じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
7-2
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ファルマナは薄く微笑むと、眼鏡を中指で押し上げてから、静かに語りだした。
「私の見解では、人間は死者に対して、戦力としての役目を期待するようだ。戦いのための兵士としてだね」
うん、間違っていないと思う。俺が命を狙われたのも、そういう理由からだろう。
「対して、ドワーフが死者をよみがえらせるのは、彼ら自身のためだ」
「え?死者のため?……身辺整理とかってことか?」
「いや、そうじゃないよ。桜下、君は死霊というものが、そもそもどういう存在なのだと思っているんだい?」
おっと、急に質問か。だが、ファルマナはどちらかと言うと、純粋に興味として聞いてきているみたいだった。なら……
「うーん……ようは、死んでなお、思いを遺してる連中ってことだろ?恨みとか、後悔とか」
「さすがだね。その通りだ」
ファルマナは満足そうにうなずいた。
「死霊とは、みな未練を抱えている者たちだ。彼らのためとはすなわち、その未練を解消する手伝いと言う意味だよ。ところで話は変わるが、ドワーフという種族は、非常に死霊となりやすい性質を持っている生き物なんだ」
「えっ?そうなのか?」
「ドワーフの根源、魂に刻まれた欲望。それは、地の底への探求心だ。私たちはみな、死の直前にどうしても夢見てしまう。深い地の底を、何の制限もなく、思い切り掘り進めてみたいと……」
「え。じゃあ、まさか」
「うん。私の役割とは、死したドワーフをよみがえらせて、地の底へと送り出すことなんだ」
なんてこった。まさか、そこまでしてまで……アニが言っていた、ドワーフは穴掘りに固執する特徴があるっていうのは、ほんとにそのまんまだったわけだ。
「“淵源の穴”と呼ばれる、もっとも深く、危険で、神秘的な坑道がある。常に灼熱の高温と、有毒な煙が充満する、命ある者は決して留まれない場所だよ。ドワーフたちは、その生を終えると、淵源の穴に挑む権利を与えられるんだ。焼け付く空気に肉はただれ、毒の煙によって骨まで解かされるから、文字通りそこが終の墓場となるけれどね。そうやって少しずつ、淵源の穴は深さを増していったんだ。何人も、何世代も、何世紀もかけて……ドワーフたちは、いつか先代たちが遺した成果を見ることに憧れながら、その生涯を過ごしていくんだよ」
「へぇー……なんだか、ちょっと素敵だな。死んだ後にも、お楽しみが残ってるなんて」
「そうだろう?だからドワーフは、日々を力強く生きていけるんだ。自分の生が、とても価値あるものだと知っているからね」
価値ある生、か……いい話だな。同時に、俺の胸の片隅が、ちくりと痛んだ。けど、どうしてだろう?理由は分からなかった。
「……とまあ、これがドワーフの死霊術師の役割だ。今度は、私からも質問させてほしいな。君は、どうして能力を使うんだい?」
「俺、か?俺は……」
どうして、か。自分の力を何のために使うかなんて、考えたこともなかったな。
「……俺は、自由になりたいんだ。ネクロマンサーだとか、アンデッドだとか、そんなことは気にしなくてもいいような、自由な居場所が欲しいんだ」
「君は、自由のために、死霊術を使うと?」
「……たぶん、そう言うことだと思う。これって、結局私利私欲のためなのかな?あんたみたいに、誰かのためじゃないけれど……」
「いや、結局私も、誰かの欲望を叶える手助けをしているに過ぎない。もしも私が死んだならば、別の術師に送り出してもらうつもりだしね。もし君が、そこに高尚か低俗かという差を感じているのだとしたら、そこに差はまったくない」
「そう、なのかな?」
「そうとも。ただ術者によっては、やはり低俗な目的のために力を使う者もいる。私は今まで、人間の死霊術師を三人見たことがある。一人は君、一人は勇者のパーティー」
どきっ。勇者の、パーティーだって?それ、俺じゃないよな?うん、きっと俺よりも前の勇者だろう。
「そしてもう一人は、護送中の罪人だった」
「あ、ああ……それは、低俗にもなるだろうな」
「その通り。そこに差が生まれるとしたら、それは願いの純度の差だと私は思う」
「願いの……純度?」
「そう。そこが曇れば、死霊との絆は薄れ、脆いものになっていく。その点では、君たちはとても強い絆で結ばれているようだ。なに、見ればわかる」
