じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
9-3
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マンティコアは、もうすぐそこまで迫ってきている。俺は背後のウィルに叫んだ。
「ウィル!奴の気を引きたい!前にやった、あの幻を出す魔法を頼めるか?」
「メイフライヘイズですね。わかりました!」
ウィルが杖を握って、呪文を唱え始めた。エラゼムは馬の速度を落として、いつでも旋回できるように備える。
「……行きます!メイフライヘイズ!」
シュウウゥゥゥ!ウィルの杖の先端から、揺らめく熱波が吹き出す。ゆらぎはやがて形を変え、ブヨブヨとした肌を持つ、醜い怪物の姿となった。
「うっわ、すげ……マンティコアそっくりじゃないか」
ウィルの造形センスは、超一流らしい。俺たちの目の前に、そっくりなマンティコアがもう一頭出現した。
「さすがに自分と同じ姿を出されたら、あのモンスターも無視できないでしょう!」
ウィルは得意げに笑うと、幻をマンティコアの眼前に降り立たせる。自分のそっくりさんの登場に、マンティコアは戸惑った様子を見せたが、すぐに牙をむいて咆哮を上げた。
「ゲラララララ!」
「よし、食いついたぞ!エラゼム!」
「はっ!はいやぁ!」
エラゼムが手綱を引くと、ストームスティードは急旋回した。振り落とされないように、エラゼムの鎧にしがみつく。それに伴って、マンティコアの幻も、俺たちの後についてきた。よし、これで町の外まで行けば……
「え!?ま、待ってください!」
え?馬が反転したところで、ウィルが大声を出した。
「ウィル?どうした!」
「マンティコアが……つ、ついてきません」
なんだって。急いで振り返ると、そこには背中を向けて、町へと戻っていくマンティコアの後姿があった。
「な、なんでだ?何で戻ってくんだよ!」
「もしかしたら……」
ライラが、意味深につぶやく。
「もしかしたら、より人の多い場所を襲うように、プログラミングされてるのかも」
「なに……?」
「マンティコアは、まほーで生み出された、人造の魔物なんだよ。自分の意思はなくって、その術者の命令にのみ従うから……」
じゃあ、こういうことか。マスカレードのやつが、俺たちよりも、町の人たちを優先して狙うように仕向けた。俺たちが、町の人たちを見殺しにできないのを知った上で……
「あいつ、どこまで腐ってるんだ!ちくしょう、戻るしかない!町で戦うんだ!」
「で、でも桜下さん!それだと、ライラさんの魔法は使えないんですよ?」
「う……」
ウィルの言う通りだ。狭い市街地では、ライラは限られた魔法しか撃つことができない。封じられてみてわかった。今まで、巨大な敵と戦うときに、いかにライラの魔法に頼っていたかが……
「それじゃあ、わたしが行くしかないね」
ごぎぎと骨を鳴らして、フランが爪を抜いた。
「魔法が使えないんなら、物理で攻めるしかないでしょ」
「……確かに、そうだ。行けるか?」
「うん。任せて」
フランは薄く笑うと、町へ戻りつつあるマンティコアを睨んだ。
「フラン嬢、吾輩もお供します」
エラゼムが手綱を放して、馬から降りる。
「エラゼム。けど、お前は剣が……」
「ええ。今の吾輩には、フラン嬢の爪一本分の働きもできないでしょうが……しかし、奴の気を引くことくらいはできましょう。桜下殿とライラ嬢は、ここでお待ちくだされ。ここでなら、危害が及ぶこともありますまい」
「……わかった。二人とも、頼む。ウィルは、二人のサポートをしてやってくれるか?」
「はい。ライラさんには遠く及びませんが……やれるだけやってみます」
ウィルはぎゅっと、ロッドを握りなおした。俺は、最後にライラへ声をかける。
「俺とライラは……ライラ?」
