じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
7-1 それぞれの戦場
『……行ったようですね。もう動いてもいいでしょう』
「あ、おう……アニ、どういうことなんだ?どうしてあいつら……」
『今のは、透明化の魔法なんです。あの兵士たちからは、主様たちの姿は見えていなかったんですよ』
「ええーー!なんだよそれ、反則級じゃないか!それがあるなら、どうしてもっと早く言ってくれなかったんだよ!」
その魔法さえあれば、わざわざマントで顔を隠してまで門を抜けることもなかったんだ。透明になって、悠々と歩いて出て行けたのに……
「桜下さん、あの魔法は、そんなに便利なものじゃないんです。あれには、重大な欠点があるんですよ」
ウィルが憤慨する俺をなだめるように言った。欠点だって?
「あの魔法、動くと解けてしまうんです」
「は?……え?」
『幽霊娘の言う通りです。カメレオンカラードは、周囲の風景を写し取り、そこに溶け込む魔法です。ですが写し取るのはその瞬間であり、そこから動けば当然ズレます』
「な、なんじゃそら。使え……なくもないのか」
『さっきのようなその場しのぎ程度にはなりますか。自分の姿は見失わないので、モンスターの生態調査だとかにはよく使われるようですが』
「後は、こっそり隠れてやりたいことにはうってつけですね。ほら、例えば……あ、やっぱりなんでもないです。忘れてください」
「……んんっ。まあ、とりあえず、なんであいつらが俺らを見失ったのかは理解できた。じゃあ今ひとまずは安全ってことだな」
『ええ。ですが、仮初の安息にすぎません。次の一手を考えなくては』
「うーん……」
アニの言う通りだ。結局この町を脱出するまで、真の意味で安心はできない。
「けど、今朝より状況は悪くなっちまったな。俺たちが街中にいることは向こうにもわかってるし、門の守りはいっそう厳重になってるだろう」
外からの警戒に兵を割かなくてもよくなった分、あちらは警備がしやすくなったってことだ。対して俺たちはより慎重にならざるを得なくなった。エラゼムがうなずく。
「敵は桜下殿に合わせた兵の展開を見せました。あそこまで徹底されますと、正面突破も難しいですな」
「うぅ~……そうなんだよなぁ」
ネクロマンサーである俺自身を狙われると、フランとエラゼムはどうしても俺のカバーに入らざるを得なくなる。しかし俺の周りを固めてばかりでは、近接戦で輝く二人の力を十分に発揮できないのだ。
「ごめん……俺がもっと強ければ」
「桜下殿が謝る必要など。貴殿は我らの将たる存在。むしろこれは、兵である吾輩らの憫然たるところでございます。せめてウィル嬢のように、魔導の一つでも扱えれば……」
むぅ、それは確かに。わが陣営は近接戦では非常に強いが、一方で遠距離攻撃手段に乏しい。ウィルもアニも、妨害や補助呪文は豊富なれど、攻撃魔法は得意でないのだ。
「ちょっと!いま無いものをねだったってしょうがないでしょ」
フランがイライラした様子で声を荒げた。
「大事なのは、この場を切り抜けること。そのためには、今ある力をフル活用するしかない。愚痴を言ってる暇なんてないよ」
「……フラン嬢の言う通りですな。吾輩としたことが、申し訳ない」
「しっかりしてよね……いちお、仲間なんだから」
「ふふ、ありがとうございます」
エラゼムがほほ笑むと、フランはぷいっとそっぽを向いた。素直じゃないやつ……
「桜下殿、一つ提案がございます。吾輩がおとりになり、陽動を仕掛けてみてはいかがでしょうか」
「え?おとり?」
「フラン嬢の言う通り、今は各々持ちうる特性をすべて活かすしかありません。吾輩は死なず、疲労することもありません。この鎧と大剣も目立つでしょうから、おとり役に最適です」
それは、そうだ。生きてる人間がおとりをやるより、アンデッドのほうがはるかに理に適っている。
「けど、じゃあ陽動した後はどうする?全兵力が向かってくれるとは思えないぜ」
「そこでございますな。どこか一つでも門が手薄になれば、フラン嬢とウィル嬢の力で突破ができそうですが」
しかし、そこでフランは首を振った。
「けど、あいつらだってバカじゃない。さっきみたいに、最低限前衛と後衛に分かれられちゃ、それだけでゴリ押しはできなくなる」
「お、俺だって少しは……」
「あなたは唯一の生身の人間でしょ。アンデッドに張り合わないで」
はい、もう何も言いません……
「いっそのこと、相手のトップを直接叩くとか」
「敵軍の指揮を混乱させるということですかな。そう言えば先ほど吾輩たちが出会った部隊、彼らはそれなりの地位に見えましたな。リーダー格らしき兵や、なかなかの切れ者もおりました」
「うん。あれを潰すのは?あなたが気を引いている間に、わたしが殴り込む。それなら、この人は安全なところで隠れていればいい」
「しかし、桜下殿に守りをつけないというのは、いささか不安では。ウィル嬢では槍剣には対処できますまい」
「あの、すみません。役に立てなくて……」
ウィルがしゅんとしょげると、フランはまなじりをひくつかせた。
「だから!今はグチグチ言わない!あなたは他のところでめちゃくちゃ役に立ってるから!」
「あ、は、はい!ありがとう、ございます?」
ウィルは怒られているのか叱られているのか、困惑した様子だ。俺もうなずく。
「そうだぜ。ウィルは剣は持てないけど、誰にも見られず敵陣に侵入できるっていう反則キャラなんだからな。なあ、そのトップを討つって作戦、ウィルにしてもらったらいいんじゃないか?」
「わ、私ですか?」
「ああ。ウィルならだれにも邪魔されないし、気づかれない。こっそりリーダーに近づいて、ポカっと」
「わ、腕力に自信は……」
「じゃあ、そいつがトイレに入ったところで、カギを抑えて閉じ込めるとか。もしくは憑り付いて操ってもいいけど」
「お、桜下さん!そんなことできるわけないでしょう……でも、そうですね。扉につっかえ棒をしたり、妨害くらいならできるかも」
「だろ?それだけでも、相当混乱するんじゃないかな。見えない敵なんて、知らなきゃ恐怖以外の何ものでもない」
魔法だけがウィルの特技じゃない。誰にも捕捉されないのが、彼女の真骨頂だ。フランの言う通り、みんなの長所をフル活用する必要があるぞ。けどそれができれば、俺たちは十分戦えるはずだ。
『憑依……』
ん?アニが、意味深なつぶやきをする。
「アニ、どうした?」
『憑依……いけるかもしれません。仮説ですが……』
「え?」
『これができれば、戦局を思い通りに書き換えることができます。試してみませんか?』
……
アニの立てた仮説は、びっくりするほど大胆で、けどそれだけ魅力的な提案だった。なにより、この俺にも活躍の機会があるのが気に入った。俺たちは各々の役目を持って、戦場に散らばっていった……
「作戦、開始だ」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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