じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

3-4

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「うわぁーーーーーー!」

猛烈な風が吹き荒れ、ドームが木端微塵になった。押さえつける物が無くなったカマイタチの魔法は、威力をほぼ保ったまま町へと飛び出す。

「ああー!まずい!!」

あんな威力のある魔法が、誰かに当たりでもしたら……!幸い観客は避難していたが、風の刃は容赦なく、一軒の家の屋根を吹き飛ばした。ドカーン!屋根瓦が木の葉のように吹き飛ぶ。どうか、なかに人がいませんように……
だがその時、一つの奇跡が起きた。何かのはずみでそうなったのか、それとも元々ライラがやや上向きに撃っていたのか。風の刃の軌道は斜め上を向き、最初の一軒の屋根を吹き飛ばした後は、そのまま遥か空の彼方へと吹っ飛んで行ってしまったのだ。

「た、助かった……」

俺たち三人は、抱き合ったまま、その場にへたり込んだ。もしも少しでも下向きに撃たれていたら、今頃俺たちは、自ら救った王都を、自ら壊滅させていたかもしれない……
お祭り騒ぎだった広場は、今は騒然としていた。見物客は一目散に逃げだし、広場の床は戦闘の余波で無残に破壊されている。冷静になってみると……

「ち、ちょっとやりすぎたかな……?」

「あ、あはは……そうかも……」

「みなさーん!」

あ。ウィル、フラン、エラゼムが血相変えてすっ飛んでくる。

「無事ですか!?どこか怪我は……」

「いや、大丈夫だよウィル。ちょっと力が抜けただけというか……」

あはは、と笑うと、ウィルはほっとしたように胸をなでおろした。そして次の瞬間、ウィルがオーガになった。あ、違う。それと同じくらい恐ろしい顔になったんだ。

「……ぬわぁにしてるんですか!!!!」

ビリビリビリ!ウィルの咆哮は、いつかの電撃魔法を思い出す威力だった。思わずすくみ上る俺たち。

「ライラさん!」

「ふひゃ、ひゃい!」

名前を呼ばれ、ライラがぴょんと飛び跳ねて正座する。

「お母さまから教わっていたはずでしょう!あなたの魔法の才能は、使い方を間違えれば恐ろしい結果を招くことになると!」

「だ、だって!あいつをやっつけようと思ったら、あれくらいしないと……」

「嘘おっしゃい!ライラさん、ミラーナルシスの魔法は知っていたでしょう!前に私と練習していたときに、そう言っていましたよね。忘れていませんよ!」

ぴしゃりといいのけられて、ライラが首をきゅっと縮めた。なんだ、ライラはあの幻のタネを知っていたのか。

「あれは水属性の魔法だから、炎属性の魔法で攻撃すれば一瞬で消えると、そう言ってましたよね!」

「だ、だって……それじゃ、すぐ終わってかっこよくないと思ったから……」

「だからって、こんな大騒ぎ起こしていいわけないでしょう!」

「う……」

怒られたライラは、いつもより一回り小さくなって見える。さすがに憐れなので、俺はフォローを入れた。

「ま、まぁまぁ。ライラだって、悪気があったわけじゃないんだし……」

しかし、これが藪蛇だった。ウィルの怒りの矛先は、今度は俺に向いた。

「桜下さん!自分は関係ないみたいな顔してますけど、桜下さんにも責任大ありですからね!」

「え、俺も?」

「当たり前です!ライラさんが撃とうとしている魔法、桜下さんなら分かってたはずですよね!だったら、それがどんな大惨事を起こすかも予想できたはずです!」

「あー……」

そういわれると、そうだ。だから俺はアルルカを呼び戻したわけだし……

「で、でもさ。まさかあのドームが壊れるなんて……」

「だとしても、街中でぶっぱなしていい魔法と悪い魔法があるでしょう!垣根があるから大丈夫って、自分の庭で爆弾に火をつける人がありますか!」

う……まあ確かに。いくら防壁があれど、被害くらいは想像すべきだったな。ライラに威力を弱めさすとか、やりようはあった気もする。

「ともかく!今回の騒動は、あの場にいた全員の連帯責任です!」

「え?あたしも!?」

