じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
1-2
「まあいい、ならこれで関所対策はオッケーだな。よしよし」
「あの、それなら桜下さん。ちょっと相談なのですが……」
「ん?なんだよウィル」
ウィルが折りいった様子で話しかけてきた。手をおなかの前で合わせて、もじもじしている。どうしたんだろう?
「ウィル?」
「あの……その馬具って、魔法の道具なんですよね?だったら、幽霊にも使えたりなんてことは……」
「へ?幽霊に?」
「む、無理ですよねさすがに。言ってみただけなんです、やっぱり気にしないでください」
「なんだよ、まだ何も言ってないだろ。ちょっと驚いたけど……」
けど、どういう意味だ?幽霊にも使えるかって、つまりウィルにも装備できるかってことだよな。どこかに鎧を着けたいのか?ウィルは相変わらずもじもじ、おなかの前で指をかみ合わせている……あ。
「ウィル、もしかしておなかの傷が気になるのか?」
「う……その、はい。やっぱりどうしても気になってしまって。もし、フランさんみたいに覆い隠せたらなって……」
なるほどな。ウィルの腹には、致命傷となった大穴があいている。崖から落ちて、折れた木に貫かれた際にできた傷だ。幽霊のウィルには痛みも、傷が広がることもないのだけれど、それでも自分の体に穴があいているのは気になるのだろう。そういえば、昨日フランの腕をくっつけた時も、そんなようなことを言っていたな。
「うん、事情は分かった。なら試してみようぜ」
「い、いいんですか?」
「おう。それに、俺の見立てでは、そんなに無謀でもないと思うんだよな。ウィルは物に触ることができるだろ。今も杖を持ってるわけだし。てことは、物側からウィルに触れることもできるんじゃないか?」
「あ……な、なるほど」
ウィルは自分の手の中の、ご両親ゆかりの杖を見下ろした。
「てことでウィル、とりあえずなにか持ってみてくれよ」
「わかりました。じゃあ、これを……」
ウィルは近くにあった魔道具の中から、蹄鉄を拾い上げた。蹄鉄は問題なくウィルの手元に収まっている。
「うん、やっぱり物は持てるんだな」
「そうですね。ただ……」
ウィルはその蹄鉄を、ブレスレットのように自分の手首に通した。そして瞳を閉じると、ふぅと息を吐く。すると……カランカラーン。
「あれ」
「やっぱり……落ちてしまいますね」
蹄鉄はウィルの腕をすり抜けて、地面に落っこちてしまった。ウィルは自分の手首を顔の前にかざした。
「たぶん、私が“持とう”ときっちり意識している間だけ、ものに触れられるんだと思います。ちょっとでも意識がそれると、さっきみたいにすり抜けちゃうんですね」
あ、それもそうか。ウィルはいままでも壁や床をすり抜けていた。ウィルがあらゆるものに触れられるなら、そんな芸当はできないはずだ。俺もウィルのことを突き抜けたこともあったくらいだし。だが逆に、俺がウィルに触れたこともあったぞ?
「……ウィル、はいターッチ」
「へ、は、はい?」
わけが分からない様子でおろおろするウィルをよそに、俺は手を差し出した。
「え、えっと。こうですか?」
パン。俺とウィルの手は、小気味いい破裂音をかなでた。
「う~ん、つまりこういうことかな。ウィルが触ろうと思ったものは触れるし、ウィルに触ろうと思ったものもウィルに触れられる」
「あ……そう、なんですかね。でも、確かにそうかも」
ウィルは自分の手のひらと、俺の手とを交互に見比べた。
「それかもしかしたら、ネクロマンスの力も影響あんのかもな。うし、ちょっと試してみよう」
俺はウィルが落とした蹄鉄を拾い上げると、それを両手で握ってぐっと力を込めた。そして、頭の中で強く念じる。
(ウィルに触れたい、ウィルに触れたい、ウィルに触れたい……)
……断じて変な意味じゃないぞ?
