じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
10-1 新しい仲間
『であるならば、一つ諫言したいことがあります』
突然リィンと鳴り響くと、アニが口をはさんできた。
「何だよアニ、藪から棒に」
『ネクロマンサーが死を避けるという、本来あるまじき姿勢については、今は保留しておきましょう。それより、幽霊娘をパーティに加えるのでしたら、きちんと能力を使って隷属させてください。上下関係は大事です』
「またお前は、そういう空気の読めないことを。ウィルはこのとおり会話もできるし、このままでもいいじゃないか」
『ですが、結果的にお互いのためになると思いますよ。主様の能力、ディストーションハンドには、アンデッドを使役するだけでなく、精神を補強し、正常に戻す働きがあります』
「というと?」
『このままでは、いずれ狂気にのまれて怨霊化します』
「それはまずい!」
俺は何のことかわからずぽかんとしているウィルの肩を、がっしりつかんだ。
「というわけでウィル、ちょっとのあいだ動かないでくれ」
「え?は、はい?」
困惑するウィルをよそに、俺は呪文の詠唱に入った。
「我が手に掲げしは、魂の灯火」
その瞬間、俺の右手が、陽炎のように揺らめいた。
「汝の悔恨を、我が命運に託せ。対価は我が魂」
俺は揺らぐ右手を、ウィルのほうへ差し出す。ウィルは恐ろしいものでも見たように、ぎゅっと目をつぶった。
俺は右手を、ウィルの胸の真ん中―――すなわち、魂の上に重ねた。
「響け!ディストーションハンド!」
ブワー!俺の右手が、魂までもが震え、ウィルと共鳴している。二つの歯車がかみ合うように、俺とウィルの間に見えない結びつきができる。そんな気がした。
次の瞬間、すべてが元通りになった。ウィルはつぶっていた目を、恐る恐る開く。
「え」
ウィルは自分の胸元を見下ろして硬直している。どうしたん……
「おっと」
あちゃ、そうだった。実体を取り戻した俺の右手は、ウィルの胸を思いっきり触っていた。
「あの、他意はないんだ。どうしてもこうなっちゃうというか。あはは……ごめん」
「い、いえ。べつに、減るものではないですし……」
そういう問題かな、とはさすがに言えない。しかし、まいったな。これ、毎回セクハラになっちゃうじゃないか。フランの時も怒られたし、どうにかなんないもんか……
「……」
俺はふと、その時のことを思い出して、自分の右手を見下ろした。手をわきわきして、感覚を確かめる。
(……ウィルのほうが、フランより“あった”な)
ドゲシ!
「いってぇ!」
なんだ!?ケツを思い切り蹴飛ばされた!俺が涙目で振り返ると、汚物でも見るかの如く冷たい目をしたフランが立っていた。ま、まさか。心の中を読まれたのか……?
「スケベ」
「ちがわい!」
「あなたも、気を付けたほうがいいよ。この男は、無理やり服を脱がせて楽しむ変態だから」
「えぇ!桜下さん、そうなんですか?」
「断じて違う!」
あれは、俺の主犯じゃないからな。うん。
「あ、そうだ。あの、フランセスさん」
ウィルが思い出したように、ぽんと手を合わせた。
「その、せっかく一緒に行くことになったのですし。私も、フランさんと呼んでもいいでしょうか?」
「え?」
フランは一瞬きょとんとしたが、すぐにふいっとそっぽを向いた。
「……別に。好きに呼んで」
「ありがとうございます!私のことも、あなたなんかじゃなくて、ウィルと呼んでくださいね」
「……考えとく」
フランのそっけない返事にも、ウィルはにこにこ笑っている。
「なんだよ、フランにはずいぶんフレンドリーなんだな。俺は頼まなきゃ名前で呼んでくれなかったのに」
「当たり前です。昨日会ったばかりの殿方を名前で呼ぶなんて、淑女に反しますもの」
「淑女ぉ?」
「……やっぱり、西寺さんとお呼びしましょうか?」
最近の幽霊は冷ややかだ。視線も、言葉も。
けど俺は、フランとウィルがうまくやっていけそうでほっとした。いままで、フランはずっと一人ぼっちで夜を過ごしていたから。俺が眠っている間も、ゾンビのフランは眠らない。眠れない夜というのは、たいてい辛いものだ。あのずっしりとした闇の中で一人過ごすフランのことが、ずっと気になっていたんだ。
フランに友達を作ってやりたいという俺の願いは、はからずも叶えられた。悲しいこともあったけど、終わりよければハッピーエンドだよな。
「さて、そろそろ行くか」
次の場所へ向かおう。きっと次も、ハッピーなエンドが待っているはずだ
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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