ライラはしょんぼりとうなだれたまま、顔を上げない。
「ごめんね……ライラ、役に立てなくて」
「何言ってるんだ。最初のプランはダメになったけど、それでもやれることはまだあるさ。お前のことだって、頼りにしてるんだからな」
「そっか……うん、わかった」
「ああ。それで、聞いておきたいんだ。マンティコアには、ゴーレムみたいな弱点はあるのか?」
「ううん。でもその代わり、マンティコアは普通の生き物と構造は同じだよ」
「つまり、急所も同じか……」
「でもね、マンティコアはすごい再生能力を持ってるから、一撃で大ダメージを与えないとどんどん再生されちゃうんだ」
「なんだって?」
それは、かなり厄介だな。少しずつ弱らせるということができないぞ。
「一撃で確実に、息の根を止めるしかないのか……」
仲間たちの顔に、重苦しい影が差す。できれば、殺しはしたくなかった……けど。ここで、決めなければいけないんだろう。
「フラン、エラゼム……頼む。アレは、悪意が形を持って動き出した存在だ。あいつを……止めてやってくれ」
二人はこくりとうなずくと、踵を返して走っていった。ウィルがそのあとに続く。俺とライラは、その背中を見送った。
「……っと。忘れてた。アルルカ、お前は手伝ってくれるのか?」
俺は存在をすっかり忘れていた、頭上を飛んでいるヴァンパイアにも、いちおう声をかけた。アルルカは俺を一瞥すると、(原理はわからないが)空中で優雅に足を組んだ。
「冗談いわないで。便利屋扱いされちゃ、たまったもんじゃないわ」
「ち。しょうがねーな」
「ほほほほ。まあせいぜい、がんばりなさいな。見物しててあげるから」
これがホントの、高みの見物……くすりとも笑えないな。
「ってわけだ。ライラ、頼むぞ!」
「うん!」
俺はライラの小さな肩に手を置いた。今は、この子だけが頼りだ。俺には、みんなのように敵を倒す力はないけど……今ライラを守れるのは俺だけなんだ。俺は気を抜かないよう、マンティコアの動きに集中した。
あちらでは、ちょうどフランたちが、マンティコアとの戦闘を開始したところだった。建物を破壊し、町の奥へと進んでいたマンティコアだが、近づいてくる人影に、むこうも気付いたようだ。目鼻の無いのっぺりした顔を向け、牙をむいて敵意をあらわにしている。
「フレイムパイン!」
ウィルが先制して、呪文を叫ぶ。燃え盛る炎の柱が、マンティコアの前方を塞ぐようにせり立った。怪物は怒り狂ったように吠えると、鞭のような尾を柱へと打ち付けた。
「ゲラララララ!」
バシーン!柱はぐらぐら揺れたが、何とか持ちこたえた。だが、振り回した尾が建物に当たると、壁が一瞬で吹き飛んでしまう。ウィルの魔法がいつまでもつか……
「はあぁぁ!」
フランがしかけた!建物の壁を蹴って飛び上がると、マンティコアの背中に思い切り爪を突きたてる。だが奴は尾をしならせると、虫を払うかのようにフランを吹き飛ばした。
「フラン嬢!」
エラゼムが駆け出し、吹っ飛ばされたフランを受け止め……いや、違う。エラゼムはフランの片腕をつかむと、吹き飛ばされた勢いを利用して、ぐるんと振りまわした。
「行きますぞ!」
「投げて!」
エラゼムに投げ飛ばされ、フランが猛スピードで、元来たほうへすっ飛んでいく。少々荒っぽいが、息はぴったりだ。フランは投擲された槍のごとく、まっすぐ爪を突き出して、マンティコアの肉をえぐった。ズバッ!
「ピギャギャギャァァ!」
寸前でマンティコアが身をひねったせいで、フランの一撃は脇腹をかすめるにとどまった。だがそれでも、奴のどてっぱらには大きな傷が残った。肉が削げ、中の肋骨が見えている……だがその傷も、みるみる消えていった。肉がぼこぼこと盛り上がり、失った個所を塞いでしまったのだ。
「くそ!あれでもダメなのか!」
聞いてはいたが、とんでもない再生能力だ。普通なら間違いなく致命傷だぞ?
