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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

3-1 神殿

3-1 神殿

女が撃たれた衝撃でできた猟師たちのすきをついて、オオカミは森の中へ走り去ってしまった。が、今はそれどころじゃない。ウッドが蒼い顔で女に駆け寄る。俺たちやほかの猟師も、恐る恐るそちらへ近づいて行った。

「……だめだ。死んでる」

ウッドがにがにがしげにつぶやいた。女の眉間には、矢がまっすぐ突き刺さっていた。

「ぅ……」

俺は小さくうめくと、くちもとを手で押さえた。喉の奥が、むかむかする。ほかの猟師たちも、苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。エドが渋い顔をしながら女の亡骸に近づいていく。エドは空を仰ぎながら何かぶつぶつつぶやくと、女のそばにかがみこんだ。エドの背中でよく見えないが、懐からナイフを取り出して、女が巻いていた毛皮をはぎ取っているようだ。
しばらくすると、エドは信じられんとばかりに首を振った。

「……妊娠線がある」

猟師たちは絶句した。なんだって、妊娠線?それってあれだろ、女の人が赤ちゃんを産んだら、おなかにできるやつだろ。てことは、この女、子どもがいたのか?
俺はいまいちピンと来ていなかったが、猟師たちの中にもよく理解できない人がいたようだ。そいつが質問すると、エドは重い口調で説明してくれた。

「ルーガルーってのは、ごくまれに人間の娘をさらっていくと聞く。餌にするためってのもあるんだろうが、そのまたマレな時には、その娘を家族として自分の群れに加えるんだそうだ」

家族……?あの女も、オオカミたちのことを、家族って……

「その場合、その娘は群れのリーダーの伴侶となる。つまり、メスオオカミの役割を担うわけだが、そうなりゃ当然、リーダーの子どもを産まなきゃならん」

俺の顔から、さーっと血の気が引くのを感じた。俺にもやっと理解できたぞ。あの女が、それだったっていうことなんだろ。そして、女は子どもを産んでいた……ならその子どもは、人間ではなく……

「半狼は、人間と子をこさえることができるらしいな。あるいは、人間が半狼の子を孕めるのか……ともかく、その際、群れのリーダーは娘の首筋にかみつくんだ。そうすると娘はリーダーとペアリングされ、身も心もリーダーと一蓮托生になるんだそうだ」

「ペアリング?」

「ああ。詳しくは俺も知らん。だが、さっきの女の様子を見るに、相当強い絆らしいな」

エドは憐れそうに女を見下ろすと、その眉間に刺さった矢を、ぐっと力を込めて抜いた。血の付いた矢を放り捨てながらエドが言う。

「その状態になった娘は、ほぼ助からない。リーダーが死ぬとき、たいてい一緒に死んじまうそうだ。だからウッド、お前さんが気に病むことはない。遅かれ早かれ、この女はこうなる運命だった」

エドがぽんとウッドの肩をたたくと、ウッドは声にならないうめき声をあげた。
俺は口の中に苦いものを突っ込まれた気分だった。この女の人は、オオカミにさらわれたあげく、その一生までオオカミに奪われてしまったってことか?もう少し、早く助けてあげることができれば……なんて言っても、もう遅い。どうにもならないことは、分かっているんだけど。
それでも、こんなことって……

「雨が降りそうだな……」

誰かがぼそりとつぶやいた。いつの間にか、空には灰色の雲が立ち込めていた。
俺たちのオオカミ狩りは、そうやって幕を閉じた。



「きゃあー!」

シスター・ウィルの甲高い悲鳴が、曇天の下に響いた。
狩りを終えた俺たちは、ウッドたちの村、コマース村に戻ってきた。ウッドいわく、村人より羊のほうがはるかに多いそうで、実際ここにくるまですれ違ったのはほとんど羊だった。
それで俺たちは今、村のはずれにある神殿にやってきている。神殿はひときわ高い丘に建っていて、正面以外は切り立った崖に囲まれている。空に向かってせり出しているような建物だ。
何でここに来たかというと、狩りの報告は一番に神殿にし、その後お清めをしてもらう習わしなんだとか。で、ウィルに出迎えてもらったんだけど……

