じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
6-1 出発
6-1 出発
早朝、まだ東の空がわずかに明るくなったころ。俺は、扉をノックする音で目が覚めた。
「ん……誰か、来たのか?」
「桜下さん。お城の方です。そろそろ出発ですよ」
ウィルの声が聞こえてくる。俺は伸びをすると、ベッドから体を起こした。ずいぶん早起きだが、久々にふかふかのベッドで寝たおかげで、気分はシャッキリしている。
俺の隣には、ライラと三つ編みちゃんが寄り添い合って寝ていた。二人で過ごす最後の夜、ライラは別れを惜しむように、できるだけ彼女のそばにいた。せめて、いい夢が見れていればいいんだけれど。俺はそっとライラの肩をゆすった。できれば、三つ編みちゃんは起こしたくないな。眠ったままでいてくれれば、別れも辛くはないかも……
「ライラ。そろそろ出発だ」
「ん……」
ライラは眠そうに目をしょぼつかせながら起き上がった。すると、その揺れを感じたのか、三つ編みちゃんも目を覚ましてしまった。ぴったりくっつくように寝ていたからな……ふぅ、しょうがない。
「ウィル、城の人はなんて?」
「準備ができ次第、玄関ホールに来い、とのことでした」
「そっか。たぶん一秒でも早く出たいだろうから、ぼやぼやしてられないな」
俺たちは手早く荷物をまとめる。俺は自分のカバンを持ち、エラゼムが荷袋を担ぐ。ライラはぎゅっと三つ編みちゃんの手を握っていた。硬い表情のライラを、怪訝そうに三つ編みちゃんが見つめている。
「……よし。それじゃ、行こうか」
玄関ホールには、大勢の兵士と侍女、執事たちが集まっていた。外には何台もの馬車が並び、倉庫番らしき人が備品の最終確認を行っている。俺は大勢の人の中から、ロアを見つけ出した。ロアは上等そうなガウンを着て、肩にショールを羽織っている。そのそばには、昨日の執事が仕えていた。人波から少し離れて、厳しい目で人流を監視していたので、すぐに分かった。
「ロア。早いんだな」
「ん。ああ、来たか。当然だ、見送りくらい参加する。城を離れられるのであれば、私もついていくのだが……」
王女にあまりにも気さくに話しかける俺に眉をひそめていた執事は、ロアの発言に、今度は目を見開いた。忙しい人だな。
「ロア様!それはなりませんと、なんども申しておりますでしょう!」
「ああ、分かっている!だからこうして旅支度もせずに突っ立っているのではないか!」
ロアはイライラした様子で声を荒立てる。昨日にも増してくまが濃くなっているし、目も赤く血走っている。昨晩も眠れなかったみたいだな。
「ロア、そうかりかりすんなよ。大丈夫だって、エドガーはきっと治るさ。それより、俺たちが帰ってきた時に城が大混乱してるなんて、勘弁してくれよ?」
「……ふん!お前に心配されるとは、私も焼きが回ったものだ」
ロアは皮肉を吐いて、それからにやりと笑った。ったく、素直にお礼が言えないもんかな。あはは、俺が言えた義理じゃないか。
「っと、それより。ロア、昨日の話の続きだ。この子の事、頼んでいいか?」
俺は三つ編みちゃんを手で指し示す。ロアはこくりとうなずくと、中年の侍女を呼びつけた。
「お呼びでしょうか、ロア様?」
「ああ。昨日、身元不明の少女の話はしたな。この子が、その少女だ。城で預かることになっている」
「ええ、存じております。お連れ致しますか?」
「そうしてくれ。桜下、いいな?」
「あ、ちょっと待ってくれ」
俺は侍女さんに待ってもらって、三つ編みちゃんに正面から向き合った。三つ編みちゃんはきょとんと俺を見上げている。さあ、いよいよお別れをしなくちゃな。
「……三つ編みちゃん。短い間だったけど、ここでいったんさよならだ。これからは、お城の人が君の面倒を見てくれるから……って、わかんないよな。けど、きっとここに居るほうが、君の幸せのためだと思うから」
