じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
6-3
「アニ。前にやった閃光の魔法、また頼めるか?」
『はい。とりあえず、私を出してもらえますか?こうなっては、隠してもしょうがないでしょう』
「おっと、そうだな。はいよ」
俺は服の下からアニを取り出す。アニは小刻みに震えながら、早口に段取りを告げた。
『何度も言っていますが、私の魔法はこけおどし、大した威力はありません。それに王都から来た兵士の鎧は、おそらくAMA仕様でしょうから、そもそも効かない可能性があります。そこで、幽霊娘』
「は、はい。私ですか?」
『連中は、あなたのことを認知できていません。言い換えれば、いつでも不意打ちが可能です。あなた、“ホウセンカ”は使えますか?』
「え?えっと、はい。できますけど……」
『では、私の魔法に合わせてください。完全に不意を突けば、かなり隊を乱れさせることができるでしょう。その隙をついて包囲網を脱出します。で、いいですか、主様?』
「よっしゃ。それでいこう。フランは前、エラゼムは後ろを頼めるか?」
「わかった」
「御意に」
「ちょ、ちょっと待ってください桜下さん!その後、ここを抜けてからはどうするんですか?」
「それはほら、抜けてから考えようぜ。今は時間がない。とりあえず、門を目指すぞ!」
『では、始めます。幽霊娘、続きなさい』
「あぁ~、もうもう!知りませんからねっ!」
アニとウィルが、同時に詠唱に入った。低いつぶやきが、輪唱のようにあたりにこだまする。
「ぬ!魔法を使う気だな!弓兵隊、奴を射よ!魔法を使わせるな!」
エドガーがバッと手を上げると、弓矢が雨あられのように降り注いできた。しかしエラゼムは巨大な大剣を頭上で振り回して、矢をすべて吹き飛ばしてしまった。
「なぁ!?」
「吾輩をなめるなよ。王都の騎士だからとて、引けを取る気はないわ!」
よし、いいぞ!その間に二人の魔術師は呪文を唱え終わった。アニの声が響く。
『フラッシュチック!』
パァー!まばゆい黄色の閃光がアニからふきだす。そこにウィルの声が重なった。
「フレーミングバルサム!」
バチバチバチ!ウィルの手から、はじける花火のような火の玉が飛び出した。火の玉は閃光に目を回した兵士たちの間を跳ね回り、あたりは騒然、大混乱となった。
「うわぁ!あ、熱い!あいた!」
「おい、どこを見てるんだ!危ないだろ!」
「お、鬼火だぁ!地獄から鬼火を呼び寄せたんだ!」
「落ち着け!大した威力じゃない、こけおどしだ!落ち着けって、ほら、よく見てみろ!」
ちっ、あの切れ目のヘイズとかいう兵士には、二人の魔法は効いていないようだ。リーダー格のエドガーや、他何名かの兵士は閃光にも目をやられず、ぎりっとこちらを睨み付けていた。
「小癪な真似を!この程度でわれらを倒せると思うな!」
「ちっ、しぶとい!とりあえず、ここから脱出しよう!フラン、エラゼム!」
俺が叫ぶと、フランが火の玉に慌てふためく兵士を蹴り飛ばして道を作った。だがそれを見てエドガーも声を張り上げる。
「門の前を固めろ!外にだけは逃がしてはならん!門を死守しろ!」
魔法を受けなかった兵士は機敏に反応し、門の前に集結した。フランが作ってくれた道は、あっという間に兵士たちにさえぎられてしまった。
『主様!あれを蹴散らしていては、他の者が立ち直ってしまいます!』
「それじゃ元の木阿弥だな!しょーがねー、作戦変更!いったん町中に逃げよう!」
俺が叫ぶやいなや、フランは一瞬で身をひるがえして、町のほうへと駆け出した。俺も必死にそのあとに続く。前はフランが道を作ってくれる。
「あ、逃げ出すぞ!撃て、撃てぇー!」
ヒュンヒュン!背後から矢が飛んでくるが、後ろはエラゼムが防いでくれる。矢はエラゼムの鎧に当たるか、振り回す剣に切り落とされた。
「フレイムパイン!」
ズゴゴゴ!そこに、ウィルの二度目の魔法が炸裂した。俺たちの後ろには燃え盛る炎の壁が出現し、追ってくる兵士たちを完全にシャットアウトした。
「ナイス、ウィル!でもどうしようか、このまま別の門に行くか!?」
『主様!とりあえず、人気のない路地に逃げ込んでください。いったん作戦を練りましょう』
「あ、ああ?けど……」
するとその時、実に悪いタイミングで、前方から別の兵士たちがやってきてしまった。あの信号弾を見て、集まってきたみたいだな。兵士たちは走ってくる俺たちと、その背後で燃え盛る火柱をみて、俺たちがホシであると決めつけたようだ。
「やつだ!やつを捕らえろー!」
「うひゃ、最悪だ!」
『主様、どこでも構いません!一瞬でいい、人目のない場所へ!』
「なにぃ!?くそ、わかった!フラン、こっちだ!」
俺は突撃しようとするフランを呼び止めると、すぐ横の路地に飛び込んだ。くねくねとした路地には、人っ子一人いない。よし、ここを突っ切れば……
「……!桜下さん、前っ……!」
「はぁ、え?……っ!おいおい、ウソだろ……」
なんてこった。俺たちが逃げ込んだ路地、その先は、行き止まりだった。周囲は高い壁に囲まれ、ほかに迂回できそうな道はない。
「くそ!戻って別の道に……」
「お待ちくだされ!桜下殿、追っ手がきております。ここで迎え撃ちましょう!」
く、本当だ。路地の奥から、ガシャガシャと騒々しい足音がする。これじゃ、逃げた意味がまるでないじゃないか。
『その必要はありません』
「え?アニ?」
突如アニはまばゆく輝くと、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。
『……いまから、全員に魔法をかけます。決してその場から動かないでください……』
え?動くなっつっても、どうすんだ?兵士たちの足音は、もうすぐそこまで迫ってきている。この状況で有効な魔法ってなんだ?体を鉄の塊にでもする気かよ?
『カメレオンカラード!』
アニの声が響き渡る。しかし……何も起こらないぞ?俺は自分の手を見つめてみたが、普段と何も変わりない。これ、成功してるのか?
「アニ、これって……」
『動かないでください!もう兵士が来ます。いいですか、指一本動いてはいけませんよ』
そ、そういわれたって、どうすりゃいいんだ。このままじゃ……だが無情にも、兵士たちは俺たちの前方にやってきてしまった。ああ、こんな狭い路地に逃げ込んだばっかりに、また包囲される羽目に……
「あれ?おい、どこにもいないぞ!」
ん?
「そんな馬鹿な!別の道に逃げられたのか?ここにくるまで、脇道なんかあったか……?」
あれ?
「もしかしたら、見落としていた隙間でもあるのかもしれん。戻ってもう一度確かめよう」
おおお?兵士たちは、なぜか俺たちの目の前でくるりとUターンすると、元来た道をドカドカ戻って行ってしまった。ど、どうなってるんだ?
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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