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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

11-1 戦いの始まり

11-1 戦いの始まり

ここは王都、王城の庭園に設けられたテラス。ティーテーブルを囲む若い女と、ひょろりとした巻きひげがいやらしい男性が、はた目には和やかに談笑をしていた。

「ですので、私はそこで矢を放ち、みごとな鹿を一頭射止めてやったのです。私が三十三年戦争の折には、先陣で多くの魔物を屠った事をご存じでしょう。まだまだ弓の腕は衰えていないということを、最高のかたちで証明する事が出来ました」

そう言って胸を張るのは、ここ、二の国・ギネンベルナの貴族、ハルペリン卿だ。

「なるほどな。それはさぞお慶びになられただろう。おぬしの強弓が見られるとは、運の良いお方だ」

男の得意げな態度に薄い笑みを返すのは、まだ若きギネンベルナの女王、ロアだ。

「光栄でございます、殿下。しかしそうは言っても、寄る年波には勝てません。私も少しずつ体が鈍っているのを、痛感する日々でございます」

ハルペリン卿は大げさに肩を落とすしぐさをした。

「何を申すか。私はてっきり生涯現役のつもりかと思っていたが」

「ははは、そうしたいのは山々ですが。少しずつ隠居のことも考えねばなりません。今は僥倖にも戦火は落ち着き、安寧の日々が続いております。戦争稼業ばかりでは、我が家も時代に取り残されてしまいますからな。時に、殿下」

ハルペリン卿は指を組み合わせると、意味ありげな視線をロアに送った。

(来たか)

ロアは内心でぐっと身構えたが、表にはおくびにも出さないよう気を配った。

「前々からご相談させていただいております“例の件”、その後いかがでしょうか?」

「ハルペリン卿。その件についてはすでに回答しているはずだ」

「ええ。ですが、人の心と情勢は時間とともに刻一刻と移り変わるもの。以前とはまた状況が異なれば、殿下のお考えも変わるやも知れないと思いまして」

「ほう。そなたは、いったいどのようなことが変わったと感じておるのだ?」

「そうですな。例えば……」

ハルペリン卿はくるんとカールした口ひげを指でつまんで言った。

「一の国、“ライカニール”の勇者の台頭。かの勇者はまことに強い力を持ち、あの“勇者ファースト”の再来と言われているとか。このまま順調にいけば、いずれは魔王の巣食う伏魔殿まで辿り着きましょう」

「そうだな。彼の噂は私も耳にしている。だが、それとこれと、どう関係がある?」

「はい。先ほど申し上げたことが現実になったとして、その場合再び魔王軍と全面対決をすることとなりましょう。となれば、我がハルペリン家は必ずや殿下のお力になりましょう」

(……つまり、こういうことか)

ロアはハルペリン卿の言葉の裏に隠された真意を読み取ろうと、ティーカップを傾け、茶を飲むふりをした。
ハルペリン家は武勲の家系。その兵力は貴族の中では随一だ。魔王軍との戦争が長期化すれば、王国軍のみならず、領地を持つ貴族諸侯の出兵も依頼することとなるだろう。その場合ハルペリン家の兵力の大きさを無視することはできなくなる。つまり、いまハルペリン家をないがしろにすれば、いざという時に助力が得られなくなるリスクがある……ということだ。

(今尻尾を振っておいたほうがいいぞ、ということだな)

ロアは短い間の思考を終え、ティーカップをかちゃりと置いた。

「そうだな。だが、あの勇者の強さは近年まれに見るものだと聞く。とすれば、われら一般の人間の出る幕は短くなるやも知れないぞ。兵も糧も金も、使いきらないに越したことはない。おぬしもそう思うであろう?」

「……いやまったくその通り。そうなることを願わずにはおれません」

ハルペリン卿はほんの少しだけ目を細めると、茶を一口飲んだ。

「とはいえ、未来は不定、この先のことなど誰にもわかりません。いざという時に備えて、わが家の兵たちも日々怠りなく鍛錬を続けております。しかし、大規模な兵の維持というのもなかなか手間がかさみまして。お恥ずかしい話ですが、私はいつか、朝食がパン一切れと塩のスープになるのではと、毎夜憂慮しているのですよ」

「ははは、おぬしがか?おぬしの東部地方は豊かな漁場という尽きぬ食糧庫をもっているではないか」

「はは、そのとおりでございます。ですが、魚は剣や鎧の材料とはなりません。馬も海藻を食べられればよいのですが、東部はあいにくと飼い葉の育成にも向きません。するとどうしても、出費がかさむ場面が増えてくるのでございますよ」

ハルペリン卿は口の前で手を組むと、ぐっと身を乗り出した。

「ですので、殿下にはぜひとも、コバルト山脈におけるわが家の鉱山経営権を認めていただきたい次第なのです」

(とうとう本題を切り出してきたか)

ロアは心の中で、再三のため息をついた。

「その件は以前も話したであろう。あの鉱山は、非常に希少なマナメタルが産出するのだ。マナメタルは魔術兵団が使用する触媒に必要不可欠。そうでなくても、魔術大国である“三の国”への輸出は、我が王国の重要な産業の一つだ、と」