三つ編みちゃんは、俺の言葉に反応を示さない。当然だ。だが、俺の表情や空気から、どことなくいつもと違うことは感じ取ったみたいだった。顔が不安そうなものに変わる。
「三つ編みちゃん……元気でね」
ライラはそう告げると、繋いでいた手を離した。いよいよ、三つ編みちゃんの顔に怯えが走る。胸がズキズキするな……
「……ロア。待たせた、連れて行ってやってくれ」
「わかった」
ロアが目配せすると、侍女が前に進み出る。そして、三つ編みちゃんの肩に手を回した。三つ編みちゃんが回された手を見て、びくりと肩を震わせる。
「さあ、お嬢ちゃん。私と一緒に行きましょうね」
侍女が歩き出そうとするが、三つ編みちゃんは根が生えたようにそこから動こうとしない。侍女は困った顔をして、仕方なく三つ編みちゃんを抱き上げた。
「リアアアアア!シパラーテ、エイヌス!」
「きゃ!?」
わっ。侍女に抱きかかえられた瞬間、三つ編みちゃんは甲高い声で悲鳴を上げて、激しく暴れはじめた。たまらず侍女はバランスを崩し、三つ編みちゃんを落っことしそうになる。たまたま近くにいた別の侍女が、びっくりした顔で支えると、そのすきに三つ編みちゃんは侍女の手から抜け出し、床に下りた。そのまま駆け出そうとするのを、三人目の侍女に阻まれる。
「こら!おとなしくしなさいったら」
「リアー!エバネスト、シットエイヌス!」
三人がかりで押さえつけられ、ついに三つ編みちゃんは動きを封じられた。それでもなお三つ編みちゃんは、激しく体をよじっている。
「シパラトラ!シムレスト、ソロー!ソロール!」
三つ編みちゃんは何かを訴えるように、俺たちを見てしきりに声を上げている。言葉の意味は分からないが……俺は無性に、駆け寄って、彼女を抱きしめてあげたい衝動に駆られた。それをしようとしない俺が、酷く冷血な人間に感じられるのは、どうしてなんだ?くそ!
「早く行ってください!あなたたちがいては、いつまでもこの子は暴れ続けますよ!」
侍女が息を切らしながら叫ぶ。三つ編みちゃんはなおも、必死に抵抗を続けていた。たとえ手足がちぎれても構わないとばかりの気迫だ。
「……行こう。これ以上は、お互い辛くなるだけだ」
俺は硬い声で告げると、その場を動こうとしないライラの背中を押して、歩き始めた。三つ編みちゃんに背を向けて……
「ノリテ、イレ!クワエッソ!マネーレェ!」
背後からは、悲痛な声が聞こえてくる。俺は奥歯をがりっと噛みしめ、みんなも似たような表情をしていた。ウィルはひっ、ひっと、引くつくような嗚咽を溢している。
「ノリテーレ!ライラ!」
聞き間違いか?いや、違う。はっきりと、三つ編みちゃんが、ライラの名前を呼んだ。それと同時に、ライラがくるりと反転して、三つ編みちゃんへと駆け出してしまった。驚いた俺は、ライラを止めるのが間に合わなかった。
「ライラ!」
俺が呼んでも、ライラは足を止めない。ライラが駆け寄ってくるのを見ると、三つ編みちゃんは信じられないほどの力で、侍女の腕を振りほどいた。
「ライラ!ミ、ソロール!りああぁぁぁ」
「うわぁぁぁん!三つ編みちゃああぁぁぁぁ」
二人は駆け寄ると、お互いをひしと抱きしめ合って、わんわん泣き出してしまった。この状況で、さすがに水を差せる者はいなかった。俺たちも侍女も、ただひたすら、二人の様子を見守るしかない。
「ウゥ……ヒッ、ヒック」
「ぐずっ……三つ編みちゃん、あの、あのね。ライラたち、必ず戻ってくるから。また、三つ編みちゃんに会いに来るから。だから、だからそれまで、ライラたちのこと待っててほしいの」
ライラの言葉は、三つ編みちゃんには通じていないはずだ。だが三つ編みちゃんは、ライラの言葉に必死に耳を傾けるように、嗚咽をこらえている。
「……イテルム、コンヴィネント?」
「うん。きっと、きっとまた会えるよ。だから、それまで……」
するとライラは、おもむろに腰に巻いていたショールをほどいた。ピンクと青のグラデーションが美しい、ライラのお母さんの形見のショール。ライラはそれを両手でつかむと、ぐっと腕に力を込めた。ピリッ、ビリィー!
