じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
11-3
11-3
ガタタ。エドガーが、ソファから滑り落ちた。よかった、先に落ちてくれて。じゃなかったら俺が転がり落ちていただろう。
「ロア、様……?それは、どういう……?」
「さっきまでの話を聞いていればわかるだろう。私は……セカンドの血を、引いている」
「……」
エドガーはついに言葉の出し方を忘れてしまったようだ。代わりに俺が質問をする。
「で、でも、それっておかしくないか?だって、あんたは王女なんだろ。つまり、王様と王女様の子どもってことじゃないのか?それに、セカンドミニオンは特殊な能力を持ってるんじゃないのかよ。あんたがそんなのを持ってるようには見えないんだど……」
「そうだろうな……私も昨日までははっきりと気づいていなかった。だが、見てみろ。昨日受けた傷が、ひとつ残らず消えているだろう?私の能力は、おそらく身体の再生力だ。確かにそう言われてみれば、昔から怪我の直りが早かった……城の外にはめったに出なかったから、発揮する機会が無くて気付かなかったのだ。それに私は、自分で言うのもなんだが、幼いころから賢い子どもだった。大人の理屈まみれの王城と言う政治の世界で、幼少期を過ごせるくらいにはな」
エドガーの顔は、ロアが証拠を上げるたびに悲痛に歪んでいった。その一つ一つに、思い当たるふしがあるのだろう。
「そして、血筋の質問に対しても、間違っていることはない。私の父様は病に伏していて、私が産まれる一年前に亡くなっている」
「え……それは……つまり、その。あんたのお母さんは王女様なら、父親は……」
「……そうだ。醜悪なことだが、私は母様とセカンドの間に生まれた子だ……その時のことは、私も詳しくは知らない。無理やり襲われたのか、それともセカンドを従わせるための取引だったのか。詳細は分からないが、母様は激しくセカンドを、勇者を憎んでいた……その憎悪が母様の身を焦がし、早々に亡くなられたのだと、私は思っている」
「じゃあ、あんたは、母親のために……」
「ああ。私は生まれてから、徹底的に勇者を御する方法を母様から教え込まれた。少しの隙も同情も、すべて命取りになる。勇者には常に非情であれと、私は教わってきたのだ。そして何より、私自身も勇者が憎かった。日に日にやつれていく母様を見て、もう二度とこんな人を出したくないと、そう強く願ったのだ」
そんなことが……王女にまで手を出すなんて。セカンドってやつは、どこまでもいかれている奴だ。そしてロアは、その憎しみの相手を、俺に重ねていたんだな。
「……私は、王になってからずっと、誰からも好かれなかった。何をしても認められず、信用は落ちる一方だった……しかし、母様のような人を出したくない一心で、今まで王女としての責務を果たしてきたつもりだった。それに、セカンドミニオンである私に、城以外の居場所があるとも思えなかった……」
セカンドミニオン……その身に流れる血のせいで、誰からも受け入れられない子どもたち……王族であるロアには、頼れる親戚もいなかったのかもしれない。
「だが……結局、お前に逃げられてしまった。まったく、とんだお笑い草だ」
ロアはふふっと、自嘲気味に笑った。
「私は親の仇憎しと、今まで何人もの勇者を葬ってきた。さっきはいろいろと言ったが、結局これに関してはなんの言い訳も立たん……勝手に呼んでおいて、勝手に殺す。理不尽の極みだ。だが、それでも。私は母様との約束を優先したのだ。ただ……それだけのことだよ」
ロアは降参だとでも言うように、両手を力なく上げた。
「これが、お前の知りたがった私の腹の底だ。どうだ?お前の気は変わっただろうか?」
「……無理だよ。俺は、勇者をやめる」
「そうか……」
ロアはうなだれると、ぎゅっと目を閉じた。でも……
「でも。少し、気が変わった。だから、俺の名前だったら。好きに使ってくれても、構わないぜ」
「……なに?」
ロアが、ゆっくりと顔を上げた。
「昨晩この王都で暴れまわったのは、なぞの覆面勇者だ。そいつのことをどう利用しようが、俺は口出ししない」
