じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
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まあ、そんなこんなしつつも、アニの手で馬具はコルセットのような形に整えられた。
「アニさん、ちょっとキツめにしてくれていいですよ。そのほうが細く見えるかも……」
『幽霊になってまで、なに見栄を張ってるんですか。普通にしますよ、普通に』
俺はそのコルセットを両手でつかむと、また念を込めた。
「よし、これでどうだ。ウィル、試してみろよ」
「は、はい。よいしょ……」
ウィルはコルセットを受け取ると、それを巻こうとして……
「あいた、髪が挟まっちゃった……桜下さん、後ろでとめてくださいよ。髪とかヴェールがからまっちゃいます」
「む、そっか。わかった、貸してくれ」
コルセットを受け取ると、ウィルは髪とヴェールをひとまとめにおさえて、ぐいっと持ち上げた。
「はい、これでどうですか?」
腕を上げたから、ウィルの真っ白なわきが目に飛び込んでくる。
「お、おう。じゃあとめるぞ」
俺は不自然に見えない程度に、急いで視線を下げると、ウィルの胴にコルセットを回した。こういうとこは無防備なんだよな……
「ほっ」
「ふぐっ」
ウィルがカエルのつぶれたような声を出して、コルセットがカチリととまった。
「どうだ?とまったぞ」
「ええ、サイズは問題ないです……うん、落っこちもしませんよ!これって、成功なんじゃないですか?」
「お、ホントか?そっか、よかったな」
「はい!ありがとうございます!」
ウィルはその場でくるりと回ると、にっこり笑った。よっぽど気になっていたのだろう。
「けど、不思議ですね。どうして幽霊が装備を着けれるのかしら……」
「うーん……ネクロマンスの力だとしか。それに、こっちに来てから、常識の通用しないことだらけだったからなぁ。もう慣れちゃったよ」
「う~ん……そうですね。まいっか、ふふ」
うんうん、ウィルが嬉しそうで何よりだ。それに、これでようやく大見得きって町に入れるってもんだ。
「よし、じゃあ今度こそ行こうぜ、ラクーンへ!」
俺たちは木立を抜け出すと街道に戻った。ふと視線を感じて振り向くと、フランがこっちをじーっと見ている……なんだか、前もこんな視線を向けられたことがあったような。なんとなく嫌な予感がして、俺は小声でフランに問いかけた。
「フラン……なんだよ?」
「……あなたって、わきが好きなの?」
「ぶっほ」
み、見られてたのか。まずい、ウィルに告げ口されたらただじゃすまない。
「ご、誤解だ。見ようと思ったんじゃなくて、たまたま目がついただけで……」
「……」
「うぃ、ウィルには言わないで……」
俺はどうにかしてフランに理解してもらおうと、ラクーンにつくまでずっとコソコソ言い分を募る羽目になった。
ラクーンの関所は、でっかい石造りの門のような建物だった。武装をした兵士が二人立っていて、なんだか物々しい。しかし、俺たちが近づくと、彼らはにこやかに笑って挨拶をしてきた。
「こんにちは、ようこそラクーンへ。旅の方ですね」
「あ、は、はい」
なんだ、ずいぶんフレンドリーだ。交流の多い町だって話だから、きっと慣れているんだろう。
「えっと、町に入りたいんだけど……」
「承知しました。では、代表の方のお名前と旅の目的、それとお仲間の構成にんずう……を……」
兵士の目は俺の後ろへ移ったところで、ぎこちなく止まってしまった。そらそうだ、俺の後ろには馬の兜をかぶった鎧の騎士、ごついガントレットをした少女、そして幽霊が手に持つ杖が浮かんでいるのだから。
「えぇと……みなさんは、いったい……?」
兵士は、どう好意的に見ても、奇怪なものを見る目を向けてくる。しかーし、こうなることも予想済みだ。俺はあらかじめ用意しておいた回答を、よどみなく答えた。
「俺たち、奇術団なんだ」
「は、奇術団、ですか?」
「そう。ちょっと変わってるかもしれないけど、これでも結構やるんだぜ?例えば、はい!」
俺は手を広げて、ぱっとウィルを指し示した。当然兵士にはウィルの姿は見えないから、杖だけが宙に浮いているように見えるだろう。そこでウィルは、杖を軸にしてその場でくるくると回転した。
「ほら、まるで浮いてるみたいだろ?」
「おお、これは確かにすごいですな」
「へへへ。これで信じてもらえたかな」
「お、桜下さん、そろそろいいですか……?目が、目が回って……」
幸いにも兵士は、ウィルが完全に目を回す前に、俺たちのことを信じてくれたようだった。
「はい、では興行目的ということですね。人数は三名、と……代表の方、お名前は?」
「オウカ・ニシデラだ」
「ニシデラさまですね……はい、お待たせしました。ラクーンで過ごす時間がかけがえのない旅の思い出となりますように」
兵士はにこりと笑うと、俺たちを通してくれた。うまくいってよかった。
