じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
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結局夕食を食べたのはいつも通り俺だけで、ライラは干し肉を数切れかじっただけだった。腹は減ってはないそうなのだが、今後はライラの分の食料も準備しないといけないな。骨か……骨って、どこで売ってるんだ?
食事が終わると、特に何もすることがなくなった。今日は早めに野営に入ったから、ずいぶん時間が余っている気がする。眠るにも少し早いし……あ、そうだ。
「ライラ。お前確か、四つの属性の魔法が使えるんだよな?」
「うん、そうだよ」
「見せてくれないか?簡単なやつでいいからさ」
確か、それぞれの魔法を断片的に見た記憶はあるんだけど、きちんと使うところは見ていなかった。アニいわく、四つの属性を持つことはとても珍しいことだというし、ぜひこの目で見てみたかったのだ。
「ふふん。しょーがないなー、とくべつだよ?」
ライラは得意げに、無い胸を張ると、きょろきょろとあたりを見回し、小さな石ころを拾い上げた。
「じゃあ、まずは火からね。さっきも使ったけど……」
ライラは少しのあいだ目をつぶって手を合わせると、次に石ころをピシっと指さした。ポン!小さな爆発音がして、石ころにロウソクくらいの炎が灯った。
「それで、次が水」
再びライラが集中すると、今度はどこからともなく水滴が現れ、石ころの頭上にふよふよと集まった。ザザァー!超局所的な雨が降り、石ころの火はあっという間に消えた。
「風も行くよ、それ!」
ライラが指先で空中をなぞるような仕草をすると、つむじ風が巻き起こって石ころは宙に舞った。ピュウゥゥゥ。
「そして最後が、地」
ライラが指をかみ合わせて呪文を唱えると、風はひゅっと消えてしまった。代わりに地面にぼこっと、握りこぶしほどの穴が開く。支えを失った石ころは真っ逆さまに穴に落っこちた。ライラがぱっと手を開くと、穴はばくんと口を閉じ、何事もなかったかのように石を飲み込んでしまった。実験台になってくれた石ころくんに、心の中で合掌。
「どう?すごいでしょ」
「ああ……本当に四つも使えるんだな。わかっちゃいたんだけど、この目で見ると、改めてすごいや」
「へへへ〜。もっと褒めてもいいよ~」
俺はなかなかに感動していたが、俺よりもっと打ち震えていたのはアニだった。
「アニ?どうした?」
『いえ……この目で見た以上、認めざるを得ません。この娘は、四大幻素の持ち主です』
「エレメンタル?」
『火・水・風・地。この世すべての素となったといわれる、魔術の根幹に座す四属性です。これら四つの属性を持つ者は、この宇宙を開拓し、万物を創造する権利を持つといわれています……』
「えっ。それって、神様みたいなもんじゃないか。じゃあライラは、神様……?」
「えっ。ライラ、天才だけじゃなくて、かみさまだったんだ……」
『ものの例えを真に受けないでください。今までは、四つの属性を持つ魔術師は存在しなかったのです。何を言っても、それは机上の空論に過ぎなかったのですよ』
「なぁんだ、大げさに言っただけってことか」
『まあ、そういうことです……しかし、ついにこの日になって、本当に四属性を持つ魔術師が誕生してしまうとは……私たちはひょっとすると、歴史の転換点に立ち会っているのかもしれませんよ……』
わ、そんなにすごいことなのか?……だが当の本人であるライラがきょとんとしているから、いまいち緊張感がないな。
「なぁ、じゃあ三属性までならいたのか?」
『ええ。後世に名を残す偉大な魔術師の多くは、複数属性を操ることができました。ただその中でも、やはり四大幻素に属する魔法を扱える魔術師は別格扱いされることが多いですね』
「へぇー……確か俺の魔力は、冥属性だって言ってたよな?その、火とか水とかじゃない属性は、あんまり大したことないのか?」
『そういうわけではありませんが、魔術の研究の深さ、および開発される呪文の多さでは、四大属性が優遇される傾向にありますね。これは単純に、その属性を持つ人間の多さにゆえんすると思うのですが……ややマイナーとはいえ、四属性以外の属性魔法も十分強力なものが多いですよ。雷属性なんか、戦闘における破壊力は随一ですし』
ふーん、雷ねぇ。まさに勇者の属性って感じだよな、それ。あいにくと正統派とは真逆を行く俺からしたら、実に縁遠い存在だ。きっと雷の魔法を使えるやつは、キメキメにキメてて、ザ・勇者みたいな見た目をしてるんだろうな……
俺がそんなことをぼんやり考えていた、その時だった。
「見つけたぞ、悪の勇者よ!」
うひゃ、俺はびっくりしてひっくり返りそうになった。謎の叫び声が、山々の間にこだまする……見つけたぞ、悪の勇者よ……勇者よ……勇者よ……
「……一応聞くけど、今だれか喋った人?」
「いるわけないじゃないですか、桜下さん……」
「い、一応だよ、いちおう。すぅー……誰だ、お前!」
俺は負けじと叫び返すが、夜のとばりが下りた尾根には誰の姿も見受けられない……フランとエラゼムが臨戦態勢に入った。
「桜下殿、吾輩たちのそばに」
「ああ……けど、いったいどこにいるんだ?そもそも、いったい誰が……?」
そのとき、闇夜の中に複数人の足音が聞こえてきた。俺たちはいっせいに身を固くする。結構近いぞ……どうして気づかなかったんだろう?
