じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
11-1 小さな魔法使い
ぶるり。俺は身震いした。ライラの体から、一瞬得体のしれないオーラ、みたいなものが噴出した気がしたのだ。
「いままで森の中から戦いを見てた。ライラのまほーをブチ当てたら、あのゴーレムをやっつけられると思う」
「おお、ほんとか?」
「けど、そのままだと力が中まで伝わらずに、核が壊せないかもしれない。だから、あいつの体に傷をつけてほしいの」
「傷?いままでフランたちがつけたんじゃだめか?」
「もっとおっきいのだよ!ヒビ、みたいな。それがあれば、あいつを完全にブチ壊せるはず」
「よし、ヒビだな、わかった。おーい、みんなー!」
俺が叫ぶと、フラン、ウィル、エラゼムの三人はこちらを振り返った。
「ライラが協力してくれた!最大威力の魔法をぶち込むから、奴の胴体にヒビを入れてくれないか!」
三人は俺の隣のライラに驚いたようだったが、誰一人疑問をこぼさずうなずいた。
「じゃあ、ライラはまほーの準備に入るから。お前はライラを支えてて」
「は、え?俺か?」
「このまほー、準備が大変なんだ。ほら、早く!」
「お、おう」
なんのことだかわからないが、俺はライラの後ろに回って、肩に手を置いた。ライラが呪文の詠唱を始める。
「~~~~」
あいかわらず、魔法の言葉はまったく聞き取ることができない。しかしアニやウィルのぶつぶつとした声とは違い、今回のはまるで歌うような、それこそ風が楽器を奏でているような、不思議な音がしていた。
「ぜりゃあ!」
ガキィン!アイアンゴーレムとの戦闘では、エラゼムがゴーレムの腕を弾いたところだった。そこへすかさずフランが飛び込む。ザシュッ!フランの爪がゴーレムの胸を抉るが、まだ浅い。ゴーレムは反撃で鋭く足を蹴り上げ、フランはゴーレムの頭上へ高々と吹っ飛ばされてしまった。
「そこだっ!」
キィーーン!エラゼムがフランの残した爪痕へ重ねるように、大剣を突き立てる。剣先がわずかにゴーレムの体に埋まったが、まだヒビと言うにはほど遠い。
「ゴオオオ!」
「ぐぅっ」
ゴーレムが腕を振り回し、エラゼムは剣だけ残して横なぎにぶっ飛ばされた。ガシャアン。
「やあああぁぁぁ!」
あ!ゴーレムの頭上へ吹っ飛ばされていたフランが、吠えながら落っこちてくる。その目ははっきりと、ゴーレムの体に残るエラゼムの大剣を見据えていた。
ガシィ!フランが飛びつくように大剣を握りしめる。そしてフランは、落ちてきた勢いのまま、力任せに大剣を下へと引き落とした。
「ああああぁぁぁぁ!」
ズドォン!重々しい音とともに、大剣とフランが地面に転がり落ちる。アイアンゴーレムの胸には、一筋の斬り跡がまっすぐ引かれていた。
「今だ!」
フランは転がってゴーレムから離れるやいなや叫んだ。俺は背中を支えているライラを見下ろす。いつの間にか、ライラの周りには強い風が渦を巻いていた。あたりに生えた雑草が引きちぎられ、俺たちの周りにらせん状の模様を描いている。その時だ。
「あ!やばい、ゴーレムが!」
傷を受けて動揺したか、それとも異様な空気のライラに恐れをなしたか。アイアンゴーレムは姿勢を低くすると、腕で傷口をかばうようにして、防御の姿勢を取ったのだ。あれじゃ、せっかく付けた傷に魔法が当たらない!
「フレイム、パイーーーンッ!」
ウィルの絶叫がとどろいた。最後の魔力を振り絞って出した柱は、もはやほとんど火が消えかかっていて、おまけに一本しかなかった。が、地面からせり出してきた柱はゴーレムの上体を突き上げ、姿勢を崩したゴーレムの傷口をさらけ出すことに成功した。
「っ!」
ライラが目を見開き、まっすぐアイアンゴーレムを見据える。両手をがばっと広げると、まるで透明な幕を引き裂くように、両手を振り下ろし、叫んだ。
「カマイタチッ!」
シュアアァァァー!
ライラから放たれた風の刃が、目の前の地面を抉り取りながらまっすぐ飛んでいく。その膨大な風の力は、アイアンゴーレムの胸の、傷口の一点に集約し、はじけた。
バキイイィィーーーン!
「うわーー!」
突然巻き起こった暴風に、俺はライラともども吹き飛ばされた。遠くで聞こえた悲鳴はウィルのものだろうか。風が耳元で唸りをあげ、目もあけられない。時折鋭くとがった小石か何かが、俺の頬を引っかいていく。俺はライラの小さな体をぎゅっと抱え込み、せめてこの子だけでも守ろうとした。
風は始まったのと同様、唐突に止んだ。
「……おさまった?いったい、何が起こったんだ……」
「ちょ……ちょっと!ぐるじい……」
「あ、ごめんライラ」
俺が腕の力を緩めると、ライラはけほけほと小さくせき込んだ。
「けほっ。だから言ったでしょ、支えててって。あのまほー、使った後が大変なんだから」
「そ、それならそうと言えよな……いや、それよりも、ゴーレムは……?」
俺はゴーレムがいた所に目をやり、唖然とした。
ゴーレムは、跡形もなく吹き飛んでいた。後には細かく刻まれた金属片が、山となって積まれているだけだ。あの風の刃で文字通り、木端微塵になってしまったらしい。
「す、すげぇ……なんて破壊力だ」
鉄くずと化したアイアンゴーレムの残骸の一番上に、紫色の結晶が置かれていた。竜核だ。竜核はまだ弱弱しい光を放っていたが、やがて蜘蛛の巣のようなひび割れが全体に走った。そして……
ピシリ!キイィーン……
竜核は甲高い音を発して、粉々に砕けた。俺にはそれが、込められていた竜の恨みの、最後の断末魔に聞こえた。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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