じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
8-2
「ん?あれは……おおーい、オウカ!」
大きく手を振って、のしのしとこちらへやって来るガタイのいい男が一人。ウッドだ。
「よお。ちょうどこの後、お前さんのとこに行こうと思ってたんだ。お前らがまた旅に出ちまうといけないと思ってたんだが、まだこの村にいるだろ?」
「ああ、ウッド。ちょうどよかった。俺もウッドを探しに行こうと思ってたんだ」
「お?なんだ、何か用事か?」
「それが、見当たらないんだよ。ウィルの姿が」
「なに?シスターウィルが?神殿にいるんじゃないのか」
「俺だってそう思って探したさ。けどどこにもいないんだ。もしかしたら外かもと思って出てきたんだけど、ウッドは知らないか?」
「いや、今日はまだ会ってないな。おかしいな、いつもならとっくに起きてるころだぞ。おい、昨日シスターは出かける用事とか言ってなかったのか」
「聞いてたらこんなに騒がないよ」
「そらそうだ……よし、俺もひと段落着いた所だ。顔なじみにも聞いてみよう」
「ホントか?ありがとう、助かるよ」
「いや、俺も気になる。シスターウィルはけっこうずぼらなところがあるが、あれで客人を一人にして神殿を空けるようなマネするひとじゃねえ。いったいどうしたんだか」
ウッドは頭をガシガシかくと、顔なじみだという牧童や猟師仲間のもとへ聞き込みに行った。俺もいっしょにくっついて話を聞いて回ったが、村の外れで羊の世話をしていた男も、朝から畑仕事に精を出していた農夫も、ウィルを見てはいないと言った。
「まいったな、誰も見てないだって?おいオウカ、お前さんの勘違いってことはないか。これだけ情報が無いと、実は神殿にいるのを、すれ違いにでもなったとしか思えんのだが」
「じゃあ、神殿に戻ってみるか?いちおう、部屋という部屋はのぞいたつもりだけど」
「そうしてみよう。なあに、案外トイレにでも籠ってたのかもしれないぞ」
ウッドは冗談を飛ばすと、神殿にむかって早足で歩き出した。その足取りには、明らかに焦りが見える。さっきの冗談を言った時も、顔は全く笑っていなかった。ウッドも、なにかを感じ取りだしているのだろう。
「おおーい、シスター!シスターウィル!いないのかー!どこにいるんだー!」
神殿につくやいなや、ウッドは大声でウィルを呼びながら神殿を練り歩いた。祭壇、シスターたちの部屋、裏庭のはなれ。ウィルからの返事はなかった。
「おかしい……どこにもいないぞ。おいオウカ、おまえ、昨日最後にシスターと会ったのはいつだ?」
「昨日の夜遅くだよ。俺たちの寝る部屋を案内してもらって、そこでわかれた」
「そうか……その時、どこかへ出かけるなんて、言ってなかったよな?」
「うん。けど、まだやることがあるとは言ってた。あの後、マーシャが神殿に来たみたいだぜ」
「マーシャ……あの娘さんか。よし、いちおうその子にも話を聞いてみよう。なにか聞いてるかも知れねえ」
「うん……なあ、ウィルの部屋ってどこなんだ?」
「あん?さっき全部見ただろ。シスターはいなかった」
「そうだけど、何か書置きとかってないかな。もしかしたら、昨日のうちに急用ができたとかでさ。俺、ウィルの部屋がどこだか分からなかったから、そこまできっちりとは調べてなかったんだ」
「ああ、そうか。そうだよな。よし、調べてみよう。確かこっちだ」
ウッドは記憶を掘り起こすように、しきりにぶつぶつ言いながら廊下を歩いた。どの部屋も似たような作りだったが、ウッドはなんとかウィルのであろう部屋を見つけた。
「たぶん、ここだったはずだ。一度だけ見たことがある」
ウィルの部屋は、いたってシンプルだった。テーブルとベッド、小さなタンスがあるだけ。そのテーブルの上に、メモのようなものが置いてあった。
「あ、おい!あったぞ、シスターの書置きだ!」
ウッドは興奮した様子でメモを掴む。だがそのメモに目を通していくうちに、ウッドの顔はおかしな表情に歪んでいった。
「な……んだこりゃ!そんなバカな!」
ウッドはくしゃっとメモを握りつぶすと、そのまま地面に投げ捨ててしまった。俺は床に落ちたそれを拾い上げると、破れないようにそっと広げた。そこには、こんなことが書かれていた。
“プリースティス様 ならびに コマース村のみなさん
突然になってしまいましたが、みなさんにお別れを言わなければなりません。
私は、旅に出ることにしました。
かねてより、私の両親を探してみたいと思っていたのです。ですが、プリースティス様をはじめ、この村のみなさんは身寄りのない私を今まで育ててくださいました。せめてもの恩返しにと、神殿でみなさんのために奉仕してきたつもりです。私もこの村が好きですし、なによりプリースティス様の許しが出ないだろうと、あきらめていたのです。
ですが、運命のめぐりあわせか、このたび勇者召喚に合わせて、神殿のみんながいなくなる機会が訪れました。私は、これを好機ととらえてしまったのです。私は自分の内に潜む渇望を抑えることができませんでした。
恩をあだで返す形になってしまい、申し訳なく思っています。私のことは忘れてください。
さようなら。
ウィル・O・ウォルポール“
「なんだ、これは!こんなふざけた話があるか!」
ウッドはこぶしを握り締め、わなわなと唇を震えさせている。
「じゃあシスターは、俺たちに黙って行っちまったってことか!?誰にも相談せずに、一人で決めたってことかよ!」
「ウッド……」
「無理に決まってる!女の子が身一つで渡っていけるほど、この世界は甘くない!それを知らないあの子じゃないだろうに!」
ガダン!ウッドは机をこぶしで殴ると、すぐさま部屋を飛び出してしまった。俺は慌てて後を追う。
「ウッド!どこ行くんだ?」
「シスターを連れ戻す。もしかしたら、まだ近くにいるかもしれねえ」
「ウィルがどこに行ったか、わかるのか?」
「知るか!ちっ、けどシスターだって、自分がどこに行ったらいいのか知らないはずだ」
ウッドは肩を怒らせて、速足でずんずん歩いていく。俺も速足で追いかけながら、その肩越しにたずねた。
「ウッド。ウッドはウィルのあの手紙について、反対なのか?」
「当たり前だ!あの子は……ウィルは、村のみんなで面倒見てきた子だ。この村から出たことなんてほとんどない、世間知らずで、まだまだひょろっちいガキなんだよ。あんな子を外にほっぽり出すなんて、死にに行かせるのと同じだ。絶対に止めないと」
「じゃあ、親を探すっていう部分は……」
「そんなもんどうでもいいんだよ。ウィルがしたいっていうならそれで構わない。けどな、それを自分一人で決めたっていうのが気に食わねえ。そんなことも相談されないくらい信用がなかったなんてな。自分のふがいなさにも、腹が立つ!」
ウッドは心底悔しそうな顔で言った。本当にウィルのことを大切に思っているんだな……俺は、なんだか申し訳ない気持ちになった。いたたまれなくなった俺は、ちらりと後ろを振り返った。たぶんアイツが、こっちを見ているだろうから……
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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