じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
3-1 怪しい宿泊客
3-1 怪しい宿泊客
俺たちが部屋を出ると、結局やることのないフランとエラゼムもついてきた。食堂に入ると、クリスがテーブルを拭き、燭台に火をともしているところだった。
「あ、みなさん!どうぞこちらへ。すぐにお料理もお出ししますね」
「うん。仲間は食べないけど、ここにいてもいいかな?」
「もちろんです。どうせ空いてるし……あ、な、なんでもないです。お、お茶お出ししますね!」
クリスはフキンを手にぱたぱたと食堂の奥へ走って行ってしまった。どうせ空いてる?俺はテーブルにつきながら、ほかの席を見回してみた。が、どうにも今日の宿泊客は、俺たち以外には、みすぼらしい格好をした旅人が一人、隅っこのテーブルに座っているだけだった。
「あんまり流行ってないのかな……」
「ふむ……そのようですな」
俺たちが席に着くと、本当にすぐにクリスが料理と茶を運んできた。
「はい、アンブレラ自慢のミートパイです!何代も前から受け継がれてきた、伝統のレシピなんですよ!」
「お、ほんとにミートパイ。聞いてた通りだな。すげぇ、百年前から引き継がれてるんだ……」
「へ?百年?」
「あ、いや、なんでもない。うまそーだなぁって!」
いけね、つい口を滑らせてしまった。不思議そうな顔をするクリスの視線をかわすため、俺はミートパイを一口切ってかぶりついた。
「むっ……おぉ!ほんとにうまいよ!」
「はい!そう言っていただけて嬉しいです!」
クリスはにこにこと笑っている。うん、さすが伝統になるだけのことはある。フォークがどんどん進むぜ。
「ふむふむ……さすがに、こじゃれた料理を出しますね。さすが都会……」
そんな俺を……いや、正確には俺の食ってる皿を、ウィルが食い入るように見つめている。
「……」
「あれ、桜下さん?フォークが止まりましたよ?」
「食いづらいよ。そんなにじろじろ見られちゃ……」
「あ、すみません」「あ、ご、ごめんなさい!」
あれ?声が二重に聞こえたぞ。みると、ウィルの隣でクリスがぺこぺこ頭を下げていた。
「すみません、お客さまが食べてるところを横で見るなんて、失礼でしたよね……」
「あ、ごめんごめん!クリスに言ったわけじゃないんだ」
「いえ、でも本当のことです。あの、失礼します……」
クリスはしゅんと肩を落として、すごすごと厨房に戻ろうとした。俺はウィルに非難めいた視線を向け、ウィルは“自分が悪いんでしょー!”という口の形をした。
「お待ちくだされ。クリス嬢、と言いましたかな」
「は、はい?」
俺とウィルがみにくい争いをしていると、いきなりエラゼムがクリスに声をかけた。
「もし仕事に差し支えなければ、少しこの宿について教えていただければと思いましてな。お忙しいようでしたら無理にとは申しませんが、いかがでしょう」
「へ?えっと、今日はみなさまが最後のお客さまだから、忙しくはないですけど……」
「では、ぜひ」
クリスはどうしようかと、もじもじスカートの端をいじっていたが、やがておずおずと椅子に腰かけた。
「あの、でもわたし、あんまり昔のこととか詳しくないですけど……」
「クリス嬢が知っていることでかまいません。話好きの老骨のたわむれでございますから、どうか気楽になさってくだされ」
「そ、それでいいなら……けど、何からお話すれば……?」
「そうですな。ではまず、クリス嬢について教えていただけませんか」
お、それは俺も気になっていた。この子は、この宿のなんなんだろう?俺はおとなしく、料理を味わう口を動かしながら、耳だけ二人の会話に傾けた。
「えっと……わたしは、ここの四代目主人の娘で、あ、さっきみなさんが会った人が、お父さんなんですけど」
「先ほどの偉丈夫の方ですな」
「はい。お父さんはコックも兼任していて、お客さまのお迎えはわたしが担当しているんです。まだまだ見習いですけど……」