「あぁ!」
悲鳴を上げたのはウィルだ。ライラは、長いショールを、縦に真っ二つに引き裂いてしまった。あれほど大事にしていた、お母さんのショールを……!
「これ、あげる。ライラの宝物の、その半分だよ。もう片方はライラが持ってるから、こっちは三つ編みちゃんが持っていて。そうすれば、きっとまた会えるから」
ライラの差し出したショールの半分を、三つ編みちゃんは驚いた表情で、おずおずと受け取った。
「……ダ、ミヒ?」
「うん。約束だよ。必ず、また会おうね」
ライラは最後に、三つ編みちゃんをぎゅっと抱きしめた。そして、パッとはなれると、くるりと踵を返して、そのまま俺たちのもとまでだだっと駆けてきた。
「ライラ……うおっと」
ドンッ。ライラはタックルみたいに、俺の腰にぎゅうと抱き着き、顔をうずめた。やれやれ、まったく大したもんだ。この短い間に、ライラは本当に三つ編みちゃんと親しくなれたんだな。俺は誇らしい気持ちで、ライラのふわふわの髪を、優しくなでた。
もう、後ろから三つ編みちゃんの叫びは聞こえてこなかった。三つ編みちゃんは、ライラのショールを大切そうに抱き、その後ろでは侍女たちがだばだばと涙をこぼしていた。ロアと執事のじいさんも、鼻を赤くしている。
俺はくすりと笑うと、玄関ホールを後にした。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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早朝、まだ東の空がわずかに明るくなったころ。俺は、扉をノックする音で目が覚めた。
「ん……誰か、来たのか?」
「桜下さん。お城の方です。そろそろ出発ですよ」
ウィルの声が聞こえてくる。俺は伸びをすると、ベッドから体を起こした。ずいぶん早起きだが、久々にふかふかのベッドで寝たおかげで、気分はシャッキリしている。
俺の隣には、ライラと三つ編みちゃんが寄り添い合って寝ていた。二人で過ごす最後の夜、ライラは別れを惜しむように、できるだけ彼女のそばにいた。せめて、いい夢が見れていればいいんだけれど。俺はそっとライラの肩をゆすった。できれば、三つ編みちゃんは起こしたくないな。眠ったままでいてくれれば、別れも辛くはないかも……
「ライラ。そろそろ出発だ」
「ん……」
ライラは眠そうに目をしょぼつかせながら起き上がった。すると、その揺れを感じたのか、三つ編みちゃんも目を覚ましてしまった。ぴったりくっつくように寝ていたからな……ふぅ、しょうがない。
「ウィル、城の人はなんて?」
「準備ができ次第、玄関ホールに来い、とのことでした」
「そっか。たぶん一秒でも早く出たいだろうから、ぼやぼやしてられないな」
俺たちは手早く荷物をまとめる。俺は自分のカバンを持ち、エラゼムが荷袋を担ぐ。ライラはぎゅっと三つ編みちゃんの手を握っていた。硬い表情のライラを、怪訝そうに三つ編みちゃんが見つめている。
「……よし。それじゃ、行こうか」
玄関ホールには、大勢の兵士と侍女、執事たちが集まっていた。外には何台もの馬車が並び、倉庫番らしき人が備品の最終確認を行っている。俺は大勢の人の中から、ロアを見つけ出した。ロアは上等そうなガウンを着て、肩にショールを羽織っている。そのそばには、昨日の執事が仕えていた。人波から少し離れて、厳しい目で人流を監視していたので、すぐに分かった。
「ロア。早いんだな」
「ん。ああ、来たか。当然だ、見送りくらい参加する。城を離れられるのであれば、私もついていくのだが……」
