じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
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あれから、一時間ほど経っただろうか。今俺がいるのは、ボウエブのはなれだ。はなれの中はシンプルな作りで、大きなワンルームと、風呂やトイレがあるだけ。俺の基準で「だけ」って言っちゃったけど、そんなに悪い家じゃないよな。なんだかんだ言って、伯爵家の恩恵にはあやかっていたみたいだ。
さて、仲間たちは今、戦いの後始末に行ってくれている。ウィルとエラゼムは、町民たちを町まで送っていった。怪我が重そうな人はウィルが治療するか、エラゼムが担いで連れていく。二人はついさっき、役目を終えてはなれに帰って来た。そして、残りの方もそろそろ……
「ただいまー、桜下!」
「後片づけ、終わったよ」
「おう、お疲れ。ライラに、フラン」
ほら、帰って来た。扉を開けて入ってきた二人に、俺は労いの言葉を掛けた。ライラが、得意げな顔をして、俺の方へとぴょこぴょこやってくる。
「桜下、ライラのまほー、どうだった?完璧だったでしょ?」
「ああ、バッチリだった。みんなの登場タイミングも決まってたな!」
「へへへー、そうでしょぉ」
ライラがぐりぐりと頭をこすりつけてくるので、俺は苦笑しながら、ぽんぽんとふわふわの髪を撫でた。今回、ずっと別行動だったライラ。彼女は実は、ずっと俺たちの頭上にいた。風の魔法で、俺たちを空に浮かべ、必要な場面場面で降ろしていたわけだ。おかげで隠密行動ができたし、見た目のインパクトも与えられたはずだ。
俺たちは、今夜はここで一泊することになっている。戦いの直後でバタついているグラスゴウ家を、近くで監視していたいってのもあるし、ここしか泊まる場所がなかったのもある。コルトの家は今、しっちゃかめっちゃかだからな。
フランが、首尾を報告してくれた。
「私兵たちの武装は、ヴァンパイアの魔法で全部まとめて氷漬けにして、コルトの家に運んだから」
「おっけー。それなら、当面私兵は使い物にならないな」
俺たちは、私兵と町民たちの武器、ついでにグラスゴウ家の武器庫の中身をぜーんぶまとめて、奪い取ってしまった。連中も怪我でしばらく動けはしないだろうが、武器を手に取れば、また争いがおこるかもしれないからな。捨てても良かったけど、コルトの提案で、武器はコルトの家に保管されることになった。そんなだから、今はとても人が泊まれる状態じゃない。それに、変装に使ったマントや仮面なんかも、コルトの家の毛布や皿を使ったからな。もはや完全に物置と化していた。
「家に入りきらなかった分は、裏に置いておいた。この気温だし、溶けることはないと思う」
「だな。あれ、ところでアルルカは?」
「あいつは、狭いのが嫌だって言って、屋根の上にいる」
「なに?ったく、空気の読めないヤツ……まあいいや。ってわけだそうだ、コルト?」
俺はフランから、床にあぐらをかいてくつろいでいるコルトへと振り向いた。
「了解したよ。ありがとう」
「でも、あれだけの武器、どうするつもりなんだ?」
「まあ、いざというときの保険になればいいけれど。適当なタイミングで売っぱらっちゃうつもりだよ。今必要なのは、剣より金だからね」
「あーあ、なるほど。ちゃっかりしてるな……あ、じゃあ氷漬けにしたのは失敗だったな。運びやすいからそうしたんだけど」
「大丈夫。必要なときは、僕が氷を砕くから。これでも僕、結構力あるんだよ?」
「ええ?」
一瞬、冗談かとも思ったが……まてよ。確かに、コルトはめちゃくちゃ足が速かった。体力もあるみたいだし……
「ひょっとして、それも“力”か?セカンドミニオンの……」
「うん。昔から、体だけは頑丈でね」
なるほど。セカンドミニオンは、何らかの能力に秀でる特徴がある。コルトのは、フランと同じ肉体系の能力だったんだな。