あ、あの親父はクリスの父さんなんだな。ということは、クリスは主人の娘であるわけだ。あ。じゃあそれってつまり、クリスは次の……
「いやいや、その年で立派だ。しかし、するとクリス嬢は、未来の五代目ということですか」
「う、それは、その……た、たぶん……」
「多分?」
「……わたし、ドジばっかりだし。きっとお姉ちゃんのほうが向いてるのに……」
「姉上がおられるのですか」
「はい。美人で、明るくて、頭もよくて……算術ができるから、お姉ちゃんは自分の店で商いをしてるんです。だから、宿は私が手伝ってて……」
「そうでしたか。してクリス嬢は、宿の仕事はお嫌いかな?」
「そんなことありません!わたし、この宿が大好き。けど、だからこそ、わたしなんかが後を継いでもいいのかなって……」
クリスはスカートをキュッと握ってうつむいてしまった。いろいろあるんだな、子どもの世界にも。
「……はっ!ご、ごめんなさい、わたしったら、お客さまに愚痴を……」
「いえいえ、吾輩が話を聞きたいとせがんだのですから。それに実は、吾輩もこの宿を好いているのです」
「え?」
「以前からここのことを存じておりましてな。もしクリス嬢さえよろしければ、ここを続けていただけるとありがたい。この宿がなくなってしまえば、ラクーンに立ち寄る楽しみが一つ減ってしまいますからな」
「お、お客さま……」
クリスは瞳を潤ませてエラゼムを見つめている。さすが年長者、うまいこと言うなぁ。クリスはすっかり元気を取り戻したみたいだ。
「あ、あの!わたし、頑張りますから!だから、いつか跡を継いだら、また……」
「ほ~お。頑張ると言ってるわりに、こんなところでサボってたのか?ん?」
「ひぇっ……」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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俺たちが部屋を出ると、結局やることのないフランとエラゼムもついてきた。食堂に入ると、クリスがテーブルを拭き、燭台に火をともしているところだった。
「あ、みなさん!どうぞこちらへ。すぐにお料理もお出ししますね」
「うん。仲間は食べないけど、ここにいてもいいかな?」
「もちろんです。どうせ空いてるし……あ、な、なんでもないです。お、お茶お出ししますね!」
クリスはフキンを手にぱたぱたと食堂の奥へ走って行ってしまった。どうせ空いてる?俺はテーブルにつきながら、ほかの席を見回してみた。が、どうにも今日の宿泊客は、俺たち以外には、みすぼらしい格好をした旅人が一人、隅っこのテーブルに座っているだけだった。
「あんまり流行ってないのかな……」
「ふむ……そのようですな」
俺たちが席に着くと、本当にすぐにクリスが料理と茶を運んできた。
「はい、アンブレラ自慢のミートパイです!何代も前から受け継がれてきた、伝統のレシピなんですよ!」
「お、ほんとにミートパイ。聞いてた通りだな。すげぇ、百年前から引き継がれてるんだ……」
「へ?百年?」
「あ、いや、なんでもない。うまそーだなぁって!」
いけね、つい口を滑らせてしまった。不思議そうな顔をするクリスの視線をかわすため、俺はミートパイを一口切ってかぶりついた。
「むっ……おぉ!ほんとにうまいよ!」
「はい!そう言っていただけて嬉しいです!」
クリスはにこにこと笑っている。うん、さすが伝統になるだけのことはある。フォークがどんどん進むぜ。
「ふむふむ……さすがに、こじゃれた料理を出しますね。さすが都会……」
そんな俺を……いや、正確には俺の食ってる皿を、ウィルが食い入るように見つめている。
「……」
「あれ、桜下さん?フォークが止まりましたよ?」
「食いづらいよ。そんなにじろじろ見られちゃ……」
「あ、すみません」「あ、ご、ごめんなさい!」