「あっ!いけない!」
思わぬ反撃をもらって手こずったせいか、マンティコアはフランたちを無視して、町の破壊を優先することに決めたらしい。ぶよぶよした翼を広げて、今にも飛び立ちそうだ。
「まずいぞ!あいつに飛ばれたら、ウィルの壁を飛び越えられる!」
「させないよ!」
待っていたとばかりに、ライラが両腕を突き出した。よどみなく呪文を唱え、マンティコアに狙いを定める。
「ヴィントネルケ!」
ピュウウゥゥゥー!つむじ風が吹きぬけ、マンティコアへと飛んでいく。風は怪物の隅々に絡みつき、見えない戒めとなった。
「いいぞ!風の鎖に巻かれちゃ、飛ぶことなんてできないだろ!」
マンティコアは飛び立とうともがくが、そのたびにバランスを崩して地面に落ちる。それを何度か繰り返すうちに、とうとう癇癪を起したらしい。奇声を上げて、めちゃめちゃに暴れ始めた。
「ゲラララララ!!」
「くぅぅ……すごい力だ……」
「ライラ、大丈夫か?」
「うん、なんとか……けど、今にも振り切られそう……」
ライラは顔をしかめ、苦しそうに歯を食いしばっている。突き出した腕が、ときおり震えていた。
空という退路を断たれたことで、マンティコアは逃げるのを諦めた。その溢れる憎しみは、邪魔者を排除することだけに注がれる。
「ゲラララララ!」
マンティコアは尾を槍のように突き出し、フランたちに襲い掛かる。激しい攻撃を、フランは跳ねるように、エラゼムは受け流すことでかわしている。だが、よけるばかりでは、マンティコアに有効打を与えることはできない。少しの傷では、あいつはすぐ回復してしまう。
「トリコデルマ!」
ウィルが必死に魔法を撃つが、生きる意志のない怪物には、多少の痛みなど屁でもないらしい。焼け付く粉を頭からかぶっても、少しもひるんでいない。自分の最高威力の魔法が通用しないと知って、ウィルは絶望的な表情をしていた。
「くそ……何か、少しでもいい。隙が作れれば……」
けどこの状況で、いったい誰がそれをできるというのか。怪物が爪を振るい、尾を打ち付けるたびに、町は打ち壊されていく……何か、手は……
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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マンティコアは、もうすぐそこまで迫ってきている。俺は背後のウィルに叫んだ。
「ウィル!奴の気を引きたい!前にやった、あの幻を出す魔法を頼めるか?」
「メイフライヘイズですね。わかりました!」
ウィルが杖を握って、呪文を唱え始めた。エラゼムは馬の速度を落として、いつでも旋回できるように備える。
「……行きます!メイフライヘイズ!」
シュウウゥゥゥ!ウィルの杖の先端から、揺らめく熱波が吹き出す。ゆらぎはやがて形を変え、ブヨブヨとした肌を持つ、醜い怪物の姿となった。
「うっわ、すげ……マンティコアそっくりじゃないか」
ウィルの造形センスは、超一流らしい。俺たちの目の前に、そっくりなマンティコアがもう一頭出現した。
「さすがに自分と同じ姿を出されたら、あのモンスターも無視できないでしょう!」
ウィルは得意げに笑うと、幻をマンティコアの眼前に降り立たせる。自分のそっくりさんの登場に、マンティコアは戸惑った様子を見せたが、すぐに牙をむいて咆哮を上げた。
「ゲラララララ!」
「よし、食いついたぞ!エラゼム!」
「はっ!はいやぁ!」
エラゼムが手綱を引くと、ストームスティードは急旋回した。振り落とされないように、エラゼムの鎧にしがみつく。それに伴って、マンティコアの幻も、俺たちの後についてきた。よし、これで町の外まで行けば……
「え!?ま、待ってください!」
え?馬が反転したところで、ウィルが大声を出した。
「ウィル?どうした!」
「マンティコアが……つ、ついてきません」
なんだって。急いで振り返ると、そこには背中を向けて、町へと戻っていくマンティコアの後姿があった。
「な、なんでだ?何で戻ってくんだよ!」
「もしかしたら……」
