じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
2-3
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「あいたぁ~……」
クリスは涙目になって小さなお尻をさすっている。とりあえず手を貸してやろうとしたその時、店の奥から、どすどすと大きな足音が近づいてきた。
「なんだなんだ、でけぇ音がしたぞ!?」
うわ、すごい大男が出てきた!天井に頭をぶつけるんじゃないかというほど背の高い中年の親父が、手に棍棒のようなめん棒を握ってこちらにやって来る。
「んん?」
親父は太い眉毛をぎょろりと動かし、床に倒れたクリスと、俺たちとを交互に見た。あ、やばい。これはまた誤解されるパターンじゃ……
「あ、あの!俺たちは、別に怪しいものじゃ……」
「すまない、お客さん方!またウチのがドジ踏んだみてぇで……」
へ?親父は筋骨隆々の背中をがばっと丸めて、勢い良く謝罪した。俺がぽかんとしていると、親父は床に尻もちをついたままのクリスをギロリと睨んだ。
「クリス!いつまで床に寝てるんだ!とっとと起きないか、お客さんの前で」
「ふひゃ!ご、ごめんなさいお客さま!」
クリスはぴょんと飛び起きると、ペコペコと頭を下げた。親父は後頭部に手をやって、はぁとため息をついた。
「ったく、この娘ときたらいつまでもこの調子で。申し訳ねぇ、お客さん。驚かれたとは思うが、これでもこいつはウチの看板娘なんだ。ちょいとどんくさいが、宿のクオリティを落とすほどじゃねぇはずだ。安心して泊って行ってくださいよ」
「は、はぁ……」
とは言われても……ほんとに大丈夫かな?俺はエラゼムにいぶかしげな視線を送ると、エラゼムはしどろもどろに手をあたふたさせた。
(百年前は、このようなことはなかったのですが……)
(ホントかぁ?)
とはいえ、親父は外見こそゴツイにしても、案外話が分かる人のようだ。外もいよいよ暗くなってきたし、またいちいち歩き回るのも面倒だ。
「じゃあ、チェックインをお願いしようかな」
「そうこなくっちゃ!ほら、クリス!こっからはきちんとできるだろ。お客さんをお待たせすんじゃねえ」
「は、はい!おきゃくちゃ……お客さま、どうぞこちらへ!」
クリスは甘噛みをごまかす様に、ぱたぱたとカウンターへ回った。親父はそれを見てため息をつくと、ぺこりと俺たちに会釈して、また店の奥へ戻っていった。
「えっと、お客さまは三名ですね。お部屋はいかがしますか?」
ふむ、部屋割りか。さて、前はフランと同じ部屋にしたけど、今回はどうしようかな。ベッドが必要なのは俺だけだけど、一部屋に全員ってのも……
「桜下殿。ここは一部屋でよろしいのでは?」
「エラゼム。けど、いいのか?」
「我々はその気になれば、のっぱらでも不自由ないですから。実は夜の間に、ウィル嬢とフラン嬢と話し合ったのです。桜下殿が不快でなければ、今後の経費削減のためにも、宿は一部屋でよいのでは、と」
俺が寝ている間、そんなことを話していたのか。けど経費削減、という響きは魅力的だ。
「えっと、じゃあクリス。一部屋で頼めるかな」
「一部屋ですね……ちょっと狭いかもしれないですけど、よろしいですか?」
「ああ。どうせベッドの数は足りるだろうから」
「はぃ……?えっと、かしこまりました。それと、お夕飯はどうしますか?ここでもいいですし、お外で食べることもできますけど……」
「ん~……じゃあ、俺だけもらおうかな。ほかの仲間は、えー……もう済ませてきたんだ」
「わかりました。えっと、一部屋で一食だから……前払いで、三十五セーファになります」
「あいよ。えーっと」
