じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
8-1 死者の都
8-1 死者の都
「うわああああ!」
ガラガラガラ。比喩なしに足元が崩れ落ち、俺の体は重力に従って宙を舞う。心臓はバクバクして破裂寸前だ。くそったれ!俺はつくづく、落下と縁が切れないらしいな!
「~~~っ!」
こんな状況になっても、フランは俺の手を離さなかった。フランの銀髪が風でもみくちゃになっているのが見える。けどこのままじゃ、俺たち二人とも、いずれ床に叩きつけられておじゃんだ。フランは大丈夫かもしれないが、生身の人間の俺は……!
「くそぉ、こんなところで死ねるかぁ!」
「桜下さぁーんっ!」
おぉ!その時、頭の上の方(たぶん。落っこちているから、どちらが上か分からない……)から、ウィルの叫び声が聞こえてきた。かろうじてそちらに目をやると、ウィルとアルルカが、猛スピードでこちらに飛んでくるのが見えた。いいぞ!空を飛べる二人が来てくれれば、俺たちはのしイカにならずに済むかもしれない。そう思ったのだが……
「え!?きゃあ!」
「なぁ!?」
あぁ!また、あの白い包帯だ!細長い布切れがどこからともなく現れると、まるで触手のように、ウィルとアルルカを捕えてしまった。えぇ、噓だろ!?アルルカはわかるが、霊体のウィルまで!?
「っ!ぐぉ!?」
驚いたのもつかの間、強い力に引っ張られ、今度は俺の視界が揺れる。足に巻き付いていた包帯が、再び俺をぐいぐいと引っ張り始めたのだ。見かねたフランが爪を抜いた。
「このっ!」
フランが鉤爪を振り上げる。そして包帯目掛けて振り下ろそうとした瞬間、シュルル、パシ!なんと今度は、フランの右手にまで、包帯が絡みついてきた。
「くうっ!はなせ!」
フランは包帯を引きはがそうとするが、包帯は鋼でできているかのように、びくともしない。あの包帯、さっきのウィルの事といい、普通の布切れじゃないぞ!フランはいつの間にか、全身を包帯に絡みつかれていた。糸で吊られた人形のように、包帯がフランの体を無理やり動かす。
「ぐっ……くそっ!桜下!」
「フ、ラン……っ!」
俺の手を掴むフランの手が、少しずつ引きはがされていく。俺もフランの手を掴もうとしたが、俺もまたぐいぐいと引っ張られて、手の力は限界寸前だ。ついにフランの手から、俺の手がすっぽ抜けた。
「うわぁ!」
その瞬間、俺は猛烈な力で横へと引っ張られた。って!このままじゃ、壁に激突して……!
恐ろしさにぎゅうと目をつぶると、俺は衝撃に備えて身構えた。だが、その瞬間はいつまでたってもやってこない。不思議に思って目を開けると、俺は足首を掴まれたまま、宙づりになって浮いていた。
「ど、どうなってるんだ……?」
あまりの出来事に、頭が回らない。とりあえず、落下は止まった。助かった、のか……?