「そっか。それなら、安心だ……」
そう、きっとこれからも大丈夫……
みんなが外に出ている間、俺とコルト、そしてボウエブは、一足先にはなれに戻って、今後についてあれやこれやと話し合っていた。みな政治に明るいわけではないけど、この町の問題点は素人でもわかるくらい山積している。伯爵邸の奴隷たちの処遇、財産の分与、町の経済の発展……大変なのは、これからだ。口では安心だと言ったけど、心からそうだとは、とても思えなかった。
そんな俺の顔を見て、コルトが困ったように笑った。
「うん。だからさ……そんなに不安そうな顔、しないでよね」
「え?」
思わず、自分の顔を触ってしまった。
「顔、出てたか?」
「出てたでてた。本当にこれでよかったのかな、って顔。あはは、はっきり書いてあるよ」
コルトはからからと笑っていたが、俺はとても笑う気にはなれなかった。
「……この際だから、言っちまうけど。俺は、正直不安だよ。今更言うなって感じだけどな」
「あはは、だね。けど、僕が不安がるならまだしも、どうして桜下がそんな顔するんだい?」
「そりゃあだって、俺が言い出したことだし……」
「けど、それに立候補して、やろうって言ったのは僕だよ。責任なら、僕にあるさ」
それはそうだけど……調停役に名乗りを上げたのは、他ならぬコルト自身だ。彼女を交えて作戦も立てたし、すべて了承済みの事ではあったのだが……
「でも……今回のシナリオだと、どうしてもお前は悪役に見えちまうだろ」
もしも、グラスゴウ伯爵が反旗を翻したら。もしも、町民たちがまた武器を取ったら。その時コルトは、たった一人でそれらに立ち向かわなければならない。すべてことが終わった今だからこそ、俺は自分の立案したことで、コルトが不幸な目に合わないか、恐ろしくなってしまったのだ。
「いいや、違うよ桜下。僕は、誰の敵でもない。きっと他の人たちも、それを理解してくれるよ。まあ、ちょっとはもめ事はあるかも知れないけど……それに、僕はもう、一人じゃないしね」
コルトはそう言って、家主だというのに部屋の隅で居心地悪そうに正座している、ボウエブを見た。
「この役目は、僕たちにしかできないことだと思うんだ。だって、僕たちは独りぼっちだったから。調停者がどちらか一方に肩入れするようなことがあっちゃならない。町からも、グラスゴウ家からも疎遠にされている僕たちは、ぴったりのはまり役だったんだよ」
ずいぶん自嘲気味な発言だが、コルトに不貞腐れている様子はなかった。むしろ、その事を誇らしくさえ思っているみたいだ。ボウエブの表情が、少しだけやわらいだ。
「桜下。僕はむしろ、君に感謝しているんだよ?こそこそ人目を盗んで生きるしかなかった僕に、チャンスをくれたんだ!町の人にも、グラスゴウ伯爵にも、僕が不要な存在だなんて言わせない。僕はここに居ていいんだって、認めさせるチャンスをね」
存在を、認めさせる……か。
「本当に、大丈夫か?」
「大丈夫。きっと、うまくやってみせるよ。えへへ、ほんとのこと言うと、いつかこんな日が来ることを夢見てたんだ。だから、絶対逃しはしないよ。夢を、現実にして見せる」
コルトは、きっぱりとそう言い切った。コルトの言葉には、不思議な説得力があった。ボウエブもいたく感動したようだ。目を見開いて、年甲斐もなく目を潤ませている。
「コルト、さん……いえ、コルト様。私も、私もあなたのようになりたい。悪党の手先などではなく、堂々と表を歩けるような存在に……」
「うん。もちろんだ、ボウエブさん」
コルトはにこりとほほ笑むと、立ち上がって、ボウエブの前まで歩いて行った。そしてその肩に、ぽんと手を置く。
「あなたのことは、桜下たちから聞きました。犯した罪は消えないけれど、僕を助け、この町に豊かさを取り戻すことで、それの償いになると思ってほしい」
「ですが……本当によいのですか。私は、邪悪なネクロマンサーです。こんな私に、コルト様の手助けなど……」