王女にあまりにも気さくに話しかける俺に眉をひそめていた執事は、ロアの発言に、今度は目を見開いた。忙しい人だな。
「ロア様!それはなりませんと、なんども申しておりますでしょう!」
「ああ、分かっている!だからこうして旅支度もせずに突っ立っているのではないか!」
ロアはイライラした様子で声を荒立てる。昨日にも増してくまが濃くなっているし、目も赤く血走っている。昨晩も眠れなかったみたいだな。
「ロア、そうかりかりすんなよ。大丈夫だって、エドガーはきっと治るさ。それより、俺たちが帰ってきた時に城が大混乱してるなんて、勘弁してくれよ?」
「……ふん!お前に心配されるとは、私も焼きが回ったものだ」
ロアは皮肉を吐いて、それからにやりと笑った。ったく、素直にお礼が言えないもんかな。あはは、俺が言えた義理じゃないか。
「っと、それより。ロア、昨日の話の続きだ。この子の事、頼んでいいか?」
俺は三つ編みちゃんを手で指し示す。ロアはこくりとうなずくと、中年の侍女を呼びつけた。
「お呼びでしょうか、ロア様?」
「ああ。昨日、身元不明の少女の話はしたな。この子が、その少女だ。城で預かることになっている」
「ええ、存じております。お連れ致しますか?」
「そうしてくれ。桜下、いいな?」
「あ、ちょっと待ってくれ」
俺は侍女さんに待ってもらって、三つ編みちゃんに正面から向き合った。三つ編みちゃんはきょとんと俺を見上げている。さあ、いよいよお別れをしなくちゃな。
「……三つ編みちゃん。短い間だったけど、ここでいったんさよならだ。これからは、お城の人が君の面倒を見てくれるから……って、わかんないよな。けど、きっとここに居るほうが、君の幸せのためだと思うから」
三つ編みちゃんは、俺の言葉に反応を示さない。当然だ。だが、俺の表情や空気から、どことなくいつもと違うことは感じ取ったみたいだった。顔が不安そうなものに変わる。
「三つ編みちゃん……元気でね」
ライラはそう告げると、繋いでいた手を離した。いよいよ、三つ編みちゃんの顔に怯えが走る。胸がズキズキするな……
「……ロア。待たせた、連れて行ってやってくれ」
「わかった」
ロアが目配せすると、侍女が前に進み出る。そして、三つ編みちゃんの肩に手を回した。三つ編みちゃんが回された手を見て、びくりと肩を震わせる。
「さあ、お嬢ちゃん。私と一緒に行きましょうね」
侍女が歩き出そうとするが、三つ編みちゃんは根が生えたようにそこから動こうとしない。侍女は困った顔をして、仕方なく三つ編みちゃんを抱き上げた。
「リアアアアア!シパラーテ、エイヌス!」
「きゃ!?」
わっ。侍女に抱きかかえられた瞬間、三つ編みちゃんは甲高い声で悲鳴を上げて、激しく暴れはじめた。たまらず侍女はバランスを崩し、三つ編みちゃんを落っことしそうになる。たまたま近くにいた別の侍女が、びっくりした顔で支えると、そのすきに三つ編みちゃんは侍女の手から抜け出し、床に下りた。そのまま駆け出そうとするのを、三人目の侍女に阻まれる。
「こら!おとなしくしなさいったら」
「リアー!エバネスト、シットエイヌス!」
三人がかりで押さえつけられ、ついに三つ編みちゃんは動きを封じられた。それでもなお三つ編みちゃんは、激しく体をよじっている。
「シパラトラ!シムレスト、ソロー!ソロール!」
三つ編みちゃんは何かを訴えるように、俺たちを見てしきりに声を上げている。言葉の意味は分からないが……俺は無性に、駆け寄って、彼女を抱きしめてあげたい衝動に駆られた。それをしようとしない俺が、酷く冷血な人間に感じられるのは、どうしてなんだ?くそ!