今すぐ死にはしないとなると、少しだけ冷静さを取り戻せた。あたりを見回すと、どうやら狭い横穴の中にいるらしい。さっきまで落ちていた穴の、わきにでも開いていたのだろうか?俺はそこへ引きずり込まれたようだ。と、ふいに足首に絡んでいた包帯がほどけた。
「ぐえっ」
べちっと地面に落とされる。突然の連続で、俺は受け身も取れずに、潰れたカエルのように倒れた。
「いてて……なんなんだ?一体……」
『主様、御無事ですか?』
頭を抱えて起き上がった俺に、アニがりんと揺れて、声を掛けてくる。
「ああ……とりあえずは、どこも平気だ。びっくりだな、あれだけのことがあったのに、怪我一つしなかったなんて」
『不幸中の幸い、というやつですかね』
「けど、みんなとはぐれちまった……」
くそ。突然の事が多すぎて、仲間たちを見ている余裕がなかった。フランは無事だろうか?それに、ウィルとアルルカも……アンデッドなら、さいあくでも死ぬことはない。そこまで心配は要らないだろうけど……
「……とりあえず、穴の外を見てみるか」
もしかしたら、この穴のすぐ下にでも、フランが張り付いているかもしれない。ウィルでも、この際アルルカでもわがまま言わないから。一人は心細い……
俺が穴倉の外の様子を見ようとしたとき、ふと、視界の端に白いものが映った。
「わっ!?」
またあの包帯だ!俺はさっと身構える。ちくしょう、来るなら来やがれってんだ!しかし、そんな俺とは裏腹に、包帯はちろちろ揺れるだけで、再び襲い掛かって来る様子はない。それどころか、誘うように左右に振れると、穴の奥へとスルスル引っ込んでいくではないか。まるで、付いて来いとでも言わんばかりに……
「……アニ。どう思う?」
『どうもなにも、あからさまではありませんか?』
「だな……どうやら、俺を先に進ませたいみたいだ」
『主様、いかがするおつもりですか?』
「うーん……」
俺はとりあえず、包帯が消えていった方とは反対、俺が引き込まれた側へと歩いて行った。アニの明かりを頼りに慎重に足を進めると、すぐに穴の淵にたどり着いた。そこから外をのぞくと、俺たちが落っこちてきたのは、とてつもない深さの縦穴だということが分かった。ドワーフの坑道ほどの広さはないが、深度だけならいい勝負ができるかもしれない。落ちてきた入り口は闇に閉ざされて見えず、底もまた見渡せない。
「おおーい!」
おーい……ぉーぃ……
俺の声だけが虚しくこだまする。
「……これは、這い上がるのは無理だな」
ヘイズたちが梯子を降ろしてくれたとしても、この深さじゃとても届かないだろう。残念ながら、フランたちの姿も見えなかった。あの包帯に絡みつかれて、もっと下まで落ちて行ってしまったようだ。
「てことは、残された道は一つか……」
俺は、包帯が消えていった、横穴の先を見つめた。
『行くのですか?』
「……進むしかないだろ。ここで待ってても、助けは来なそうだ。気は進まないけどな……その前に、アニ」
『はい?なんですか』
「俺の声をみんなに届けるやつ、お願いできるかな。みんなに無事だけは伝えておきたいんだ」
『かしこまりました。問題は、距離が離れすぎていると交信ができないことですが……やれるだけやってみましょう』
アニがボウッと青白く光る。俺はアニを握り締めて、心の中で仲間たちに呼びかけた。俺は無事だ、どこかの横穴の中にいるから、これからみんなを探してみる……
「……よし。もしも届いてたなら、そのうちウィルあたりが探しに来てくれるだろ」
『ならば、ここでおとなしくしていた方がよいのでは?』
「あ、そっか。うーん……でも、少し気になるんだよ」
『先ほどの、主様をさらった何某かが、ですか?』
「ああ……あいつ、何か伝えたいことがあるんじゃないかな」
俺もだいぶ落ち着いてきたから、だんだんと違和感に気付いてきた。さっきの包帯、もしも本気で俺を殺す気だったならば、俺はすでに三回は死んでいたはずだ。けれど実際には、傷一つなく五体満足でここに居る。たまたまにしては、できすぎだと思わないか?
