれそうか?」
「ああ、あの人たちのこと」
ロウランはぽんと手を打つと、眉をㇵの字にした。
「確かに、かわいそうだと思ってたの。なかなか解放してあげられなくて……けど、もう大丈夫なの。たぶん二、三日もすれば、アタシも満足できると思うから」
「おお、ほんとか!なんだ、それならよかった」
なんだよ、話してみるもんだな。こんなにとんとん拍子で進むなんて。ロウランも、単に人恋しかっただけなのかもしれない。俺たちと会ったことで、未練が吹っ切れたのかな?
「えぇっと。それなら、ぼつぼつお暇しようかと思うんだけど……」
「じゃあ、お見送りするの」
ロウランはそう言うと、ふわりと棺の上から浮かび上がった……え?浮かび上がった?
「驚いた?アタシのこの姿は、霊体の幻なの。本物のアタシは、この中に眠ってるんだよ」
ロウランは棺をぽんぽんと撫でる。ああ、やっぱり。あれは棺で間違いなさそうだ。
ロウランに先導されて、俺たちは出口の扉へと向かう。扉の前まで来ると、ロウランはふわりとこちらに振り返った。
「それじゃあ、ここでお別れなの。上までは結構あると思うけど、係の人が案内してくれると思うから、心配しないでね」
「係の人……?あ、いやなんでもない。わかったよ」
たぶん、ロウランが生きていた当時は、そういう役割の人がいたんだろう。外はとっくの昔に廃墟になっているが、そんなことわざわざ言わなくてもいいもんな。
フランは、そんなロウランの様子を注意深く見つめながら、ゆっくりと扉を押し開ける。ずずず……重そうな音を立てながら、扉が開いた。うん、罠はなさそうだぞ。少なくとも、開けてすぐ落とし穴でした、ということはない。ロウランは嘘を言っていないみたいだ。
フランが用心深く戸口をくぐったので、俺も続こうと、足を動かそうとしたが……
ピンッ。俺の足は、何かに引っ張られているみたいに、動かなかった。足元を見ると、白い包帯が、俺の両足に絡みついているじゃないか。
「な、これは……!」
「旦那様は、行っちゃダメなの。出ていくのは、部外者だけ」
っ!俺はロウランを見た。ロウランは、相変わらずにこにこと笑っている。だが俺には、もうその表情が笑顔には見えなかった。
「ど、どういうつもりだ。帰してくれるんじゃなかったのか?」
「アタシは、最初から部外者さんに話してたんだよ?旦那様が行っていいなんて、一言も言ってないの」
ぐっ……フランが一瞬で身をひるがえして、俺とロウランの間に立ちふさがる。
「どういうつもり!この人を放せ!」
「どうして?旦那様は、ア・タ・シに会いに来てくれたの。アタシを愛するために。ここからは、夫婦水入らずの時間だよ?部外者は必要ないの」
「ふざけるな!誰が、夫婦なんて認めるか!」
おお、フランが父親みたいな事を言っている。息子は婿にやらん!(?)みたいな……いや、そんなくだらないこと考えている場合じゃない。
「ロウラン、聞いてくれ。俺は、見ての通りまだ未成年だ。誰かと夫婦になるとか、それこそ子どもを作るだなんて、到底考えられないんだよ」
「それなら、心配ないの。生まれた子どもは、係の人たちが一生世話を見てくれるから。もちろん、旦那様のこともだよ?先のことなんてなーんにも考えずに、アタシを愛してくれればいいの♪」
ダメだ、聞きゃしない。くう、致し方ないか。ロウランには酷かもしれないが、きちんと現実を知ってもらうしかなさそうだ。
「ロウラン!この際、はっきり言っておくぞ。あんたは知らないかもしれないけど、外ではもう何百年もの月日が経っているんだ。外の遺跡は廃墟になってて、係の人ってのもとっくにいないんだよ!」
「え……?」
ロウランの目が丸く開かれる。
「だからこの儀式を続ける必要も、もうないんだ。あんたはとっくに自由なんだよ。しきたりだかなんだかで、好きでもない男と夫婦になる必要はないんだ」
「……」
ぽかんと口を開けるロウラン。やっぱり、ショックだっただろうか……?
「……そうなの」
ロウランは少し肩を落として、そう一言つぶやいた。次の瞬間。
「でも、それならそれでいいの!」
「え?」
「大事なのは、アタシと、旦那様がここで出会ったってことなの。外のことなんてどうでもいいよ。そこに愛があれば、どんな障害だってへっちゃらなの!」
「いや、あの……話聞いてた?」
「もちろん!自信がないなら、旦那様は横になってるだけでいいの。天井の染みを数えてれば、あとはアタシがぜーんぶやってあげるから♪」
「いや、この部屋の天井に染みはないだろ……」
だ、ダメだ……全く話が通じていない。話せばわかるだなんて、とんだ勘違いじゃないか。
バツン!業を煮やしたフランが、鉤爪で俺の足を縛る包帯を切り落とした。お。この包帯は、そこまで堅くないらしいぞ。
「ふざけるな!お前なんかに、この人は渡さない!」
「……なにするの」
ロウランの声が、一オクターブほど低くなった。うわっ。部屋の温度が、一気に下がった気がする。
「さっきから、部外者がうるさいの。アタシは、旦那様と話をしてるんだよ?」
「お前こそ、誇大妄想もいい加減にしなよ。そんなに盛りたいなら、その辺のサルとでもしてればいい。この人を巻き込まないで!」
「あなた、なんなの?旦那様の情婦?そんなに捨てられるのが怖いの?」
「なっ……!わ、わたしは、つまり。この人の……!」
フランが赤くなって、しどろもどろになる。なんだか、流れがおかしな方向に向かいそうだな。そろそろ口を挟もうか。
「あー、ロウラン。実は俺、ネクロマンサーなんだ。で、こいつらは仲間であるアンデッド」
「ネクロマンサー!どうりで強い力を感じると思ったの!さすがアタシの旦那様♪」
「…………つまりな、俺はこいつらの魂を預かってるんだ。だから、あんただけに入れ込むわけにはいかないんだよ。申し訳ないけど、あんたと夫婦になって、ここで一生暮らすことはできない」
「え……」
俺はきっぱりと言い切った。こうでもしないと、コイツは分かってくれないだろう。フランはなぜか、どうだとばかりにふんぞり返っているが……
「……」
ロウランは大きな瞳を見開いて、俺の顔をじっと見つめている。うぅ……でも、ここで弱気になっちゃダメだ。こういう時は、毅然とした態度じゃなきゃいけないって、どこかで聞いた気がする。
「……分かったの」
やがて、ロウランはゆっくりと視線を落とし、うつむいた。
「分かって、くれたか……?」
「……うん。旦那様は、そいつらがいると、アタシを心置きなく愛せないんだね」
……ん?
「いや、そうじゃ……」
「それなら。そいつらをぜーんぶ消しちゃえば、旦那様はアタシだけのものなの……♪」
にぃー、と。唇の端を吊り上げて、ロウランは笑った。
つづく
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