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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

6-2

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アニの出す光に導かれて、俺たちは街道のそばにあった小さな林までやってきた。その林の中には大きな岩があるだけで、特に秘密の抜け道みたいなのは見当たらないけど……

『主様、こちらです。ここの、地面に取っ手があります』

「ここ?あ、ほんどだ」

低い草むらの中に、金属の取っ手が隠されていた。

「けどこれ、最近ずらされたみたいだけど。ほら、ちょっと土がはみ出てる」

『え?あ、本当ですね。王都の誰かが使ったのでしょうか……』

俺が重いふたをずらすと、真っ黒な通路の口が開いた。エラゼムが中を覗き込みながら言う。

「確かに、土くれが落ちた形跡がありますな。おそらく、かなり近い時間で、ここを通ったものがいるのでしょう。一日か、あるいは……」

「いったい誰だろう?これを知ってるのは、偉い人だけなんだよな?」

「罠があるといけませんので、ここを通る際は吾輩が先行いたしましょう。して、桜下殿。実は一つ、ご提案したいことがあるのですが」

「うん?提案?」

「はい。これから我々は、敵の真っただ中に突入しようとしております。王都の民がみな、桜下殿を悪の勇者だと誤解している状況からすれば、我々は羊の群れの只中に現れた狼のようなものです」

「アウェーってことだな。うん、わかってるつもりだよ」

「ですので桜下殿には……申し上げにくいのですが、少し変装をしていただけないかと思いまして……」

エラゼムが申し訳なさそうに声を潜める。

「とうとう変装まできたかぁ……狼まるだしじゃなくて、せめて羊の皮をかぶろうってわけだな?」

「ええ。付け焼刃やもしれませんが、やはり桜下殿のお顔を覚えられるのはよくないと思うのです。そのそばにいるのが吾輩たちアンデッドともなれば、より一層」

なるほど、一理ある。王都ではあまり目立つことはしないつもりだけど、もし俺の顔をたくさんの人に覚えられでもしたらやっかいだ。ただでさえ、俺はお尋ね者なんだからな。

「わかったよ。でも、どうする?マントでもかぶろうか?」

「あまり機動性を損なうのは避けたいところです。顔だけを隠せる、面のようなものがあればいいのですが……」

「お面、ねぇ……あ、そうだ。アニ、ほらあれ。あの魔法の馬具で、お面が作れないかな?」

『あれでですか?うーん、あまりいいものは残っていなかったと思いますが……』

アニはぶつぶつ言いながらも、呪文を唱えて、魔法の馬具を呼び出してくれた。

「この中から、顔につけられそうなものを探せば……」

「……でも、桜下さん。お面にできそうなものなんて、ぜんぜん無くないですか?」

ウィルと俺はあれこれ手に取ってみたが、確かに仮面に加工できそうなもう残っていなかった。俺は馬の蹄鉄を手に取って、これをどうにか顔につけられないかひねってみたが……

「そんなのじゃ、何も隠せないでしょ」

フランにばっさり切られてしまった。その通りでございます……するとフランは、なぜか爪を抜いて、近くの細い木のそばへすたすた歩いて行った。何をする気なんだ?

「……ふっ!」

え?ザシュ!バキバキバキ、ズズーン。

「ふ、フラン?どうして、木なんか伐ったんだ?」

フランは毒の鉤爪を一閃して、木を根元から切り落としてしまった。

「もしかして、俺のボケが気に障ったか?だったらごめん……」

「違うから。そうじゃなくて、これでお面を作ればいいでしょ」

「え?作るって、一からか?流石にそんな時間は……」

「時間なら、そんなにかかんない。見てて」

フランはそう言うと、鉤爪を振るって、倒木の特に太い部分を輪切りにした。皿のようになったそれに、今度は爪の先を当て、くるくるとリンゴの皮を剥くように削っていく。フランの爪の毒のお陰で、木は軽く触れるだけでグズグズと黒く焦げた。

