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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

5-3

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結局赤髪の少女の痕跡はつかめないまま、俺たちは一度宿へと戻った。ぬかるみを歩いて泥んこになった俺たちの足元を見て、ミシェルは思い切り顔をしかめた。

「ちょっと!入ってくる前に、ちゃんと足を拭いとくれよ」

ミシェルが小汚い布きれを投げてよこす。俺はそれをキャッチすると、靴の裏の泥を落としながら言った。

「なぁミシェル。ここの宿って、風呂使えるか?俺、すっかり冷えちゃって」

「風呂ぉ?よしとくれよ、こんな天気じゃ薪に火なんかつきやしないよ。一日ぐらい入らなくっても死にゃしないだろう?」

「そりゃそうだけど……っくし!」

「桜下さん、火は私が起こしますから。浴室だけ使えるように言ってもらえますか?」

ウィルが俺の耳元でささやいた。そりゃ助かるな。俺はウィルに目で了解の合図を送った。

「あー、じゃあ火はこっちで何とかするから、風呂だけ使わせてくれよ。俺、風邪ひいちゃうよ」

「何とかするって……湿気って着きゃしないよ?まぁ、あんたたちはどうにも頑固だからねぇ……どうにかするんだろ、いいよ、勝手にしな。薪は裏にあるから」

「わり、ありがとな」

ミシェルに礼を言うと、俺はウィルに頼むぜ、のウィンクをした。ウィルはうなずいて壁から外に出ようとしたが、杖が引っかかって騒々しい音を立てた。ミシェルが目を丸くする。ああ、杖は実体があるんだっけ?慌ててエラゼムに杖を預け、ウィルは今度こそ飛び出していった。
震えながら風呂場に行くと、せまい浴室に木組みの風呂桶があり、中に水が張られていた。当然冷たいままだ。ところで、なぜか風呂桶の上下二か所に穴が開いていて、そこから金属のパイプが伸びている。パイプは壁を突き抜け、外に出ているようだ。これ、どうやって湯を沸かすんだろう?給湯器があるわけじゃなし、俺がどうしたもんかとあちこちのぞきこんでいると、風呂場の壁の外からゴソゴソ、ボゥっと音が聞こえた。するとパイプがカタカタと揺れ、上の穴から水が吐き出され始めた。手を突っ込んでみると、あったかい。お湯だ!

「すげぇ。どういう仕組みなんだろ……」

しばらくかき混ぜてやれば、水はあっという間にほかほかとゆだった。俺はぐっしょり湿った服をもたもた脱いだ。首からアニを外し、最後に帽子を脱ぐところで、一瞬手が止まる……

「……いいか、誰も見てやしないんだから」

ゆっくり温まると、心も体も生き返った気がした。服はさすがに乾いていなかったから、同じものを着るしかない。うぅ、ラクーンの町で着替えも買っておけばよかった。次の買い出し要目だな。どうしてかって、そりゃこの村で買い出しはしたくないだろ?

風呂から上がると、ミシェルのいるカウンターのすみにフランが寄りかかっていた。その足元で、エラゼムが大剣についた雨粒を布きれで丁寧にふき取っている。ウィルは窓から空模様をうかがっていた。こちらに振り向いた拍子に目が合ったので、俺は手を上げて「さんきゅー」と口パクした。ウィルはにっこり笑って首を振った。

