じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
10-4
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「戦争の最終局面、魔王との戦いは、大陸すべての国家が一丸となった連合軍で行われた。一の国のファースト、二の国のセカンド、そして三の国が遅れて召喚したサードの三勇者が、軍における大黒柱であった。勇者の力はすさまじく、ついには魔王を倒すまでに至った、のだが……戦いが終わったかに見えた瞬間、突如ファーストが奇襲を受け、殺されてしまった。セカンドが、仲間を裏切ったのだ」
「え!」
「ファーストは実に品行方正で、勇者を絵にかいたような男だった。ファーストはセカンドの悪行の数々を耳にし、たびたび注意をしていたそうだ。そのことを、セカンドはずっと根に持っていたんだろう。魔王を倒し、誰もが油断したその一瞬をついての凶行だった」
「……待ってくれ。それじゃあ、その後続いた戦いって」
「ああ。セカンドとの戦いだ。魔王を倒した後で、まさか人間同士でまた争うこととなろうとは、誰が予想できただろうか……しかも、敵はまがいなりにも、あの魔王を倒した勇者だ。魔王に手も足も出なかった人類が、それよりも強い勇者に戦いを挑むのだ。戦争の消耗も相まって、戦いは泥沼だった」
そう、だろうな……相手は、たった一人だ。だがおそらく、普通の人間が数千人束になったよりも強い、たった一人だろう。
「だがその時になって、今までパッとしなかった三の国の勇者サードが活躍を見せた。サードはセカンドとの死闘の末に相討ちとなり、彼の死と引き換えにセカンドという巨悪は滅びた。しかし同時に、我々人類はすべての勇者を失うこととなった。そしてそうなることをすべて見透かしていたかのように、魔王が復活することとなるのだが……問題なのは、ファーストをセカンドが殺害し、その仇討ちをサードが行ったというところだ」
「うん?えーっと、英雄を極悪人が殺して、その極悪人を、また別の英雄が倒したってことだよな」
「なかなかいい着眼点だ。そのそれぞれの頭に国の名前を付ければ、私の言いたいことが伝わるだろうか?」
「国の名前……つまり、一の国の英雄を二の国の極悪人が殺し、それを倒したのは三の国の英雄だった……ああ、そういうことか。二の国のいいところがまるでない」
「そうだ……大罪人を輩出してしまったばかりか、他国に大きな損害を与え、さらにそのしりぬぐいを別の国にしてもらう形となった……一言でいえば、最悪だ」
ロアは沈んだ声でぼそりと言った。
「ギネンベルナは大きな責任を問われることとなった。母上の心労は、幼いながらも覚えている……しかし、母上は強く、立派な女王であった。数々の政策を打ち出し、地に落ちた二の国の権威を取り戻そうと、万策をつくさんとしていた。その中の一つが……」
「……危険な勇者はとっとと殺す、ってことか」
「その通りだ。勇者には、強くあってもらわなければならない。しかし、われわれの手に負えないほどの強さは、もはや脅威でしかない。私たちは第二のセカンドを出さないためにも、血も涙も捨て、徹底的に冷徹になる道を選んだのだ」
「じゃあネクロマンスって、そんなに強い能力なのか?」
「はっきり言えば、そうだ。一人で無限の軍隊を生み出す能力だからな。さらに兵士は死なず、疲れも飢えも知らない。これほど厄介な能力はまれだ」
「そうなんだ……でもさ、人の善悪は能力だけじゃ判断できないだろ。なんで勇者と話し合わないんだよ?」
「どうやって聞けというのだ?“お前は狂っているかどうか、正直に答えよ。もしも狂っていたならば、即刻処刑するからそのつもりで”。こう聞かれては、誰だって正常な受け答えはできぬだろう」
「う。そら、そうか……」
「だが初めのころは、なるべく対話を持とうとしたのだ。が、勇者の抵抗にあい、城の兵に何人もの死者が出てしまった。だからそれ以降、変な気を起こされる前に勇者を専用の牢獄に閉じ込め、すぐに処刑することとしたのだ」
「それがあの牢屋か……」