「そんなこと、僕は気にしないよ。桜下だってネクロマンサーだし、僕はセカンドミニオンだ。どんな力を持っているかは関係ないよ。大事なのは、それをどう使うかなんだからね」
「うぅ……コルト様……」
とうとうボウエブは、顔を覆っておいおいと泣き出してしまった。コルトがその背中をぽんぽんと叩く。感動的なシーンだが、フランは見ちゃいられないという顔をしていた。
まぁ確かに、ボウエブは元グラスゴウ家の手下だ。調子のいいことを言っているが、いつ裏切るかもわからない……けど、俺はなんとなく、大丈夫な気がしていた。聞いたところによると、グラスゴウ伯爵は、ボウエブの名前すらきちんと憶えていなかったんだろ?でもコルトは、きちんと彼の名を呼んでいる。どっちの方がいいか、考えればわかるはずだ。
「……わかった。コルト、ボウエブ。お前たちを信じるよ。もう不安がるのは、やめにする」
俺がそう言うと、コルトはこちらを見て、にこりとほほ笑んだ。ボウエブはまだ鼻をぐずぐずすすっている。
「うん。その方が、僕も嬉しいよ。じゃないと、気持ちよく見送りもできないからね……すぐ、行っちゃうんだろう?」
「ああ。この町には、俺たちが探してた人はいないみたいだしな……」
結局、エラゼムの探し人は見つからなかった。それどころか、わずかな手がかりさえ失ってしまったのだが……だからこそ、俺たちは旅を続けなきゃならない。
「そっか……うん。それじゃあ、今夜はゆっくり休んでいってよね。といっても、ここは僕の家じゃないけど……」
すると、感動から立ち直ったボウエブが、ぐいっと目元を拭って立ち上がった。
「いえ、今日から私の所有物は、すべてコルト様のものです。皆様のことも、お客人としてもてなさせていただきます」
そう言うとボウエブは、甲斐甲斐しく俺たちを世話してくれた。命を救われ、奴隷の身分から解き放たれたことで、憑き物が落ちたらしい。
「ほんと、調子いいんだから……」
フランがぼそりとつぶやいたが、俺はそんなに悪い気はしなかった。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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さて、仲間たちは今、戦いの後始末に行ってくれている。ウィルとエラゼムは、町民たちを町まで送っていった。怪我が重そうな人はウィルが治療するか、エラゼムが担いで連れていく。二人はついさっき、役目を終えてはなれに帰って来た。そして、残りの方もそろそろ……
「ただいまー、桜下!」
「後片づけ、終わったよ」
「おう、お疲れ。ライラに、フラン」
ほら、帰って来た。扉を開けて入ってきた二人に、俺は労いの言葉を掛けた。ライラが、得意げな顔をして、俺の方へとぴょこぴょこやってくる。
「桜下、ライラのまほー、どうだった?完璧だったでしょ?」
「ああ、バッチリだった。みんなの登場タイミングも決まってたな!」
「へへへー、そうでしょぉ」
ライラがぐりぐりと頭をこすりつけてくるので、俺は苦笑しながら、ぽんぽんとふわふわの髪を撫でた。今回、ずっと別行動だったライラ。彼女は実は、ずっと俺たちの頭上にいた。風の魔法で、俺たちを空に浮かべ、必要な場面場面で降ろしていたわけだ。おかげで隠密行動ができたし、見た目のインパクトも与えられたはずだ。
俺たちは、今夜はここで一泊することになっている。戦いの直後でバタついているグラスゴウ家を、近くで監視していたいってのもあるし、ここしか泊まる場所がなかったのもある。コルトの家は今、しっちゃかめっちゃかだからな。
フランが、首尾を報告してくれた。
「私兵たちの武装は、ヴァンパイアの魔法で全部まとめて氷漬けにして、コルトの家に運んだから」
「おっけー。それなら、当面私兵は使い物にならないな」