「ミシェル、風呂ありがとな。おかげで生き返ったよ」

「……ああ」

ん?ミシェルはずいぶん疑わしげな視線を俺に向けてくる。なんだ、シャツを裏表逆に着てたかな?それなら恥ずかしい……

「……あんたたち、魔術師なのかい?」

「はえ!?」

な、なんでそんなことを?ウィルとアニは魔法を使えるが、そのどちらもミシェルは知らないはずだ。エラゼムが剣を拭く手を止め、ウィルははっと口を手で覆った。

「ど、どういう意味だ?俺、魔法使いに見えるかな?」

「てっきり火がつかなくて諦めるか、相当苦労するだろうと思っていたんだよ。まさかこんなにあっさり、しかもあったまって出てくるとは思わなかった」

「あ、ああ。なるほどね」

ウィルの魔法の炎はすぐ着いて、勢いもすごいからな。ミシェルの指摘は正解だ。

「は、ははは。俺の火おこしスキルはちょっとしたものだからな。これぐらいなんてことないのだ」

「……そうかい」

ミシェルはあまり納得してはいなさそうだったが、これ以上追及してくることもなかった。

「まあいいよ。オウカとかいったね。そういや、人探しとやらは済んだのかい?」

「んんや。さっぱり手がかりも掴めなかったよ」

「だから言っただろう。まあいい、それよりあんたたち、夜のクエストを忘れちゃいないだろうね?日が沈む前に腹ごしらえをしてきた方がいいよ」

「ん?けどまだ昼過ぎくらいだよな?」

「この村は山の谷がわにあるからね。影に入って日が沈むのが早いんだ。それに、店が閉まるのも早い」

「なるほど……なあ、メシ屋って、あの酒場しかないんだっけ?」

「そうだよ。まぁ、腹こわしてもいいってんなら、あたしの手料理を振る舞ってやるがね?」

「え、遠慮しとくよ……」

ミシェルははぐらかされた仕返しとばかりに、くっくっくと笑った。食えないおばちゃんだよ、まったく。

「けど、はぁ。言っちゃ悪いけどさ、俺、あんまりあそこの酒場、好きじゃないんだよな。あんまり歓迎されてないみたいで」

「ふん、そりゃそうだ。あそこの連中が人を歓迎してるとこなんて見たことないよ」

「え?」

ミシェルはさも面白くないという顔で、ぺっと床につばを吐いた。

「あいつらは、自分たちの仲間だけが好きなのさ。よそ者はおろか、あたしらみたいな貧乏人もお嫌いだよ。貧乏がうつるって思ってるんだよ、けっ!」

「同じ村の人にもあんな感じなのか?なぁ、あいつらって、いったい何者なんだ?どうしてあの酒場だけ妙に活気があるんだろう?」

「……知らないよ。知りたくもない。どうせ小汚い手で荒稼ぎしてるんじゃないかい」

ミシェルはふいに視線を逸らすと、カウンターの下から帳簿を取り出してそれに取り組みだした。

「そろそろいいかい。あたしもそこまで暇じゃないんだ」

「ん、ああ。悪かったな……」

俺は唐突に話を切られて少し面食らったが、ミシェルはそれ以上話を続ける気は無いオーラを出していた。窓の外を見ると、雨はだいぶ弱まってきている。だが雨雲はまだうっすら残り続けていて、そのせいか昼間だっていうのに、ずいぶん暗く感じた。ミシェルの言う通り、夜が来るのは早いかもしれない。

「じゃあ、ちゃっちゃと飯でも食いに行こうか」

俺は仲間たちに声をかけると、もくもくと作業を続けるミシェルを後に宿を出て、あの薄気味悪い酒場へと向かった。いやだなぁ……
酒場はやっぱり盛況していた。昨日と同じくらいだろうか。けど昨日と違って、ヴォール村長の姿は見えなかった。そして昨日と同じように、俺たちが入っていくと、客は水をうったようにシーンとなった。が、さすがに二度目では慣れたのか、その静寂も長くは続かなかった。よかった、またあの空気になったんじゃいたたまれないぜ。俺たちはなるべく客を避けて、隅っこの空いているテーブルに座った。すぐにウェイトレスがやって来る。髪はくしゃくしゃで、濃い化粧の女だった。

「ご注文は?」

「えー、なにか腹にたまるものを、一人分で」

一人分というところでウェイトレスは不思議そうな顔をしたが、黙ってうなずいた。それから厨房まで戻っていくかと思いきや、なぜかするりとエラゼムのもとまで近寄っていき、そっと体を近づけた。なんだなんだ?エラゼムの知り合いか?いや、その本人もぎくりとしている。

「むっ……んんっ。申し訳ないが、吾輩はそなたに趣味は無い。それに、あいにくと文無しだ」

エラゼムがぶっきらぼうに答えると、ウェイトレスはカーッと顔を赤くした。

「けっ、だから一人分ってわけかい。このカネなし、タマなし野郎!」

ウェイトレスは吐き捨てるように言うと、足早にテーブルを離れていった。な、なんだったんだ……?あまりのことに俺が呆然としていると、エラゼムがため息をついた。

「ふぅ……申し訳ありません、桜下殿。お目汚しを」

「いや、エラゼムが悪いわけじゃ……というか、いったい何だったんだよ?」

「はぁ、その……こういう場末の酒場では、女給が時たま、“個人的なサービス”を誘ってくることがございまして。酌をしてもらったり、時には……体を触ったり……」

「はぁ……」

俺はぽかんとあいづちを打った。フランは表情を変えず、ウィルは逆に興味深そうに、他のウェイトレスを目で追っている。エラゼムは気まずそうに咳払いをした。

「ご、ごほん。酒場ではみな酔っていますから、多少はぶりはいいのでしょう。少し体を触らせて、小銭を頂戴する……ちょっとした小遣い稼ぎです」

なるほどな。チップみたいなものかな?ちょっと違うかな。

「だからこそ、吾輩が断ったことで腹を立てたのでしょう。大きな町の店ではめったに見ないです、このようなことは」

だろうな。ラクーンの宿・アンブレラでは、こんなことなかった。もっとも、あそこの看板娘のクリスが、そんなサービスをするところが想像できないが……

(お、お客様。よろしければ、わたしがお酌をいたしましょうか?……きゃあ!コップをひっくり返しちゃいました!)

ははは、ありそう……



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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