じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

8-3

8-3

さて、兵士たちは数名ほどいたが、その中の一人……切れ長の目の兵士に、見覚えがあるな。確か、どっかで会った……

「あ、思い出した。ウィルが憑依した兵士」

「憑依だと!?」

切れ目の兵士は、憑依という単語に敏感に反応した。やっぱりだ、前にラクーンの町を突破した際、キーパーソンになった男だった。確か、名前は……

「……ヘイズさん、だっけ?」

「……あぁ!?お、お前は!」

向こうも、俺の顔を見て思い出したようだ。細い目をカッと見開いている。ま、そういうリアクションになるよな。俺たちが最後に会ったときは、お互い敵同士だったんだし。

「なんでお前がここに……いや、まて。そうか、昨日騒ぎを起こしたのは、お前の仲間か!」

「まあ、そうなんだけど。あれ、エドガーから聞いてるよな?今はここで厄介になってるんだ」

ヘイズは、歯をぎりぎりと噛みしめて、唸るように言う。

「ああ。変わり者が加わったから、注意をしておけと言われていた。なるほど、お前だったとはなァ……」

「ははは……久しぶり」

うわぁ。ここで会ったが百年目、とか言い出さないよな?相当根に持たれているようだ……だけど、少し様子がおかしい。ヘイズの目はしきりにあたりの虚空を見回していて、俺のことはあまり意識してはいないみたいだった。

「……?」

「お前……またどこかにゴーストを連れてるのか?」

「え?」

「とぼけんな!前にオレに憑依させただろうが!二度と同じ手は食らわないぞ!」

ああ、そういう。どうやらヘイズは、あれ以来、幽霊恐怖症になってしまったらしい。いきさつを考えるとちょっと申し訳ないけれど、あの時は俺も命を狙われていたんだ。お互い様だよな。

「今日は、あいつはいないよ。それに、誰かに憑依させるつもりもない」

「本当だろうな?見えないからって、適当言うなよ」

「ほんとだってば。それより、あんたがここの監督なのか?」

「あ?ああ、そうだ。ここはオレが取り仕切っている」

「それじゃ、ちょっと話を聞いてくれないか。俺の仲間の魔術師が、提案があるそうなんだ」

俺は、隣で身を小さくしているライラの背中を、ポンと押した。

「ほれ、ライラ」

「う、うん……あの、ライラに考えがあるんだけど」

「なに?門の修復のってことだよな?それならたった今、ギルドの魔法使いの意見がまとまったところだ。風の魔法で、少しずつ慎重に解体していくしかないだろうとさ」

「でも、それだとすっごく時間が掛かっちゃうでしょ?ライラなら、そんなことせずに、一瞬で片付けられるよ」

「はぁ?」

ヘイズが目つきの悪い眼で睨むと、ライラはびくりと、俺の陰に隠れてしまった。こういうタイプは苦手みたいで、目を合わせようとしない。
けどまぁ、ヘイズが疑うのも無理はないか。何も知らなけりゃ、女の子が見栄を張っているだけにも見えるもんな。
ふふん、だがしかし。ここ王都においては、まさにうってつけなエピソードがあるのだ。

「あー、なぁヘイズ。この前の戦いでの、俺たちの活躍は知ってるかな?」

「……癪なことにな。王城に仕えていて、お前たちのことを知らん奴はモグリだ」

「へー、それは光栄……それで、じゃあその日の夜、大竜巻が敵のモンスターを全部吹っ飛ばしたってのも、もちろん?」

「知ってる。それがどうし……」

そこでヘイズは、はっとした。俺の言いたいことが分かったらしい。そういや、こいつは頭の回転がめっぽう速かった。そのせいで、ラクーンでは大いに苦しめられたもんだ。

「まさか、その子が、か?」

「ご名答。そういうわけだから、腕は折り紙付きだよ。エドガーがこの子をここに派遣したのも、そのためだ」

ライラは自分の武勇伝を披露され、誇らしげに薄い胸を張っている。人見知りが薄れ、普段の尊大な調子が戻ってきたな。

「なるほど、な……にわかには信じられねぇけど、あの竜巻を起こせる術者はそうはいないか」

「だから、ライラに任せてみてくれないか?工程が大幅短縮できるんだ、悪い話じゃないはずだぜ」

「ふむ……」

ヘイズは切れ長の目で、じっとライラを見つめる。

「……ダメだな」

「えっ。なんで」

「いくら凄腕の魔術師だろうが、たった一人の腕にすべてを任せることはできない。ここの工事は、一歩間違えば大惨事につながりかねん危険なもんだ。そんな大きなリスクは取れない」

ぬぅ。さすがに、はいそうですとはいかないか。確かに、ハイリスクなのは俺も理解している。万が一城壁が崩れでもしたら、とんでもない被害がでるだろう。ヘイズもさすがに、その辺は譲れないようだ。

「リスク……」

ライラが視線を落として呟く。

「……じゃあ、安全ならいいんだよね?」

「なに?まあ、そりゃそうだが」

「わかった。他の魔術師に伝えておいて。念のため、呪文の準備をしておけって」

「は?おい待て、どういうことだ?おい!」

ヘイズの返事も聞かず、ライラは俺の手を取ると、ずんずんと歩き出した。

「お、おいライラ。どうするつもりなんだ?」

「絶対安全な状態を作ったうえで、まほーを使う。それなら、誰も文句を言わないでしょ」

「そう、かもしれないが……どうするんだ?」

「ライラだけじゃダメ。アイツの力も借りないと」

「あいつ?」

ライラに手を引かれるまま、俺はヘイズや魔術師たちから離れ、ポツンとたたずむ小さな掘っ建て小屋に連れていかれた。

「ここに、誰かいんのか?」

「うん。ずっとここでサボってるんだよ」

サボってる?あれ、そういえば。ここにいるはずの、もう一人の姿をずっと見ていない……

「ちょ、ちょっと。人聞きの悪い事言うんじゃないわよ!」

声は屋根の上から聞こえてきた。バサー!マントを翻して、屋根から黒髪のヴァンパイアが飛び降りてきた。

「なんだ、アルルカか。お前、こんなとこで何してたんだ?」

「い、いやねえ。サボってるわけないじゃない。屋根の上から、現場を俯瞰的に視察してたのよ」

「俯瞰って。直そうとしてるのは城門じゃないか。思いっきり見上げるんだけど?」

「あ……こ、言葉の綾ってヤツ?」

はぁ、しょうがないな。しかし、アルルカには昨日の実績があるから、あまり強く言えない。

「それでライラ、お前が力を借りるっていのは、アルルカのことか?」

「そう。こいつのまほーは、使えるよ」

俺たちの会話に、アルルカは怪訝そうな顔をしている。ライラは壊れた城門を指さすと、アルルカのほうを見ながら言った。

「これから、あの門の周りの壁をどかすから。お前のまほーで、崩れないように固めて」

「は?意味わかんないんだけど」

「お前、氷属性が使えるんでしょ。氷属性は地属性と相性がいいから、十分な強度を出せるはずだよ」

「んなこと聞いてないわよ!じゃなくて、なんであたしがそんなこと……」

「ほら、始めるよ。準備して」

「聞きなさいよ!こんなクソガキまで、あたしを無視するなんてぇー!!」

ドスドスと地団太を踏むアルルカに、俺は諦めろと、ぽんと肩を叩いた。

「ライラの言う通りにしてやってくれ。これも仕事の内だって」

「お、覚えてなさいよ……次の満月、必ず血をもらうんだからね……!」

ぎりりと睨みつけてくるアルルカに、俺は肩をすくめただけで返事をした。


つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品