「あいつは、あからさまに、俺を誘導しようとしてる。もしかしたら、俺に何かしてほしいことがあるのかもしれない」
『それが罠の可能性は?』
「ない、とは言えない。けど奴が本気なら、俺を意地でも逃がしちゃくれないんじゃないか」
『……それもそうですね。確かに、ここで待っていれば助かる保証もないです。ですが主様、くれぐれも用心してください』
「ああ。なんにしても、丁寧にお願いするような、しおらしいタイプじゃなさそうだしな」
俺はうなずくと、アニから放たれる光を穴の先へと向け、そろそろと歩き始めた。
この横穴は、どうやら自然にできたものではないみたいだ。所々、人の手が加わった形跡がある。松明かけがあったり、崩れて塞がってしまっているが、別の通路へとつながる入り口があったり。
「ここもひょっとして、上の遺跡の一部なのかな」
『の、ようですね。遺嶺洞の地下に、さらに遺跡があったとは初耳ですが……』
俺の予想は、どうやら的中した。ふいに横穴が終わり、広い空間へと出たのだ。
「うっわ……なんだ、ここ」
そこは、広大な空間に建設された、地下都市だった……ドワーフの町を思い出すな。だが、あそこと違って、無秩序な乱雑さはみじんも感じられない。すべての建物は角が鋭い四角形で形成されていて、それらが碁盤の目のように、きちきちっと一定間隔で並べられている。そしてなにより、目を引くのが……
「あれは……いったい、なんだ?」
幾何学的な町の向こう……いや、上空と言ったほうが正しいのだろうか。建物たちの頭上には、それらよりもはるかに巨大な、逆三角形の物体がそびえ立っていた。天井からせり出すように生えているそれは、群青色の金属のような質感で、全体がぼんやりと青く光っている。そのおかげで、ここからでもはっきりと視認することができたんだ。暗闇の中に浮かんでいるように見えるそれは、ピラミッドを逆さまにしたような姿をしていた。
『ここは、どうやら上層の遺跡群とは違って、中枢あるいは中核を担う場所のようですね』
「アニ、どうしてわかるんだ?」
『周囲の建築様式や、この空間の構造から推測しただけです。頭上に一つの建造物、その眼下に無数の建物という形は、かつての王族の陵墓によく見られた様式です』
「へぇー……え?てことは、ここは、王様の墓なのか?」
『ではないかと。この形式の建物群は、通称“死者の都”と呼ばれています』
死者の、都……
「……ずいぶん、縁起でもないところに招かれちまったみたいだな」
『そのようです。今からでも戻りますか?』
「……いや。もしも王様のミイラでも出てくるんなら、かえって好都合だ。ラミアと違って、アンデッドなら俺でも対処できるからな」
対アンデッドなら、ネクロマンサーの俺に敵う者はいない……はず。だとしても、出てこないでくれるに越したことはないんだけれど。
少し進むと、下へ降りる階段を見つけた。そこを下りていくと、町へと向かえるようだ。ごくり……俺は喉を鳴らすと、その死者の都とやらへ入っていった。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「うわああああ!」
ガラガラガラ。比喩なしに足元が崩れ落ち、俺の体は重力に従って宙を舞う。心臓はバクバクして破裂寸前だ。くそったれ!俺はつくづく、落下と縁が切れないらしいな!
「~~~っ!」
こんな状況になっても、フランは俺の手を離さなかった。フランの銀髪が風でもみくちゃになっているのが見える。けどこのままじゃ、俺たち二人とも、いずれ床に叩きつけられておじゃんだ。フランは大丈夫かもしれないが、生身の人間の俺は……!
「くそぉ、こんなところで死ねるかぁ!」
「桜下さぁーんっ!」
おぉ!その時、頭の上の方(たぶん。落っこちているから、どちらが上か分からない……)から、ウィルの叫び声が聞こえてきた。かろうじてそちらに目をやると、ウィルとアルルカが、猛スピードでこちらに飛んでくるのが見えた。いいぞ!空を飛べる二人が来てくれれば、俺たちはのしイカにならずに済むかもしれない。そう思ったのだが……
「え!?きゃあ!」
「なぁ!?」
あぁ!また、あの白い包帯だ!細長い布切れがどこからともなく現れると、まるで触手のように、ウィルとアルルカを捕えてしまった。えぇ、噓だろ!?アルルカはわかるが、霊体のウィルまで!?
「っ!ぐぉ!?」
驚いたのもつかの間、強い力に引っ張られ、今度は俺の視界が揺れる。足に巻き付いていた包帯が、再び俺をぐいぐいと引っ張り始めたのだ。見かねたフランが爪を抜いた。
「このっ!」
フランが鉤爪を振り上げる。そして包帯目掛けて振り下ろそうとした瞬間、シュルル、パシ!なんと今度は、フランの右手にまで、包帯が絡みついてきた。
「くうっ!はなせ!」
フランは包帯を引きはがそうとするが、包帯は鋼でできているかのように、びくともしない。あの包帯、さっきのウィルの事といい、普通の布切れじゃないぞ!フランはいつの間にか、全身を包帯に絡みつかれていた。糸で吊られた人形のように、包帯がフランの体を無理やり動かす。
「ぐっ……くそっ!桜下!」
「フ、ラン……っ!」
俺の手を掴むフランの手が、少しずつ引きはがされていく。俺もフランの手を掴もうとしたが、俺もまたぐいぐいと引っ張られて、手の力は限界寸前だ。ついにフランの手から、俺の手がすっぽ抜けた。
「うわぁ!」
その瞬間、俺は猛烈な力で横へと引っ張られた。って!このままじゃ、壁に激突して……!
