じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
4-4
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そうだ。こうしている間に門を閉められてしまったら、結局逃げるどころじゃなくなっちまうじゃないか。
「ど、どうしよう」
「そう思って、帰りに関所の様子もうかがってまいりました。しかし、どうやらいつも通りで、取り立てて通行を取り締まろうとする気配はないように見えました」
「んん?どういうことだ?」
「仮説なのですが、連中はこちらの動向を掴んでいるだけであって、明確な居場所までは分かっていないのではないでしょうか。つまり、この街に入っているかどうかまでは分からない」
「あ、なるほど……だから、門を閉めないのか」
「おそらく」
俺とエラゼムがうなずいていると、ウィルが不安そうにたずねてきた。
「あの、桜下さん?それは、大丈夫ってことでいいんですか?」
「ん?ああ、門のことか?」
「ええ……だって、今こうしている間にも、閉じられてしまったら……」
「いや、たぶん閉じない。というか、閉じられない」
「え?」
「あいつらは、俺たちがこの町にすでに入ってることを知らないんだよ。たぶん進路から予想して、ここに来るだろうって算段を立てただけなんだ」
「ええ、それは聞きました……」
「だからだよ。門を閉じちまったら、今からくるかもしれない勇者を捕らえられない。勇者がこの町を目指してたとして、封鎖なんかしたら一発で怪しまれちまうだろ?」
「あ、そっか……」
「たぶんこれから、検問所で勇者がいないかをチェックするつもりなんだろうな。みつけたらその場でふんじばるわけだ」
「……って、それでも変わらないじゃないですか!結局出るときにバレたら意味ないでしょう!」
「そこなんだよなぁ。なんかあんのかな、勇者測定器みたいな。だったら奇術団じゃもう通せないし」
エラゼムが口を挟む。
「案外、関所での聞き取りをアテにする気かもしれませんぞ。旅の目的なんかを聞いていたでしょう」
「それなら助かるんだけどな。俺たちは旅のマジシャン扱いになってるし」
「いずれにしても、門が閉まらないのであれば、問題ないかと。閉じた門を開くのは至難の業ですが、門を守る衛兵を蹴散らすのなら容易いですから」
エラゼムはそう言って、背中の盾兼大剣をガシャリと鳴らした。確かに、こちらには凄腕の騎士、怪力のゾンビ、幽霊の魔術師がいる。最悪、包囲網を突破することもできそうだ。
「よし、じゃあこんな感じだな。店が開きだしたら、最低限必要な補給品を調達する。それがすんだら速やかに街を脱出。万が一関所でばれるようなことになったら強行突破。で、いいかな?」
「御意に」
エラゼムがうなずく。
「不安ですけど……わかりました」
ウィルはぎゅっと、祈るように手を合わせた。
「……」
フランは無言で首を縦に振った。
「うし、決まりだな。じゃあ時間をつぶしがてら、朝飯でも食ってこうぜ。頼めば、なんか作ってくれるだろ」
「こんな時に、よく食べられますね……私、緊張して水も飲めなさそうです。幽霊だから飲めませんが……」
「ま、腹が減ってはなんとやら、ってな」
俺たちが食堂に降りていくと、すでにクリスがちょこちょことテーブルの間を走り回っていた。
「おはよう、クリス。朝から忙しそうだな」
「あ、みなさん!おはようございます、ほんとにお早いですね。えへへ、わたしはちょっと寝坊しちゃって……じゃなかった。あの、冗談です。とにかく、こちらへどうぞ!」
ははは……せっかくなので、クリスがすすめてくれたテーブルに座る。
「クリス、確か昨日は一食だけの料金だったと思うんだけど、朝もここで食べれるか?もちろんその分は出すよ」
「あ、はい!もちろんです。三人さま分でいいですか?」