「もちろん、そのことは重々承知しております。しかしながら、あそこから採れる金属は兵団の武装に用いるには最適解のものばかりです。わが兵の強化は、そのまま明日の我が国の強化につながるかと存じます」

「ここまでは依然聞いた話と同じだな。それで、また振出しに戻る、か?」

ハルペリン卿はぴくりとまなじりを動かしたが、すぐにゆるゆると首を横に振った。

「いいえ。確かに以前は、あの山脈すべての統治をお任せいただきたいなどと、出過ぎた願いを口にしてしまいました。殿下のおっしゃることももっともです。私も考えを改めました」

「ほう?」

「ご理解いただきたいのですが、わが家のみであの神秘の山を独占する気は、以前から引き続き、毛頭ございません。私が望むことは、あの山のドワーフの営む坑道、“カムロ坑道”の経営を一任していただくことでございます」

「カムロ坑道をか?」

カムロ坑道とは、二の国ギネンベルナの北部広域に広がるコバルト山脈、その中腹に広がる巨大な坑道のことである。鉱夫はみなドワーフであり、実質ドワーフの地下帝国と言われる異質な鉱山だ。

「それはできぬ相談だぞ、ハルペリン卿。そなたも知っておろうが、あの坑道はもはや一つの独立国家だ。幸いドワーフどもは宝石さえ掘れればなんでもいいという気質だったがゆえに、先の王がドワーフの長と話をつけ、鉱物の提供と引き換えに国内での自由な穴掘りを認めたのだ。ドワーフは人間の干渉を嫌うからな」

「ですが、それゆえにあの鉱山の経営は悲惨なものとなっています。ドワーフは細かい勘定ができないたちのようですな。非効率、非生産、非常識がまかり通っております」

「だが、ドワーフの採掘技術は確かなものだぞ。人間に代わりをさせようとしたら、ドワーフの数の千倍は必要であろう」

「もちろん、ドワーフを排他しようとは思っておりません。適材適所をすべきです。ドワーフには穴掘りに専念してもらい、経営部分を人間が務める。それを、わが家で担いさせていただきたい」

「おぬしの申すことももっともだがな、ハルペリン卿。だが、以前もこのような試みがあったと聞いている。そして、それはことごとく受け入れられなかったともな。ドワーフは人との共働を認めないのだ」

「月並みな言葉ですが、それは過去の事例でございましょう。わが家には強大な武力がございます。この力をもって、ドワーフと対等な立場で取引を行う所存です」

「馬鹿な、ドワーフと戦争をするつもりか?」

「いいえ。しかし、後ろ盾は大切でしょう」

火の玉のような男だな、とロアはうんざり思った。このハルペリン卿とかいう野心家は、自分の家の利益のためならなんだってやるつもりだ。

「おぬしの言い分は分かった。だが、さすがに即答はできんな。ドワーフは気難しい連中だ。扱いには慎重にならざるを得ん」

「しかし、ロア殿下。あまり時間をかけすぎましても、いざという時に動けなくては元も子もありますまい」

「だが、急いては事を仕損じるとも言うぞ。無駄だ、この場で返答はできない」

「ふむ……」

ハルペリン卿は口ひげをいじると、あきらめ悪く二の句を継いだ。

「確かに、殿下はお国の未来を左右されるお立場。早々にはご決断できなくとも無理はないですな。では、その際の判断材料となるよう、まずは一部の坑道の経営をお任せしていただけませんか。たとえばわが家の領地の端にかかっている、東部坑道あたりなどいかがでしょう?」

「そこでどうなるか試してみようというのか?」

「はい。その結果次第で、その後の方針をご決断いただければと。なぁに、殿下を失望させるような結果には万に一つもなりませんよ」

(よく言う。一度噛みついたら離れぬ気のくせに)

だがロアは、ひとまずは安どした。ハルペリン卿から“譲歩”を引き出せたのなら、今日のところは上出来だろう。

「うむ。それも含め、前向きに検討させてもらおう。しかし、今日のところはここまでだ。そろそろ茶も冷えてきたしな」

ロアはティーカップをもつと、底のほうに残っていたぬるい茶を一気に飲み干した。ハルペリン卿はそんな若き女王の態度を見て、またもこめかみをひくつかせたが、すぐににこりと笑みを浮かべた。

「そうですな。まぁそうは言いましても、いまだわが家が貴族一の武家であることは当面は揺らぎませんでしょうから。老骨とはいえ、まだまだ私にも意地がありますからな」

そういって笑うハルペリン卿を見て、ロアはまさしく蛇が笑えばこんな顔になるだろうと思った。

(貴族一の兵力を持つ自分をあまり見くびるな、と言いたいわけか)

捨て台詞だな。ロアはハルペリン卿の脅しともとれる一言を一蹴した。貴族一といっても、それはあくまで貴族の中での話だ。たかだか東部の田舎貴族の一言にいちいち怯えていては、王女の胃はスポンジのように穴だらけになってしまうだろう。

「本日はお忙しいところお時間をいただき、誠にありがとうございました」

ハルペリン卿はうやうやしくお辞儀をした。

「ああ。引き続き東部を頼むぞ」

「はっ。お任せください」

ハルペリン卿は胸にこぶしを当てると、武人らしくきびきびとした動作で庭園を立ち去って行った。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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