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現実世界にダンジョン現る! ~アラサーフリーターは元聖女のスケルトンと一緒に成り上がります!~

私は航空券A

ゴールドカード

 目の前に置かれたゴールドカード。


 さすが、お高そうな輝きを放っておられる。
審査基準のハードルが緩くなったとささやかれている、昨今。


 それでも尚、与信力の高さを伺わせるだけの存在感がそこにはあった。
果たしてこの世界で、これがどのくらいの価値があるかはわからないが。


 ずいぶんと大袈裟に置いて見せたところを見るに、見かけ以上の価値を秘めて思える。




「聞けばお前さん、まだどのギルドにも所属してないそうじゃないか」




 どうして知っているのだろう、と一瞬思ったが。
知っていて当然である。目の前にいるのは、当冒険者ギルドのマスターさんだ。


 もう完全に傭兵と、やまださんの中で定着してしまった感が否めない。


 もういっそ、改名してくれないかな。覚えやすくていいのに。




「……まぁ、そうなのですが」




 やまださんの言葉を受けて、マスターの口角があがる。
少し悪い顔だ。きっとなにか企んでいるのではないかと、つい背筋を正してしまう。


 最近、少しばかり慣れてきているが、ここは異世界。
もしかしたら、法外な壷や絵画などを売りつけられる、なんてこと有りしもあらず。


 今回は綺麗なお姉さんではなく、ガチムチ相手だが。
だからといって、どこに罠が隠れているかわからない。


 もう一度気を引き締めなくては。




「なぁ、ここは一つこの冒険者ギルドに所属しみねえか? このカードが示すように、ゴールドクラスで迎えようじゃないか」




 どうやら、壷は売りつけられないらしい。
一安心といったところか……いや、まだわからないぞ。




「……これまた急な話ですね」




「お前さんにとっては急な話でも、こっちとしてそうじゃなねえンだわ」




 ん、どういうことだろう。




「いやな、お前さんについて少し調べさせてもらった」




 与信調査か、与信調査だろうな。


 だとすれば、社会的信用とは程遠いフリーターの身分である自分。


 自給いくらの世界でせせこましく生きているやまださんにとってそれは、まるで恥ずかしい部分をまじまじと見られているようで、ちょっとツライ。




「素性が少しばかり怪しいが、それを除けば実力と実績ともに申し分ない」




「それはどうも」




 わるくない評価を頂いたぞ、大幅アップの予感。


 違う、そうじゃない。


 ゴールドカードを目の前にして完全に浮かれてしまっていた。
これはきっとあれだ、ギルドへの勧誘に違いない。


 思えば、ハゲマチョ占拠事件や、たわわさんの実力をかんがみるに。
このギルドの戦力層は、ずいぶんと薄く思える。


 そこで突如、頭角をあらわしてきた無所属のやまださん。
これはタイミングがいいとばかりに、ならば一丁、取り込んでやろう。


 そんな腹づもりなのだろう。


 しかし、自由を愛する自分としてはフルタイム勤務はちょっとご遠慮したいところだ。
せっかく異世界まで来て、わざわざ組織に所属するのはよろしくない。


 現実世界から離れ、パートタイムからも開放されているのだから、今しばらくはこの自由を満喫したいのだ。ここであれば、空白の職歴を気にしなくてもいい。




「どうだ、決してわるくない話だと思うが」




「せっかくですが……」




 お断りさせていただきます、と言いかけたところで、目の前を遮るように手が差し出される。


 白く華奢なお手て、この持ち主はクレアさんだ。


 やまださんを見つめ、自信に満ち溢れた瞳で頷く。
これは、「私に任せてください」と言っているのだろう、間違いない。


 なんという安心感だろうか、異性に守られるってこんな感覚なんだね。
初めて知った、こう全身を暖かなもので包まれてるって感じが最高なのだわ。キュン。




「大変良いお話だと思いますが、お受けすることはできません。
ヤマダ様は大きな可能性を秘めた御方、冒険者ギルドとはいえども一つの組織に縛られるのは冒険者の……いえ、この国全体の損失に繋がります。どうか、ご理解を」