俺たちは、私兵と町民たちの武器、ついでにグラスゴウ家の武器庫の中身をぜーんぶまとめて、奪い取ってしまった。連中も怪我でしばらく動けはしないだろうが、武器を手に取れば、また争いがおこるかもしれないからな。捨てても良かったけど、コルトの提案で、武器はコルトの家に保管されることになった。そんなだから、今はとても人が泊まれる状態じゃない。それに、変装に使ったマントや仮面なんかも、コルトの家の毛布や皿を使ったからな。もはや完全に物置と化していた。
「家に入りきらなかった分は、裏に置いておいた。この気温だし、溶けることはないと思う」
「だな。あれ、ところでアルルカは?」
「あいつは、狭いのが嫌だって言って、屋根の上にいる」
「なに?ったく、空気の読めないヤツ……まあいいや。ってわけだそうだ、コルト?」
俺はフランから、床にあぐらをかいてくつろいでいるコルトへと振り向いた。
「了解したよ。ありがとう」
「でも、あれだけの武器、どうするつもりなんだ?」
「まあ、いざというときの保険になればいいけれど。適当なタイミングで売っぱらっちゃうつもりだよ。今必要なのは、剣より金だからね」
「あーあ、なるほど。ちゃっかりしてるな……あ、じゃあ氷漬けにしたのは失敗だったな。運びやすいからそうしたんだけど」
「大丈夫。必要なときは、僕が氷を砕くから。これでも僕、結構力あるんだよ?」
「ええ?」
一瞬、冗談かとも思ったが……まてよ。確かに、コルトはめちゃくちゃ足が速かった。体力もあるみたいだし……
「ひょっとして、それも“力”か?セカンドミニオンの……」
「うん。昔から、体だけは頑丈でね」
なるほど。セカンドミニオンは、何らかの能力に秀でる特徴がある。コルトのは、フランと同じ肉体系の能力だったんだな。
「そっか。それなら、安心だ……」
そう、きっとこれからも大丈夫……
みんなが外に出ている間、俺とコルト、そしてボウエブは、一足先にはなれに戻って、今後についてあれやこれやと話し合っていた。みな政治に明るいわけではないけど、この町の問題点は素人でもわかるくらい山積している。伯爵邸の奴隷たちの処遇、財産の分与、町の経済の発展……大変なのは、これからだ。口では安心だと言ったけど、心からそうだとは、とても思えなかった。
そんな俺の顔を見て、コルトが困ったように笑った。
「うん。だからさ……そんなに不安そうな顔、しないでよね」
「え?」
思わず、自分の顔を触ってしまった。
「顔、出てたか?」
「出てたでてた。本当にこれでよかったのかな、って顔。あはは、はっきり書いてあるよ」
コルトはからからと笑っていたが、俺はとても笑う気にはなれなかった。
「……この際だから、言っちまうけど。俺は、正直不安だよ。今更言うなって感じだけどな」
「あはは、だね。けど、僕が不安がるならまだしも、どうして桜下がそんな顔するんだい?」
「そりゃあだって、俺が言い出したことだし……」
「けど、それに立候補して、やろうって言ったのは僕だよ。責任なら、僕にあるさ」
それはそうだけど……調停役に名乗りを上げたのは、他ならぬコルト自身だ。彼女を交えて作戦も立てたし、すべて了承済みの事ではあったのだが……
「でも……今回のシナリオだと、どうしてもお前は悪役に見えちまうだろ」
もしも、グラスゴウ伯爵が反旗を翻したら。もしも、町民たちがまた武器を取ったら。その時コルトは、たった一人でそれらに立ち向かわなければならない。すべてことが終わった今だからこそ、俺は自分の立案したことで、コルトが不幸な目に合わないか、恐ろしくなってしまったのだ。
「いいや、違うよ桜下。僕は、誰の敵でもない。きっと他の人たちも、それを理解してくれるよ。まあ、ちょっとはもめ事はあるかも知れないけど……それに、僕はもう、一人じゃないしね」
コルトはそう言って、家主だというのに部屋の隅で居心地悪そうに正座している、ボウエブを見た。