フランが一足先に、相手の姿を見つけた。やがて俺たちの目にも、そいつらの正体が見えてきた。
尾根の向こうからやってくるのは、四人の旅人らしい集団だった。何人かは武器を持っている。恰好だけなら、冒険家みたいだ……先頭は、まばゆい金髪の少年。暗い闇の中でも輝いているような金色だ。その隣にいるのは、魔法使いみたいな恰好の少女だ。ライラとはまた違った色味の赤髪で、なにやら金髪の男に言い寄っている。その後ろにも二人ほどの姿が見えたが、背格好をみるにその二人も女性のようだ。男一人に女三人か……俺が言えた義理じゃないが、なかなか変わったメンツの連中だった。
その四人はまっすぐ俺たちのほうへ向かってくる。さっき叫んだのは、声からして、あの金髪の少年だろうな。近づくにつれて、そいつらの会話がこちらにも聞こえるようになってきた。
「……だから、どうしてあんたはいっつもそうなのよ!せっかくあたしが風魔法で音を消してあげてたのに!」
「だって、それじゃあまるで民家に忍び込む泥棒みたいじゃないか。僕は勇者だ、泥棒じゃない」
「なっ……なんですって!あたしの魔法を、コソ泥の道具扱いするっていうの!?」
「わ、わ、そういうわけじゃないよ、コルル。でも、不意打ちなんて卑怯じゃないか」
「今回は相手が相手でしょう!?十分に注意しようって言ったのはクラーク、あなたじゃない!」
……なんだろう、あいつらは敵なんだろうか?そいつらは顔のパーツがはっきり見えるくらいの距離になるまで口喧嘩を続けていて、フランとエラゼムは警戒を解かなかったが、俺はすっかり肩の力が抜けてしまった。
「ほら、コルル。もういい加減に機嫌を直してくれ。それに、そろそろ仕事の時間だ」
「ッ……そうね。うん、そろそろ集中するわ」
ようやくそいつらは言い争いをやめ、ピリッとした空気をまとった。いちおう、やりあおうってつもりみたいだな?
「あ~……おたくらは、いったいなんだ?夫婦漫才の訪問販売ってわけじゃないよな?」
俺は半分冗談、半分は悪の勇者呼ばわりされた仕返しのつもりで言ったんだけど、魔法使い風の女はどう受け取ったのか、顔を真っ赤に染めた。
「なっ……め、めおとって!あたしたちは夫婦じゃないわよっ!」
「コルル……訂正すべきはそこじゃないよ」
金髪の少年が、コルルと呼ばれた魔法使いの少女にツッコミを入れる。やっぱりこいつら、息が合うみたいだな?しかしエラゼムは警戒を緩めない。小声でささやく。
「桜下殿……お気づきかもしれませぬが、あやつは桜下殿を“勇者”とはっきり呼びました。どうにもきな臭い匂いがします」
「ああ……それに、聞いたか?あいつ自身も、自分のことを勇者って言いやがったぜ。こりゃあ、ただの漫才コンビじゃなさそうだ」
つづく
====================
【年末年始は小説を!投稿量をいつもの2倍に!】
年の瀬に差し掛かり、物語も佳境です!