「……?」
ロアはぽかんと口を開けていたが、さすがに頭の回転は速かった。
「それはつまり……お前を宣伝塔にしていいということか?王城がお前を味方に引き入れ、それによってこの戦いに勝利したのだと?」
「ああ。極悪人だろうが救いのヒーローだろうが、どっちでもいいよ。俺はあんたたちにどう扱われようが関与しない。ていうか、知ったこっちゃないしな」
「ちょちょちょ、ちょっと桜下さん!?」
さすがに黙って見ていられなくなったのか、ウィルが口をはさんできた。同時にフランも俺に詰め寄る。
「どういうつもり?こいつの下に付くって決めたの?」
「いいや。言ってるだろ、勇者はやめるって。でも、それを公表するかしないかは、ロアに任せようと思うんだ」
「……勇者の脱走を隠蔽して、あなたが王家のもとにへりくだったように、偽装させようってこと?」
「さあな、それはロアしだいだろ」
「でもそんなの、すぐにばれる!」「だがそれでは、すぐにばれるではないか!」
ロアとフランの声はきれいに重なった。
「お前が旅先でふらふらしているだけで、王家が勇者を管轄していないことが分かってしまう!」
「それは、俺が勇者としてふるまったらの話だろ?何度も言うけど、俺は勇者をやめる。誰かに名乗るつもりもないよ」
「なんだと?しかし……いや、そうか。昨夜活躍したのは、仮面の勇者だ。お前とその勇者が同一人物だと知るのは、今ここにいる者だけのはず……」
ロアがちらりと視線を向けてきたので、俺は肩をすくめて返した。
「俺は王都に入る前から仮面をつけてた。途中で外したりもしてないよ」
「そうか。ではやはり、お前の正体を知るものはいないな……しかし、それはお前が秘密を守った場合の話だ。お前が約束を破らないと、どうやって証明する?」
「そんなの、信じてくれとしか言えないよ。でも、そうだな……だったら、取引をしようぜ」
「取引、だと?」
「ああ。そんなら、口約束よりは信用できるだろ。俺はあんたたちにお願いを聞いてもらう。あんたたちはその代わりに、俺に貸しを作ることができる。どうだ?」
「……それで、その条件はなんだ?」
「えーっと、ちょっと待てよ。ひぃ、ふぅ……」
「お、おい!一つじゃないのか!?」
「なんだよ、けち臭いな。たくさん貸し付けといた方が、約束を守る気持ちも高まるかもしれないだろ」
「ぐっ……」
「ん~。じゃあ、まず一つ目だ」
俺は指を一本立てて、びしっとロアに突き付けた。ロアがその指を凝視する。
「今回の戦いで、投降した兵士たちがいるだろ。あの人たちを殺さないでくれ」
「……は?」
ロアはわけがわからないと言うように、眉をしかめた。
「ハルペリン卿の部下だった兵士たちだよ。あの人たちは、言ってみれば上の人間の命令に従っただけだろ?だったら、大目に見てやってくれないか」
「ば、ばかを言うな!反乱に加担したんだぞ、極刑は免れない!」
「だから、そこを大目に見てくれって。もちろん、何もせずに自由にしてくれ、とは言わない。あんだけ暴れたんだ、然るべき罪は受けるべきだと思う。でも、それでまた新しい死体の山を作ってもしょうがないだろ。というか、俺が嫌だ」
「い、嫌だと?」
「あの兵士たちがとっ捕まったのは、俺たちのせいだろ。俺はゾンビたちに、あの兵士たちを殺さないようにって頼んだんだ。なのにアンタたちが全員ぶっ殺しちまったら、大なしだ」
「しかし……しかし……」
ロアはしばらくうんうんうなっていたが、やがて目線を上げた。
「……わかった。ただし、条件付きだ。奴らには、我が王国兵を多数手に掛けた罪、王都の町を破壊した罪、王家に反乱した罪、そして……私に乱暴した罪がある。これらを償わせることが条件だ」
「ああ」
「そのうえで、模範的な態度と反省を見せたものだけだ。もしも反抗的であったり、反骨思想が抜けないようであれば、自由にすることはできない。それでいいか?」
「うん。わかった、それでいい」
これくらいが、落としどころだろう。俺はうなずいた。
「けど、その条件を満たしたのであれば、ちゃんと自由にしてやってくれよな。俺の仲間には、誰にも見つからずに覗き見ができる、偵察のプロがいるんだ。裏でこっそり全員死刑にしたって、俺には分かるんだからな」