さて、いよいよラクーンの町に入る……この世界に来てから、これだけでっかい町は始めただ。なんだか感慨深いぜ。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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まあ、そんなこんなしつつも、アニの手で馬具はコルセットのような形に整えられた。
「アニさん、ちょっとキツめにしてくれていいですよ。そのほうが細く見えるかも……」
『幽霊になってまで、なに見栄を張ってるんですか。普通にしますよ、普通に』
俺はそのコルセットを両手でつかむと、また念を込めた。
「よし、これでどうだ。ウィル、試してみろよ」
「は、はい。よいしょ……」
ウィルはコルセットを受け取ると、それを巻こうとして……
「あいた、髪が挟まっちゃった……桜下さん、後ろでとめてくださいよ。髪とかヴェールがからまっちゃいます」
「む、そっか。わかった、貸してくれ」
コルセットを受け取ると、ウィルは髪とヴェールをひとまとめにおさえて、ぐいっと持ち上げた。
「はい、これでどうですか?」
腕を上げたから、ウィルの真っ白なわきが目に飛び込んでくる。
「お、おう。じゃあとめるぞ」
俺は不自然に見えない程度に、急いで視線を下げると、ウィルの胴にコルセットを回した。こういうとこは無防備なんだよな……
「ほっ」
「ふぐっ」
ウィルがカエルのつぶれたような声を出して、コルセットがカチリととまった。
「どうだ?とまったぞ」
「ええ、サイズは問題ないです……うん、落っこちもしませんよ!これって、成功なんじゃないですか?」
「お、ホントか?そっか、よかったな」
「はい!ありがとうございます!」
ウィルはその場でくるりと回ると、にっこり笑った。よっぽど気になっていたのだろう。
「けど、不思議ですね。どうして幽霊が装備を着けれるのかしら……」
「うーん……ネクロマンスの力だとしか。それに、こっちに来てから、常識の通用しないことだらけだったからなぁ。もう慣れちゃったよ」
「う~ん……そうですね。まいっか、ふふ」
うんうん、ウィルが嬉しそうで何よりだ。それに、これでようやく大見得きって町に入れるってもんだ。
「よし、じゃあ今度こそ行こうぜ、ラクーンへ!」
俺たちは木立を抜け出すと街道に戻った。ふと視線を感じて振り向くと、フランがこっちをじーっと見ている……なんだか、前もこんな視線を向けられたことがあったような。なんとなく嫌な予感がして、俺は小声でフランに問いかけた。
「フラン……なんだよ?」
「……あなたって、わきが好きなの?」
「ぶっほ」
み、見られてたのか。まずい、ウィルに告げ口されたらただじゃすまない。
「ご、誤解だ。見ようと思ったんじゃなくて、たまたま目がついただけで……」
「……」
「うぃ、ウィルには言わないで……」
俺はどうにかしてフランに理解してもらおうと、ラクーンにつくまでずっとコソコソ言い分を募る羽目になった。
ラクーンの関所は、でっかい石造りの門のような建物だった。武装をした兵士が二人立っていて、なんだか物々しい。しかし、俺たちが近づくと、彼らはにこやかに笑って挨拶をしてきた。
「こんにちは、ようこそラクーンへ。旅の方ですね」
「あ、は、はい」
なんだ、ずいぶんフレンドリーだ。交流の多い町だって話だから、きっと慣れているんだろう。
「えっと、町に入りたいんだけど……」
「承知しました。では、代表の方のお名前と旅の目的、それとお仲間の構成にんずう……を……」
兵士の目は俺の後ろへ移ったところで、ぎこちなく止まってしまった。そらそうだ、俺の後ろには馬の兜をかぶった鎧の騎士、ごついガントレットをした少女、そして幽霊が手に持つ杖が浮かんでいるのだから。
「えぇと……みなさんは、いったい……?」
兵士は、どう好意的に見ても、奇怪なものを見る目を向けてくる。しかーし、こうなることも予想済みだ。俺はあらかじめ用意しておいた回答を、よどみなく答えた。
「俺たち、奇術団なんだ」
「は、奇術団、ですか?」
「そう。ちょっと変わってるかもしれないけど、これでも結構やるんだぜ?例えば、はい!」
俺は手を広げて、ぱっとウィルを指し示した。当然兵士にはウィルの姿は見えないから、杖だけが宙に浮いているように見えるだろう。そこでウィルは、杖を軸にしてその場でくるくると回転した。
「ほら、まるで浮いてるみたいだろ?」
「おお、これは確かにすごいですな」
「へへへ。これで信じてもらえたかな」
「お、桜下さん、そろそろいいですか……?目が、目が回って……」
幸いにも兵士は、ウィルが完全に目を回す前に、俺たちのことを信じてくれたようだった。
「はい、では興行目的ということですね。人数は三名、と……代表の方、お名前は?」
「オウカ・ニシデラだ」
「ニシデラさまですね……はい、お待たせしました。ラクーンで過ごす時間がかけがえのない旅の思い出となりますように」
兵士はにこりと笑うと、俺たちを通してくれた。うまくいってよかった。
さて、いよいよラクーンの町に入る……この世界に来てから、これだけでっかい町は始めただ。なんだか感慨深いぜ。
つづく
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