「あぁーっと、俺以外は朝が弱いんだ。だから俺の分だけで頼むよ」
「かしこまりました。すぐにお出ししますね」
クリスはふかぶか頭を下げると、すぐに厨房へ走っていった。朝から元気だな。それはそうと、俺はあたりを見回してみた。食堂には、俺たちしかいない。昨日のおっさんは、まだ下りてきてないみたいだ。まぁいいか、できれば二度と会いたくないし。
それからすぐに、クリスがメシを運んできてくれた。
「お待たせしました。ミートボールと、ライ麦のパンです」
おぉ。ミートボールはこぶしほどの大きさのものが、ほこほこと湯気を出すスープの中に浮かんでいる。ライ麦パンは前の世界でも見慣れたものだ。うん、うまそうだな。
「……ところで、どうして親父さんが?」
クリスの後ろには、なぜかクリスの親父までついてきていた。なんだろう、また何か用かな。
「いやなぁ、今朝あんた方の部屋の前で、みょうな動きをしてるやつを見かけたんですよ。怪しいもんだからとっ捕まえてみたら、なんとウチのお客じゃねぇか」
「え?それってもしかして、昨日いた痩せたオッサンじゃ……」
「やっぱり知ってやしたか。そいつを問い詰めてみたら、なんだかみょうちくりんな薬を売りさばいてる売人だって言うじゃないか。おまけにそいつ、アタシにまでそれを売りつけようとしてきやがった。ったく、冗談じゃねえ」
うわ……あいつ、そんなことしてたのか。俺たちの部屋の前にいたのも、また売りつける機会をうかがっていたのかもしれないな。
「ああいう輩は、アタシらみたいに商会ギルドにも許可をとってない、モグリの売人です。アタシらカタギからすりゃ視界にも入れたくない汚ねぇ連中だ。もちろんつまみ出しましたが、お客さん方に迷惑かけちまったみたいで。この朝食は、謝罪の気持ちだと思ってくだせぇ」
「え?別に、親父さんが謝るようなことじゃ……」
「いやいや、売人を客として泊めちまった段階で、こっちの落ち度でさぁ。それにいくらさびれた宿だからって、今後売人どもに目をつけられて、取引の場所にされたんじゃあ、宿の沽券にかかわる。お客さんたちには不快な出来事だったろうが、どうかこのことは忘れて、変わらずウチをご贔屓にいただきたいんです」
ふーん……なるほど。この朝食は、口止め料も兼ねてるんだな?そういうことなら、遠慮することもないか。
「わかった。じゃあ、ありがたくいただくよ。えっと、親父さんは……」
「ジルでさ。ここ、アンブレラの四代目主人です」
「ジルさんだな。俺は桜下っていうんだ。ラクーンによることがあれば、またここに寄らせてもらうよ」
「ええ!お待ちしていますよ」
ジルはにかっと笑った。
「あ、あの!」
ん?クリスが、俺たちに……というか、エラゼムのほうに身を乗り出している。
「騎士さまは、お名前は何とおっしゃるのですか?」
「吾輩ですか?エラゼム・ブラッドジャマーと申しますが……」
「エラゼムさま、ですね……あの、エラゼムさまも、またここに来てくれますか?」
「はい?ええ、吾輩は桜下殿に付き従っておりますので、桜下殿が行かれるところには同行すると思います」
「そ、そうなんですね……」
クリスはほっとしたような、ドキッとしたような、不思議な表情でスカートの端を握った。短い間だったけど、エラゼムにずいぶん懐いたみたいだな。ほほえましい光景だ。
「あ、そうだ。ついでに一つ聞きたいんだけど」
「はい?」
「このへんで、一番早く開く店ってどこかな?できれば、旅の補給品が買えるような店がいいんだけど……」
クリスとジルが、揃って顔を見合わせた。
「お店、ですか?……あ!だったら、いい所があります!朝一番早く開いて、夜の一番遅くまでやっていて、何でも揃ってる素敵なお店が!」
「へぇー。そりゃすごいな、なんて店なんだ?」
クリスはにっこりと、満面の笑みを浮かべた。