ライラが、意味深につぶやく。
「もしかしたら、より人の多い場所を襲うように、プログラミングされてるのかも」
「なに……?」
「マンティコアは、まほーで生み出された、人造の魔物なんだよ。自分の意思はなくって、その術者の命令にのみ従うから……」
じゃあ、こういうことか。マスカレードのやつが、俺たちよりも、町の人たちを優先して狙うように仕向けた。俺たちが、町の人たちを見殺しにできないのを知った上で……
「あいつ、どこまで腐ってるんだ!ちくしょう、戻るしかない!町で戦うんだ!」
「で、でも桜下さん!それだと、ライラさんの魔法は使えないんですよ?」
「う……」
ウィルの言う通りだ。狭い市街地では、ライラは限られた魔法しか撃つことができない。封じられてみてわかった。今まで、巨大な敵と戦うときに、いかにライラの魔法に頼っていたかが……
「それじゃあ、わたしが行くしかないね」
ごぎぎと骨を鳴らして、フランが爪を抜いた。
「魔法が使えないんなら、物理で攻めるしかないでしょ」
「……確かに、そうだ。行けるか?」
「うん。任せて」
フランは薄く笑うと、町へ戻りつつあるマンティコアを睨んだ。
「フラン嬢、吾輩もお供します」
エラゼムが手綱を放して、馬から降りる。
「エラゼム。けど、お前は剣が……」
「ええ。今の吾輩には、フラン嬢の爪一本分の働きもできないでしょうが……しかし、奴の気を引くことくらいはできましょう。桜下殿とライラ嬢は、ここでお待ちくだされ。ここでなら、危害が及ぶこともありますまい」
「……わかった。二人とも、頼む。ウィルは、二人のサポートをしてやってくれるか?」
「はい。ライラさんには遠く及びませんが……やれるだけやってみます」
ウィルはぎゅっと、ロッドを握りなおした。俺は、最後にライラへ声をかける。
「俺とライラは……ライラ?」
ライラはしょんぼりとうなだれたまま、顔を上げない。
「ごめんね……ライラ、役に立てなくて」
「何言ってるんだ。最初のプランはダメになったけど、それでもやれることはまだあるさ。お前のことだって、頼りにしてるんだからな」
「そっか……うん、わかった」
「ああ。それで、聞いておきたいんだ。マンティコアには、ゴーレムみたいな弱点はあるのか?」
「ううん。でもその代わり、マンティコアは普通の生き物と構造は同じだよ」
「つまり、急所も同じか……」
「でもね、マンティコアはすごい再生能力を持ってるから、一撃で大ダメージを与えないとどんどん再生されちゃうんだ」
「なんだって?」
それは、かなり厄介だな。少しずつ弱らせるということができないぞ。
「一撃で確実に、息の根を止めるしかないのか……」
仲間たちの顔に、重苦しい影が差す。できれば、殺しはしたくなかった……けど。ここで、決めなければいけないんだろう。
「フラン、エラゼム……頼む。アレは、悪意が形を持って動き出した存在だ。あいつを……止めてやってくれ」
二人はこくりとうなずくと、踵を返して走っていった。ウィルがそのあとに続く。俺とライラは、その背中を見送った。
「……っと。忘れてた。アルルカ、お前は手伝ってくれるのか?」
俺は存在をすっかり忘れていた、頭上を飛んでいるヴァンパイアにも、いちおう声をかけた。アルルカは俺を一瞥すると、(原理はわからないが)空中で優雅に足を組んだ。
「冗談いわないで。便利屋扱いされちゃ、たまったもんじゃないわ」
「ち。しょうがねーな」
「ほほほほ。まあせいぜい、がんばりなさいな。見物しててあげるから」
これがホントの、高みの見物……くすりとも笑えないな。
「ってわけだ。ライラ、頼むぞ!」
「うん!」
俺はライラの小さな肩に手を置いた。今は、この子だけが頼りだ。俺には、みんなのように敵を倒す力はないけど……今ライラを守れるのは俺だけなんだ。俺は気を抜かないよう、マンティコアの動きに集中した。
あちらでは、ちょうどフランたちが、マンティコアとの戦闘を開始したところだった。建物を破壊し、町の奥へと進んでいたマンティコアだが、近づいてくる人影に、むこうも気付いたようだ。目鼻の無いのっぺりした顔を向け、牙をむいて敵意をあらわにしている。