「ああ。名目上は、そなたたちは罪人ということになっている。あの牢獄は特殊な結界が施されていて、魂さえも逃さぬはずなのだが……まさか、脱走者が現れるとは。思いもよらなかった」
魂も逃がさない、か。あの骸骨剣士は、だから成仏できていなかったのかもしれないな。
「……以上が、そなたを追い続けた理由だ。私にも故あってのことなのだと、分かってもらえただろうか……?」
俺は、ソファの背もたれにどっかりと頭を預けた。
「なるほどな……」
なんだか重い話を聞き続けて、どっと疲れた。ただ、一番やるせないのは、ロアの話に納得してしまっている自分がいることだ。あんな理不尽な目にあったのに、これを聞くともう何も言えないような気がするじゃないか。
「……だから、なに?」
俺たちは、いっせいに声の主の方を見た。フランが膝の上で拳を握りしめ、ぎりっとロアを睨み付けている。
「それで?今まであなたがつらつら上げた理由のどれも、この人が死んでいい理由にならないと思うんだけど?」
「しかし、そなたも聞いたであろう。勇者という存在は、一歩間違えば魔王よりも凶悪な呪いを振りまく。非情に聞こえるだろうが、これくらい強い姿勢でいなければ……」
「ふざけないで!理屈なんかで人の生き死にを決められると思っているの?命をなんだと思ってるんだ!」
「おいっ、貴様!ロア様になんて口の利き方を!」
エドガーがソファの背もたれから体を浮かす。怪我がなければ今にも飛びかかってきそうだ。だが俺はそれより、フランがこんなことを言うなんて、と内心で驚いていた。
「ロア様がどれだけ心を痛めてこの決断をしているのか、お前はわかっていないのだ!」
「知るかそんなもの!あんたたちのお姫様が辛い思いをしてるから、この人は死んでいいって?ばっかじゃないの!」
「なっ、なんだと小娘っ!」
「やめんか、エドガー!」
ロアにぴしゃりと言われて、エドガーはぐぬぬと歯を食いしばりながらも、ソファにぼすんと戻った。俺も、いつの間にか立ち上がって身を乗り出しているフランのスカートを、ちょいちょいと引っ張った。フランは俺の隣に戻ったが、まだエドガーと激しく視線で殴り合っている。
「はぁ……我々は、小競り合いをしに来たのではない。互いの関係をやり直すためにこの場を設けたのだということを、忘れないでほしい」
ロアは両者に言い聞かせるように言った。
「さて……そなた、そう言えば名を聞いていなかったな。なんと申すのだ?」
「……フランセス・ヴォルドゥール」
「そうか、ではフランセス。そなたの言い分はもっともだが、先ほども申した通り、これ以上に手を緩めれば、セカンドのような勇者が現れた時に対処ができない。そしてひとたびそのような勇者が現れれば、一人二人では済まない数の人々が犠牲になるということは、理解してもらえていると思うのだが」
「……だったら、勇者なんかはじめっから呼ばなきゃいいんだ。わたしたちの国のことは、わたしたちの問題でしょ」
「それは、無理だ。勇者の力を無しに、魔王軍と戦うことはできない。少なくとも、今の技術では不可能だ。勇者を戦争に投入した時点で、我が国の戦法・兵法・魔術研究はすべて、勇者を組み込んだ前提で進められてきた。今更その根底を覆しては、余計な混乱を生むだけだ」
ロアはきっぱりと言い切った。まじかよ、勇者の力って、そんなにすごいのか……?けど思い返せば、あのクラークとか言う勇者は、電撃を雨あられと繰り出す力を持っていた。俺たちのほとんどはアンデッドだから大した被害を受けなかったけど、生身の人間だったら一発で黒焦げだもんな。
「……しかしだ、フランセス。私は、そんなことを話し合いたいのではない。確かに今まで私たちは、そなたたちに敵と思われてもしようのない態度であった。だが城の外でも言ったように、我々はもう、そなたたちに危害を加えるつもりはない」
「……なに?手の平返そうっての?」
「……乱暴な言い方をすれば、そうかもしれん。しかし私は、差し伸べられた手を握り返した、と表現したい」
「差し伸べられた?」
