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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

14-1 託された願い

14-1 託された願い

俺は過去の記憶から、現実へと帰ってきた。
俺が今いるのは、サイレン村の、薄暗い墓場だ。長い夢から覚めた気分だったが、別に場所は移動していないんだよな……過去も、現在も、すべてこの墓場から始まっている。
俺は例にもよって意識を失っていたようで、地面に横たわっていた。仲間たちが心配そうに見下ろしていて、いつかと同じように、俺はフランのひざに頭を支えられていた。

「悪い、フラン……もう大丈夫だ」

俺はフランに礼を言って、体を起こした。

「ん……あの子の過去を、見たの?」

「ああ……」

俺はライラのほうを見た。ライラも俺と同じように、地面にへたり込んでいる。そばには淡い光に包まれたアルフと母親が寄り添っていた。あの二人は、ライラの過去を知っているのだろうか。自分の娘がしたことを、あの母親はどう思うのだろう……
俺のそばにアルフがやってきた。

「おかえりなさい。ライラの過去、見てもらえました?」

「おう……お前は、どこまで知ってるんだ?」

「ほとんどすべてを。ああなるように仕向けたのは、僕のせいみたいなものですからね」

「仕向けた……アルフ、お前はこうなるって、全部わかっていたのか?」

「いいえ、さすがにそれは……ただ、可能性を考えてはいましけど。前に住んでいた家で、そんなような文献を読んだことがあるんです」

読んだことあるって……たったそれだけで、あんなことをしようと思いつくものなのか?自分のことを、妹に……なんて。

「僕のこと、おかしいと思いました?」

「っ……」

「そうですよね、普通じゃないことはわかってます。でも、あの時はああするしかなかった。理解してくれとは言いませんけど、否定はさせませんよ」

「……しないよ、そんなこと。あの光景を、見てきたんだぞ」

「そうでしたね、すみません」

俺たちの会話を、ほかの仲間は不思議そうな顔で見守っていた。後で説明をしたほうがいいだろうが、正直話すのをためらう内容だ……

「でも、これで分かってもらえましたよね。ライラは、まっとうな人間ではなくなっています」

アルフの言葉に、離れて聞いていたライラはショックを受けた顔をしたが、アルフは構わず続けた。

「ライラは、生き物のグールとも違います。近いものでいえば、餓鬼・プレータとも言えるかな」

餓鬼……常に飢えに苦しむ怪物のことだと、のちにアニから聞いた。

「もうライラは、ものを食べる必要はない。けど、飢えの苦しみから逃れるために、死体を食べることをやめられない。そういう種類のアンデッドだと思ってもらったほうがいいかもね」

「……ライラがアンデッドだっていうのはわかったよ。ディストーションハンドも発動したしな」

にわかには信じ難いが、認めるしかない。術の発動、俺が感じた気配……それら全てがライラをアンデッドだと証明している。あの衝撃的な過去が、ライラを文字通り、生ける屍に変えてしまったのだろう。だけど、それとは別に。俺にはまだ、どうにも釈然としないことがあった。

「アルフ、それはよくわかったけど。けど、まだはっきりしないんだ」

「何がです?アンデッドなら旅の仲間に入れても、なんら問題ないはずでしょう?食費もかからないし、おまけに強力な魔法だって使えるんですよ。だったら……」

「いいや、はっきりしないのはお前の方だよ、アルフ」

「僕?」

アルフはきょとんとした顔で聞き返した。

「僕の何がわからないんですか?隠し事はしてないはずだけど」

「まだ肝心なとこを聞けてないよ。さっきも聞いたけど、お前はどうしてそんなに、ライラを俺たちと一緒に行かせたいんだ?」

アルフは目を丸くした。その理由を、俺はまだきちんと聞けていない。

「あれ、言いませんでした?こんな生活を続ける妹を、見てられないからだって」

「それが全部の理由なのか?だとしたら、それを説明してやってくれよ。俺じゃなくて、ライラにさ」

アルフははっとしたように目を見開き、そしてライラの方を振り返った。さっきから、当事者抜きで話が進んでいる。そのせいでいまいち事の真意が見えてこないのだと、俺はようやく気づいたのだ。

「おにぃちゃん……」

ライラがゆっくりと、こちらに近づいてくる。その後ろからライラの母親も歩いてきていた。

「おにぃちゃん。ライラは、どうしたらいいの?」

「ライラ……お前がそうなってしまったのは、僕のせいだ。お前はそのことで、僕を恨んでいるかもしれない……」

「ライラ、恨んでなんかないよ。おにぃちゃんがいなかったら、ライラは今ごろ死んでた……」

「ライラ……」

「でも、ライラは普通じゃないんでしょ?このままじゃいけないの?」

「いいや、ライラ。ライラは、ライラのままでいいんだよ。けど、普通の人間とは違うのも事実だ。それは受け入れなきゃいけないけれど、それでも僕は、ライラに幸せになってほしい。ありのままのお前でも、普通の人と同じような幸せを手に入れてほしいんだ」