「あ、あ、あなたたち。大けがしてるじゃないですか!血が、そんなにいっぱい!」

ウィルがわなわなと、俺とフランを指さす。

「いや、これは俺の血じゃないから。平気だよ」

俺たちはルーガルーの血を、頭からたっぷり被ったからな。それに帰る途中に降りだした霧雨のせいで、一度乾いた血がまただらだらと溶け始めている。

「シスター、こういうわけなんだがよ。ボウズたちもこのナリじゃ、お清めどころじゃねえ。神殿を汚しちまうといけないし、こいつらに風呂を使わせてやってくれないか」

ウッドが手を合わせて頼む。ウィルは目を白黒させながらも、事情を把握したようだ。

「あ、ああ。そういうことですか。わかりました、すぐに用意します」

「それとこいつら、宿の当てがないそうなんだ。けど今回の狩りで、こいつらはよく働いてくれたんだ。野宿させるのもしのびねぇし、神殿の部屋を貸してやることはできねえかな」

「そうでしたか。われらが村のために尽力してくださったとあれば、その方を歓迎するのが礼儀というもの。ぜひ、わが神殿にお泊りください」

「あ、ど、どうも。恐縮です」

「よかったな、オウカ」

ウッドはにこにこ笑っている。あれよあれよと、今日の宿が決まってしまった。

「さてと、みんなもいったん家に帰って、着替えてきたほうがいいだろ。エドは治療が必要だし。それとシスター、たびたびで悪いんだけどよ。裏の墓地を一つくれねえか」

「え?どなたか……?」

「ルーガルーの巣穴に一人、女がいたんだ。村の人間じゃないし、どっかからさらわれてきたんだろうな。そいつを弔ってやりたくて」

あ……あの、名前も知らない女の人か。俺たちは山を下りるときに、あの女性の亡骸も一緒に連れてきた。山で獣たちに荒らされるくらいなら、人里に埋葬してやろうということになったのだ。

「かしこまりました。では、ニシデラさんたちをご案内したらすぐに」

「うし。じゃあ悪いが、何人かは残って俺を手伝ってくれ。オウカ、お清めがすんだら酒場で打ち上げをするんだ。お前たちも来いよな」

「いいのか?俺も何か手伝おうか」

「気にすんな。お前には借りもあるしな。わはは」

ウッドは俺の頭をわしわしとなでると、ほかの猟師たちと共に各々散っていった。

「では、ニシデラさんと……えっと、そちらの方は?」

「フランセスっていうんだ。俺の、えー、旅の仲間だよ」

「ですか。では、ニシデラさんにフランセスさん。ついてきてください。浴室に案内します」

ウィルに続いて、俺とフランは神殿の中に入っていった。

「うわぁ……」

神殿に入ると、そこは丸い円形の部屋だった。中央に、不思議な模様が描かれた柱が立っている。部屋自体はたいした大きさじゃないが、高めの天井と、そこに取り付けられたステンドグラスが相まって、広さのわりに実に荘厳な雰囲気を醸し出している。ステンドグラスにはウィルの胸にあるプレートと同じ文様が彫られていた。

「わが神殿の祭壇です。後でここにて清めの儀を受けてもらいます。さ、こちらへ」

感動する俺をよそに、ウィルはさっさと行ってしまう。俺は名残惜しんで天井を見上げていたから、危うく壁にぶつかりそうになった。
そこを出てしまえば、あとは普通の建物だった。廊下は狭く、肩と壁が触れ合いそうだ。血で汚れた服がつかないように、びくびくしながら歩く。
ウィルはそのまま建物を抜け、裏庭に出た。といっても、囲いもなく、半分屋外みたいなもんだな。正面にはもみの林が生えていて、その一角に小さなはなれがあった。