「お姉ちゃんのお店です!」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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そうだ。こうしている間に門を閉められてしまったら、結局逃げるどころじゃなくなっちまうじゃないか。
「ど、どうしよう」
「そう思って、帰りに関所の様子もうかがってまいりました。しかし、どうやらいつも通りで、取り立てて通行を取り締まろうとする気配はないように見えました」
「んん?どういうことだ?」
「仮説なのですが、連中はこちらの動向を掴んでいるだけであって、明確な居場所までは分かっていないのではないでしょうか。つまり、この街に入っているかどうかまでは分からない」
「あ、なるほど……だから、門を閉めないのか」
「おそらく」
俺とエラゼムがうなずいていると、ウィルが不安そうにたずねてきた。
「あの、桜下さん?それは、大丈夫ってことでいいんですか?」
「ん?ああ、門のことか?」
「ええ……だって、今こうしている間にも、閉じられてしまったら……」
「いや、たぶん閉じない。というか、閉じられない」
「え?」
「あいつらは、俺たちがこの町にすでに入ってることを知らないんだよ。たぶん進路から予想して、ここに来るだろうって算段を立てただけなんだ」
「ええ、それは聞きました……」
「だからだよ。門を閉じちまったら、今からくるかもしれない勇者を捕らえられない。勇者がこの町を目指してたとして、封鎖なんかしたら一発で怪しまれちまうだろ?」
「あ、そっか……」
「たぶんこれから、検問所で勇者がいないかをチェックするつもりなんだろうな。みつけたらその場でふんじばるわけだ」
「……って、それでも変わらないじゃないですか!結局出るときにバレたら意味ないでしょう!」
「そこなんだよなぁ。なんかあんのかな、勇者測定器みたいな。だったら奇術団じゃもう通せないし」
エラゼムが口を挟む。
「案外、関所での聞き取りをアテにする気かもしれませんぞ。旅の目的なんかを聞いていたでしょう」
「それなら助かるんだけどな。俺たちは旅のマジシャン扱いになってるし」
「いずれにしても、門が閉まらないのであれば、問題ないかと。閉じた門を開くのは至難の業ですが、門を守る衛兵を蹴散らすのなら容易いですから」
エラゼムはそう言って、背中の盾兼大剣をガシャリと鳴らした。確かに、こちらには凄腕の騎士、怪力のゾンビ、幽霊の魔術師がいる。最悪、包囲網を突破することもできそうだ。
「よし、じゃあこんな感じだな。店が開きだしたら、最低限必要な補給品を調達する。それがすんだら速やかに街を脱出。万が一関所でばれるようなことになったら強行突破。で、いいかな?」
「御意に」
エラゼムがうなずく。
「不安ですけど……わかりました」
ウィルはぎゅっと、祈るように手を合わせた。
「……」
フランは無言で首を縦に振った。
「うし、決まりだな。じゃあ時間をつぶしがてら、朝飯でも食ってこうぜ。頼めば、なんか作ってくれるだろ」
「こんな時に、よく食べられますね……私、緊張して水も飲めなさそうです。幽霊だから飲めませんが……」
「ま、腹が減ってはなんとやら、ってな」
俺たちが食堂に降りていくと、すでにクリスがちょこちょことテーブルの間を走り回っていた。
「おはよう、クリス。朝から忙しそうだな」
「あ、みなさん!おはようございます、ほんとにお早いですね。えへへ、わたしはちょっと寝坊しちゃって……じゃなかった。あの、冗談です。とにかく、こちらへどうぞ!」
ははは……せっかくなので、クリスがすすめてくれたテーブルに座る。
「クリス、確か昨日は一食だけの料金だったと思うんだけど、朝もここで食べれるか?もちろんその分は出すよ」
「あ、はい!もちろんです。三人さま分でいいですか?」
「あぁーっと、俺以外は朝が弱いんだ。だから俺の分だけで頼むよ」