恐ろしさにぎゅうと目をつぶると、俺は衝撃に備えて身構えた。だが、その瞬間はいつまでたってもやってこない。不思議に思って目を開けると、俺は足首を掴まれたまま、宙づりになって浮いていた。
「ど、どうなってるんだ……?」
あまりの出来事に、頭が回らない。とりあえず、落下は止まった。助かった、のか……?
今すぐ死にはしないとなると、少しだけ冷静さを取り戻せた。あたりを見回すと、どうやら狭い横穴の中にいるらしい。さっきまで落ちていた穴の、わきにでも開いていたのだろうか?俺はそこへ引きずり込まれたようだ。と、ふいに足首に絡んでいた包帯がほどけた。
「ぐえっ」
べちっと地面に落とされる。突然の連続で、俺は受け身も取れずに、潰れたカエルのように倒れた。
「いてて……なんなんだ?一体……」
『主様、御無事ですか?』
頭を抱えて起き上がった俺に、アニがりんと揺れて、声を掛けてくる。
「ああ……とりあえずは、どこも平気だ。びっくりだな、あれだけのことがあったのに、怪我一つしなかったなんて」
『不幸中の幸い、というやつですかね』
「けど、みんなとはぐれちまった……」
くそ。突然の事が多すぎて、仲間たちを見ている余裕がなかった。フランは無事だろうか?それに、ウィルとアルルカも……アンデッドなら、さいあくでも死ぬことはない。そこまで心配は要らないだろうけど……
「……とりあえず、穴の外を見てみるか」
もしかしたら、この穴のすぐ下にでも、フランが張り付いているかもしれない。ウィルでも、この際アルルカでもわがまま言わないから。一人は心細い……
俺が穴倉の外の様子を見ようとしたとき、ふと、視界の端に白いものが映った。
「わっ!?」
またあの包帯だ!俺はさっと身構える。ちくしょう、来るなら来やがれってんだ!しかし、そんな俺とは裏腹に、包帯はちろちろ揺れるだけで、再び襲い掛かって来る様子はない。それどころか、誘うように左右に振れると、穴の奥へとスルスル引っ込んでいくではないか。まるで、付いて来いとでも言わんばかりに……
「……アニ。どう思う?」
『どうもなにも、あからさまではありませんか?』
「だな……どうやら、俺を先に進ませたいみたいだ」
『主様、いかがするおつもりですか?』
「うーん……」
俺はとりあえず、包帯が消えていった方とは反対、俺が引き込まれた側へと歩いて行った。アニの明かりを頼りに慎重に足を進めると、すぐに穴の淵にたどり着いた。そこから外をのぞくと、俺たちが落っこちてきたのは、とてつもない深さの縦穴だということが分かった。ドワーフの坑道ほどの広さはないが、深度だけならいい勝負ができるかもしれない。落ちてきた入り口は闇に閉ざされて見えず、底もまた見渡せない。
「おおーい!」
おーい……ぉーぃ……
俺の声だけが虚しくこだまする。
「……これは、這い上がるのは無理だな」
ヘイズたちが梯子を降ろしてくれたとしても、この深さじゃとても届かないだろう。残念ながら、フランたちの姿も見えなかった。あの包帯に絡みつかれて、もっと下まで落ちて行ってしまったようだ。
「てことは、残された道は一つか……」
俺は、包帯が消えていった、横穴の先を見つめた。
『行くのですか?』
「……進むしかないだろ。ここで待ってても、助けは来なそうだ。気は進まないけどな……その前に、アニ」
『はい?なんですか』
「俺の声をみんなに届けるやつ、お願いできるかな。みんなに無事だけは伝えておきたいんだ」
『かしこまりました。問題は、距離が離れすぎていると交信ができないことですが……やれるだけやってみましょう』
アニがボウッと青白く光る。俺はアニを握り締めて、心の中で仲間たちに呼びかけた。俺は無事だ、どこかの横穴の中にいるから、これからみんなを探してみる……
「……よし。もしも届いてたなら、そのうちウィルあたりが探しに来てくれるだろ」
『ならば、ここでおとなしくしていた方がよいのでは?』
「あ、そっか。うーん……でも、少し気になるんだよ」
『先ほどの、主様をさらった何某かが、ですか?』
「ああ……あいつ、何か伝えたいことがあるんじゃないかな」
俺もだいぶ落ち着いてきたから、だんだんと違和感に気付いてきた。さっきの包帯、もしも本気で俺を殺す気だったならば、俺はすでに三回は死んでいたはずだ。けれど実際には、傷一つなく五体満足でここに居る。たまたまにしては、できすぎだと思わないか?
