じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
3-1 残された痕
3-1 残された痕
「闇の……魔力?」
それは……俺の持つ魔力も、冥の属性ってことだったけど。それと近いのか?
「そんな……そんなはずないよ!」
すると突然、ライラが大声を出した。
「ライラ?」
「だ、だって!闇の魔力なんて、そんなのあり得るわけない!」
どういうことだ?あり得ないってのは。息を荒げるライラの肩を、ウィルがそっと押さえた。
「ライラさん。今は、アニさんのお話を聞いてみましょう?」
「おねーちゃん……うん、わかった……」
ライラがおとなしくなると、アニが説明を再開した。
『魔力には、様々な属性があるということは、以前もお話ししたかと存じます。属性は生まれてくる人間の魂によって決定され、四大幻素である火、水、風、土は比較的多く、雷や氷はやや珍しい傾向にある、とも』
「うん。そういう話だったな」
『ですが、数ある属性の中でも、飛び切りのレアケースが存在するのです。その魔力を用いた魔法は、他の魔法とは一線を画すとされ、その属性を持つだけでも、伝説になれると言われるほどに』
ごくり。その属性を持つだけで、伝説……?
「じゃあ、まさかそれが……」
『はい。その属性とは、相対する二つの属性。光と、そして、闇属性です』
光と闇、か。確かに、他とは違う感じはするな。
「けど、それがどうして、伝説なんて言われるんだよ?」
『そうですね。理由は二つありますが、まず単純に、その属性を持つ者が極端に少ないというものがあるでしょう。確率として、百年に一人いるかいないか、というレベルだといわれていますから』
「ああー、なるほど。じゃあ、もう一つは?」
『もう一つの理由は、その魔力の異質さ故、です』
「異質さ?」
『はい。光、および闇の魔力を用いた魔法は、他の属性魔法ではできないようなことができる、と言われているのです』
「それって具体的には?」
『詳細な記録はあまり残っていないのですが……光属性の魔法は、奇跡にたとえられます。不可能を可能にし、無から有を生み出し、枯れ木に花を咲かせ、死者を蘇らせるのだとか……』
「ええ、ええぇ~!?そんなことができるのかよ!?」
そりゃあ、あれだぜ。マジもんのチートってやつじゃないか……
『あくまで通説では、です。光属性に関しては、まったく研究が進んでいないので、確かなことが言えないのです……ですが、それに対して闇属性は、多くの記録が残されています』
「そ、そうか。光が奇跡なら、闇は……?」
『闇属性の魔法は……人間の、業にたとえられます』
ごう……?それって、あれか?煩悩とか、七つの大罪とか言われる……
『闇属性の魔法は、邪悪な者の願いならなんでも叶えてくれる、万能の悪意です。それがあれば、どれだけ暴力を働いても罪に問われることはありません。働かずとも金を得ることができ、努力せずとも他人の技術を盗むことができます。あらゆる人間を奴隷にすることができ、望むがままに命を喰らうことができます』
「え……」
それ、は……それは、方向性は全く逆だけど、やっぱりチートじゃないか。何をしても許されるなんて……
「そ、そんな奴がいたら、この世の終わりじゃないか!」
『はい。なので、闇の魔力を持つものが現れれば、国中あげての大騒ぎとなります』
「あ、だから記録が残ってるのか……」
『そういうことです。実際、歴史の中では闇の魔法を使った、大きな事件も起きていますし。光属性と違って、存在するだけで悪となる闇属性は、いつの時代でも真っ先に抹消されてきました』
「なるほどな……ライラがそんなのあり得ないって言ったのも、そういう理由か?」
俺がライラのほうを向くと、ライラはむすっとした顔で、小さくうなずいた。
「……そうだよ。ライラの教科書にも、闇属性のまほーのことは載ってたんだ。闇属性まほーは唯一、人の心に作用することが可能な、とっても危険な魔術なんだって」
「人の、心に……か」
「うん。だからね、すっごく悪いことをした人なんかは、処刑台を前にして必ずこう言うんだって。“あれは俺のせいじゃない。闇の魔術師に操られてやったことなんだ”って。そんなやつが何人もいるせいで、まほーつかいは理由もなくひどい目に遭ってきたんだって。だから、なにか悪い事があったからって、すぐに闇の魔力のせいにするのは、どうかと思う!」
ライラがキッと、俺を……ではなく、俺の首から下がるアニを睨み付けた。ライラがさっきからむっつりしてるのは、そういうことか。
『……どう思おうがかまいませんが、私は一定の根拠をもとに推論を立てています。安易な反論は、自分の愚かさを際立たせるだけかと思いますが?』
「なにー!ライラが馬鹿だって言いたいの!?」
「ま、まぁまぁ、落ち着いて。アニ、聞かせてくれよ。お前がそう推測するに至った経緯を」
『経緯も何も、状況証拠から見れば明らかではないですか。主様も、ここにいるアンデッドたちもみな、“嫌な気分”になったのでしょう?』
「あ……」
闇属性魔法は、人の心に作用する……今しがた、ライラが言ったことだ。
「じゃああれは、マスカレードが闇の魔法で攻撃してきたってことなのか?」
『そうではないかと。おそらく、怒りや悪意を増幅させ、人を見境なく暴れさせる魔法かと思われます』
「そうか……だから、俺は意識を失っても、ばたばた暴れてたのか」
『主様が元勇者でなければ、もっと悲惨なことになっていたでしょうね。強い魔力を持つ主様は、他の属性の魔力に対して耐性がありますから。怪我の功名とはいえ、アンデッドに当たらなくてよかったです』
確かに……もしもフランが暴れだしたら、いったい誰が止めればいいんだ?
