じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
6-3
「え?甦らせるって、どういうことだ?」
「ゲデン神に仕える者の血を死者にふりかけると、死者を甦らせることができる、という伝承があるんです。もしかしたら、そのために……」
ウィルは蒼白な顔で、しかし真剣そのものの顔で訴えた。でも、ええ~、それ本当かよ?いくら神様でも、それはさすがに……いぶかしがる俺に、アニが補足で説明してくれた。
『そのような迷信が信じられていたのは、事実です。薬学や治癒魔法が未発達だった、ずっと昔のことですが。当時に起きた聖職者の大量虐殺は、有名な歴史の一ページです』
「でもそれって、ただの迷信なんだろ?だったら、ウィルをさらっても……」
意味がないじゃないか。そう続けようとした俺の言葉は、他でもないウィルによってさえぎられた。
「相手はモンスターなんですよ!分別のつかない獣なら、何をしてもおかしくありません!」
「それはそうかもだけど……」
「ほかに考えられますか?半狼は私とあの女性の死体をさらって、死者蘇生を試みようとしてるんです!」
オオカミが人間をさらって死者蘇生の儀式?にわかには信じがたいが、かといって他に納得できる考えも出てこない……
「桜下さん、早くしないと私の身体が生贄にされてしまいます!急がないと!」
「うぅ~ん、けど、そうだな。何にしても、ルーガルーが関わっていそうなのには違いない。あいつを見つければ、何かヒントが見つかるかも。よし、ルーガルーを探してみようか」
「はい!」
そうと決まれば、まずは武器を持ってこないと。剣を部屋に置きっぱなしだ。それにもし戦うことになったら、味方が多いほうがいいな。ウッドたちにも声をかけてみて……しかしウィルは、それには難色を示した。
「あのぅ、できれば大事にはしたくないというか……」
「はあ?お前なぁ、そんなのんきなこと言ってる場合じゃ」
「だって、桜下さんは凄腕の勇者様なんでしょう?一人でルーガルーの腕を切り落としたそうじゃないですか。だったら、わざわざ村の人を集めなくてもいいかなって……」
「いやそれは、フランがいてくれたからであって」
俺がたしなめても、ウィルはもじもじと指を突き合わせてばかりだ。いったいどういうつもりなんだ?自分の生き死にがかかっているかもしれないってのに。俺がいらいらと足踏みしていると、アニが口をはさんできた。
『しかし、主様。この幽霊娘のいうことにも一理ありますよ』
「え?」
『村人の協力を得るには、ある程度事情の説明が必要でしょう。しかし、幽霊娘の言葉は、村人たちには聞こえないんですよ?となれば、どうやって助力を得るつもりですか』
「どうやってって、そりゃウィルが幽霊になっちゃったことを話して……あ」
『そうです。幽霊娘の言葉を伝えるには、どうしてそれを主様が聞き取れるかの説明が必要になります。そうなればどうしても、ネクロマンスの能力、すなわち勇者の能力に触れることになってしまいます』
「で、でも。うまいことごまかせばいいじゃんか。生まれつき霊感が強いとか」
『それ、主様なら信じます?昨日今日でふらっと現れた旅人から、自分の霊感だよりの話をされたとして』
「……信じないかも」
『最悪、シスター殺害の容疑をかけられますよ。事件の全容をつかむまでは、我々のみで行動したほうがよいのではありませんか?』
「わーったよ!じゃ、とりあえず俺たちだけで出来ることをしよう」
確かに、まだ推測の部分も多い。話を大きくするだけして勘違いでした、ではみんなに悪いしな。ウィルは申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい、私のわがままで……」
「いいさ。じゃあ剣だけ拾って、すぐに出発しよう」
「行き先にあてはあるんですか?」
「昨日狩りをやった山。あそこにはルーガルーたちの元巣穴もあるし、探すならあの山からだろ」
「そうですね。わかりました」
俺たちはいったん神殿に戻ると、置きっぱなしだった剣を拾い、ついでにいくつか物品を拝借させてもらった(もちろん、ウィルの快い許しをもらってからだ)。といってもくたびれたカバンに短刀が一本、分厚い皮布と紐、そして朝飯用のパンを一つだけだ。それらをカバンに詰めると、俺たちはすぐに神殿を飛び出し、件の山へと向かった。
