じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

7-3

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……………………

……あれ?また目の前が明るくなっていく。うう、最悪の気分だ。誰かの死を追体験するなんて……でも、変だな。これがエラゼムの記憶なら、ここで終わらなくちゃおかしくないか?

「……ひゃははは!やった、殺してやったぜ!」

俺は、高笑いする男の視点になっていた。目の前には、首から血を流して倒れる騎士……エラゼムだ。てことは、これはルウェンの視点か。エラゼムの頭はルウェンによって切り取られて、遠くに転がされている。死んでしまったんだ。

(エラゼム……)

こんな、最期だったんだな……

「よっしゃあ!俺たちの勝ちだぁ!」

「城の財宝も女も、ぜーんぶ俺たちのもんだ!俺、目をつけてたのがあるんだ」

「ばかやろう、早い者勝ちだぜ!ぼやぼやしてるとかっさらっちまうからな、わははは!」

「ヒューヒュー!女はより取り見取りだぜぇ!ほとんどは死体だけどなぁ!」

山賊たちは勝利の勝鬨をあげる。口々に、下品に笑いあい、手を叩く。けど、まてよ。まだ終わりじゃない。伝説ではこの後、騎士が復活して城の人間を皆殺しにするんじゃなかったか。てことは、まさか……

ガシャリ。

「んぁ?」

ルウェンが間抜けな声を上げた。山賊たちも笑うのをやめ、何事かと目を細めた。
エラゼムが、立ち上がっている。

「なっ……」

「ば、ば、ばかな……首を切り落としたんだぞ。ど、どうして動けるんだ……」

そうだ。エラゼムの首から先は、確かになくなっている。だが彼の体は、しっかりと二本の足で立ち上がった。

「う、うわああぁぁぁ!」

ルウェンはしりもりをつくと、その格好のままずりずりと逃げだした。

「くそ、化け物め!もう一度殺してやる!」

山賊の一人が剣を構えて突進した。ズン!剣が鎧の隙間からエラゼムの体に突き刺さる。

「へへ、これでどうだ……」

だがエラゼムは、ピクリともしない。剣を突き刺されてなお、平然としていた。腕を伸ばし、がっと山賊の首をつかむ。

「がっ、ぐぁ……」

グググググ……ボキン!
山賊は首をつかまれたまま、口から泡を吹いてぐったりと動かなくなった。それを宙に放り投げると、大剣をぶんと振り下ろす。山賊の体は空中で真っ二つになった。

「な、なんだこいつ……!殺しても死なないぞ……!?」

「う、うわあああ!逃げろぉーー!」

大広間は、大パニックになった。山賊たちは右に左に、右往左往しながら逃げ惑う。しかしこの大広間には、地上へつながる大階段が存在していた。ルウェンは一目散にそこへ向かう。山賊たちも逃げ出そうと、階段へ殺到した。ところがルウェンは、階段の手前で立ち止まってしまった。

「え……?」

「おい、何ボヤボヤしてやがる!早くのぼれ!」

「の、のぼれないんだ!なんか壁みたいなのがあって、階段に入れないんだよぉ!」

え?ほ、本当だ。山賊たちは見えない何かに阻まれて、階段に進めずにいた。剣で切り付けたり、椅子をぶつけてみる者もいたが、剣ははじかれ、椅子は壁にぶつかったように粉々になった。

「くそ、どうなってやがる!」

「あ、おい!うしろ……」

ザシュ!階段の前でまごついている山賊たちに向かって、エラゼムが切りかかった。ものすごい剣光と血しぶきが、エラゼムの周りを舞っている。まるで機械のように、エラゼムはもくもくと山賊の首を跳ね飛ばしていた。抵抗を試みる者もいたが、剣で突き刺しても死なない相手を前にしては、数秒も持ちこたえられるはずもない。

「く、くそ!こんなところで死んでたまるか。俺は新しい城主になるんだ……」

ルウェンは階段を使えないと見限ると、エラゼムからできる限り離れ、大広間の壁伝いにもう一つの出口へと向かった。エラゼムは目の前の山賊を始末するのでいっぱいなのか、こちらを追いかけてはこなかった。

「へっ、無しめ!ここから出ちまえばこっちのもんだ」

ルウェンは暗い廊下にかけ出た。地上につながる階段は、大広間のもの以外にも、城の人間が使うためのものがあるはずだ。そこから逃げ出す魂胆なんだろう。しかしルウェンの思惑とは裏腹に、あらゆる階段がさっきと同じように、見えない壁でふさがれていた。

「な、なんだよこれ……どうなってんだよ」

ルウェンはわなわなと震えている。まるで、城が“逃げるな”と言っているようだ……そのとき廊下の向こうから、壮絶な悲鳴が聞こえてきた。ルウェンと同じように、大広間から逃げ出した山賊が殺されているらしい。

「まずい……!じきこっちに来るぞ!くそ、くそくそ!」

ルウェンは再び走り出した。けれど、この閉じ込められた地下のどこに逃げ場があるというのか。ルウェンは廊下に面した騎士や下男の部屋の扉を、いくつも開けては乱暴に閉めるのを繰り返した。こんな狭い部屋に逃げ込んでは、袋のねずみだろう。それになんだか、部屋で殺されている城の人間たち……彼らが生気のない瞳で、こちらを監視している気がするのだ……

「はぁ、はぁ……!」

ルウェンは荒い息を吐いて走る。背後から聞こえる悲鳴は、確実にこちらへ近づいてきていた。

「……っ!ここは……」

ルウェンははたと足を止めた。目の前には、大きな空間が広がっている。玉座の間だ。気が付けば、ルウェンはふらふらとその部屋の中へ入っていた。だが、この部屋には玉座とカーテンくらいしか備え付けられていない。カーテンは丈が短く、隠れれば足首が見えてしまうだろう。ならばもう、隠れ場所は玉座の裏しかない。ルウェンは玉座の裏へしゃがみ込むと、震える両手を合わせて祈るように額に当てた。
ガシャン。
廊下の先から足音が聞こえた。鎧を着て歩く音。それもそう遠くない。

「たのむ……たのむ……」

ルウェンはぎゅっと目を閉じると、ぶつぶつと祈りの言葉を繰り返した。視界がふさがった分、聴覚はさっきよりも繊細に音を拾い集める。

ガシャン。
足音がさっきよりも近くなっている。

「たのむ……向こうに行ってくれ……」

ガシャン。
はっきりと聞こえた。おそらく入り口にいる。

「たのむ……みのがしてくれ……」

ガシャン。
はいってきた。

「たのむ……たのむっ……」

ガシャン。
すぐ、そこ。

「ルウェン」

「殺さないでくれえええええぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ズシャア!



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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