「早く行ってください!あなたたちがいては、いつまでもこの子は暴れ続けますよ!」
侍女が息を切らしながら叫ぶ。三つ編みちゃんはなおも、必死に抵抗を続けていた。たとえ手足がちぎれても構わないとばかりの気迫だ。
「……行こう。これ以上は、お互い辛くなるだけだ」
俺は硬い声で告げると、その場を動こうとしないライラの背中を押して、歩き始めた。三つ編みちゃんに背を向けて……
「ノリテ、イレ!クワエッソ!マネーレェ!」
背後からは、悲痛な声が聞こえてくる。俺は奥歯をがりっと噛みしめ、みんなも似たような表情をしていた。ウィルはひっ、ひっと、引くつくような嗚咽を溢している。
「ノリテーレ!ライラ!」
聞き間違いか?いや、違う。はっきりと、三つ編みちゃんが、ライラの名前を呼んだ。それと同時に、ライラがくるりと反転して、三つ編みちゃんへと駆け出してしまった。驚いた俺は、ライラを止めるのが間に合わなかった。
「ライラ!」
俺が呼んでも、ライラは足を止めない。ライラが駆け寄ってくるのを見ると、三つ編みちゃんは信じられないほどの力で、侍女の腕を振りほどいた。
「ライラ!ミ、ソロール!りああぁぁぁ」
「うわぁぁぁん!三つ編みちゃああぁぁぁぁ」
二人は駆け寄ると、お互いをひしと抱きしめ合って、わんわん泣き出してしまった。この状況で、さすがに水を差せる者はいなかった。俺たちも侍女も、ただひたすら、二人の様子を見守るしかない。
「ウゥ……ヒッ、ヒック」
「ぐずっ……三つ編みちゃん、あの、あのね。ライラたち、必ず戻ってくるから。また、三つ編みちゃんに会いに来るから。だから、だからそれまで、ライラたちのこと待っててほしいの」
ライラの言葉は、三つ編みちゃんには通じていないはずだ。だが三つ編みちゃんは、ライラの言葉に必死に耳を傾けるように、嗚咽をこらえている。
「……イテルム、コンヴィネント?」
「うん。きっと、きっとまた会えるよ。だから、それまで……」
するとライラは、おもむろに腰に巻いていたショールをほどいた。ピンクと青のグラデーションが美しい、ライラのお母さんの形見のショール。ライラはそれを両手でつかむと、ぐっと腕に力を込めた。ピリッ、ビリィー!
「あぁ!」
悲鳴を上げたのはウィルだ。ライラは、長いショールを、縦に真っ二つに引き裂いてしまった。あれほど大事にしていた、お母さんのショールを……!
「これ、あげる。ライラの宝物の、その半分だよ。もう片方はライラが持ってるから、こっちは三つ編みちゃんが持っていて。そうすれば、きっとまた会えるから」
ライラの差し出したショールの半分を、三つ編みちゃんは驚いた表情で、おずおずと受け取った。
「……ダ、ミヒ?」
「うん。約束だよ。必ず、また会おうね」
ライラは最後に、三つ編みちゃんをぎゅっと抱きしめた。そして、パッとはなれると、くるりと踵を返して、そのまま俺たちのもとまでだだっと駆けてきた。
「ライラ……うおっと」
ドンッ。ライラはタックルみたいに、俺の腰にぎゅうと抱き着き、顔をうずめた。やれやれ、まったく大したもんだ。この短い間に、ライラは本当に三つ編みちゃんと親しくなれたんだな。俺は誇らしい気持ちで、ライラのふわふわの髪を、優しくなでた。
もう、後ろから三つ編みちゃんの叫びは聞こえてこなかった。三つ編みちゃんは、ライラのショールを大切そうに抱き、その後ろでは侍女たちがだばだばと涙をこぼしていた。ロアと執事のじいさんも、鼻を赤くしている。
俺はくすりと笑うと、玄関ホールを後にした。
つづく
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