「フレイムパイン!」
ウィルが先制して、呪文を叫ぶ。燃え盛る炎の柱が、マンティコアの前方を塞ぐようにせり立った。怪物は怒り狂ったように吠えると、鞭のような尾を柱へと打ち付けた。
「ゲラララララ!」
バシーン!柱はぐらぐら揺れたが、何とか持ちこたえた。だが、振り回した尾が建物に当たると、壁が一瞬で吹き飛んでしまう。ウィルの魔法がいつまでもつか……
「はあぁぁ!」
フランがしかけた!建物の壁を蹴って飛び上がると、マンティコアの背中に思い切り爪を突きたてる。だが奴は尾をしならせると、虫を払うかのようにフランを吹き飛ばした。
「フラン嬢!」
エラゼムが駆け出し、吹っ飛ばされたフランを受け止め……いや、違う。エラゼムはフランの片腕をつかむと、吹き飛ばされた勢いを利用して、ぐるんと振りまわした。
「行きますぞ!」
「投げて!」
エラゼムに投げ飛ばされ、フランが猛スピードで、元来たほうへすっ飛んでいく。少々荒っぽいが、息はぴったりだ。フランは投擲された槍のごとく、まっすぐ爪を突き出して、マンティコアの肉をえぐった。ズバッ!
「ピギャギャギャァァ!」
寸前でマンティコアが身をひねったせいで、フランの一撃は脇腹をかすめるにとどまった。だがそれでも、奴のどてっぱらには大きな傷が残った。肉が削げ、中の肋骨が見えている……だがその傷も、みるみる消えていった。肉がぼこぼこと盛り上がり、失った個所を塞いでしまったのだ。
「くそ!あれでもダメなのか!」
聞いてはいたが、とんでもない再生能力だ。普通なら間違いなく致命傷だぞ?
「あっ!いけない!」
思わぬ反撃をもらって手こずったせいか、マンティコアはフランたちを無視して、町の破壊を優先することに決めたらしい。ぶよぶよした翼を広げて、今にも飛び立ちそうだ。
「まずいぞ!あいつに飛ばれたら、ウィルの壁を飛び越えられる!」
「させないよ!」
待っていたとばかりに、ライラが両腕を突き出した。よどみなく呪文を唱え、マンティコアに狙いを定める。
「ヴィントネルケ!」
ピュウウゥゥゥー!つむじ風が吹きぬけ、マンティコアへと飛んでいく。風は怪物の隅々に絡みつき、見えない戒めとなった。
「いいぞ!風の鎖に巻かれちゃ、飛ぶことなんてできないだろ!」
マンティコアは飛び立とうともがくが、そのたびにバランスを崩して地面に落ちる。それを何度か繰り返すうちに、とうとう癇癪を起したらしい。奇声を上げて、めちゃめちゃに暴れ始めた。
「ゲラララララ!!」
「くぅぅ……すごい力だ……」
「ライラ、大丈夫か?」
「うん、なんとか……けど、今にも振り切られそう……」
ライラは顔をしかめ、苦しそうに歯を食いしばっている。突き出した腕が、ときおり震えていた。
空という退路を断たれたことで、マンティコアは逃げるのを諦めた。その溢れる憎しみは、邪魔者を排除することだけに注がれる。
「ゲラララララ!」
マンティコアは尾を槍のように突き出し、フランたちに襲い掛かる。激しい攻撃を、フランは跳ねるように、エラゼムは受け流すことでかわしている。だが、よけるばかりでは、マンティコアに有効打を与えることはできない。少しの傷では、あいつはすぐ回復してしまう。
「トリコデルマ!」
ウィルが必死に魔法を撃つが、生きる意志のない怪物には、多少の痛みなど屁でもないらしい。焼け付く粉を頭からかぶっても、少しもひるんでいない。自分の最高威力の魔法が通用しないと知って、ウィルは絶望的な表情をしていた。
「くそ……何か、少しでもいい。隙が作れれば……」
けどこの状況で、いったい誰がそれをできるというのか。怪物が爪を振るい、尾を打ち付けるたびに、町は打ち壊されていく……何か、手は……
つづく
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読了ありがとうございました。
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