「それは、今のままじゃダメなの?」

「ああ。ライラは変わる必要はないけど、生き方は変えなければならないんだ。この墓場で死体をあさって生きることは、普通から大きくかけ離れたことだよ。それは、怪物の生き方だ。お前はこのままだと、怪物として一生を終えることになるんだよ」

「怪物……」

「僕と母さんは、お前にはできるかぎり真っ当な幸せを手に入れてほしいと願ってる。すでに僕たちは、それをずいぶん取り逃がしてきた……せめてライラにだけは、つらいことより楽しいことの方が多い人生を歩いてほしいんだよ」

「どうしてライラだけなの?それは、おにぃちゃんとおかーさんもでしょ?みんなで幸せになろうよ!」

アルフは黙って首を振った。ライラの母が、諭すように語り掛ける。

「言ったでしょう。私たちは影。この姿であなたといつまでも一緒にいることはできないの。今あなたに必要なのは、この世界に生き、共に歩んでいける仲間なんですよ」

「仲間……」

「あの人たちのことは、この墓場にやってきた時から見ていました。最初こそぶつかったかもしれないけれど、あの人たちはあなたのことを、化け物ではなく友として見てくれる方たちです」

「とも……」

「この墓場で骨をあさって暮らしていても、けっして幸せにはなれないわ。いつ化け物として退治されるかもわからないのだから。それよりもあなたには、この広い世界を知って、いろんなものを見聞きして、いろんな人に出会ってほしいの。私たちの分まで、ね」

「おかーさん……」

母親についで、アルフもライラに語り掛ける。

「そして、ライラ。僕がお前にしてしまったことはいっぱいあるけど、その中でも一つだけ、どうしても気がかりなことがあるんだ。お前は、サイレン村の人たちのことを憎んでいるね?」

「え……うん。だって」

「うん、無理もないよ。けどね、もしかしたらそれは、僕が村の人たちに復讐しようとしたからじゃないのかい?」

ライラはアルフの問いかけに口をつぐんだ。ライラは村の連中を憎んでいると言ったが、その一方で実質的な被害をもたらすことはなかった。彼女の真意はどうなんだろう?

「もしも、あの時の僕の、馬鹿げた考えを引きずっているのだとしたら、それは忘れてほしい。その復讐に価値なんて、ありはしないのだから」

「だ……!だって、あいつらはおにぃちゃんたちを!あいつらを許せっていうの!?」

「いや、そうじゃないよ。許せないのは僕も一緒だ。けど、そのために何かしようと思わないでほしい。それで僕たちが戻ってこれるわけじゃないし、お前の幸せの助けにもならない。そっとしまっておいて、いつか忘れてほしいんだ。今すぐには無理だろうけどね」

「おにぃちゃん……」

「なんて、僕が言っても説得力がないけどね。でも、あの時の僕を正気に戻してくれたのはライラだから。そのライラが、僕の側になるようなことがあっちゃいけない」

「……」

ライラはうつむいていたが、小さくうなずいたように見えた。ライラは母の言いつけをずっと守ってきたような、素直な子だ。兄の恨みを自分の恨みのように抱え続けてきた、ということもあるのかもしれない。

「ありがとう、ライラ。これで、僕たちの言いたいことは全部だよ。だから……そろそろお別れだ」

「え……」

ライラが驚いて顔を上げる。アルフと母親は光に包まれて、今にも消えそうに揺らいでいた。俺は、なぜか線香花火の最後の灯りを思い出した。

「おかーさん、おにぃちゃん……!」

「ライラ、頑張るのよ。頑張って、幸せになって……」

「ライラ、忘れないで。声は聞こえなくても、僕たちの魂は、ずっとお前のそばにいるから……」

ライラが消えゆく二人に手を伸ばす。アルフと母親も、迎えるように腕を広げた。ライラが駆け寄って二人の腕の中に飛び込んだ瞬間、二人の姿は光の粒子になって、はかなく散ってしまった。

「あぁ……」

ライラは虚空を抱いて、がっくりと膝をついた。二人の姿だった光は、最後にライラの頭をひと撫でしてから、夜の闇へと消えていった。

「―――」

その時俺の耳に、不思議な音が聞こえてきた。風の唸りにも聞こえたが、俺にはそれが、俺たちへあてたメッセージに思えた。

(―――ライラを、頼みます―――)



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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