ファルマナは俺の隣、フランを見てほほ笑んだ。フランは頬を少しだけ赤らめると、ファルマナの緑の瞳を睨み返した。絆……か。前、エラゼムにも似たようなことを言われたな。その時は信じきれなかったけど、こう何度も言われると、本当のことなのかと思いたくなってくる。
「ファルマナ。あんたには俺たちの繋がりが、見ただけで分かるのか?」
「分かるとも。信用できないかい?なら、もっとはっきり見てみようか。桜下、君の右手を貸してくれないかい?」
右手を?俺は自分の右手を見下ろした。ディストーションハンドを使うとき、俺とアンデッドとを繋ぐ架け橋となるのが、この手だ。
俺は無言で、ファルマナに右手を差し出した。ファルマナも右手を伸ばすと、手のひらと手のひらを重ね合わせた。握るとかじゃない、本当に触れ合わせるだけだ。ファルマナは眼鏡の奥で目を閉じて、しばらくじっとしていた。
「……なるほど。君たちは、かなり深い所まで、魂を重ね合わせているんだね」
「え?それは……?」
「死霊の心を見たんだろう?魂の中へと」
心……王都でのことを言っているのか?どうやったのか自分でもわからないが、俺は一度だけ、ウィルの心の中に潜ったことがある。
「ああ……自分でも、方法はわからないけど」
「なるほど、無意識下でやってのけたんだね。君は、とても強い力を持っているようだ……そして、魂の同化は、死霊術師の中でも特に強く、そして深く死霊と結びつかなければ、行うことはできない業なんだよ。それができることが、証拠となるんじゃないかな」
ファルマナは目を開けると、合わせていた手のひらを離した。難しいわざ、か。俺、知らぬ間に、けっこうすごいことをやっていたんだな。
「ところで、君は最近、なにか病気でもしたのかい?」
「えっ、なんでそれを」
「ほんの少しだけど、君の気の流れが乱れていたからだよ」
ひえー、手を合わせただけで、そんなことまでわかるのか?フランはハッとすると、ぐっと身を乗り出して、俺の顔をジロジロ伺った。どうやら、またやせ我慢していると思われたらしい。違う違うと、俺はぶんぶん首を横に振った。
「どうやら、あたりのようだね。心配することはない、生活に支障をきたすことはないほど、小さな乱れだよ」
「あ、そうなのか。ほらフラン、聞いただろ。大丈夫だよ……けど当たってるよ、ファルマナ。ここに来る直前、ちょっとひと悶着あったんだ。仲間にずいぶん助けられた」
フランにも、ウィルにも、エラゼムにも、ライラにも、心配をかけてしまった。小さなため息をこぼすと、ファルマナはついっと片眉を上げた。
「なにか、悩んでいるのかい?」
「悩みというか……今は少しだけ、凹んでるかな。俺もみんなを守れるくらい、強くなれたらいいのにって。ほら、ネクロマンサーって、あんまり前衛向きじゃないだろ?」
「ふむ……私は、戦いに関しては詳しくないけれど。けれど、死霊術の先を往くものとしては、もしかしたら助言ができるかもしれないね」
え?俺は思わず、ファルマナの緑の瞳を見つめた。
「あんた、なにか知ってるのか?わざとか、テクニックみたいな」
けどそうか。自分で言っていて気付いたが、ファルマナはドワーフだ。ドワーフはみな長寿であり、ということはファルマナって、ネクロマンサーの大先輩ということになるじゃないか。
「簡単なアドバイスくらいなら、ね。あまり具体的ではないかもしれないけど……」
「お、教えてくれ!俺、もっと強くなりたいんだ!」
俺は真剣なまなざしで、ファルマナを見つめた。いつかの夜に誓ったことだ。仲間たちは頼りにしているけれど、守られてばかりじゃなくて、俺だってみんなを守りたい。
「……いいだろう。と言っても、本当に簡単なことだけだよ。私も大概独学だから、偉そうに教えられることもないんだ」
「それでもいい。頼む」
「わかった。じゃあ桜下、もう一度右手を貸してくれるかな」
俺はすぐに、右手を差し出した。ファルマナは、今度は両手で俺の手を掴んだ。節が目立つ指が、俺の手にあてがわれ……
「ふっ」
「あいっっっっったぁ!?」
ぐわあああ!み、右腕に、電流が走った!?あまりの痛さに、俺は思わず座ったまま飛び上がり、となりで見ていたフランもぴくっと肩を揺らした。
「なっ。な。な……?」
「少しだけ、ツボを押させてもらったよ。これで前よりも、魔力の流れがよくなるはずだ」