「そうだ。そなたたちが……そなたたちの勇者殿が、我々に差し出した手だ。正直、まさか勇者に助けられるとは思ってもみなかった。私は勇者殿に、仇敵と思われてもおかしくないことをしたのだから……しかし、私が間違っていた。そなたは、立派な“勇者”だ」
ロアが、まっすぐ俺の目を見て言った……
「もう一度、やり直させてくれないか。勇者殿が見せてくれた誠意に対して、私たちも報いたいのだ」
「……報いる?」
「そうだ。そなたを正式に、勇者として国民に紹介しよう。本来であれば、召喚された勇者はそのように民と引き合わせられるのだ。そなたたちは、ずいぶんと旅先で苦労をしたそうじゃないか。国民に広くその名と顔を知らしめれば、そのような目に遭うこともなくなるだろう」
「その後で、そなたたちに王都を案内しよう。この都は勇者に対して様々な厚遇をしてくれるぞ。もしも旅の仲間が必要ならば、冒険者ギルドか魔術師ギルドを訪れるといい。腕のいいメンバーを紹介してくれるだろう。旅の装備も大抵の物なら市場で揃えられるはずだ」
「ああ、もちろん資金面も支援する。さすがに青天井というわけにはいかないが、路銀の面では当面心配しなくてもすむだろう。勇者殿は、我が国の代表と言っても過言ではないからな。ひもじい思いはさせられん。今はこれしか用意できなかったが、まあ城を訪れた手土産だと思ってくれ」
ロアは長々としゃべった後で、テーブルの上にずっしりした革袋をジャリンと置いた。俺が引き寄せて口ひもをほどくと、中から黄金色の光を放つ金貨の山がのぞいた。ウィルがぐぐぐっと身を乗り出す姿を見るに、相当の金額なのだろう。
「……今言ったのが、ぜーんぶ特典でつくってことか?」
「ああ。というより、それが本来の勇者へのもてなしだ。これからこの国の未来を掛けて戦ってもらうのだ、そのくらいのことはする。そなたと私たちは、不幸な誤解からすれ違い続けていた。それを今、正しき姿へともどそうではないか」
ロアはにこりと俺に微笑みかけた。さすが、一国の王女さまだ。笑った顔はけっこう美人だな。
「ふーん……」
その笑顔に俺は、ぞっとするほどの吐き気を覚えた。
「……悪いな、王女さま。その話、断らせてもらうぜ」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「戦争の最終局面、魔王との戦いは、大陸すべての国家が一丸となった連合軍で行われた。一の国のファースト、二の国のセカンド、そして三の国が遅れて召喚したサードの三勇者が、軍における大黒柱であった。勇者の力はすさまじく、ついには魔王を倒すまでに至った、のだが……戦いが終わったかに見えた瞬間、突如ファーストが奇襲を受け、殺されてしまった。セカンドが、仲間を裏切ったのだ」
「え!」
「ファーストは実に品行方正で、勇者を絵にかいたような男だった。ファーストはセカンドの悪行の数々を耳にし、たびたび注意をしていたそうだ。そのことを、セカンドはずっと根に持っていたんだろう。魔王を倒し、誰もが油断したその一瞬をついての凶行だった」
「……待ってくれ。それじゃあ、その後続いた戦いって」
「ああ。セカンドとの戦いだ。魔王を倒した後で、まさか人間同士でまた争うこととなろうとは、誰が予想できただろうか……しかも、敵はまがいなりにも、あの魔王を倒した勇者だ。魔王に手も足も出なかった人類が、それよりも強い勇者に戦いを挑むのだ。戦争の消耗も相まって、戦いは泥沼だった」
そう、だろうな……相手は、たった一人だ。だがおそらく、普通の人間が数千人束になったよりも強い、たった一人だろう。
「だがその時になって、今までパッとしなかった三の国の勇者サードが活躍を見せた。サードはセカンドとの死闘の末に相討ちとなり、彼の死と引き換えにセカンドという巨悪は滅びた。しかし同時に、我々人類はすべての勇者を失うこととなった。そしてそうなることをすべて見透かしていたかのように、魔王が復活することとなるのだが……問題なのは、ファーストをセカンドが殺害し、その仇討ちをサードが行ったというところだ」
「うん?えーっと、英雄を極悪人が殺して、その極悪人を、また別の英雄が倒したってことだよな」
「なかなかいい着眼点だ。そのそれぞれの頭に国の名前を付ければ、私の言いたいことが伝わるだろうか?」