「あいつは、あからさまに、俺を誘導しようとしてる。もしかしたら、俺に何かしてほしいことがあるのかもしれない」
『それが罠の可能性は?』
「ない、とは言えない。けど奴が本気なら、俺を意地でも逃がしちゃくれないんじゃないか」
『……それもそうですね。確かに、ここで待っていれば助かる保証もないです。ですが主様、くれぐれも用心してください』
「ああ。なんにしても、丁寧にお願いするような、しおらしいタイプじゃなさそうだしな」
俺はうなずくと、アニから放たれる光を穴の先へと向け、そろそろと歩き始めた。
この横穴は、どうやら自然にできたものではないみたいだ。所々、人の手が加わった形跡がある。松明かけがあったり、崩れて塞がってしまっているが、別の通路へとつながる入り口があったり。
「ここもひょっとして、上の遺跡の一部なのかな」
『の、ようですね。遺嶺洞の地下に、さらに遺跡があったとは初耳ですが……』
俺の予想は、どうやら的中した。ふいに横穴が終わり、広い空間へと出たのだ。
「うっわ……なんだ、ここ」
そこは、広大な空間に建設された、地下都市だった……ドワーフの町を思い出すな。だが、あそこと違って、無秩序な乱雑さはみじんも感じられない。すべての建物は角が鋭い四角形で形成されていて、それらが碁盤の目のように、きちきちっと一定間隔で並べられている。そしてなにより、目を引くのが……
「あれは……いったい、なんだ?」
幾何学的な町の向こう……いや、上空と言ったほうが正しいのだろうか。建物たちの頭上には、それらよりもはるかに巨大な、逆三角形の物体がそびえ立っていた。天井からせり出すように生えているそれは、群青色の金属のような質感で、全体がぼんやりと青く光っている。そのおかげで、ここからでもはっきりと視認することができたんだ。暗闇の中に浮かんでいるように見えるそれは、ピラミッドを逆さまにしたような姿をしていた。
『ここは、どうやら上層の遺跡群とは違って、中枢あるいは中核を担う場所のようですね』
「アニ、どうしてわかるんだ?」
『周囲の建築様式や、この空間の構造から推測しただけです。頭上に一つの建造物、その眼下に無数の建物という形は、かつての王族の陵墓によく見られた様式です』
「へぇー……え?てことは、ここは、王様の墓なのか?」
『ではないかと。この形式の建物群は、通称“死者の都”と呼ばれています』
死者の、都……
「……ずいぶん、縁起でもないところに招かれちまったみたいだな」
『そのようです。今からでも戻りますか?』
「……いや。もしも王様のミイラでも出てくるんなら、かえって好都合だ。ラミアと違って、アンデッドなら俺でも対処できるからな」
対アンデッドなら、ネクロマンサーの俺に敵う者はいない……はず。だとしても、出てこないでくれるに越したことはないんだけれど。
少し進むと、下へ降りる階段を見つけた。そこを下りていくと、町へと向かえるようだ。ごくり……俺は喉を鳴らすと、その死者の都とやらへ入っていった。
つづく
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