ともかく、そうして念じていると、蹄鉄がヴンっと、一瞬輪郭を失った気がした。
(あ、これ、ディストーションハンドの時の反応にそっくりだ)
これは、もしかするかもしれないぞ。俺は自分の清き想いがこもった蹄鉄を、ウィルに差し出した。
「ウィル、これならどうだ?」
「え?さっきと同じようにすればいいんですか?」
ウィルはいぶかしげな様子で蹄鉄を受け取ると、さっきと同じように手首に通した。それから目をつぶって、意識をそらしてみる。さて……
「……っ!見てください桜下さん、落っこちませんよ!」
蹄鉄は、ウィルの手首にしっかり引っかかったままだった。やった、もくろみ通りだ。
「おお、うまくいったな」
「けど、いったい何をしたんですか?」
「能力を使うときみたいに、力を込めて念じてみたんだ。よし、次はもっと大きなものにすれば、うまいこといくんじゃないか?」
ウィルの胴体を覆えるような、腹巻みたいなのがいいよな。俺は残りの馬具の中から、大きなドラム缶の輪切りみたいな馬具を持ち上げた。
「ほら、これなんかどうだ?ぴったりだろ」
「……桜下さん、私のウエスト、いくつだと思ってるんですか?」
「へ?」
お、俺だって、そのままでいけると思ってたわけじゃないぞ。形は近いから、あとはアニに成形してもらえばいいだろう。
「というわけでアニ、また頼めるか」
『わかりました。ではその前に、正確なサイズを教えてもらえますか?』
「は?サイズ?」
『ええ。それがわからなければ、成形のしようがありません。幽霊娘、ウエストのサイズを教えないさい』
「あー……だ、そうなんだけど」
「え、え?そんな、適当でいいですよ。だいたいで……」
『それで合わなかったら二度手間になるじゃないですか。私に二倍の労力を割かせるつもりですか?いいから、早く教えなさい』
「…………」
ウィルは、唇をかみしめてぷるぷると震えている。ま、まるで爆発寸前の爆弾みたいだ。
「うぃ、ウィル?俺、ウィルはスリムだと思うぞ?」
「……うあぁー!黙っててくださいよぉ!」
うひゃっ。ちぇ、なんなんだ。平気で下ネタすれすれのことは言うくせにな?オトメゴコロってのは、俺の想像以上に複雑らしい。
「……一キュビット、と、二十六ハンキュビットです……」
ウィルがそよ風のように小さな声でつぶやいた。
『ふむ……意外と肉付きがいいんですね』
「わあぁぁぁー!これでも村では細いほうだったんですからね!」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
「じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
人体強化人間の異世界旅路
-
13
-
-
元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す! ~幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に~ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い!
-
22
-
-
格闘チャンプの異世界無双 〜地球最強の男、異世界で更なる高みを目指して無双する〜
-
22
-
-
受難の魔王 -転生しても忌子だった件-
-
30
-
-
復讐、報復、意趣返し……とにかくあいつらぶっ殺す!!
-
21
-
-
ハズレスキル【魔物生産】は倒した魔物を無限に作り出せて勝手に成長するチートスキルでした!〜友達だった男にパーティー追放されたけど女だらけの騎士団に雇われたのでストレスフリーなスライム無双を始めます!〜
-
10
-
-
勇者の出番ねぇからっ!!~異世界転生するけど俺は脇役と言われました~
-
36
-
-
【連載版】断罪の不死者〜転生した俺は最愛との約束を果たす為旅をする〜
-
21
-
-
現実世界が嫌になったので、異世界で魔王の夢を叶えて来ます!
-
27
-
-
嫌われ国王の魔剣幻想譚~虐げられた少年領主は戦場では史上最強の将軍だった…が、この度、王になりました~
-
20
-
-
吸血鬼の戦記譚~~万物の王となるまでの物語~~
-
16
-
-
怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧
-
59
-
-
問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
-
120
-
-
天使転生?~でも転生場所は魔界だったから、授けられた強靭な肉体と便利スキル『創成魔法』でシメて住み心地よくしてやります!~
-
17
-
-
幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜
-
87
-
-
クラス転移したけど私(俺)だけFPSプレイヤーに転生
-
89
-
-
外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜
-
83
-
-
テイマーと錬金術の職業で冒険したい!
-
19
-
-
パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る
-
34
-
-
全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
-
29
-
コメント