「国の名前……つまり、一の国の英雄を二の国の極悪人が殺し、それを倒したのは三の国の英雄だった……ああ、そういうことか。二の国のいいところがまるでない」
「そうだ……大罪人を輩出してしまったばかりか、他国に大きな損害を与え、さらにそのしりぬぐいを別の国にしてもらう形となった……一言でいえば、最悪だ」
ロアは沈んだ声でぼそりと言った。
「ギネンベルナは大きな責任を問われることとなった。母上の心労は、幼いながらも覚えている……しかし、母上は強く、立派な女王であった。数々の政策を打ち出し、地に落ちた二の国の権威を取り戻そうと、万策をつくさんとしていた。その中の一つが……」
「……危険な勇者はとっとと殺す、ってことか」
「その通りだ。勇者には、強くあってもらわなければならない。しかし、われわれの手に負えないほどの強さは、もはや脅威でしかない。私たちは第二のセカンドを出さないためにも、血も涙も捨て、徹底的に冷徹になる道を選んだのだ」
「じゃあネクロマンスって、そんなに強い能力なのか?」
「はっきり言えば、そうだ。一人で無限の軍隊を生み出す能力だからな。さらに兵士は死なず、疲れも飢えも知らない。これほど厄介な能力はまれだ」
「そうなんだ……でもさ、人の善悪は能力だけじゃ判断できないだろ。なんで勇者と話し合わないんだよ?」
「どうやって聞けというのだ?“お前は狂っているかどうか、正直に答えよ。もしも狂っていたならば、即刻処刑するからそのつもりで”。こう聞かれては、誰だって正常な受け答えはできぬだろう」
「う。そら、そうか……」
「だが初めのころは、なるべく対話を持とうとしたのだ。が、勇者の抵抗にあい、城の兵に何人もの死者が出てしまった。だからそれ以降、変な気を起こされる前に勇者を専用の牢獄に閉じ込め、すぐに処刑することとしたのだ」
「それがあの牢屋か……」
「ああ。名目上は、そなたたちは罪人ということになっている。あの牢獄は特殊な結界が施されていて、魂さえも逃さぬはずなのだが……まさか、脱走者が現れるとは。思いもよらなかった」
魂も逃がさない、か。あの骸骨剣士は、だから成仏できていなかったのかもしれないな。
「……以上が、そなたを追い続けた理由だ。私にも故あってのことなのだと、分かってもらえただろうか……?」
俺は、ソファの背もたれにどっかりと頭を預けた。
「なるほどな……」
なんだか重い話を聞き続けて、どっと疲れた。ただ、一番やるせないのは、ロアの話に納得してしまっている自分がいることだ。あんな理不尽な目にあったのに、これを聞くともう何も言えないような気がするじゃないか。
「……だから、なに?」
俺たちは、いっせいに声の主の方を見た。フランが膝の上で拳を握りしめ、ぎりっとロアを睨み付けている。
「それで?今まであなたがつらつら上げた理由のどれも、この人が死んでいい理由にならないと思うんだけど?」
「しかし、そなたも聞いたであろう。勇者という存在は、一歩間違えば魔王よりも凶悪な呪いを振りまく。非情に聞こえるだろうが、これくらい強い姿勢でいなければ……」
「ふざけないで!理屈なんかで人の生き死にを決められると思っているの?命をなんだと思ってるんだ!」
「おいっ、貴様!ロア様になんて口の利き方を!」
エドガーがソファの背もたれから体を浮かす。怪我がなければ今にも飛びかかってきそうだ。だが俺はそれより、フランがこんなことを言うなんて、と内心で驚いていた。
「ロア様がどれだけ心を痛めてこの決断をしているのか、お前はわかっていないのだ!」
「知るかそんなもの!あんたたちのお姫様が辛い思いをしてるから、この人は死んでいいって?ばっかじゃないの!」
「なっ、なんだと小娘っ!」
「やめんか、エドガー!」
ロアにぴしゃりと言われて、エドガーはぐぬぬと歯を食いしばりながらも、ソファにぼすんと戻った。俺も、いつの間にか立ち上がって身を乗り出しているフランのスカートを、ちょいちょいと引っ張った。フランは俺の隣に戻ったが、まだエドガーと激しく視線で殴り合っている。