ウィルが自分の顔を指さして、覗き見のプロって私ですか?と不服そうな顔をする。
「……お前の仲間には、ずいぶん妙な奴がいるのだな。まあいい、わかった。それで、二つ目の条件は何だ?」
「ああ、それなんだけど。俺たちが竜巻で吹っ飛ばしちまった森があるだろ?」
森、という言葉を聞いて、ライラがソファのすみっこでぴくっと跳ねた。
「あの森を、元に戻してほしいんだ」
「……うん?城と城下町との間の森のことだな?あそこには人はだれも住んでおらんし、建物も何もないが」
「それでも、植物と、たくさんの生き物が住んでただろ。俺たちは、それを丸ごと吹き飛ばしちまったからな……何もかも元通りとはいかないだろうけど、せめて元の森には戻してほしくって」
正直、俺は仕方のない犠牲だと思っていた節があった。でもライラは、森の木々や生き物たちのことも決して忘れてはいなかった。これで、それらが戻ってくるわけではないが……せめてもの罪滅ぼしのつもりだ。
「ほんとは俺たちでやるべきなんだろうけど、さすがに広すぎるからな。頼んでいいか?」
「まあ、そのくらいのことでいいのなら……」
「よし。それじゃあ俺からの頼みは、これでおしまいだ」
「へ?これだけか……?」
「ああ。あ、あとできれば、もう俺たちを追ってこないでほしいけど。あんたたちも大変だろ」
「それは、お前が今後罪を犯さないのなら……」
「しないってば。あんたたちが約束を守ってくれるんなら、俺たちもおとなしくしてるって約束するよ。そりゃ、ケンカの一つや二つくらいならするかもしれないけど……」
「そ、そうか……」
ロアは乗り出していた身をぽすっと背もたれに沈めた。そして熱に浮かされたような声で、ぽつりとつぶやいた。
「お前は……私を、助けてくれるのか?」
「そういうつもりじゃ……けど、あんたのことも少しは分かったからな。ちょっとくらいなら、協力してやろうって気になっただけさ」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「ロア、様……?それは、どういう……?」
「さっきまでの話を聞いていればわかるだろう。私は……セカンドの血を、引いている」
「……」
エドガーはついに言葉の出し方を忘れてしまったようだ。代わりに俺が質問をする。
「で、でも、それっておかしくないか?だって、あんたは王女なんだろ。つまり、王様と王女様の子どもってことじゃないのか?それに、セカンドミニオンは特殊な能力を持ってるんじゃないのかよ。あんたがそんなのを持ってるようには見えないんだど……」
「そうだろうな……私も昨日までははっきりと気づいていなかった。だが、見てみろ。昨日受けた傷が、ひとつ残らず消えているだろう?私の能力は、おそらく身体の再生力だ。確かにそう言われてみれば、昔から怪我の直りが早かった……城の外にはめったに出なかったから、発揮する機会が無くて気付かなかったのだ。それに私は、自分で言うのもなんだが、幼いころから賢い子どもだった。大人の理屈まみれの王城と言う政治の世界で、幼少期を過ごせるくらいにはな」
エドガーの顔は、ロアが証拠を上げるたびに悲痛に歪んでいった。その一つ一つに、思い当たるふしがあるのだろう。
「そして、血筋の質問に対しても、間違っていることはない。私の父様は病に伏していて、私が産まれる一年前に亡くなっている」
「え……それは……つまり、その。あんたのお母さんは王女様なら、父親は……」
「……そうだ。醜悪なことだが、私は母様とセカンドの間に生まれた子だ……その時のことは、私も詳しくは知らない。無理やり襲われたのか、それともセカンドを従わせるための取引だったのか。詳細は分からないが、母様は激しくセカンドを、勇者を憎んでいた……その憎悪が母様の身を焦がし、早々に亡くなられたのだと、私は思っている」
「じゃあ、あんたは、母親のために……」