「あのはなれに浴室があります。水場は離しているんです」

ウィルがはなれに向かいながら言う。

「実は、もう湯も沸かしてあります。毎回誰かが血まみれになるので。今回は村の人の血じゃなくてよかったです。ニシデラさん、お怪我はないんでしたよね?」

「ああ。二人とも無傷だ」

「それはよかった。では、血を落としてきてください。ごゆっくり、と言いたいところですが、たぶんみなさんすぐに来られると思うので、できる限りお早めに。お湯はキレイに使ってくださいね。はい、これタオルです」

ウィルは大きなタオルを手渡すと、部屋の一つを指さした。ここが浴室ってことだな?ふむ……
ウィルは言うことだけ言うと、気忙しそうに行ってしまった。あの女の人の埋葬の準備をするんだろう。他のシスターの姿が見えないけど、この神殿を一人で取り仕切っているのだろうか?俺とそこまで歳は離れてなさそうなのに、しっかりしてるんだな。

「さて。じゃ、俺たちもとっとと済ませるか」

俺は扉を開けて、浴室の中を見てみた。案の定、中は一部屋だった。

「男湯と女湯はなしか。ちぇ、慌ただしくなりそうだな。しょうがない、フラン。先入って来いよ」

レディファーストってやつだ。だけどフランは、首を横に振った。

「嫌」

「へ?後のほうがいいのか?」

「それも、嫌」

「じゃ、どうすんだよ」

「入りたくない」

はぁ?なに子どもみたいなこと言って……あ、年齢的には、子どもでもおかしくはないのか。

「だけども、そんなに血だらけじゃしょうがないだろ。きれいにしないと」

「わたし、ゾンビだもん。別にいいでしょ。あなただけ入ればいい」

「だもんって、あのなぁ。ゾンビだからって、ぐちゃぐちゃのドロドロでいていいわけないだろ。みんなに気味悪がられちまうよ」

「どこかその辺にでも行ってるからいい。神殿になんかいたくない」

「まあ、ゾンビが神殿にいるイメージは確かにないな……じゃなくて。いいのか、一緒にいないとご飯食べれないぞ」

「ゾンビだもん。いらない」

「あ、そうだった。けど、ベッドもないぞ。外じゃ寒いぞぉ」

「ゾンビだもん。寝ないし、寒くない」

「あ、そうだった。えーと、じゃあ……」

フランは勝ち誇った顔で、言葉に詰まった俺を見下してくる。くーっ、はら立つなぁ!

「とにかく!泥んこならまだしも、血でベタベタなんて放っておいちゃいけません!風呂にはいりなさい!」

「い、や、だ!」

「だー!いいから入れ!」

俺が叫ぶと同時に、服の下からリィンと鈴の音が鳴った。うお、アニが青く光っている。その音を聞くや、フランはびくりと肩を震わせると、ぎこちない動きで風呂の方を向いた。

「ぐ、ま、また体が勝手に……」

「あ、アニ。お前またあれをやったな」

『主様の言葉に乗せて、強制命令を実行してみました。効果は上々ですね』

「おまえ、またそんなことして」

フランはギギギ、と音が聞こえそうなくらい硬い動きで風呂場へ向かっていく。全力で抵抗しているのがありありとわかるな。フランが目だけこちらへ向けて訴える。

「ちょっ……と!卑怯でしょ、早くやめて!」

「うーん。もうここまで来たら、おとなしく入っちまえよ」

「ぐぎぎぎぎ……」

「ぐぎぎって……けど、アニ。そろそろ、このへんで止めてやれ。無理やりじゃかわいそうだ」

『よいのですか?』

「ああ。こういうのは自発的じゃないとな。それに、フランもこれで懲りたろ?あとは自分でやれるよな」

『知りませんよ……』

アニの青い輝きが弱まっていく。そして光が完全に消えた瞬間、フランは稲妻のようなスピードで駆けだした……逃げやがった。

『主様……前々から思ってましたが、貴方、自分の眷属になめられているのではないですか?』

「くぅー!あのクソガキ!」

俺はどすどす地団駄を踏むと、罵詈雑言をわめき散らしながらフランを追いかけまわす羽目になった。そこから壮絶な死闘が繰り広げられたのは、言うまでもない。


つづく
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