「かしこまりました。すぐにお出ししますね」
クリスはふかぶか頭を下げると、すぐに厨房へ走っていった。朝から元気だな。それはそうと、俺はあたりを見回してみた。食堂には、俺たちしかいない。昨日のおっさんは、まだ下りてきてないみたいだ。まぁいいか、できれば二度と会いたくないし。
それからすぐに、クリスがメシを運んできてくれた。
「お待たせしました。ミートボールと、ライ麦のパンです」
おぉ。ミートボールはこぶしほどの大きさのものが、ほこほこと湯気を出すスープの中に浮かんでいる。ライ麦パンは前の世界でも見慣れたものだ。うん、うまそうだな。
「……ところで、どうして親父さんが?」
クリスの後ろには、なぜかクリスの親父までついてきていた。なんだろう、また何か用かな。
「いやなぁ、今朝あんた方の部屋の前で、みょうな動きをしてるやつを見かけたんですよ。怪しいもんだからとっ捕まえてみたら、なんとウチのお客じゃねぇか」
「え?それってもしかして、昨日いた痩せたオッサンじゃ……」
「やっぱり知ってやしたか。そいつを問い詰めてみたら、なんだかみょうちくりんな薬を売りさばいてる売人だって言うじゃないか。おまけにそいつ、アタシにまでそれを売りつけようとしてきやがった。ったく、冗談じゃねえ」
うわ……あいつ、そんなことしてたのか。俺たちの部屋の前にいたのも、また売りつける機会をうかがっていたのかもしれないな。
「ああいう輩は、アタシらみたいに商会ギルドにも許可をとってない、モグリの売人です。アタシらカタギからすりゃ視界にも入れたくない汚ねぇ連中だ。もちろんつまみ出しましたが、お客さん方に迷惑かけちまったみたいで。この朝食は、謝罪の気持ちだと思ってくだせぇ」
「え?別に、親父さんが謝るようなことじゃ……」
「いやいや、売人を客として泊めちまった段階で、こっちの落ち度でさぁ。それにいくらさびれた宿だからって、今後売人どもに目をつけられて、取引の場所にされたんじゃあ、宿の沽券にかかわる。お客さんたちには不快な出来事だったろうが、どうかこのことは忘れて、変わらずウチをご贔屓にいただきたいんです」
ふーん……なるほど。この朝食は、口止め料も兼ねてるんだな?そういうことなら、遠慮することもないか。
「わかった。じゃあ、ありがたくいただくよ。えっと、親父さんは……」
「ジルでさ。ここ、アンブレラの四代目主人です」
「ジルさんだな。俺は桜下っていうんだ。ラクーンによることがあれば、またここに寄らせてもらうよ」
「ええ!お待ちしていますよ」
ジルはにかっと笑った。
「あ、あの!」
ん?クリスが、俺たちに……というか、エラゼムのほうに身を乗り出している。
「騎士さまは、お名前は何とおっしゃるのですか?」
「吾輩ですか?エラゼム・ブラッドジャマーと申しますが……」
「エラゼムさま、ですね……あの、エラゼムさまも、またここに来てくれますか?」
「はい?ええ、吾輩は桜下殿に付き従っておりますので、桜下殿が行かれるところには同行すると思います」
「そ、そうなんですね……」
クリスはほっとしたような、ドキッとしたような、不思議な表情でスカートの端を握った。短い間だったけど、エラゼムにずいぶん懐いたみたいだな。ほほえましい光景だ。
「あ、そうだ。ついでに一つ聞きたいんだけど」
「はい?」
「このへんで、一番早く開く店ってどこかな?できれば、旅の補給品が買えるような店がいいんだけど……」
クリスとジルが、揃って顔を見合わせた。
「お店、ですか?……あ!だったら、いい所があります!朝一番早く開いて、夜の一番遅くまでやっていて、何でも揃ってる素敵なお店が!」
「へぇー。そりゃすごいな、なんて店なんだ?」
クリスはにっこりと、満面の笑みを浮かべた。
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