「この役目は、僕たちにしかできないことだと思うんだ。だって、僕たちは独りぼっちだったから。調停者がどちらか一方に肩入れするようなことがあっちゃならない。町からも、グラスゴウ家からも疎遠にされている僕たちは、ぴったりのはまり役だったんだよ」
ずいぶん自嘲気味な発言だが、コルトに不貞腐れている様子はなかった。むしろ、その事を誇らしくさえ思っているみたいだ。ボウエブの表情が、少しだけやわらいだ。
「桜下。僕はむしろ、君に感謝しているんだよ?こそこそ人目を盗んで生きるしかなかった僕に、チャンスをくれたんだ!町の人にも、グラスゴウ伯爵にも、僕が不要な存在だなんて言わせない。僕はここに居ていいんだって、認めさせるチャンスをね」
存在を、認めさせる……か。
「本当に、大丈夫か?」
「大丈夫。きっと、うまくやってみせるよ。えへへ、ほんとのこと言うと、いつかこんな日が来ることを夢見てたんだ。だから、絶対逃しはしないよ。夢を、現実にして見せる」
コルトは、きっぱりとそう言い切った。コルトの言葉には、不思議な説得力があった。ボウエブもいたく感動したようだ。目を見開いて、年甲斐もなく目を潤ませている。
「コルト、さん……いえ、コルト様。私も、私もあなたのようになりたい。悪党の手先などではなく、堂々と表を歩けるような存在に……」
「うん。もちろんだ、ボウエブさん」
コルトはにこりとほほ笑むと、立ち上がって、ボウエブの前まで歩いて行った。そしてその肩に、ぽんと手を置く。
「あなたのことは、桜下たちから聞きました。犯した罪は消えないけれど、僕を助け、この町に豊かさを取り戻すことで、それの償いになると思ってほしい」
「ですが……本当によいのですか。私は、邪悪なネクロマンサーです。こんな私に、コルト様の手助けなど……」
「そんなこと、僕は気にしないよ。桜下だってネクロマンサーだし、僕はセカンドミニオンだ。どんな力を持っているかは関係ないよ。大事なのは、それをどう使うかなんだからね」
「うぅ……コルト様……」
とうとうボウエブは、顔を覆っておいおいと泣き出してしまった。コルトがその背中をぽんぽんと叩く。感動的なシーンだが、フランは見ちゃいられないという顔をしていた。
まぁ確かに、ボウエブは元グラスゴウ家の手下だ。調子のいいことを言っているが、いつ裏切るかもわからない……けど、俺はなんとなく、大丈夫な気がしていた。聞いたところによると、グラスゴウ伯爵は、ボウエブの名前すらきちんと憶えていなかったんだろ?でもコルトは、きちんと彼の名を呼んでいる。どっちの方がいいか、考えればわかるはずだ。
「……わかった。コルト、ボウエブ。お前たちを信じるよ。もう不安がるのは、やめにする」
俺がそう言うと、コルトはこちらを見て、にこりとほほ笑んだ。ボウエブはまだ鼻をぐずぐずすすっている。
「うん。その方が、僕も嬉しいよ。じゃないと、気持ちよく見送りもできないからね……すぐ、行っちゃうんだろう?」
「ああ。この町には、俺たちが探してた人はいないみたいだしな……」
結局、エラゼムの探し人は見つからなかった。それどころか、わずかな手がかりさえ失ってしまったのだが……だからこそ、俺たちは旅を続けなきゃならない。
「そっか……うん。それじゃあ、今夜はゆっくり休んでいってよね。といっても、ここは僕の家じゃないけど……」
すると、感動から立ち直ったボウエブが、ぐいっと目元を拭って立ち上がった。
「いえ、今日から私の所有物は、すべてコルト様のものです。皆様のことも、お客人としてもてなさせていただきます」
そう言うとボウエブは、甲斐甲斐しく俺たちを世話してくれた。命を救われ、奴隷の身分から解き放たれたことで、憑き物が落ちたらしい。
「ほんと、調子いいんだから……」
フランがぼそりとつぶやいたが、俺はそんなに悪い気はしなかった。
つづく
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