俺はカバンからコインの入った巾着財布を取り出し……待った、なんだセーファって?この国の単位か?固まった俺を見て、クリスが不思議そうに首をかしげている。エラゼムが、小声で教えてくれた。
「桜下殿。銀貨一枚が十セーファで、銅貨一枚が一セーファです」
「おお、なるほど……」
俺は巾着から銀貨を四枚取り出して、クリスに差し出した。
「はい、確かに。では、お釣り五セーファのお返しです」
クリスから銅色のコインを五枚受け取る。うん、買い物の前に、いい予行演習ができたな。
「あと、こちらがお部屋のカギになります。お部屋は二階にありますので……お夕飯は、すぐにお召し上がりになりますか?」
「ん~、じゃあそうしようかな」
「わかりました。じゃあすぐ支度するように、おと……じゃなくて、コックに伝えておきますね」
俺はうなずき、クリスから鍵を受け取ると、部屋があるという二階に上がった。部屋はなかなかに手狭で、大きなベッドが二つ置かれると、もうほとんど隙間は無いくらいだった。
「ほほー、もうほとんど寝るだけの宿って感じだな」
俺はカバンと剣を放り投げると、ベッドにぼすんと腰かけた。木枠がぎぃっときしむ。ウィルが杖を立てかけながら言った。
「けど、一食付きで三十五セーファは格安だと思いますよ。よく百年も持ちましたね」
「まあでも、いやな古臭さじゃないかな。掃除もされてるみたいだし。エラゼムが落ち着くって言ってたのもわかるよ」
「そう言っていただけると……推薦したのがあだになるのではと冷や冷やしました」
あはは……クリスも親父さんも、悪い人じゃなさそうなんだけどな。
「さて、ウィル?体調が大丈夫なら、俺は下にメシ食いに行ってくるけど……」
「あ、はい。もうすっかり本調子です。それにこんな小さな宿なら、人もそれほど多くないでしょうしね」
「そっか。じゃあ、いっしょに下行くか?」
「ええ。お宿の料理には興味あります。都会の料理は、やっぱりおしゃれなのかしら……」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「あいたぁ~……」
クリスは涙目になって小さなお尻をさすっている。とりあえず手を貸してやろうとしたその時、店の奥から、どすどすと大きな足音が近づいてきた。
「なんだなんだ、でけぇ音がしたぞ!?」
うわ、すごい大男が出てきた!天井に頭をぶつけるんじゃないかというほど背の高い中年の親父が、手に棍棒のようなめん棒を握ってこちらにやって来る。
「んん?」
親父は太い眉毛をぎょろりと動かし、床に倒れたクリスと、俺たちとを交互に見た。あ、やばい。これはまた誤解されるパターンじゃ……
「あ、あの!俺たちは、別に怪しいものじゃ……」
「すまない、お客さん方!またウチのがドジ踏んだみてぇで……」
へ?親父は筋骨隆々の背中をがばっと丸めて、勢い良く謝罪した。俺がぽかんとしていると、親父は床に尻もちをついたままのクリスをギロリと睨んだ。
「クリス!いつまで床に寝てるんだ!とっとと起きないか、お客さんの前で」
「ふひゃ!ご、ごめんなさいお客さま!」
クリスはぴょんと飛び起きると、ペコペコと頭を下げた。親父は後頭部に手をやって、はぁとため息をついた。
「ったく、この娘ときたらいつまでもこの調子で。申し訳ねぇ、お客さん。驚かれたとは思うが、これでもこいつはウチの看板娘なんだ。ちょいとどんくさいが、宿のクオリティを落とすほどじゃねぇはずだ。安心して泊って行ってくださいよ」
「は、はぁ……」
とは言われても……ほんとに大丈夫かな?俺はエラゼムにいぶかしげな視線を送ると、エラゼムはしどろもどろに手をあたふたさせた。
(百年前は、このようなことはなかったのですが……)
(ホントかぁ?)
