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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

7-2

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俺とウィルがフランに視線を向ける。

「わたしからすれば、悪人なんて、どこにもいない。みながそれぞれ自分の大切なもののために行動して、力のあるものが生き残った。それだけ」

「つまり、順当な結果だって言いたいのか?」

「そうでしょ。あの女は人攫いより弱かったから、故郷から引き離された。人攫いは仁徳より、金が大事だった。だけど女は奴隷商人よりは強かった。女は隷属より自由が大事だった。オオカミたちは自分たちの群れを第一に考え、人間の里に手を出した。人間は自分たちの里を守るために戦い、人間が勝った。それだけ」

「だけど、それ以外にも別の方法があったら……」

「別の方法?そんなものない。あるのは結果だけ。オオカミがわたしたちより強かったら、群れを守れていたかもしれない。けどその代わりに、村人たちが死んでいた。あの女に力があったなら、村人全員を殺して、家族を守れたかもしれない。それができなかったから、あいつは死んだの。あいつらが死んだから、わたしたちが今ここにいられるんだ」

「フラン……」

「それとも……あの時、腕を切り落とさないほうが良かった?」

フランは、ふいに俺から目をそらして言った。

「あっ……ごめんフラン!そういうつもりじゃなかったんだ」

その時になってようやく俺は気付いた。ああ、俺は馬鹿だ。さっきからフランを傷つけしまっていることが、今までわからなかったなんて。

「あの時お前がいてくれなかったら、俺は間違いなく死んでいたはずだ。フランには感謝してるし、それを後悔も、ましてや悪いというつもりもないよ。ごめんな」

「別に、怒ってるわけじゃ……」

「それでも、ごめん。お前にだけ戦わせておいて、偉そうに言うことじゃなかった」

今オオカミを殺したことを悪いと言ったら、それはフランのことを、そしてウッドたちを悪いと言っているのと同じじゃないか。さすがに配慮に欠けていた。
情けなさにしょんぼり肩を落とした俺を、ウィルが物珍しそうに見ていた。なんだよ、そんな目で見て。いじけた俺の視線に気づくと、ウィルは首をかしげながら言った。

「いえ、珍しい人だなと思って」

「……こんなに無配慮な人間、いないって?」

「ああいえ、そうではなく。ええっと、つまり、桜下さんは自分の監督下にある戦闘において、無責任な発言をしたことを悔いている、ということなんですよね。自分で命令したくせに、戦争が終わった途端に博愛主義を説きだす、軍国の王様みたいに」

「……そうです。その通りです」

傷口に塩、泣きっ面に蜂。俺がこれらの言葉の意味を身に染みて痛感していると、ウィルが慌てた様子で手を振った。

「あ、ごめんなさい。別に桜下さんを責めたいわけじゃなくて。それを悪いと思うのが、意外だったというか……」

「えぇ?だって、普通は……」

「そうですよね。ただ私たちの場合は、それが日常茶飯事なんです」

なんだって?どういうことだ、そりゃ。ウィルは憂いと愛おしさをないまぜにしたような、独特な表情で自分の胸にある金属のプレートにふれた。

「私たちは、死と再生の神、ゲデンに仕えるもの。桜下さんも、狩りの前に私から祝福を受けましたよね。ゲデンのシスターが、あのような催事においてどんな役割を持つか、ご存知ですか?」

「え?えっと……」

ウッドからそんな話を聞いたような気がする。命がどうとか……

「たしか、命を狩ることに対しての、許しじゃなかったっけ」

「ええ、その通りです。我々を通して、ゲデンの権能である死を行使する許しを得、またいずれ再生してくる魂が恨みを忘れ、報復してこないよう許しをもらう。それが、あの祈祷の最も重要な役割です。ほかにも戦勝祈願だとか、こまこました意味もありますけど……」

ウィルはそこでいったん言葉を区切ると、うつむき、俺のほうを見ずに言った。

「けど、それっておこがましいと思いませんか?」

「え?おこがま、しい?」

「だって、そうでしょう?いったい私たちに、何の権利があるっていうんです?あれは死んでいい、あれは殺しても許されるなんて、いったいだれが決められるっていうんですか。そんなことを決められる人なんて、地上のどこにもいません。きっと天上の神々だって、そんなことおいそれとは出来ませんよ」

それは、確かにそうだな。俺が見知らぬ男から「お前は生贄として死ぬことが決定されたから、従うように」なんて言われたら、そいつの正気を疑うだろう。だからこそ俺は、あの城から脱走してきたんだ。

「奪われてもいい命なんて一つもないんです。私たちにそれを決める権利なんか、あるわけがない。だというのに、狩猟のたびに私たちは許しを与え、人はそれを受けて他の命を殺してしまう。そんなことがしょっちゅう起きるものですから、なんだかばかばかしくなってしまって。恥じるとか悔いるとか、もうしなくなっていたんです」

「ウィルは、それが仕事だろ。自分の役割をこなしているだけなんだから、気に病むことないんじゃないか」

「そうでしょうか。そんなことを仕事にしていること自体、どうかとも思うんですが」

ウィルは自嘲ぎみにぼやくと、それきり口をつぐんでしまった。なんだか会話がおかしな方向に流れたな。命をさばく権利か……ウィルは、シスターの仕事が好きじゃないのかな?だったらどうして、神殿に仕えているんだろう。

『お話し中に悪いですが、主様。よろしいですか?』

ふいにアニが声をかけてきた。会話を続けるにも気まずい空気だったので、正直ありがたい。

「どうした、アニ?」

『そろそろ昨日と同じくらいの高度まで登ってきたので、お知らせしておこうかと』

え、もうそんなに登ってきたのか?言われてみれば、太陽がずいぶん高く昇っている。ウィルたちと話している間に、だいぶ時間が経っていたらしい。

「すごいなアニ、地図もないのによくわかったな」

『太陽の位置と周囲の風景から割り出しただけです。昨日はこのあたりで服の下にしまわれてしまったので、正確にはわかりませんが。おそらくルーガルーの巣穴はほど近いはずです』

「そうだった。昨日は山頂をめざして進んでいたから……きっとこっちのはずだ。行こう」

昨日の記憶を頼りに、山道を進む。日が昇ってきたおかげで、だいぶ暖かくなった。朝もやは晴れたが、代わりに雨が蒸発して、地面から立ち上っている。俺たちは濡れた地面に足を取られないよう、慎重に進んでいった(正確には俺だけだ。フランの足取りは全くぶれなかったし、ウィルはそもそも浮いている)。

「……ん?ここ……見た覚えがあるぞ」

俺は立ち止まると、じっと目の前の景色を見つめた。間違いない、昨日ウッドたちと通った場所だ。

「ってことは、もうルーガルーの巣穴はすぐそこだ」

ウィルが隣で、こくんと唾をのんだ。俺はフランに振り返る。

「フラン」

「……」

「俺は結局、お前に頼むしかない。それでも、頼っていいか?」

「……うん」

フランはそっけなくうなずいた。よかった、これで断られたらどうしようもないから。ほっと胸をなでおろす俺に、アニがまたぶつぶつぼやいている。

『またそうやって主様は、配下をつけあがらせるようなことを。ゾンビなんて、命令してこき使えばいいんですよ』

「ま、そういうなって。うちは民主制でやっていきたいからな」


つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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