「おお、すごい。だんだん形になってきたな」

フランは爪でガリガリと削って、皿状のそれをさらに薄くした。穴を二つ開け、爪の先っちょを使って模様を描く。それらの作業が済むと、フランはウィルに手招きした。

「ちょっと、火を貸してくれない?」

「火、ですか?いいですけど……」

ウィルは不思議そうな顔をしていたが、とりあえず呪文を唱え始めた。

「ファイアフライ」

ポン。黄緑色の火の玉がウィルの周りに浮かび上がる。フランはそこに削った木をかざして、焦げ目がつくまで焼き入れした。

「はい、完成」

フランが差し出したそれは、多少不格好ながらも、まぎれもない仮面だった。

「おぉ~……サンキュー、フラン!すごいな、あっという間に作っちまった。ずいぶん鉤爪の扱いがうまくなったんだな」

「夜、たまに練習してたから。火であぶったから、いちおう、ささくれとかは無いと思うけど……」

俺が試しにつけてみると、ほんのりと木の焦げた香りがする仮面がぴったりとフィットした。

「うん、付け心地も悪くないよ。どうだ、ウィル?似合うか?」

「え?似合うかと聞かれても……怪しい呪術師みたいです」

「じゃあ、なおさら俺にぴったりだな。うん、これでいこう」

ウィルの顔は微妙だったが、俺は上機嫌でフランお手製の仮面を撫でた。

「アニ、悪いな。せっかく出してもらったけど、使わなかったや」

『構いません。では片づけましょう』

アニが魔法陣を呼び出して、馬具を送り返そうとする。するとライラが、慌ててそれを遮ってきた。

「あ、ねえ!ちょっと待って!」

「うお、ライラ!危ないだろ、魔法陣の上に乗っちゃ」

「いや、別にへいきだよ……それより、なんでみんなこの魔法具を身に着けてるの?」

「あん?」

「だってそうでしょ。フランはガントレットをしてるし、おねーちゃんは腹巻きしてるし、鎧は兜をかぶってるし」

「腹巻き……」

ウィルがひそかにショックを受けているが、言われてみれば確かにな。今まで仲間になってきたアンデッドは、なにかしらあの馬具を装備している。

「でも、それがどうかしたのか?」

「……」

「ライラ?」

「……ライラも、ほしい」

「は?別に後でも……」

「だ、だって。仲間外れみたいじゃん、ライラだけ」

そうかな?俺は首をかしげたが、ウィルにはピンときたみたいだった。

「あ!そうですよね、ライラさんの分もないと」

ウィルがぱちんと手をたたいた。

「だって、みんなお揃いじゃないのはかわいそうじゃないですか。桜下さん、ライラさんにもなにかプレゼントしてあげましょう?」

プレゼントっつったって……しかし、ライラはその言葉に、菫色の瞳をキラキラと輝かせていた。ここで空気の読めないことを言って、突入前に指揮を下げるのもなんだな……

「と、いうわけなんだけど……アニ?なにかないかね?」

『なにか、ですか?と言われましても……』

「あ、桜下さん、髪留めなんかどうですか?ライラさん、髪が目にかかって危なっかしいですし」

「髪留め?そんなのにできそうなやつあるかな……」

俺はふと、近くに転がるU字型をした金具……蹄鉄に目をとめた。

「アニ、こいつを加工できないか?」

『わかりました。やってみましょう……』

アニから鋭い光のレーザーが放たれる。蹄鉄は蝋細工のように、くにゃりと形を変えて、クリップのような形状になった。

『これでいかがでしょうか』

「アニさん、ありがとうございます!ではさっそく……」

ウィルは蹄鉄型の髪留めを手に取ると、ライラの目線に合わせてしゃがみこんだ。

「ライラさん、少し失礼しますね」

「ん……」

ライラが目を閉じると、ウィルはライラのもじゃもじゃの髪を指で梳かして、パチンと髪留めでとめた。

「はい、もういいですよ。前より見やすくなったんじゃないですか?」

ライラはそろそろと髪留めに手で触れると、にこりと笑った。

「うん!……へへ」

「よし、ライラ。これで文句はないだろ?」

「うん……ありがと」

少し時間を食ってしまったが……まあ、いいか。にこにこと上機嫌なライラを見れば、悪い気はしない。アニは今度こそ馬具を魔法陣の中に送り返し、俺たちは王都への地下通路の中へ足を踏み入れた。



つづく
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