現実世界にダンジョン現る! ~アラサーフリーターは元聖女のスケルトンと一緒に成り上がります!~

私は航空券A

スタンピード

「街の中でスタンピードだとっ!!」




 マスターの怒声が部屋の中に響く。


 受付の彼女は怒られたわけでもいないのに、ビクッりと大きく体を震わした。


 なんだかチョット可哀相な感じ。




「まさか、そんなことが……間違いないんだな!?」




 マスターに睨まれた彼女は何度も、何度も大きく頷いて見せる。


 それを見たマスターは元々強面だった顔が、更に凶悪に変化すると、




「レッドだっ! レッドを発動!! 今すぐ、活動可能な冒険者全員を招集しろ!」




「はっ、はい!」




「それと街に駐在する騎士団への支援要請を忘れるな」




「わかりました!」




 そう声をあげた彼女は、開いたままの扉から駆け出していった。


 マスターは出て行く姿を見送ると、やまださんの方へ向き直し、




「本来なら冒険者登録もしていない人間に頼むのは筋違いかもしれねえ。
だが、あえて無理筋を通して頼む。お前さんの力を貸してくれ!」




 自分よりも一回り大きな人間が頭を下げる。
それも随分と歳が離れた人物が見せる姿は、存外に迫力があった。


 だからと云うわけではないが、気がつけば、




「ええ、私でよければ」




 と、答えていた。


 両サイドにチラリ目を向ければ、ローズとクレアさんも同じように頷いていた。


















 冒険者会館から一歩、外へ出るとそこは戦場だった。


 想像以上の数の魔物がダンジョンから抜け出たらしく、あちらこちらで冒険者と思わしき人物たちと戦闘を繰り広げている。


 怒号と悲鳴、遠目には黒煙が登り、平和だった街が凄惨にも一変していた。


 多少なりと愛着を持ち始めていた街だからか、その惨状に胸が締めつけられる思いだ。




「……これは酷い状況ですね」




「ああ、確かに。だけれどな、不幸中の幸ってやつだ。
ここの街にいる奴らの大半は、多少なりと戦える。もし、他の街だったら考えるとゾッとするぜ」




 やまださんの呟きにマスターが答える。


 その表情は、苦々しいものだった。




「こんな事はよくあるのですか?」




「あってたまるかっ! ダンジョンから魔物は出ねえ、これは大原則だ。
でなければ、迷宮都市なんてもの成り立たねえよ。もっとも、人の手が加わったなら話は別だが……」




 マスターが言う通り、ダンジョンからそうホイホイと魔物が出てきては、近くに街を築くなど不可能だ。だとすれば、これは人の手・・・ってやつが係わっているのだろうか。




「マリエール、お前はパーティーを率いて前線へ行ってくれ。これ以上の進入を防ぐんだ」




「了解したマスター」


 そう答えた、たわわさんは近くまで来ていたパーティーメンバーと合流し、颯爽と戦場へ消えていった。




「さて、お前さんは根元へ行ってもらいたい。つまりダンジョンの入り口だな、そこで原因となっているモノを叩き潰してもらえねえか」




 なにやら重要な使命を頂戴した予感。
やまださんの働き如何では、街への被害状況も大きく変わってしまいそうだ。


 これは、ふんどしを締め直す所存。




「わかりました」




「ちょっと待って! 私も行くわっ!!」




 そう叫んだのはローズさん。


 街の危機を前にして、どうやら冒険心に火が着いてしまったらしい。




「……しかし、この先は危険です」




「危険ならダンジョンでもう経験しているわ、きっと役に立つはずよ!」




 これは困ったぞ。このままローズとクレアさんを、連れて行くわけにはいかない。
危険なのも間違いないが、一番の問題はやまださんとローズのステータス差である。


 最初は大丈夫でも、この数だ。きっと彼女を守らなくては、ならなくなる時がやがて来るだろう。
そして、守りながら戦えば機動性に欠け、街への被害が広がる可能性も否定できない。


 街の為に戦いたいと思うローズの気持ちを考えれば、少々酷かもしれないが。


 ……ここは、心を鬼にして言わなければ。


 って、言いづらいわ。


 だってさ、「お前は足手まといだから、ついて来るな」、と遠回しに言うわけなのだから。
ああ、聞こえる、聞こえちゃうわ。やまださんのメンタルが、ギリギリと削られていく音が。




「――ローズ様。ヤマダ様を困らせるのも、その辺でよろしいのではないでしょうか」




「なっ、なによクレア。困らせるって……」




「力量に差があり過ぎる者同士が戦場へ駆けた場合、どうなるかローズ様ならご存知のはずです」




「むっ……」




「ここはヤマダ様を気持ちよく見送ることこそが、冒険者・・・として正しい姿ではないでしょうか」




 僅かばかりの思案顔を見せたかと思うと、




「……わ、わかったわよっ! いってらっしゃい! もし、……死んだりしたら許さないわよ」




 両手を組み、プイッとそっぽを向くローズさん。


 さすがクレアさんだ、扱いに慣れていらっしゃる。
巧みに冒険者なんてワードを盛り込むあたり、付き合いの長さを見せつけられた気がした。


 後方の憂いというやつが解消されて、これで思う存分戦えそうだ。
あとは、やまださんのステータスが通用することを願うのみ。


 きっと大丈夫、信じてる。壊してきたダンジョンの壁は、伊達じゃないって。




「はい、必ず戻ってきます」




 そう言って会館前の大通りを走りだした、その時だった。


 マスターが大声が耳を突く。


 今までの怒声とは違う、意図的によく通るように、周囲の者たちに聞かせたい。


 そんな意図を込めた声だった。




「野郎どもっ! たった今、強力な助っ人が向かった。それは、あの・・ルーキーだっ!!」




 マスターの声が、通常では考えられないほどに響き渡る。
真偽はわからないが。もしかしたら、ある種の技、あるいは魔法だったのかもしれない。


 それを聞いた者たちが、ワッと沸きあがる。




「だからといって、ルーキーになんか負けるんじゃないぞ! 冒険者の意地を見せてやれ! この街は俺たちが守るんだと!!」




「「「うっおおおおお――っ!!!!!」」」




 聴衆の歓声がさらに沸きあがった、幾重にも重なりあった声が腹底に響く。
あまりの数に押され気味だった冒険者たちの目に、輝きが戻るのが見てとれた。


 本当になんだろうな……。
一体全体やまださんは、この街でどのような評価をされてしまったのだろうか。


 妙な居心地の悪さと、プレッシャーをこの身に感じつつも全力で駆ける。


 向かうは、このスタンピードの原因となった――




 ――ダンジョンの入り口へ。




 

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