「ああ。私は生まれてから、徹底的に勇者を御する方法を母様から教え込まれた。少しの隙も同情も、すべて命取りになる。勇者には常に非情であれと、私は教わってきたのだ。そして何より、私自身も勇者が憎かった。日に日にやつれていく母様を見て、もう二度とこんな人を出したくないと、そう強く願ったのだ」
そんなことが……王女にまで手を出すなんて。セカンドってやつは、どこまでもいかれている奴だ。そしてロアは、その憎しみの相手を、俺に重ねていたんだな。
「……私は、王になってからずっと、誰からも好かれなかった。何をしても認められず、信用は落ちる一方だった……しかし、母様のような人を出したくない一心で、今まで王女としての責務を果たしてきたつもりだった。それに、セカンドミニオンである私に、城以外の居場所があるとも思えなかった……」
セカンドミニオン……その身に流れる血のせいで、誰からも受け入れられない子どもたち……王族であるロアには、頼れる親戚もいなかったのかもしれない。
「だが……結局、お前に逃げられてしまった。まったく、とんだお笑い草だ」
ロアはふふっと、自嘲気味に笑った。
「私は親の仇憎しと、今まで何人もの勇者を葬ってきた。さっきはいろいろと言ったが、結局これに関してはなんの言い訳も立たん……勝手に呼んでおいて、勝手に殺す。理不尽の極みだ。だが、それでも。私は母様との約束を優先したのだ。ただ……それだけのことだよ」
ロアは降参だとでも言うように、両手を力なく上げた。
「これが、お前の知りたがった私の腹の底だ。どうだ?お前の気は変わっただろうか?」
「……無理だよ。俺は、勇者をやめる」
「そうか……」
ロアはうなだれると、ぎゅっと目を閉じた。でも……
「でも。少し、気が変わった。だから、俺の名前だったら。好きに使ってくれても、構わないぜ」
「……なに?」
ロアが、ゆっくりと顔を上げた。
「昨晩この王都で暴れまわったのは、なぞの覆面勇者だ。そいつのことをどう利用しようが、俺は口出ししない」
「……?」
ロアはぽかんと口を開けていたが、さすがに頭の回転は速かった。
「それはつまり……お前を宣伝塔にしていいということか?王城がお前を味方に引き入れ、それによってこの戦いに勝利したのだと?」
「ああ。極悪人だろうが救いのヒーローだろうが、どっちでもいいよ。俺はあんたたちにどう扱われようが関与しない。ていうか、知ったこっちゃないしな」
「ちょちょちょ、ちょっと桜下さん!?」
さすがに黙って見ていられなくなったのか、ウィルが口をはさんできた。同時にフランも俺に詰め寄る。
「どういうつもり?こいつの下に付くって決めたの?」
「いいや。言ってるだろ、勇者はやめるって。でも、それを公表するかしないかは、ロアに任せようと思うんだ」
「……勇者の脱走を隠蔽して、あなたが王家のもとにへりくだったように、偽装させようってこと?」
「さあな、それはロアしだいだろ」
「でもそんなの、すぐにばれる!」「だがそれでは、すぐにばれるではないか!」
ロアとフランの声はきれいに重なった。
「お前が旅先でふらふらしているだけで、王家が勇者を管轄していないことが分かってしまう!」
「それは、俺が勇者としてふるまったらの話だろ?何度も言うけど、俺は勇者をやめる。誰かに名乗るつもりもないよ」
「なんだと?しかし……いや、そうか。昨夜活躍したのは、仮面の勇者だ。お前とその勇者が同一人物だと知るのは、今ここにいる者だけのはず……」
ロアがちらりと視線を向けてきたので、俺は肩をすくめて返した。
「俺は王都に入る前から仮面をつけてた。途中で外したりもしてないよ」
「そうか。ではやはり、お前の正体を知るものはいないな……しかし、それはお前が秘密を守った場合の話だ。お前が約束を破らないと、どうやって証明する?」
「そんなの、信じてくれとしか言えないよ。でも、そうだな……だったら、取引をしようぜ」
「取引、だと?」
「ああ。そんなら、口約束よりは信用できるだろ。俺はあんたたちにお願いを聞いてもらう。あんたたちはその代わりに、俺に貸しを作ることができる。どうだ?」
「……それで、その条件はなんだ?」
「えーっと、ちょっと待てよ。ひぃ、ふぅ……」
「お、おい!一つじゃないのか!?」