「はぁ……我々は、小競り合いをしに来たのではない。互いの関係をやり直すためにこの場を設けたのだということを、忘れないでほしい」
ロアは両者に言い聞かせるように言った。
「さて……そなた、そう言えば名を聞いていなかったな。なんと申すのだ?」
「……フランセス・ヴォルドゥール」
「そうか、ではフランセス。そなたの言い分はもっともだが、先ほども申した通り、これ以上に手を緩めれば、セカンドのような勇者が現れた時に対処ができない。そしてひとたびそのような勇者が現れれば、一人二人では済まない数の人々が犠牲になるということは、理解してもらえていると思うのだが」
「……だったら、勇者なんかはじめっから呼ばなきゃいいんだ。わたしたちの国のことは、わたしたちの問題でしょ」
「それは、無理だ。勇者の力を無しに、魔王軍と戦うことはできない。少なくとも、今の技術では不可能だ。勇者を戦争に投入した時点で、我が国の戦法・兵法・魔術研究はすべて、勇者を組み込んだ前提で進められてきた。今更その根底を覆しては、余計な混乱を生むだけだ」
ロアはきっぱりと言い切った。まじかよ、勇者の力って、そんなにすごいのか……?けど思い返せば、あのクラークとか言う勇者は、電撃を雨あられと繰り出す力を持っていた。俺たちのほとんどはアンデッドだから大した被害を受けなかったけど、生身の人間だったら一発で黒焦げだもんな。
「……しかしだ、フランセス。私は、そんなことを話し合いたいのではない。確かに今まで私たちは、そなたたちに敵と思われてもしようのない態度であった。だが城の外でも言ったように、我々はもう、そなたたちに危害を加えるつもりはない」
「……なに?手の平返そうっての?」
「……乱暴な言い方をすれば、そうかもしれん。しかし私は、差し伸べられた手を握り返した、と表現したい」
「差し伸べられた?」
「そうだ。そなたたちが……そなたたちの勇者殿が、我々に差し出した手だ。正直、まさか勇者に助けられるとは思ってもみなかった。私は勇者殿に、仇敵と思われてもおかしくないことをしたのだから……しかし、私が間違っていた。そなたは、立派な“勇者”だ」
ロアが、まっすぐ俺の目を見て言った……
「もう一度、やり直させてくれないか。勇者殿が見せてくれた誠意に対して、私たちも報いたいのだ」
「……報いる?」
「そうだ。そなたを正式に、勇者として国民に紹介しよう。本来であれば、召喚された勇者はそのように民と引き合わせられるのだ。そなたたちは、ずいぶんと旅先で苦労をしたそうじゃないか。国民に広くその名と顔を知らしめれば、そのような目に遭うこともなくなるだろう」
「その後で、そなたたちに王都を案内しよう。この都は勇者に対して様々な厚遇をしてくれるぞ。もしも旅の仲間が必要ならば、冒険者ギルドか魔術師ギルドを訪れるといい。腕のいいメンバーを紹介してくれるだろう。旅の装備も大抵の物なら市場で揃えられるはずだ」
「ああ、もちろん資金面も支援する。さすがに青天井というわけにはいかないが、路銀の面では当面心配しなくてもすむだろう。勇者殿は、我が国の代表と言っても過言ではないからな。ひもじい思いはさせられん。今はこれしか用意できなかったが、まあ城を訪れた手土産だと思ってくれ」
ロアは長々としゃべった後で、テーブルの上にずっしりした革袋をジャリンと置いた。俺が引き寄せて口ひもをほどくと、中から黄金色の光を放つ金貨の山がのぞいた。ウィルがぐぐぐっと身を乗り出す姿を見るに、相当の金額なのだろう。
「……今言ったのが、ぜーんぶ特典でつくってことか?」
「ああ。というより、それが本来の勇者へのもてなしだ。これからこの国の未来を掛けて戦ってもらうのだ、そのくらいのことはする。そなたと私たちは、不幸な誤解からすれ違い続けていた。それを今、正しき姿へともどそうではないか」
ロアはにこりと俺に微笑みかけた。さすが、一国の王女さまだ。笑った顔はけっこう美人だな。
「ふーん……」
その笑顔に俺は、ぞっとするほどの吐き気を覚えた。
「……悪いな、王女さま。その話、断らせてもらうぜ」
つづく
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