現実世界にダンジョン現る! ~アラサーフリーターは元聖女のスケルトンと一緒に成り上がります!~

私は航空券A

陽の差すダンジョン・アルカン

「ご、ご主人様ぁっ!」




 声がする方へ、振り返ってみれば。


 そこに見えたものは、迷宮都市でお留守番しているはずのクリスティーナだった。


 その後ろには、クレアさんの姿まで。




「クリスティーナ?」




「ご、ご主人様っ! ローズさんが、ローズさんがっ……」




 少しばかり焦った様子を見せるクリスティーナ。
と、ここで俺の後ろに隠れようとしているローズを見つけたようで。


 クリスティーナとクレアさんの表情が一変した。


 それは、「見つけた!」ではなく、「やっぱり、ここにいた」って感じ。




「っ……」




 見つけられたほうは、ピクリと肩を揺らしてササッと俺の後ろへ身を隠した。


 しかし、すでに遅し。バッチリと犯行現場は目撃されてしまっている。


 現行犯逮捕というやつだ。




「あああっ! ローズさんっ!」




 クリスティーナに声をかけられて、どこかバツのわるそうなローズ。


 その態度を見て、これはピピーンときちゃったわ。


 やはりと言うか……このローズさん。相当な困ったちゃんである。


 冒険という二文字にテンションが振り切れてしまった結果。
二人には、何も言わず勢いのまま宿を飛び出してきたのだろう。


 そして、ローズがいないことに慌てたクリスティーナとクレアさんが後を追ってここまできた。


 と、まぁそんなところだろうか。
どんなもんだ、やまだにだってこれぐらいわかってしまうのだよ。


 冒険者に憧れるローズを知っているクレアさんにしたら、行きそうな場所なんて容易に見当がつくってものだ。




「……しっ、心配をかけたわねっ」




 プイッとそっぽ向いて、言葉を口にするローズ。


 謝罪の言葉を口にするものの、反省の色が伺えないご様子。


 それを見て、クレアさんがスッと一歩前へ。




「シャーロッ……いえ、ローズ様」




 今日のクレアさんは一味違う。


 表情こそ、いつもと同じ優しげなものなのだけれど。今日は、目が完全に笑っていない。
こんな視線を向けられたら、すぐさま『ごめんなさい』と言っちゃう自信があるわ。


 体感温度も、三度は下がった気がする。




「な、なっ、なによ……」




 一方、言葉だけは強気なローズさん。
しかし、その実はクレアさんに対して完全にビビッてるようだ。


 それが手にとるようにわかる。


 だって、俺もビビッてるもん。クレアさんマジ怖い。
ゴゴゴ……とか背後から、あの効果音が聞こえてきそう。


 この間に割って入るなど、とんでもない。黙ってことの行く末を見守るばかりだ。




「いいですか。あなたの御体は、貴方お一人のものではありません。
もしもの事があれば、王家……いえ、王国の危機と言っても過言でないのですよ。
そもそも、ローズ様がダンジョンに潜ることなど……」




「わ、わかったわよっ! 充分、注意するわ。それでいいでしょ!?」




 続く言葉を遮るように、声を張るローズさん。


 どうやら、勢いで押し切る作戦らしい。


 それに対して、クレアさんは黙って目線を向ける。


 その迫力は相当な物だ。
ダンジョンのフロアボスにも匹敵するのではないだろうか。


 ゴクリと、生唾を飲む音が聞こえた。


 ちなみに、これは俺の喉が立てた音だ。
なんで関係のない俺が、こんなに緊張しているのだろうな。


 横を伺えば、クリスティーナも同じ様子。
華奢なおててをぎゅっと握りしめて、瞬きを忘れてしまったかのように二人の間を行ったりきたり。




「……わかりました。ちゃんと理解して頂けるならこれ以上なにも言うことはありません。それに今回はヤマダ様がいらっしゃるのですから、万が一も起きないと信じています」




 と、ここでクレアさんの視線がチラリ。


 安心と信頼のアイコンタクトというやつだ。
思わぬところで責任を頂戴してしまったが、元よりそのつもりだ。


 『パーティーメンバーは、いついかなる時もメンバーを見捨てない』と、言っていた某ネトゲでお世話になったあのギルドマスターは元気にやっているだろうか。 


 風の噂では、自身のギルドを放逐されたと聞いたけど。
















 俺たちは今、ローズたちと合流した場所から離れて『 陽の差すダンジョン・アルカン 』の目の前にいる。


 クレアさんからヒシヒシと感じる重圧プレッシャーに耐えきれず、早々と場所を移した結果である。
ダンジョンへの距離も宿から近い位置にあり、徒歩五分といったところ。


 都内でこの立地条件であれば、きっと人気物件になっていたことだろう。
果たして、この世界にダンジョンから徒歩五分という条件に価値があるのかはわからないが。




「ここは迷宮都市のダンジョンとは違って、ベテラン勢が多いわねっ!」




 ダンジョン入り口付近にいる冒険者たちを見て、ローズが嬉しそうに口を開く。
迷宮都市にあるダンジョンに比べて、人数は少ない。


 それでも、三十人弱はいるだろうか。
潜る前に装備を確認する者、仲間と打ち合わせをしている者と様々だ。




「ええ、そのようですね」




 などと、格好をつけて言ってみたものの。
ベテラン勢と言われたところで、冒険者として日の浅い俺にはその違いがさっぱりわからない。


 ん、いや……待てよ。


 よくよく見てみれば、着けている装備の類が年季入っているように思える。
持っている武器にしても、なにやらお高そうな感じ。


 試しに軽く、『ステータス』でまわりの冒険者を確認してみれば、確かに迷宮都市の時よりも若干高めだ。


 なるほど。こっちに来てから強さを測るときはいつも『ステータス』を使っていたけど、使えない人間にとってはこんな細かな所から判断していくしかないのだよな。


 それが装備だったり、物腰の鋭さだったりと。


 どうやら、こっちに来てから『ステータス』の便利さに頼りっきりになっていたようだ。
ここは安全な日本とは違い、異世界である。
もっと自身の目を養わなくてはいつかそれが命取り、なんて事になりかねない。


 これは少しばかり緩んでしまった気を引き締めないといけないな。


 パアッンと自分の頬を叩いて、気合を入れる。


 それに驚いたのか、そばにいたビクリと体を震わすローズ。




「き、急にどうしたのよっ?」




 驚かせてしまったようだ。ごめんごめん。




「自分なりの気合の入れ方ですので、気にしないでください」




「ならいいのだけれど……」




 さてと、気合も入れ直したことだし。
今回の目的である『 陽の差すダンジョン・アルカン 』へ潜るとするか。



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