つぼ……?俺は自分の右手を見つめた。痛みがまだ残っていて、プルプル震えているんだが……
「これで、強くなれるのか……?」
「いや、これはあくまで準備に過ぎない。結局のところ、能力は使わなければ成長しないからね。ただ、前よりも効率よく能力が使えるようになったはずだよ」
な、なるほど……?俺の能力は右手主体だから、つぼ押しの場所も間違っちゃない気もする。
「では、その上でどう死霊術を使っていくかだけど。桜下、魂だ。死霊の魂に、君の魂を重ねるんだよ」
「たま、しい?」
「ああ。君くらいの域にいれば、死霊たちの魂の波長を感じることができるはず。それに合わせることを意識してごらん。うまくいけば、君は死霊術の、“さらなる可能性”を引き出すことができるかもしれない」
「死霊術の、可能性……」
「もちろん、リスクも伴うよ。死霊と同調するということは、それだけ死に近づくということだからね。その覚悟があれば、の話だけれど……」
試すような目で、ファルマナは俺を見据えた。ほほう、いいじゃないか。それなら、俺は……
「へっ、上等だ。今のままで死に怯えるくらいなら、こっちから飛び込んでやるさ」
「……そうかい」
俺の返答に、ファルマナはそれしか言わなかったが、口元には満足そうに微笑みを浮かべていた。
「ならば、桜下。もう一つだけ、助言をしよう。さっきまでの話を聞いて、君はとても強い力を持った術者だという事は分かった。だけど、“死霊術師の覚悟”について、考えた事はあるかな」
「え?それは、さっきの事じゃなくってか?願いの純度がどうとか……」
「それだけじゃないんだ。君たちは、とても仲がいいみたいだけど……でも、時として、それは枷になるかもしれないんだよ」
「え?枷って……それっていったい……?」
「君ならそのうち分かると思うよ。大丈夫、きっとうまくいくさ。いいかい?魂と、覚悟。その二つを覚えておいてくれ」
「はぁ……」
ファルマナはにこにこ笑うばかりで、それ以上は話してはくれないみたいだった。死霊術師の覚悟……いったい、どういうことなんだろう?
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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ファルマナは薄く微笑むと、眼鏡を中指で押し上げてから、静かに語りだした。
「私の見解では、人間は死者に対して、戦力としての役目を期待するようだ。戦いのための兵士としてだね」
うん、間違っていないと思う。俺が命を狙われたのも、そういう理由からだろう。
「対して、ドワーフが死者をよみがえらせるのは、彼ら自身のためだ」
「え?死者のため?……身辺整理とかってことか?」
「いや、そうじゃないよ。桜下、君は死霊というものが、そもそもどういう存在なのだと思っているんだい?」
おっと、急に質問か。だが、ファルマナはどちらかと言うと、純粋に興味として聞いてきているみたいだった。なら……
「うーん……ようは、死んでなお、思いを遺してる連中ってことだろ?恨みとか、後悔とか」
「さすがだね。その通りだ」
ファルマナは満足そうにうなずいた。
「死霊とは、みな未練を抱えている者たちだ。彼らのためとはすなわち、その未練を解消する手伝いと言う意味だよ。ところで話は変わるが、ドワーフという種族は、非常に死霊となりやすい性質を持っている生き物なんだ」
「えっ?そうなのか?」
「ドワーフの根源、魂に刻まれた欲望。それは、地の底への探求心だ。私たちはみな、死の直前にどうしても夢見てしまう。深い地の底を、何の制限もなく、思い切り掘り進めてみたいと……」
「え。じゃあ、まさか」
「うん。私の役割とは、死したドワーフをよみがえらせて、地の底へと送り出すことなんだ」
なんてこった。まさか、そこまでしてまで……アニが言っていた、ドワーフは穴掘りに固執する特徴があるっていうのは、ほんとにそのまんまだったわけだ。
「“淵源の穴”と呼ばれる、もっとも深く、危険で、神秘的な坑道がある。常に灼熱の高温と、有毒な煙が充満する、命ある者は決して留まれない場所だよ。ドワーフたちは、その生を終えると、淵源の穴に挑む権利を与えられるんだ。焼け付く空気に肉はただれ、毒の煙によって骨まで解かされるから、文字通りそこが終の墓場となるけれどね。そうやって少しずつ、淵源の穴は深さを増していったんだ。何人も、何世代も、何世紀もかけて……ドワーフたちは、いつか先代たちが遺した成果を見ることに憧れながら、その生涯を過ごしていくんだよ」