「なんだよ、けち臭いな。たくさん貸し付けといた方が、約束を守る気持ちも高まるかもしれないだろ」
「ぐっ……」
「ん~。じゃあ、まず一つ目だ」
俺は指を一本立てて、びしっとロアに突き付けた。ロアがその指を凝視する。
「今回の戦いで、投降した兵士たちがいるだろ。あの人たちを殺さないでくれ」
「……は?」
ロアはわけがわからないと言うように、眉をしかめた。
「ハルペリン卿の部下だった兵士たちだよ。あの人たちは、言ってみれば上の人間の命令に従っただけだろ?だったら、大目に見てやってくれないか」
「ば、ばかを言うな!反乱に加担したんだぞ、極刑は免れない!」
「だから、そこを大目に見てくれって。もちろん、何もせずに自由にしてくれ、とは言わない。あんだけ暴れたんだ、然るべき罪は受けるべきだと思う。でも、それでまた新しい死体の山を作ってもしょうがないだろ。というか、俺が嫌だ」
「い、嫌だと?」
「あの兵士たちがとっ捕まったのは、俺たちのせいだろ。俺はゾンビたちに、あの兵士たちを殺さないようにって頼んだんだ。なのにアンタたちが全員ぶっ殺しちまったら、大なしだ」
「しかし……しかし……」
ロアはしばらくうんうんうなっていたが、やがて目線を上げた。
「……わかった。ただし、条件付きだ。奴らには、我が王国兵を多数手に掛けた罪、王都の町を破壊した罪、王家に反乱した罪、そして……私に乱暴した罪がある。これらを償わせることが条件だ」
「ああ」
「そのうえで、模範的な態度と反省を見せたものだけだ。もしも反抗的であったり、反骨思想が抜けないようであれば、自由にすることはできない。それでいいか?」
「うん。わかった、それでいい」
これくらいが、落としどころだろう。俺はうなずいた。
「けど、その条件を満たしたのであれば、ちゃんと自由にしてやってくれよな。俺の仲間には、誰にも見つからずに覗き見ができる、偵察のプロがいるんだ。裏でこっそり全員死刑にしたって、俺には分かるんだからな」
ウィルが自分の顔を指さして、覗き見のプロって私ですか?と不服そうな顔をする。
「……お前の仲間には、ずいぶん妙な奴がいるのだな。まあいい、わかった。それで、二つ目の条件は何だ?」
「ああ、それなんだけど。俺たちが竜巻で吹っ飛ばしちまった森があるだろ?」
森、という言葉を聞いて、ライラがソファのすみっこでぴくっと跳ねた。
「あの森を、元に戻してほしいんだ」
「……うん?城と城下町との間の森のことだな?あそこには人はだれも住んでおらんし、建物も何もないが」
「それでも、植物と、たくさんの生き物が住んでただろ。俺たちは、それを丸ごと吹き飛ばしちまったからな……何もかも元通りとはいかないだろうけど、せめて元の森には戻してほしくって」
正直、俺は仕方のない犠牲だと思っていた節があった。でもライラは、森の木々や生き物たちのことも決して忘れてはいなかった。これで、それらが戻ってくるわけではないが……せめてもの罪滅ぼしのつもりだ。
「ほんとは俺たちでやるべきなんだろうけど、さすがに広すぎるからな。頼んでいいか?」
「まあ、そのくらいのことでいいのなら……」
「よし。それじゃあ俺からの頼みは、これでおしまいだ」
「へ?これだけか……?」
「ああ。あ、あとできれば、もう俺たちを追ってこないでほしいけど。あんたたちも大変だろ」
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「しないってば。あんたたちが約束を守ってくれるんなら、俺たちもおとなしくしてるって約束するよ。そりゃ、ケンカの一つや二つくらいならするかもしれないけど……」
「そ、そうか……」
ロアは乗り出していた身をぽすっと背もたれに沈めた。そして熱に浮かされたような声で、ぽつりとつぶやいた。
「お前は……私を、助けてくれるのか?」
「そういうつもりじゃ……けど、あんたのことも少しは分かったからな。ちょっとくらいなら、協力してやろうって気になっただけさ」
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