じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
9-1 弔いの炎
9-1 弔いの炎
「うぃ、ウィル……」
「もう、なんですか桜下さん。そんなお化けでも見た顔しちゃって……あ、お化けなのか」
「いや、それ……痛くないのか?」
俺はウィルのお腹に突然現れた傷を指さした。
「え?……きゃー!なにこれ!」
ウィル自身も傷に気づいていなかったらしい。二人してわたわたと慌てたが、すぐに別段痛みとかはないと分かった。傷もふさがっている(?)のか、血も流れない。ただ、もとからそうであったみたいに穴が開いているだけだ。
「うぅ……なんだか、すごい気持ち悪いです。何も感じないから、自分の体じゃないみたい……」
「ま、まあ大したことないならよかった。見た目はすごいけど……けど、どうして突然?」
「さあ……けどもしかしたら、私が現実を受け止めたからかもしれませんね」
「そっか……そうかもな」
「ええ。さて!桜下さん、今まで私のわがままを聞いてくださってありがとうございました。それで、迷惑ついでに、最後のお願いをしてもいいでしょうか?」
「うん?」
「私の……私の葬儀をしたいんです。物に触れるようになったとはいえ、さすがに一人では大変そうなので。手を貸してくれませんか?」
「ああ、そりゃもちろんかまわないけど……つまり、埋葬するってことだよな。お墓はどうする?」
「そうですね。私はもういないことになっていますし、神殿の墓地は使えません。どこかそのへんの森の中にでも埋めちゃいましょうか」
「埋めちゃいましょうって……いいのか、そんな適当で?」
「いいですよ。誰が拝みに来てくれるわけでもないし。墓が村の人にでも見つかったら、面倒なことになりそうですしね」
「まあ、ウィルがいいっていうなら。じゃあ、そこまで運ぼうか」
俺はウィルの亡骸の下に手を差し込むと、そうっと抱き上げた。刺さっていた枯れ木がゆっくり抜けていく。ず、ぐちゃ、ずずっ。俺は胃のあたりにこみあげてくるものを感じたが、ウィルが見ている手前、気合で押しとどめた。
「……重く、ないですか?それに、におったりとか……」
ウィルがおずおずとたずねる。俺はにっこり笑ってやった。
「ぜんぜん。何も持ってないみたいだぜ」
これは、半分嘘だ。実際のところ、死臭というのか、血なまぐささはある。一方で、重さは不思議とほとんど感じなかった。さすがに何も持ってないは言い過ぎだが、この年齢の人間としては異様に軽く感じる。
(魂が、抜けてるからかな)
昔どこかで、人間は死んだ瞬間、ほんのわずかに軽くなると聞いたことがある。人の魂は、その差分の重量なんだとか。幽霊が実在する、この世界ではどうなんだろう。
俺たちは崖を離れて、ほど近い森まで移動した。程よく木が茂っていて、村からそこそこに離れている。ウィル曰く、めったなことがあっても人が訪れることはないそうだ。
「じゃ、次は穴掘りだな。フランと俺で手分けして……」
「あの、桜下さん」
ウィルが思いつめた表情で、俺の袖を引っ張ってきた。
「ウィル?どうした?」
「あの、私の体なんですけど……燃やして、くれませんか」
燃やす?火葬ってことか。
「いいのか?」
「はい。土の中で朽ちていく自分の顔なんて……私、見たくありません」
「そっか。わかった」
「すみません。なんども手間をかけさせて……」
「なに、ここまで関わったんだ。最後まで付き合うよ」
なら、薪を集めないとな。森に移動して正解だった。俺とウィルは、アニの明かりを頼りに枝を拾い始めた。フランは夜目が利くので一人で森の奥へ行ってしまった。もくもくと枝を拾っていく。時おり遠くで、フランが細い枝を踏む音がする。パキリ、ぽきり。
「なあ、ウィル」
「はい?なんですか?」
「どうして……旅に出たことにしたんだ?」
俺は気になっていたことをたずねてみた。ウィルは細い枝ばかりを拾い集めている。俺がからかったら、生前から腕力に自信はなかったんだと怒られた。
「どうして、ですか。少し話したと思いますが、私は捨て子なんです。親がこの村の神殿の前に、赤ん坊だった私を置いて行ったんです。以来、私は神殿で育てられました。“ウォルポール”は、祭司長様の氏なんですよ。親のことなんて、姓が“O”だということくらいしか知りませんし、興味もありませんでしたが……言い訳にするには、ちょうどいいかと思いまして」
「えっと、そうなのか。だけど、その理由じゃなくて……」
「ふふ。ごめんなさい、気を使ってくれたんですよね。どうして私が死んだことを隠すのか……っていうことでしょう?」
「……わかってるなら、いじわるするなよな」
俺はあえて、その言い回しを避けた。なんだかウィルが、触れないようにしている気がしたから。
「すみません。からかったつもりではないんですけど、なんだか……」
「……別に、言いたくないなら」
「いえ。ただ、臆病で、怖いだけなんです。私は……死が、怖かった」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「うぃ、ウィル……」