とはいえ、親父は外見こそゴツイにしても、案外話が分かる人のようだ。外もいよいよ暗くなってきたし、またいちいち歩き回るのも面倒だ。
「じゃあ、チェックインをお願いしようかな」
「そうこなくっちゃ!ほら、クリス!こっからはきちんとできるだろ。お客さんをお待たせすんじゃねえ」
「は、はい!おきゃくちゃ……お客さま、どうぞこちらへ!」
クリスは甘噛みをごまかす様に、ぱたぱたとカウンターへ回った。親父はそれを見てため息をつくと、ぺこりと俺たちに会釈して、また店の奥へ戻っていった。
「えっと、お客さまは三名ですね。お部屋はいかがしますか?」
ふむ、部屋割りか。さて、前はフランと同じ部屋にしたけど、今回はどうしようかな。ベッドが必要なのは俺だけだけど、一部屋に全員ってのも……
「桜下殿。ここは一部屋でよろしいのでは?」
「エラゼム。けど、いいのか?」
「我々はその気になれば、のっぱらでも不自由ないですから。実は夜の間に、ウィル嬢とフラン嬢と話し合ったのです。桜下殿が不快でなければ、今後の経費削減のためにも、宿は一部屋でよいのでは、と」
俺が寝ている間、そんなことを話していたのか。けど経費削減、という響きは魅力的だ。
「えっと、じゃあクリス。一部屋で頼めるかな」
「一部屋ですね……ちょっと狭いかもしれないですけど、よろしいですか?」
「ああ。どうせベッドの数は足りるだろうから」
「はぃ……?えっと、かしこまりました。それと、お夕飯はどうしますか?ここでもいいですし、お外で食べることもできますけど……」
「ん~……じゃあ、俺だけもらおうかな。ほかの仲間は、えー……もう済ませてきたんだ」
「わかりました。えっと、一部屋で一食だから……前払いで、三十五セーファになります」
「あいよ。えーっと」
俺はカバンからコインの入った巾着財布を取り出し……待った、なんだセーファって?この国の単位か?固まった俺を見て、クリスが不思議そうに首をかしげている。エラゼムが、小声で教えてくれた。
「桜下殿。銀貨一枚が十セーファで、銅貨一枚が一セーファです」
「おお、なるほど……」
俺は巾着から銀貨を四枚取り出して、クリスに差し出した。
「はい、確かに。では、お釣り五セーファのお返しです」
クリスから銅色のコインを五枚受け取る。うん、買い物の前に、いい予行演習ができたな。
「あと、こちらがお部屋のカギになります。お部屋は二階にありますので……お夕飯は、すぐにお召し上がりになりますか?」
「ん~、じゃあそうしようかな」
「わかりました。じゃあすぐ支度するように、おと……じゃなくて、コックに伝えておきますね」
俺はうなずき、クリスから鍵を受け取ると、部屋があるという二階に上がった。部屋はなかなかに手狭で、大きなベッドが二つ置かれると、もうほとんど隙間は無いくらいだった。
「ほほー、もうほとんど寝るだけの宿って感じだな」
俺はカバンと剣を放り投げると、ベッドにぼすんと腰かけた。木枠がぎぃっときしむ。ウィルが杖を立てかけながら言った。
「けど、一食付きで三十五セーファは格安だと思いますよ。よく百年も持ちましたね」
「まあでも、いやな古臭さじゃないかな。掃除もされてるみたいだし。エラゼムが落ち着くって言ってたのもわかるよ」
「そう言っていただけると……推薦したのがあだになるのではと冷や冷やしました」
あはは……クリスも親父さんも、悪い人じゃなさそうなんだけどな。
「さて、ウィル?体調が大丈夫なら、俺は下にメシ食いに行ってくるけど……」
「あ、はい。もうすっかり本調子です。それにこんな小さな宿なら、人もそれほど多くないでしょうしね」
「そっか。じゃあ、いっしょに下行くか?」
「ええ。お宿の料理には興味あります。都会の料理は、やっぱりおしゃれなのかしら……」
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