じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

14-2

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梯子をつたって、階段を下り、空き家を出て人気のない通りに出たところで、ウィルはようやく口を開いた。

「……桜下さん。さっきのことは、皆さんにはナイショにしましょう?」

「え?なんのことだ?」

「桜下さんが、みんなと家族になろうって言ってくれた、あれです。そのことは本当に嬉しかったですし、私もそうなったらいいなって思っているんですけど……まだ、みんなを巻き込むのは申し訳ないし、少し不安なんです」

「そうか……ウィルがいいなら、いいけれど……」

「ええ。当面の間は、それで十分です……桜下さんがいてくれれば。私は、十分嬉しいですから」

「そ、そっか」

面と向かって言われると、ちょっと恥ずかしいな。

「それと……あんまり、女の子にああいうことを言っちゃダメですよ?」

「え?」

「だって、本気にされたらどうするんですか。あんなの、ほとんどプロポーズみたいなものですよ。桜下さんには、フランさんがいるでしょう?」

「ああ、そうだな……え?ちょっと待て、それはどういう意味だ?」

「え?だって、好きなんでしょう。フランさんのこと」

さも当然の事実かのように、ウィルはさらりと言った。

「え、えぇ!?いや、好きか嫌いかで言ったら間違いなく好きだけど、それはどっちかっていうと、家族としての好きというか……」

「え?そうなんですか?だって、誰がどう見ても相思相愛じゃないですか。あんなにしょっちゅうイチャイチャしてたのに」

「い、イチャイチャって……フランだって、そうは思ってないだろ。懐いてくれてるとは思うけど、勘ぐり過ぎだって」

「……それ、本気で言ってます?冗談じゃなくて?」

「え?うん、そうだけど……」

するとなぜか、ウィルは大きなため息をついた。む、失礼な奴だな。確かに俺の恋愛経験はまっさらさらだけど、だからと言って友情と愛情を履き違えるほど、無粋な男じゃないんだぞ。

「フランさん、かわいそう……同情します」

「な、なんだよ。なんか間違ってるか?」

「もーいーです!それより、さっきのことも含めて、ぜったいナイショですからね。私は救われましたけど、それでフランさんを傷つけるような事は、したくありませんから」

なんだかよくわからないけど、ウィルが言うのならそうなんだろう。オトメゴコロに関しては、俺よりウィルの方が詳しい。

「でも、そうなんですねぇ。私てっきり、桜下さんも惚れこんでるんだと思ってましたけど。フランさん、かわいいですよね?」

「ま、まぁ、な」

「それなのにですか?かわいいし、スタイルもあの年齢にしては破格ですよね。腰は細いし、出るとこ出てるし……おまけに桜下さんにべったりだし。好きにならない理由がわからないなぁ。私が男の子だったら、ぜったい恋に落ちちゃいますよ」

「うるさいな。もういいだろ、その話は」

「えー?せっかくだから、もう少し話しましょうよ。私、男の子とこういうこと、話したことなかったんですよね。いいじゃないですか、私たち家族でしょう?」

「家族でも、こんな話しねーよ!」

くすくすと、楽し気にウィルは笑う。まったく……でも、いつもの調子に戻ってきたな。このほうが、俺たちらしいや。
早朝の通りには、人影は全く見えない。おかげで、堂々とウィルと話しながら歩けるけど、町は少しずつ目覚め始めているみたいだ。どこからか、朝食のパンを焼くにおいが漂ってきた。もうじきすれば、ここも活気あふれる通りになるのだろう。
俺はなんとはなしに、立ち並ぶ店に目を向けて歩く。店は開いてはないが、軒先を覗くだけで何の店かは予想がついた。木のバケツがたくさん並んだ花屋、巻物みたいな布が積まれた生地屋、瓶がたくさん置かれているのは、香水を売っているのだろうか?
その中でもひときわこじゃれた、ガラスのショーウィンドウを構えたブティックの前を通り過ぎたときだ。ウィルが、飾られた色とりどりのドレスをちらりと眺めて、それとは分からないくらい小さく、ため息をついた。

(そういえば、ちょっと前もこんなことが……)

確か、打ち上げに向かう途中のことだ。すれ違った町娘の服を見て、ウィルはしょんぼりとため息をついていたっけ。あの時は、何て言ったらいいのか分からなかったけど……

「……ウィルも、きれいだぞ」

「えっ?どうしたんですか、突然……」

「フランもたしかに美人だけど。ウィルだって、金髪はさらさらできれいだし、たれ目も優しそうでいいと思う。うん。それに、その修道服だって、似合ってる、と思う……」

「……桜下さん、何か悪い物でも食べました?」

「……」

かぁー!こいつは!俺がせっかく、なけなしの知識を動員して、オトメゴコロの理解にいそしんだというのに!やめたやめた、やっぱり慣れないことは…………?

「……ウィル?お前、どうしたんだ?」

「へっ。な、何がですか?」

ウィルは、平然としたふりをしていたけれど。そのくせ、フードから除く顔は、まっかっかに染まっていた。

「……ぷっ。あっはっはっは!ウィル、意外とかわいい所もあるんだな」

「なっ。や、やめてください!笑わないで!」

「くくく……」

「桜下さん!」

ひとしきり笑うと、ウィルはフードの両端を掴んで、すっかりむくれてしまった。

「いいですよ、好きに笑えばいいじゃないですか!乙女の心をもてあそんで、そんなに楽しいんですね!」

「あはは、悪かったって。けど別に、からかおうと思って言ったわけじゃないからな。いちおう」

「あ、そ、そうなんですか……」

「いちおう、な。それにさ、こういうことって、口に出さなきゃ伝わらないし。俺は口下手だから、あんまりこういうのには慣れてないんだけど、それでも少しは、ちゃんと伝えたほうがいいなって思ったんだ」

「……確かに、その通りかもしれませんね。私も、もっと早く相談できていれば、あんなに悩むこともなかったでしょうし」

「だよな。だから、変な遠慮はすんなよ。家族って、そういうもんだろ」

「……はい。ありがとう、ございます」

陽が高く昇ってきた。朝の陽ざしは、やわらかく暖かい。町全体が、金色の光を放っているみたいだった。俺たちの足取りは軽く、あっという間に、王城が見えてきた。森を抜けると、城門へと続く跳ね橋が見えてくる。
ところで、城門の前に、数人の人影が見えるんだけど……

「……へへへ。どうやら、出迎えがいるみたいだな」

「え?」

目を凝らさなくてもわかる。ずっと一緒に旅をしてきた奴らだからな。

「あ……」

「ははは。おーい!」

俺はみんなに手を振った。向こうもこちらに気付いたようだ。その中の一人が、我慢できずに飛び出した。

「おねーちゃーん!おうかー!」

真っ赤なくせっ毛をめちゃくちゃに振り乱して走る姿を見て、俺とウィルは揃ってふき出した。

「ウィル、行こうぜ!」

「ええ!」

俺たちは手をつないで、仲間たちの下へと走り出した。



十章へつづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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