 凛とした姿で言い放つクレアさん。


 しかし、国全体の損失って、
どうしよう……話のスケールが大きくなり過ぎてやまださんついていけない。


 そもそも、この国はなんてお名前なんですか。




「……ふむ」




 って、マスターはなんだか納得しちゃっているし、




「ふふっ、なるほどな。さすがは、私が認めた男だ」




 たわわさんにいたっては、よくわからない尊敬を頂いてしまったぞ。
そして、横に目を向ければローズが小さく拳を握りガッツポーズを見せた。


 この世界でも、そのサイン使うんだね。


 なんだこの一体感は。
自分の知らないところで、なんだかわからない共通認識が生まれているようだ。


 もうやまださんは、考えるのを放棄して得意の営業スマイルを浮かべることにした。


 これが長年のフリーター生活で培った処世術。




「……その御令嬢・・・も関係している話か?」




 マスターの目線から、ローズを指してのことだろう。




「マ、マスターッ、もしかっ……むぐっ」




 言いかけた、たわわさんの口をマスターのゴツイ手が塞ぐ。




「おっと、それ以上はいけねえぜマリエール」




 何がいけねぇのか、サッパリだが。


 お話は当事者であるやまださんを置いて、ドンドンと進んでいく。


 クレアさんは、口元に薄い笑みを浮かべると、




「それは想像にお任せします」




 ややあって、マスターの顔にも薄い笑みが浮かぶ。




「なるほど、わかった。ギルド加入の話は一旦、引っ込めようじゃねえか」




「ご理解、感謝します」




 この短い間に、どんな無言のやりとりがあったかわからないが。
もう詮索しないでおこう、きっとそれが精神衛生上、大変よろしい気がする。


「しかしだ、完全に諦めたわけじゃねえ。
知っているように、バハラ草原の悲劇で多くの人員を失い、ギルド内の戦力はガタガタだ。
だからヤマダのような活がいい奴は、正直言って喉から手がでるほど欲しい。
背負っている事情は詮索しねえ。だが、もし気が変わったというのなら、冒険者ギルドはいつでもお前さんを歓迎するぜ」




 と言うと、厳つい顔を笑顔で大きく歪ませるマスター。
今までは強面が先にきてわからなかったが、笑う顔を見るとこれで中々、人の良さそうな印象を受ける。




「私も貴殿と同じ戦場を、駆けれることを期待している」




 続く、たわわさんからは握手を求められた。


 それに返すと、たわわさんの顔に笑みが浮かぶ。
手に伝わる柔らかな感触に、ドキドキしながらも早々に離す。


 名残惜しいが、そうでもしなければきっと顔に出てしまっていただろう。
手合わせの一件以降、出来る男を演出しているやまださんにとってそれは避けたいところだ。


 さて、やまださんを置いてきぼりに進んだ今回のお話は。
どうやらギルドへの加入は、保留という形で決着がついたようだ。


 などと、一息ついていたとき。


 部屋の外から、慌しい音が聞こえてきた。


 尋常じゃない足音が扉の前まで迫ると、勢いよくドアが開かれた。


 そこに立っていたのは受付の女性。


 その顔からは血の気が引いているのか青白くなっている。
よく見れば、わずかに体を震えているのがわかった。


 彼女に、一体なにが起こったのか。
そして、これから知らされるのは吉報かそれとも……。


 ざわざわとした得体の知れない不安を覚える。




「なんだ、騒々しい! 今は来客中だぞっ!」




 マスターの怒声に怯むことなく、彼女が口を開く。




「マスターッ! 大変ですっ、大変なんです!」




「大変なのはわかった。早く用件を言わねえかっ」




「あ、あの……そのっ……あっ」




 どうやら大変取り乱しているご様子。


 彼女は必死で言葉にしようとしているのが、見ている方にも痛いほど伝わってくる。




「スタンピードです! スタンピードがその……魔物の群れが街へと雪崩れ込んできています!!」











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