道中、俺は口いっぱいにパンをほおばって両手を空けると、剣に皮布を巻き付けていった。ウィルが不思議そうに俺の手元を見る。俺はもごもごしながら答えた。
「何してるんですか?」
「らっふぇ、あふないらろ(だって、あぶないだろ)」
この剣はいわゆるぶんどり品だから、鞘がなくて困っていたのだ。布を巻いただけで見てくれは悪いけど、応急処置としては十分だろう。
まだ朝早い時間だったから、村人の姿はまばらだ。早起きの羊飼いがあくびをしながら歩いていくのを草葉の影でやり過ごし、俺たちは静かに、だが迅速に村を抜け、なんとか山のふもとへとたどり着くことができた。
「うし。けど、ここからだな」
山に分け入っていく。俺たちのいる面は山の影になってしまって、薄暗い。おまけに立ち込める朝もやのせいで視界は最悪だ。昨日の雨のせいであたりは湿っぽく、草木をかき分ける度に朝露で服が濡れ、しびれるほど冷たい。
「は、は、はっくしょん!うぅ〜……ウィル、また何か思い出したりしないか?」
俺は寒さを紛らわそうと、ウィルに話しかけた。ウィルは幽霊だから、山肌をすいすいと滑るように登っている。いまだ山歩きに慣れない俺からしたら、すっごく羨ましい。
「思い出したこと、ですか?すみません、本当に断片的で……マーシャさんのお話を聞いたことまでは、はっきりと覚えているんですが」
「そうだったな。それが原因で、ウィルは眠れなくなったんだっけ?どんな内容だったんだ?」
「え?それは……」
ウィルは思い悩むように口をつぐんでしまった。人の懺悔の内容を聞くなんて、やっぱりマズかったかな。俺があやまろうと思って口を開きかけたその時、ウィルがためらいがちに口を開いた。
「本当は、他の人へ内容を話すなど言語道断なのですが……ただ、今回は事情が事情です。聞いてもらえますか?もしかしたら、今後に関係してくるかも知れないので……」
今後に?いったいどういうことだ?俺が黙ってうなずくと、ウィルはぽつぽつと昨日の出来事を語り始めた。
「昨夜マーシャさんから聞いたのは、自身の心境についてと、あの身元不明の女性についてでした。こういう言いかたで、桜下さんにお話しするのもどうかと思うのですが……端的に言うと、彼女はあの魔物の巣穴から助け出されたことを、あまり喜んではいませんでした」
「なんだって?」
俺は思わず話をさえぎり、すっとんきょうな声を上げた。マーシャは、喜んでなかった?だってあのままじゃ、マーシャも間違いなくあの女の二の舞になっていたはずだぜ?それに彼女は、昨晩俺にお礼をしにきたじゃないか。
「それには、マーシャさんの家の事情も関係しているんです。桜下さんはご存じないでしょうが、彼女とその父親は実の親子ですが、母親とは血がつながっていません」
「え……」
「簡単に言えば、よそで作った子供なんです、マーシャさんは。あそこのご主人は、今でこそ村に落ち着きましたが、若いころはよそでかなり“やんちゃ”をしていたようでして……まあ、その話はよしましょう。ともかく、彼女たちは見かけには普通の家族に見えても、その間には言いようのない溝が走っていました。そのせいでマーシャさんは家にいることが減り、日がな一日羊たちの世話という口実で、外に出ているようになりました。ある日も陽が落ちるまで村はずれの牧草地にいて、そのせいでルーガルーにさらわれてしまったくらいですから」
そうだったのか……昨日の、上品な服を着たマーシャを思い出す。彼女の表情は、まるで仮面をつけたかのように生気を感じなかった。あれには、そういう事情があったんだ。
「じゃあマーシャは、家にいるくらいなら、死んでもいいと……?」
「いえ、そこまでは思っていなかったようです。ただ、あの女性……名前もわからないあの人の、生き様を見るまでは。続きを話してもいいですか?」
俺は無言でうなずいた。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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