「もう、なんですか桜下さん。そんなお化けでも見た顔しちゃって……あ、お化けなのか」
「いや、それ……痛くないのか?」
俺はウィルのお腹に突然現れた傷を指さした。
「え?……きゃー!なにこれ!」
ウィル自身も傷に気づいていなかったらしい。二人してわたわたと慌てたが、すぐに別段痛みとかはないと分かった。傷もふさがっている(?)のか、血も流れない。ただ、もとからそうであったみたいに穴が開いているだけだ。
「うぅ……なんだか、すごい気持ち悪いです。何も感じないから、自分の体じゃないみたい……」
「ま、まあ大したことないならよかった。見た目はすごいけど……けど、どうして突然?」
「さあ……けどもしかしたら、私が現実を受け止めたからかもしれませんね」
「そっか……そうかもな」
「ええ。さて!桜下さん、今まで私のわがままを聞いてくださってありがとうございました。それで、迷惑ついでに、最後のお願いをしてもいいでしょうか?」
「うん?」
「私の……私の葬儀をしたいんです。物に触れるようになったとはいえ、さすがに一人では大変そうなので。手を貸してくれませんか?」
「ああ、そりゃもちろんかまわないけど……つまり、埋葬するってことだよな。お墓はどうする?」
「そうですね。私はもういないことになっていますし、神殿の墓地は使えません。どこかそのへんの森の中にでも埋めちゃいましょうか」
「埋めちゃいましょうって……いいのか、そんな適当で?」
「いいですよ。誰が拝みに来てくれるわけでもないし。墓が村の人にでも見つかったら、面倒なことになりそうですしね」
「まあ、ウィルがいいっていうなら。じゃあ、そこまで運ぼうか」
俺はウィルの亡骸の下に手を差し込むと、そうっと抱き上げた。刺さっていた枯れ木がゆっくり抜けていく。ず、ぐちゃ、ずずっ。俺は胃のあたりにこみあげてくるものを感じたが、ウィルが見ている手前、気合で押しとどめた。
「……重く、ないですか?それに、におったりとか……」
ウィルがおずおずとたずねる。俺はにっこり笑ってやった。
「ぜんぜん。何も持ってないみたいだぜ」
これは、半分嘘だ。実際のところ、死臭というのか、血なまぐささはある。一方で、重さは不思議とほとんど感じなかった。さすがに何も持ってないは言い過ぎだが、この年齢の人間としては異様に軽く感じる。
(魂が、抜けてるからかな)
昔どこかで、人間は死んだ瞬間、ほんのわずかに軽くなると聞いたことがある。人の魂は、その差分の重量なんだとか。幽霊が実在する、この世界ではどうなんだろう。
俺たちは崖を離れて、ほど近い森まで移動した。程よく木が茂っていて、村からそこそこに離れている。ウィル曰く、めったなことがあっても人が訪れることはないそうだ。
「じゃ、次は穴掘りだな。フランと俺で手分けして……」
「あの、桜下さん」
ウィルが思いつめた表情で、俺の袖を引っ張ってきた。
「ウィル?どうした?」
「あの、私の体なんですけど……燃やして、くれませんか」
燃やす?火葬ってことか。
「いいのか?」
「はい。土の中で朽ちていく自分の顔なんて……私、見たくありません」
「そっか。わかった」
「すみません。なんども手間をかけさせて……」
「なに、ここまで関わったんだ。最後まで付き合うよ」
なら、薪を集めないとな。森に移動して正解だった。俺とウィルは、アニの明かりを頼りに枝を拾い始めた。フランは夜目が利くので一人で森の奥へ行ってしまった。もくもくと枝を拾っていく。時おり遠くで、フランが細い枝を踏む音がする。パキリ、ぽきり。
「なあ、ウィル」
「はい?なんですか?」
「どうして……旅に出たことにしたんだ?」
俺は気になっていたことをたずねてみた。ウィルは細い枝ばかりを拾い集めている。俺がからかったら、生前から腕力に自信はなかったんだと怒られた。
「どうして、ですか。少し話したと思いますが、私は捨て子なんです。親がこの村の神殿の前に、赤ん坊だった私を置いて行ったんです。以来、私は神殿で育てられました。“ウォルポール”は、祭司長様の氏なんですよ。親のことなんて、姓が“O”だということくらいしか知りませんし、興味もありませんでしたが……言い訳にするには、ちょうどいいかと思いまして」
「えっと、そうなのか。だけど、その理由じゃなくて……」
「ふふ。ごめんなさい、気を使ってくれたんですよね。どうして私が死んだことを隠すのか……っていうことでしょう?」
「……わかってるなら、いじわるするなよな」
俺はあえて、その言い回しを避けた。なんだかウィルが、触れないようにしている気がしたから。
「すみません。からかったつもりではないんですけど、なんだか……」
「……別に、言いたくないなら」
「いえ。ただ、臆病で、怖いだけなんです。私は……死が、怖かった」
つづく
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