「……待てよ。となるとマスカレードは、その超危険な魔力を持ってるってことになるのか……?」
『そう、なりますね。もとより危険人物ではありましたが、今後はいっそうの注意を払った方がよさそうです』
魔剣に、竜骨に、今度は闇の魔力と来たか……悪役要素のオンパレードだな、おい。ウィルの顔が蒼白になっている。
「あいつ、逃がすべきじゃなかったかもな。ここで倒しておければ……」
『闇の魔力を持つ相手ですよ?むしろこの程度の被害で済んで幸いでした。闇の魔力の傷は厄介です……目に見えず、それでいて治癒には時間がかかる。主様も、油断しないでください』
「ん……」
傷、か。俺は自分の胸を押さえた。闇の魔力は、心に影響を及ぼすという。なら、今日傷ついたのは、俺の心……?うーん、今は何ともないけれど。いちおう、気を付けておくか。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「闇の……魔力?」
それは……俺の持つ魔力も、冥の属性ってことだったけど。それと近いのか?
「そんな……そんなはずないよ!」
すると突然、ライラが大声を出した。
「ライラ?」
「だ、だって!闇の魔力なんて、そんなのあり得るわけない!」
どういうことだ?あり得ないってのは。息を荒げるライラの肩を、ウィルがそっと押さえた。
「ライラさん。今は、アニさんのお話を聞いてみましょう?」
「おねーちゃん……うん、わかった……」
ライラがおとなしくなると、アニが説明を再開した。
『魔力には、様々な属性があるということは、以前もお話ししたかと存じます。属性は生まれてくる人間の魂によって決定され、四大幻素である火、水、風、土は比較的多く、雷や氷はやや珍しい傾向にある、とも』
「うん。そういう話だったな」
『ですが、数ある属性の中でも、飛び切りのレアケースが存在するのです。その魔力を用いた魔法は、他の魔法とは一線を画すとされ、その属性を持つだけでも、伝説になれると言われるほどに』
ごくり。その属性を持つだけで、伝説……?