もっとお楽しみいただけるよう、しばらくの間、小説の更新を毎日二回、
【夜0時】と【お昼12時】にさせていただきます。
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結局夕食を食べたのはいつも通り俺だけで、ライラは干し肉を数切れかじっただけだった。腹は減ってはないそうなのだが、今後はライラの分の食料も準備しないといけないな。骨か……骨って、どこで売ってるんだ?
食事が終わると、特に何もすることがなくなった。今日は早めに野営に入ったから、ずいぶん時間が余っている気がする。眠るにも少し早いし……あ、そうだ。
「ライラ。お前確か、四つの属性の魔法が使えるんだよな?」
「うん、そうだよ」
「見せてくれないか?簡単なやつでいいからさ」
確か、それぞれの魔法を断片的に見た記憶はあるんだけど、きちんと使うところは見ていなかった。アニいわく、四つの属性を持つことはとても珍しいことだというし、ぜひこの目で見てみたかったのだ。
「ふふん。しょーがないなー、とくべつだよ?」
ライラは得意げに、無い胸を張ると、きょろきょろとあたりを見回し、小さな石ころを拾い上げた。
「じゃあ、まずは火からね。さっきも使ったけど……」
ライラは少しのあいだ目をつぶって手を合わせると、次に石ころをピシっと指さした。ポン!小さな爆発音がして、石ころにロウソクくらいの炎が灯った。
「それで、次が水」
再びライラが集中すると、今度はどこからともなく水滴が現れ、石ころの頭上にふよふよと集まった。ザザァー!超局所的な雨が降り、石ころの火はあっという間に消えた。
「風も行くよ、それ!」
ライラが指先で空中をなぞるような仕草をすると、つむじ風が巻き起こって石ころは宙に舞った。ピュウゥゥゥ。
「そして最後が、地」
ライラが指をかみ合わせて呪文を唱えると、風はひゅっと消えてしまった。代わりに地面にぼこっと、握りこぶしほどの穴が開く。支えを失った石ころは真っ逆さまに穴に落っこちた。ライラがぱっと手を開くと、穴はばくんと口を閉じ、何事もなかったかのように石を飲み込んでしまった。実験台になってくれた石ころくんに、心の中で合掌。
「どう?すごいでしょ」
「ああ……本当に四つも使えるんだな。わかっちゃいたんだけど、この目で見ると、改めてすごいや」
「へへへ〜。もっと褒めてもいいよ~」
俺はなかなかに感動していたが、俺よりもっと打ち震えていたのはアニだった。
「アニ?どうした?」
『いえ……この目で見た以上、認めざるを得ません。この娘は、四大幻素の持ち主です』
「エレメンタル?」
『火・水・風・地。この世すべての素となったといわれる、魔術の根幹に座す四属性です。これら四つの属性を持つ者は、この宇宙を開拓し、万物を創造する権利を持つといわれています……』
「えっ。それって、神様みたいなもんじゃないか。じゃあライラは、神様……?」
「えっ。ライラ、天才だけじゃなくて、かみさまだったんだ……」
『ものの例えを真に受けないでください。今までは、四つの属性を持つ魔術師は存在しなかったのです。何を言っても、それは机上の空論に過ぎなかったのですよ』
「なぁんだ、大げさに言っただけってことか」
『まあ、そういうことです……しかし、ついにこの日になって、本当に四属性を持つ魔術師が誕生してしまうとは……私たちはひょっとすると、歴史の転換点に立ち会っているのかもしれませんよ……』
わ、そんなにすごいことなのか?……だが当の本人であるライラがきょとんとしているから、いまいち緊張感がないな。
「なぁ、じゃあ三属性までならいたのか?」
『ええ。後世に名を残す偉大な魔術師の多くは、複数属性を操ることができました。ただその中でも、やはり四大幻素に属する魔法を扱える魔術師は別格扱いされることが多いですね』
「へぇー……確か俺の魔力は、冥属性だって言ってたよな?その、火とか水とかじゃない属性は、あんまり大したことないのか?」
『そういうわけではありませんが、魔術の研究の深さ、および開発される呪文の多さでは、四大属性が優遇される傾向にありますね。これは単純に、その属性を持つ人間の多さにゆえんすると思うのですが……ややマイナーとはいえ、四属性以外の属性魔法も十分強力なものが多いですよ。雷属性なんか、戦闘における破壊力は随一ですし』
ふーん、雷ねぇ。まさに勇者の属性って感じだよな、それ。あいにくと正統派とは真逆を行く俺からしたら、実に縁遠い存在だ。きっと雷の魔法を使えるやつは、キメキメにキメてて、ザ・勇者みたいな見た目をしてるんだろうな……
俺がそんなことをぼんやり考えていた、その時だった。
「見つけたぞ、悪の勇者よ!」
うひゃ、俺はびっくりしてひっくり返りそうになった。謎の叫び声が、山々の間にこだまする……見つけたぞ、悪の勇者よ……勇者よ……勇者よ……
「……一応聞くけど、今だれか喋った人?」
「いるわけないじゃないですか、桜下さん……」
「い、一応だよ、いちおう。すぅー……誰だ、お前!」
俺は負けじと叫び返すが、夜のとばりが下りた尾根には誰の姿も見受けられない……フランとエラゼムが臨戦態勢に入った。
「桜下殿、吾輩たちのそばに」
「ああ……けど、いったいどこにいるんだ?そもそも、いったい誰が……?」
そのとき、闇夜の中に複数人の足音が聞こえてきた。俺たちはいっせいに身を固くする。結構近いぞ……どうして気づかなかったんだろう?