あれ?声が二重に聞こえたぞ。みると、ウィルの隣でクリスがぺこぺこ頭を下げていた。
「すみません、お客さまが食べてるところを横で見るなんて、失礼でしたよね……」
「あ、ごめんごめん!クリスに言ったわけじゃないんだ」
「いえ、でも本当のことです。あの、失礼します……」
クリスはしゅんと肩を落として、すごすごと厨房に戻ろうとした。俺はウィルに非難めいた視線を向け、ウィルは“自分が悪いんでしょー!”という口の形をした。
「お待ちくだされ。クリス嬢、と言いましたかな」
「は、はい?」
俺とウィルがみにくい争いをしていると、いきなりエラゼムがクリスに声をかけた。
「もし仕事に差し支えなければ、少しこの宿について教えていただければと思いましてな。お忙しいようでしたら無理にとは申しませんが、いかがでしょう」
「へ?えっと、今日はみなさまが最後のお客さまだから、忙しくはないですけど……」
「では、ぜひ」
クリスはどうしようかと、もじもじスカートの端をいじっていたが、やがておずおずと椅子に腰かけた。
「あの、でもわたし、あんまり昔のこととか詳しくないですけど……」
「クリス嬢が知っていることでかまいません。話好きの老骨のたわむれでございますから、どうか気楽になさってくだされ」
「そ、それでいいなら……けど、何からお話すれば……?」
「そうですな。ではまず、クリス嬢について教えていただけませんか」
お、それは俺も気になっていた。この子は、この宿のなんなんだろう?俺はおとなしく、料理を味わう口を動かしながら、耳だけ二人の会話に傾けた。
「えっと……わたしは、ここの四代目主人の娘で、あ、さっきみなさんが会った人が、お父さんなんですけど」
「先ほどの偉丈夫の方ですな」
「はい。お父さんはコックも兼任していて、お客さまのお迎えはわたしが担当しているんです。まだまだ見習いですけど……」
あ、あの親父はクリスの父さんなんだな。ということは、クリスは主人の娘であるわけだ。あ。じゃあそれってつまり、クリスは次の……
「いやいや、その年で立派だ。しかし、するとクリス嬢は、未来の五代目ということですか」
「う、それは、その……た、たぶん……」
「多分?」
「……わたし、ドジばっかりだし。きっとお姉ちゃんのほうが向いてるのに……」
「姉上がおられるのですか」
「はい。美人で、明るくて、頭もよくて……算術ができるから、お姉ちゃんは自分の店で商いをしてるんです。だから、宿は私が手伝ってて……」
「そうでしたか。してクリス嬢は、宿の仕事はお嫌いかな?」
「そんなことありません!わたし、この宿が大好き。けど、だからこそ、わたしなんかが後を継いでもいいのかなって……」
クリスはスカートをキュッと握ってうつむいてしまった。いろいろあるんだな、子どもの世界にも。
「……はっ!ご、ごめんなさい、わたしったら、お客さまに愚痴を……」
「いえいえ、吾輩が話を聞きたいとせがんだのですから。それに実は、吾輩もこの宿を好いているのです」
「え?」
「以前からここのことを存じておりましてな。もしクリス嬢さえよろしければ、ここを続けていただけるとありがたい。この宿がなくなってしまえば、ラクーンに立ち寄る楽しみが一つ減ってしまいますからな」
「お、お客さま……」
クリスは瞳を潤ませてエラゼムを見つめている。さすが年長者、うまいこと言うなぁ。クリスはすっかり元気を取り戻したみたいだ。
「あ、あの!わたし、頑張りますから!だから、いつか跡を継いだら、また……」
「ほ~お。頑張ると言ってるわりに、こんなところでサボってたのか?ん?」
「ひぇっ……」
つづく
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読了ありがとうございました。
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