連帯責任と言われて、アルルカがムッとした顔で腰を上げる。

「冗談じゃないわよ、なんであたしが……」

「きっ!!!!!!」

ウィルにすごまれて、アルルカはすぐに大人しくなった。こいつ、どんどん格が落ちていくな……ウィルのお説教は続く。

「みなさん最近、魔法がただの便利な道具かなにかと勘違いしてるんじゃないですか?魔法は確かに便利ですけど、それと同じくらい恐ろしいものでもあるんです!私は神殿で魔法を教わるとき、何よりもまずその恐ろしさから学ばされました。実際に自分の体で、魔法を受けるんです。ちょっとした魔法、それこそ私のファイアフライだって、その身に受けるととっても怖いんですよ。燃え盛る火の玉が、自分の鼻先、眼球の目の前まで迫るんですからね。じりじりと熱で肌が焼ける感覚といったら、身の毛がよだつほど恐ろしかったですよ。みなさんにそこまでやれとは言いませんが、いい機会なので魔法の怖さについて再確認を……」

俺たち三人は、そろって地べたに正座して、ウィルの説教を受けた……こっちに来てから今まで、いろんなやつに怒鳴られたり罵られたりしたけど、説教されたのは初めてだ……

「……つまりですね、みなさんに言いたいのは……」

俺たちが粛々とウィルに怒られていると、男が二人、血相を変えて、広場の向こうから走ってきた。あれは、確か……さっきの進行役と、最初に俺たちに声をかけてきた、感じの悪い客引きの男だ。あちゃー、まずいな。大会をめちゃくちゃにしちゃったからな、怒ってるかもしれないぞ……

「き、き、きみたち!」

進行役の男が、正座している俺たちの前にガクッと膝をつく。その声は驚きのあまりか、少し震えていた。俺は素直に頭を下げる。

「あの、すみません。こんなことになって……」

「なに?ああ、大会のことか。いや、そんなことはどうでもいいんだ」

「え?いいのか?」

「それよりも、すごい魔法だ!あんなの見たことないよ!」

進行役は、興奮気味に目を見開いて息巻いた……あ、あれ?怒ってるんじゃないの?

「素晴らしい大火力だった!風属性上級魔法のカマイタチ!まさか対魔結界が破られるなんて、思いもしなかった!それに、その直前にマウルヴルフの魔法も使っていたね!ということは、二属性のヘカを有しているわけだ!」

進行役の怒涛のようなトークの勢いに、俺はたちすっかり呑まれてしまった。ライラがかろうじて、こくんとうなずく。

「やっぱりそうか!素晴らしい!それに、君もだ!」

進行役の首がぐりんと動いて、アルルカへと向けられる。

「君は、高速詠唱の技をマスターしているのかい?あれほど素早い氷魔法は初めて見たよ!」

「ふふん、そうでしょう。やっとわらわの偉大さにきづ……」

「それに、君たちの連携も見事だった!」

「ちょっと!ちゃんと聞きなさいよ!」

進行役には、アルルカの文句など耳に入っていないようだった。熱に浮かされたように、繰り返しライラとアルルカの魔術の腕を賛美している。当初とものすごい態度の変わりようだったが、それにしたって、手の平返し過ぎじゃないか?

「いやぁ、おみそれした!ところで、君もなにか魔法が使えるのかな?」

おっと、進行役は俺にも話を振ってきた。しかし、あいにくと俺は魔法に関してからっきしだ。俺がそれを説明しようと口を開きかけた時、ずいっとライラが口をはさんできた。

「そうだよ!桜下は、すっごい術が使えるんだ。なんたって、ライラたちのリーダーなんだから!」

「え?ちょ、ライラ……」

「やっぱりそうか!いやぁー、そうだろうとも。なにせ、二人とも超一流の魔術師だものねぇ!」

進行役はすっかりライラの嘘を信じてしまった。いや、嘘じゃないけど、一部誤解の生じる言い方だと言うか……俺が戸惑いの視線を向けると、ライラは得意げに、ニッと笑った。

「ねえ、じゃあライラたちは優勝ってことでいいの?」

「もちろん、もちろん!文句なしの一等賞ですとも!」

おお、まじか。いろいろヒヤリとすることはあったけど、賞金をもらえるんなら、少なくとも参加したかいはあったってもんだな。



つづく
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