フランが一足先に、相手の姿を見つけた。やがて俺たちの目にも、そいつらの正体が見えてきた。
尾根の向こうからやってくるのは、四人の旅人らしい集団だった。何人かは武器を持っている。恰好だけなら、冒険家みたいだ……先頭は、まばゆい金髪の少年。暗い闇の中でも輝いているような金色だ。その隣にいるのは、魔法使いみたいな恰好の少女だ。ライラとはまた違った色味の赤髪で、なにやら金髪の男に言い寄っている。その後ろにも二人ほどの姿が見えたが、背格好をみるにその二人も女性のようだ。男一人に女三人か……俺が言えた義理じゃないが、なかなか変わったメンツの連中だった。
その四人はまっすぐ俺たちのほうへ向かってくる。さっき叫んだのは、声からして、あの金髪の少年だろうな。近づくにつれて、そいつらの会話がこちらにも聞こえるようになってきた。
「……だから、どうしてあんたはいっつもそうなのよ!せっかくあたしが風魔法で音を消してあげてたのに!」
「だって、それじゃあまるで民家に忍び込む泥棒みたいじゃないか。僕は勇者だ、泥棒じゃない」
「なっ……なんですって!あたしの魔法を、コソ泥の道具扱いするっていうの!?」
「わ、わ、そういうわけじゃないよ、コルル。でも、不意打ちなんて卑怯じゃないか」
「今回は相手が相手でしょう!?十分に注意しようって言ったのはクラーク、あなたじゃない!」
……なんだろう、あいつらは敵なんだろうか?そいつらは顔のパーツがはっきり見えるくらいの距離になるまで口喧嘩を続けていて、フランとエラゼムは警戒を解かなかったが、俺はすっかり肩の力が抜けてしまった。
「ほら、コルル。もういい加減に機嫌を直してくれ。それに、そろそろ仕事の時間だ」
「ッ……そうね。うん、そろそろ集中するわ」
ようやくそいつらは言い争いをやめ、ピリッとした空気をまとった。いちおう、やりあおうってつもりみたいだな?
「あ~……おたくらは、いったいなんだ?夫婦漫才の訪問販売ってわけじゃないよな?」
俺は半分冗談、半分は悪の勇者呼ばわりされた仕返しのつもりで言ったんだけど、魔法使い風の女はどう受け取ったのか、顔を真っ赤に染めた。
「なっ……め、めおとって!あたしたちは夫婦じゃないわよっ!」
「コルル……訂正すべきはそこじゃないよ」
金髪の少年が、コルルと呼ばれた魔法使いの少女にツッコミを入れる。やっぱりこいつら、息が合うみたいだな?しかしエラゼムは警戒を緩めない。小声でささやく。
「桜下殿……お気づきかもしれませぬが、あやつは桜下殿を“勇者”とはっきり呼びました。どうにもきな臭い匂いがします」
「ああ……それに、聞いたか?あいつ自身も、自分のことを勇者って言いやがったぜ。こりゃあ、ただの漫才コンビじゃなさそうだ」
つづく
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