「へぇー……なんだか、ちょっと素敵だな。死んだ後にも、お楽しみが残ってるなんて」
「そうだろう?だからドワーフは、日々を力強く生きていけるんだ。自分の生が、とても価値あるものだと知っているからね」
価値ある生、か……いい話だな。同時に、俺の胸の片隅が、ちくりと痛んだ。けど、どうしてだろう?理由は分からなかった。
「……とまあ、これがドワーフの死霊術師の役割だ。今度は、私からも質問させてほしいな。君は、どうして能力を使うんだい?」
「俺、か?俺は……」
どうして、か。自分の力を何のために使うかなんて、考えたこともなかったな。
「……俺は、自由になりたいんだ。ネクロマンサーだとか、アンデッドだとか、そんなことは気にしなくてもいいような、自由な居場所が欲しいんだ」
「君は、自由のために、死霊術を使うと?」
「……たぶん、そう言うことだと思う。これって、結局私利私欲のためなのかな?あんたみたいに、誰かのためじゃないけれど……」
「いや、結局私も、誰かの欲望を叶える手助けをしているに過ぎない。もしも私が死んだならば、別の術師に送り出してもらうつもりだしね。もし君が、そこに高尚か低俗かという差を感じているのだとしたら、そこに差はまったくない」
「そう、なのかな?」
「そうとも。ただ術者によっては、やはり低俗な目的のために力を使う者もいる。私は今まで、人間の死霊術師を三人見たことがある。一人は君、一人は勇者のパーティー」
どきっ。勇者の、パーティーだって?それ、俺じゃないよな?うん、きっと俺よりも前の勇者だろう。
「そしてもう一人は、護送中の罪人だった」
「あ、ああ……それは、低俗にもなるだろうな」
「その通り。そこに差が生まれるとしたら、それは願いの純度の差だと私は思う」
「願いの……純度?」
「そう。そこが曇れば、死霊との絆は薄れ、脆いものになっていく。その点では、君たちはとても強い絆で結ばれているようだ。なに、見ればわかる」
ファルマナは俺の隣、フランを見てほほ笑んだ。フランは頬を少しだけ赤らめると、ファルマナの緑の瞳を睨み返した。絆……か。前、エラゼムにも似たようなことを言われたな。その時は信じきれなかったけど、こう何度も言われると、本当のことなのかと思いたくなってくる。
「ファルマナ。あんたには俺たちの繋がりが、見ただけで分かるのか?」
「分かるとも。信用できないかい?なら、もっとはっきり見てみようか。桜下、君の右手を貸してくれないかい?」
右手を?俺は自分の右手を見下ろした。ディストーションハンドを使うとき、俺とアンデッドとを繋ぐ架け橋となるのが、この手だ。
俺は無言で、ファルマナに右手を差し出した。ファルマナも右手を伸ばすと、手のひらと手のひらを重ね合わせた。握るとかじゃない、本当に触れ合わせるだけだ。ファルマナは眼鏡の奥で目を閉じて、しばらくじっとしていた。
「……なるほど。君たちは、かなり深い所まで、魂を重ね合わせているんだね」
「え?それは……?」
「死霊の心を見たんだろう?魂の中へと」
心……王都でのことを言っているのか?どうやったのか自分でもわからないが、俺は一度だけ、ウィルの心の中に潜ったことがある。
「ああ……自分でも、方法はわからないけど」
「なるほど、無意識下でやってのけたんだね。君は、とても強い力を持っているようだ……そして、魂の同化は、死霊術師の中でも特に強く、そして深く死霊と結びつかなければ、行うことはできない業なんだよ。それができることが、証拠となるんじゃないかな」
ファルマナは目を開けると、合わせていた手のひらを離した。難しいわざ、か。俺、知らぬ間に、けっこうすごいことをやっていたんだな。
「ところで、君は最近、なにか病気でもしたのかい?」
「えっ、なんでそれを」
「ほんの少しだけど、君の気の流れが乱れていたからだよ」
ひえー、手を合わせただけで、そんなことまでわかるのか?フランはハッとすると、ぐっと身を乗り出して、俺の顔をジロジロ伺った。どうやら、またやせ我慢していると思われたらしい。違う違うと、俺はぶんぶん首を横に振った。
「どうやら、あたりのようだね。心配することはない、生活に支障をきたすことはないほど、小さな乱れだよ」