「じゃあ、まさかそれが……」
『はい。その属性とは、相対する二つの属性。光と、そして、闇属性です』
光と闇、か。確かに、他とは違う感じはするな。
「けど、それがどうして、伝説なんて言われるんだよ?」
『そうですね。理由は二つありますが、まず単純に、その属性を持つ者が極端に少ないというものがあるでしょう。確率として、百年に一人いるかいないか、というレベルだといわれていますから』
「ああー、なるほど。じゃあ、もう一つは?」
『もう一つの理由は、その魔力の異質さ故、です』
「異質さ?」
『はい。光、および闇の魔力を用いた魔法は、他の属性魔法ではできないようなことができる、と言われているのです』
「それって具体的には?」
『詳細な記録はあまり残っていないのですが……光属性の魔法は、奇跡にたとえられます。不可能を可能にし、無から有を生み出し、枯れ木に花を咲かせ、死者を蘇らせるのだとか……』
「ええ、ええぇ~!?そんなことができるのかよ!?」
そりゃあ、あれだぜ。マジもんのチートってやつじゃないか……
『あくまで通説では、です。光属性に関しては、まったく研究が進んでいないので、確かなことが言えないのです……ですが、それに対して闇属性は、多くの記録が残されています』
「そ、そうか。光が奇跡なら、闇は……?」
『闇属性の魔法は……人間の、業にたとえられます』
ごう……?それって、あれか?煩悩とか、七つの大罪とか言われる……
『闇属性の魔法は、邪悪な者の願いならなんでも叶えてくれる、万能の悪意です。それがあれば、どれだけ暴力を働いても罪に問われることはありません。働かずとも金を得ることができ、努力せずとも他人の技術を盗むことができます。あらゆる人間を奴隷にすることができ、望むがままに命を喰らうことができます』
「え……」
それ、は……それは、方向性は全く逆だけど、やっぱりチートじゃないか。何をしても許されるなんて……
「そ、そんな奴がいたら、この世の終わりじゃないか!」
『はい。なので、闇の魔力を持つものが現れれば、国中あげての大騒ぎとなります』
「あ、だから記録が残ってるのか……」
『そういうことです。実際、歴史の中では闇の魔法を使った、大きな事件も起きていますし。光属性と違って、存在するだけで悪となる闇属性は、いつの時代でも真っ先に抹消されてきました』
「なるほどな……ライラがそんなのあり得ないって言ったのも、そういう理由か?」
俺がライラのほうを向くと、ライラはむすっとした顔で、小さくうなずいた。
「……そうだよ。ライラの教科書にも、闇属性のまほーのことは載ってたんだ。闇属性まほーは唯一、人の心に作用することが可能な、とっても危険な魔術なんだって」
「人の、心に……か」
「うん。だからね、すっごく悪いことをした人なんかは、処刑台を前にして必ずこう言うんだって。“あれは俺のせいじゃない。闇の魔術師に操られてやったことなんだ”って。そんなやつが何人もいるせいで、まほーつかいは理由もなくひどい目に遭ってきたんだって。だから、なにか悪い事があったからって、すぐに闇の魔力のせいにするのは、どうかと思う!」
ライラがキッと、俺を……ではなく、俺の首から下がるアニを睨み付けた。ライラがさっきからむっつりしてるのは、そういうことか。
『……どう思おうがかまいませんが、私は一定の根拠をもとに推論を立てています。安易な反論は、自分の愚かさを際立たせるだけかと思いますが?』
「なにー!ライラが馬鹿だって言いたいの!?」
「ま、まぁまぁ、落ち着いて。アニ、聞かせてくれよ。お前がそう推測するに至った経緯を」
『経緯も何も、状況証拠から見れば明らかではないですか。主様も、ここにいるアンデッドたちもみな、“嫌な気分”になったのでしょう?』
「あ……」
闇属性魔法は、人の心に作用する……今しがた、ライラが言ったことだ。
「じゃああれは、マスカレードが闇の魔法で攻撃してきたってことなのか?」
『そうではないかと。おそらく、怒りや悪意を増幅させ、人を見境なく暴れさせる魔法かと思われます』
「そうか……だから、俺は意識を失っても、ばたばた暴れてたのか」
『主様が元勇者でなければ、もっと悲惨なことになっていたでしょうね。強い魔力を持つ主様は、他の属性の魔力に対して耐性がありますから。怪我の功名とはいえ、アンデッドに当たらなくてよかったです』
確かに……もしもフランが暴れだしたら、いったい誰が止めればいいんだ?
「……待てよ。となるとマスカレードは、その超危険な魔力を持ってるってことになるのか……?」
『そう、なりますね。もとより危険人物ではありましたが、今後はいっそうの注意を払った方がよさそうです』
魔剣に、竜骨に、今度は闇の魔力と来たか……悪役要素のオンパレードだな、おい。ウィルの顔が蒼白になっている。
「あいつ、逃がすべきじゃなかったかもな。ここで倒しておければ……」
『闇の魔力を持つ相手ですよ?むしろこの程度の被害で済んで幸いでした。闇の魔力の傷は厄介です……目に見えず、それでいて治癒には時間がかかる。主様も、油断しないでください』
「ん……」
傷、か。俺は自分の胸を押さえた。闇の魔力は、心に影響を及ぼすという。なら、今日傷ついたのは、俺の心……?うーん、今は何ともないけれど。いちおう、気を付けておくか。
つづく
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読了ありがとうございました。
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