「あ、そうなのか。ほらフラン、聞いただろ。大丈夫だよ……けど当たってるよ、ファルマナ。ここに来る直前、ちょっとひと悶着あったんだ。仲間にずいぶん助けられた」
フランにも、ウィルにも、エラゼムにも、ライラにも、心配をかけてしまった。小さなため息をこぼすと、ファルマナはついっと片眉を上げた。
「なにか、悩んでいるのかい?」
「悩みというか……今は少しだけ、凹んでるかな。俺もみんなを守れるくらい、強くなれたらいいのにって。ほら、ネクロマンサーって、あんまり前衛向きじゃないだろ?」
「ふむ……私は、戦いに関しては詳しくないけれど。けれど、死霊術の先を往くものとしては、もしかしたら助言ができるかもしれないね」
え?俺は思わず、ファルマナの緑の瞳を見つめた。
「あんた、なにか知ってるのか?わざとか、テクニックみたいな」
けどそうか。自分で言っていて気付いたが、ファルマナはドワーフだ。ドワーフはみな長寿であり、ということはファルマナって、ネクロマンサーの大先輩ということになるじゃないか。
「簡単なアドバイスくらいなら、ね。あまり具体的ではないかもしれないけど……」
「お、教えてくれ!俺、もっと強くなりたいんだ!」
俺は真剣なまなざしで、ファルマナを見つめた。いつかの夜に誓ったことだ。仲間たちは頼りにしているけれど、守られてばかりじゃなくて、俺だってみんなを守りたい。
「……いいだろう。と言っても、本当に簡単なことだけだよ。私も大概独学だから、偉そうに教えられることもないんだ」
「それでもいい。頼む」
「わかった。じゃあ桜下、もう一度右手を貸してくれるかな」
俺はすぐに、右手を差し出した。ファルマナは、今度は両手で俺の手を掴んだ。節が目立つ指が、俺の手にあてがわれ……
「ふっ」
「あいっっっっったぁ!?」
ぐわあああ!み、右腕に、電流が走った!?あまりの痛さに、俺は思わず座ったまま飛び上がり、となりで見ていたフランもぴくっと肩を揺らした。
「なっ。な。な……?」
「少しだけ、ツボを押させてもらったよ。これで前よりも、魔力の流れがよくなるはずだ」
つぼ……?俺は自分の右手を見つめた。痛みがまだ残っていて、プルプル震えているんだが……
「これで、強くなれるのか……?」
「いや、これはあくまで準備に過ぎない。結局のところ、能力は使わなければ成長しないからね。ただ、前よりも効率よく能力が使えるようになったはずだよ」
な、なるほど……?俺の能力は右手主体だから、つぼ押しの場所も間違っちゃない気もする。
「では、その上でどう死霊術を使っていくかだけど。桜下、魂だ。死霊の魂に、君の魂を重ねるんだよ」
「たま、しい?」
「ああ。君くらいの域にいれば、死霊たちの魂の波長を感じることができるはず。それに合わせることを意識してごらん。うまくいけば、君は死霊術の、“さらなる可能性”を引き出すことができるかもしれない」
「死霊術の、可能性……」
「もちろん、リスクも伴うよ。死霊と同調するということは、それだけ死に近づくということだからね。その覚悟があれば、の話だけれど……」
試すような目で、ファルマナは俺を見据えた。ほほう、いいじゃないか。それなら、俺は……
「へっ、上等だ。今のままで死に怯えるくらいなら、こっちから飛び込んでやるさ」
「……そうかい」
俺の返答に、ファルマナはそれしか言わなかったが、口元には満足そうに微笑みを浮かべていた。
「ならば、桜下。もう一つだけ、助言をしよう。さっきまでの話を聞いて、君はとても強い力を持った術者だという事は分かった。だけど、“死霊術師の覚悟”について、考えた事はあるかな」
「え?それは、さっきの事じゃなくってか?願いの純度がどうとか……」
「それだけじゃないんだ。君たちは、とても仲がいいみたいだけど……でも、時として、それは枷になるかもしれないんだよ」
「え?枷って……それっていったい……?」
「君ならそのうち分かると思うよ。大丈夫、きっとうまくいくさ。いいかい?魂と、覚悟。その二つを覚えておいてくれ」
「はぁ……」
ファルマナはにこにこ笑うばかりで、それ以上は話してはくれないみたいだった。死霊術師の覚悟……いったい、どういうことなんだろう?
つづく
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読了ありがとうございました。
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